去年は何冊、本を読んだのか。その報告をしなくてはいけない。毎年正月の恒例行事だ。手帳を見てみる。手帳は「HANDY MEMORY 2007」だ。株式会社日本法令が出している。世界で一番、使いやすい手帳だ。そこに、スケジュールを書き、読んだ本も書いている。「行動と思索」のMEMORYだ。
本は著者・タイトル・出版社だけを書いている。読んだその日にメモをしている。内容については、別に「ノート」をとっている。前は大学ノートにとっていたが、これだとカバンに入れとくと、曲ったり、くちゃくちゃになる。だから、表紙の固い「キャンパス・ノート」を使っている。「大学」から「キャンパス」と、日本語を英語にしただけのようだが、かなり違う。表紙が固いから、コクヨの原稿用紙を入れる時には、このノートが下敷きのかわりになる。その二つを、角形3号(B5サイズ)の大型封筒に入れて、カバンに入れる。そうすると、いつでもどこでも原稿が書ける。
この「キャンパス・ノート」にはいろんな種類がある。いろんなものを使い、浮気しているが、「Edinburgh」が一番使いやすいかな、と思っている。前は「Boston Note」や「Colombia University」を使っていた。外国の大学名が多い。そこに、本の内容を書く。と言っても、強烈に感動した点とか。疑問に思った点。これは、調べてみよう…。と思った点だ。それを抜き書きして、自分の感想を書く。
自分の本なら、線を引き、書き込めばいいが、貧しくて本を買えない。図書館の本が多い。だから、ノートをとってから、返している。学生時代の方が、自由に本を買っていた。「月2万円の仕送り」の時の方が精神的・学問的にもリッチだった。毎日お祈りをし、正しい生活をしていた。非合法闘争なんてしなかった。穢れのない清らかな日本人だった。今は、汚れちまった悲しみに、だよ。
では去年の読書数だ。
1月 | 54冊 |
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2月 | 32冊 |
3月 | 37冊 |
4月 | 31冊 |
5月 | 32冊 |
6月 | 33冊 |
7月 | 32冊 |
8月 | 35冊 |
9月 | 43冊 |
10月 | 41冊 |
11月 | 30冊 |
12月 | 32冊 |
「月30冊読破」のノルマは完璧にこなしている。それに、40冊以上を読んだ「優良月間」が三つもある。1月(54冊)、9月(43冊)、10月(41冊)だ。偉い。がんばったね、と彼らに表彰状を手渡した。
「雨にも負けず、カゼ(風邪)にも負けず、ひたすら読書したあなたは立派です。『ペッ!本なんか読んで何になるんだ。ヒマ人め!』という世の冷たい視線に耐えながら、必死に努力しました。酒・タバコ・女を断ち、友達も失い、貧困にあえぎながら、ただ無意味なノルマを達成することだけに情熱を燃やしました。世の中では全く報われない、この無意味な読書欲・ノルマ達成の偉業を讚え、ここに表彰します」
と、1月君、9月君、10月君の3名に表彰状を手渡した。3名とも涙を流して感動してました。特に、54冊を達成した1月君は大泣きでした。号泣でした。
では、去年の合計です。パチパチと算盤(そろばん)を入れます。オッ!432冊でした。これを12で割ると36です。去年は「月平均・36冊」を読破したのです。立派です。ついでに、ここ9年間の記録も公開しましょう。
2007年(平成19年) | 432冊(月平均36冊) |
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2006年(平成18年) | 419冊(月平均34.9冊) |
2005年(平成17年) | 438冊(月平均36冊) |
2004年(平成16年) | 412冊(月平均34.3冊) |
2003年(平成15年) | 486冊(月平均40.5冊) |
2002年(平成14年) | 427冊(月平均35.5冊) |
2001年(平成13年) | 398冊(月平均35.1冊) |
2000年(平成12年) | 435冊(月平均36冊) |
1999年(平成11年) | 461冊(月平均38.4冊) |
ずっと順調にノルマを果たしている。目立つのは03年だ。486冊(月平均40.5冊)だ。この記録は破れないだろう。又、破る気もない。〈数字〉にばかりこだわると、読みやすい、易しい、薄い本ばかりになってしまう。だから、月に30冊読めればいいや、と思っている。それも「月平均」で。たとえば、書き下ろし本の仕事で忙しくて、1ヶ月間全く本を読まない月があってもいい。次の月に60冊を読んで、「月平均30冊」にすればいい。そんなこともやってみたいね、今年は。
最近思うが、本は、「買う」よりも「読む」方が金がかかる。400円の文庫を読むために、喫茶店ルノアールで3時間いたとする。コーヒー1杯で3時間じゃ申し訳ないと思い、こぶ茶なども追加注文する。軽く1000円はオーバーする。でも、それだけの価値はある。
昔は家で何時間でも集中して読んでたが、今は出来ない。いい机やイスがないし、電話が鳴る。FAXが来る。セールスが来る。
「もしもし、高橋ですけど」と玄関のドアをノックする音がする。知り合いか、あるいは本を読んだ人が突然、訪ねて来たのか。読書を中断して出る。「あのー、『ものみの塔』の高橋です。今日は聖書のお話をさせて頂こうと思いまして…」「間に合ってます」と断わった。聖書なら、オラの方が詳しい。
そんなこんなで、家では読めん。だから喫茶店や、駅のベンチ、スーパーの休憩用のイスで読むことが多い。その時、「読書環境」として考えるのは、「S・D・M」だ。
あれっ、産経新聞にいた時、「SDM」という課にいたな。偶然の一致だ。広告局のSDMという課だった。「サンケイ・リビング」という無料紙があった。それを配布する地区割りを作り、配布の戦略を練り、配達員を募集し、確保する。そんな仕事をしていた。SDMは「サンケイ・ダイレクトメール」の略だったのかな。でも、課長はうるさいし、細かいし、課の人間はバラバラ。まとまりがない。文句ばっかり言ってた。愛社心がないんだな。だから、「SDM」は「サンケイ・ダメで・メチャクチャ」の略だ。と言われた。誰がこんな事を言ってたんだろう。うまいね。
さて、話を戻す。「読書環境」の「SDM」だ。これは、「静・暖・明」の略だ。「静か。暖かい。明るい」。この三要素があれば、快適に本は読める。そう言ってるんですな、この人は。君達のように、「Y・M・C」は考えない。Yは安い。Mはメイドがかわいい。(メイド喫茶になんかもう行かない)。Cは近い。でも、それじゃ本は読めん。だから、「安・メイ・近」よりも、「静・暖・明」ですよ。
では、去年1年間、どんな本を読んで来たんだろう。じゃ、432冊を一挙公開だ!と思ったけど、全部書き出すのは大変だ。戦争、思想、文学、パソコン関係の本が多い。昔、読んだ本も再読している。というケースもある。カタイ本、やわらかい本、わけのわからん本、ためになった本、下らないと思った本…など様々だ。タイトルに魅かれて読んだけど、つまらない。でも途中でやめたら「1冊」にならない。ノルマの為に泣く泣く、読み通した。という本もある。「ノルマ式読書法」の悲劇だ。そんなこともあるさ。
それに金を出して買おうとは思わないが、図書館で見て、「何だ、これは!」と思い、つい借りて読んだのもある。中には恥ずかしい本もある。大工原秀子『老年期の性』(ミネルヴァ書房)なんて、恥ずかしくて、とても書けない。書いたか。もう、そっちの欲望はないし、全ての欲望を「読書欲」に昇華させた私だが、他の人達は一体どうしてるんだろうと好奇心で、ついつい借りて読んじゃった。戦争ものでは、
などが面白かった。そうか。パソコンに入れておけば、ジャンル別に紹介出来るんだね。来年からそうしよう。今年はアトランダムに紹介しよう。それも、皆が書店で探しやすい、買いやすい本を。
では、面白かった本、気になった本…などだ。
アトランダムに並べてみたが、これでも全体の1割か2割だ。さらにもっと凄い本を読んでるし、体系的に読んだ本もある。ヤバイ本で公表出来ないものもある。福田恆存、田中卓さんの全集も読んでいる。でも、皆が手に入れやすいのを主に紹介した。それに日本や世界の思想全集などは、昔、読みまくった。それについては私の「読書論」の本、5冊に書いた。興味があったら、読んでほしい。
井上ひさしの本は300冊位あるだろうが、五分の二は読んでると思う。井上のもっとも長い小説(だと思う)の『四千万歩の男』(講談社文庫・全5巻)を読破した。これだけでも、大変な作業だと思う。日本全国を歩き回って、全国の地図を作った伊能忠敬の話だ。1巻が700ページ位あるし、大変だったが、面白かった。
それと、必要があって川本三郎の本を20冊以上読んだ。『荷風と東京』、『荷風好日』、『同時代を生きる「気分」』、『マイ・バック・ページ』、『林芙美子の昭和』、『ミステリーと東京』などだ。
さらに、去年のメインは実は、吉村昭なのだ。何と58冊読んでいる。吉村だけで2ヵ月分だ。07年は「吉村イヤー」になるだろう(鈴木史の中で)。脚本家の高木尋士さんは吉村作品をほとんど読破したそうだ。それに最近は、筑摩の「思想全集」シリーズを読みまくっている。私は〈量〉では勝ってるが、〈質〉では高木氏に負けている。近々、高木氏の〈読書戦争〉の体験記を聞いてみたいと思う。
私の読んだ吉村昭の作品は58冊だが、全部紹介すると大変なので、その中でも、これはと思うものをあげる。
『彰義隊』、『島抜け』、『帰艦セズ』、『関東大震災』、『彦九郎山河』、『ポーツマスの旗』、『長英逃亡』、『逃亡』、『ふぉん・しいぼるとの娘』、『背中の勲章』、『黒船』、『天狗争乱』
…などだ。吉村作品としては『破獄』や『漂流』『零式戦闘機』が有名だが、『長英逃亡』、『関東大震災』、『天狗争乱』の迫力はそれ以上だと思った。『天狗争乱』には、右翼や左翼の非合法活動のルーツが全てあると思った。それで、元日本赤軍の和光晴生さんにこの本を送ってあげた。
そして、『ふぉん・しいぼるとの娘』だ。吉村作品の中では一番長い。そして最高傑作かもしれない。あのシーボルトと、その娘のイネの話だが、こんな凄い物語があったのかと驚いた。又、ゆっくりと紹介してみたい。
12月27日(木)に「死刑」の問題で、佐藤優さん、森達也さんと話し合った。阿佐ヶ谷ロフトで。この時、森さんに『死刑』(朝日出版社)をもらった。実にいい本だった。3年もかけて取材したという。森さんの本の中でも最高傑作だろう。佐藤さんも死刑の問題については考え、書いている。この時、せっかくだから、佐藤さんの「読書時間」について聞いてみた。
というのは、犬塚哲爾氏にこんな話を聞いていたからだ。「佐藤優は凄いよ。一日を4分割して生きてるそうだ」と。1日は24時間。4分割は6時間だ。まず、睡眠に6時間。原稿執筆に6時間。読書に6時間。あとの6時間で、人に会ったり、食事、入浴したり、「雑用」の全てだ。
ホントかよ、と思った。6時間寝て、6時間書く。この程度は分かる。忙しい人はこの位やっている。しかし、「6時間、読書」というのは、まずいない。特に超多忙な人は、こんなに本を読んでない。だから、ホントかよと思って、12月27日に聞いた。そうしたら、本当だという。ただし、最近は書くことが多い。「執筆・6時間」じゃきかない。という。でも、読書時間はとるようにしている…と。
「先月は〆切が90本あったし、出版した本が6冊あった」という。1ヵ月だよ。ヒャー、信じられない数だ。それでいて、本を毎日、6時間読む。超人だよ。それを聞いてから、自分がやけに小さく見えた。無力感にさいなまれ、生きている価値はないと思った。こんな超人と、とても対等にトークなんか出来ない。そう思った。だから、ただ相槌を打つしか出来なかった。