凄い本になりました。驚きました。なんとも楽しい本です。手に取った瞬間、オオッ!と私自身が叫んでしまいました。今年初めての本です。今までとは全く違った本です。タイトルからして凄いです。
『失敗の愛国心』(理論社・1200円)です。「中学生向け」の本です。生まれて初めて挑戦しました。去年の秋頃から必死に書きました。
理論社は「よりみちパン!セ」という中学生向けの本を出してます。学校でも家庭でも学べない、リアルな、突出したテーマを選んで出してます。今まで34冊出ています。全国の中学校、図書館にも置かれ、全国の書店でも売れてます。「中学生向け」ですが、大人も読んでます。「中学生以上すべての人のよりみちパン!セ」なのです。こんなキャッチコピーです。
〈寄り道の楽しさ・気持ちよさを知っているこどもたちと、
もう一度、こども時代からやり直したい、
おとなのために〉
いいですね。私は、もう一度、こども時代からやり直したいですね。このシリーズの存在を初めて知ったのは、小熊英二の『日本という国』でした。内容もいいが、本の作り方が実にお洒落だし、うまい。頁をめくるのが楽しい。これは中学生だけなんて勿体ない。そう思い何冊か読んだ。新井紀子『生き抜くための数学入門』、森達也『いのちの食べかた』…と。そして次々と読んでいった。
そんな時に、このシリーズ本の編集者から手紙が来た。丁寧な手紙だ。去年の9月4日だ。「ぜひ、このシリーズで一冊書いてほしい」と言う。嬉しかった。でも、「僕なんかでいいの?」と思った。「中学生向け」なんて生まれて初めてだ。やってみたい。しかし、出来るかな。何度か編集者と会い、書いた。必死で書いた。そしてやっと年末に書き上げた。
それからが又、大変だった。中学生に分かるように書き直したり、書き加えたり、さらに私の原稿を素材にして、イラスト、写真、漫画が入る…それも大量に入る。事前に部分的には見た。しかし、表紙をはじめ、始めて見るものが多い。だから3月18日(火)に見本誌を見た時は、「オッ!こんな本なのか!」と驚いた。
今まで出した本の中で、一番、手がかかっている。一番楽しい。読ませる工夫をしている。これは驚くべきことだ。こんなところまで…と思うほど、手が込んでいる。少し紹介してみよう。
まず表紙だ。海から昇る大きな太陽をバックに私が立っている。そして自己紹介している。普通ならタイトルの横に著者名があるが、この表紙は、私が吹き出しで「自己紹介」をしている。胸に大きく「S」と書かれたトレーナーを着ている。きっとスーパーマンなのだろう。いや、鈴木の略か。吹き出しから本の帯にセリフは続く。こんなことを言っているんだよ。スーパー鈴木は。
〈ぼくが著者の鈴木邦男です。日本のためによかれと思い、四十年間「右翼」をやってきました〉
〈でも、「こころ」を強制されることだけは、まっぴらごめんだ!
国家も人生も、おんなじだ。まちがえたらちゃんとあやまる。深く、複雑な「愛国心」をまるごとそのからだで体験してきた新右翼の雄がみずからの「失敗」を足がかりに示す。「力」よりも「言葉」へ。「正義」よりも他者を受け入れる真摯な「謙虚さ」への、切実な問いとねがいに満ちた軌跡。
この社会に生きるすべてのこどもと大人へおくる、あるべき「日本のすがた」を考えるための必読書!〉
これだけの分量が表紙に詰まっている。直球勝負だ。でも、中学生が分かるんだろうか。「大丈夫、分かります」と編集者は言う。これは原稿を書く前にも念を押された。「子供向けだからと思って、わざとやさしくしたり、手を抜いてはダメです。子供はすぐに見抜きますから」「ハイ、分かりました」と言った。そして必死で書いた。漫画がふんだんにあり、イラストもあり、そして写真もある。それに、ハードな〈事件〉の写真が多い。殺伐とした誌面になるのではないか。山口二矢の浅沼社会党委員長刺殺事件、よど号ハイジャック事件、連赤事件…と衝撃的な事件が多い。その解説もつける必要がある。だったら、それらの〈事件〉も、イラストにして〈衝撃度〉をやわらげたらいいんじゃないの。と言った。
「いや、歴史的事件だから、キチンと写真で見せましょう。それで文中で〈スーパー・クニ君〉がやさしく説明して下さい」と言う。なるほど、こうすると、殺伐感が薄れる。こんな方法があったのかと驚いた。
写真は何十枚も入っている。それも、ドカーンと大きく。私の好きなマイトガイ旭の写真は一頁だ。よど号ハイジャック事件は二頁の見開きだ。タラップの上では田中義三さんが日本刀を構えている。田中さんが生きてたら、どんなに喜んでくれただろう、と思う。残念だ。
野村秋介さん、見沢知廉氏の写真もある。三島由紀夫、森田必勝の写真もある。私の高校時代の写真もある。私の仙台の実家の写真もある。古くは、安保闘争、ハガチー事件、早大闘争の写真もある。写真を見ているだけでも楽しい。ワクワクする。
又、イラストも多いし、何と、四コマ漫画が、九つも入っている。9頁だ。だって、表紙をめくったら、まず四コマ漫画がある。「気がつけば右翼」だ。こんな楽しい本はない。大体、四コマ漫画が入ってる本なんて、生まれて初めてだ。最初にして最後だろう。
四コマ漫画は、さらに続く。「子どもみたいな大人」「キミの成分は?」「愛って…」「おまえこそいらない」「赤尾の豆単」「いつまでもお母さん」「鈴木くんがもうひとり」「元を成敗だ!」
さらに、イラストが沢山ある。たとえば、「はじめに」のところでは、クニオ君がキチンとスーツを着て、ネクタイをしめて出ている。「はじめに」の挨拶をしている。「あとがき」のところでは、キチンとお礼を言っている。
さらに凄いのは、「パラパラ漫画」なのだ。こんなの今でもあるんだと驚いた。僕らは小、中学校で遊んだ。本の左下に小さな絵がある。パラパラとめくると、絵が動く。本の中にビデオが入っているようだ。実はこの「パン!セ」シリーズ34巻のうち、3巻ほどは、この「パラパラ漫画」がついている。「これはいい!」と言ったら、「つけてほしいですか」と言う。「ほしい!ほしい!」と言ってつけてもらった。嬉しかった。生まれて初めてだ。ホント、生まれて初めての体験ばっかりだ。
では、パラパラ漫画を見てみよう。表紙と違い、グンと若いクニオ君だ。昔、ゲーセンに「熱血硬派クニオ君」というゲーム機があったけど、あんな感じ。あるいは「少年クニョニョンの冒険」といった感じ。いやいや、この本自体が「クニョニョンの冒険物語」だ。
さて、「パラパラ漫画」だ。日の丸の鉢巻をした少年のクニョニョンがいる。ランニング(「S」のマークがある)姿で走る。疾走する。マンホールの穴がある。水たまりかな。ポンと飛び越える(うん、こんなことがあったな)。さらに走る。全力疾走をする。
お、前途にパンが現われた。じゃ、運動会の「パン食い競争」か。でも、運動会には落とし穴なんてない。これは、きっと〈人生〉そのものだ。大きな穴(=障害)がある。誘惑(=パン)がある。さて、どうする。どうなる、クニョニョンだ。
でも少年クニョニョンは食べちゃうんだよね、パンを。キリスト教でいえば「知恵の木の実」を食べたんだ。愚かだ。パンに食いつくところが、ちょうど第3章「少年は『愛国心』で人を殺した」の所だ。ちゃんと本文と連動している。勝手にパラパラしてるわけじゃない。実に芸が細(こま)かい。芸術作品だ。
さらに少年は走る。そして第1章「『宗教』が認めた『暴力』」になると、突如、クニョニョン少年は月光仮面に変身する。うーん、これは私の「非合法闘争」時代を暗示しているのか。あるいは「赤報隊事件」のことか。いつかは書かなくてはならない。鈴木史の中の「闇」だ。胸が痛い。
クニョニョン少年の疾走は続く。今度は、ロープ登りをする。第5章、「気がつけば『ぼくは右翼』」の所だ。何にでも好奇心を持つバカなガキなんだよな、こいつは。目の前にパンがありゃ、すぐ食いつくし。ロープが垂れ下がっていれば登ってみようとする。そして無事、登り切り、次のステップに行く。でもここで突然、こける。
本文は、〈死んだ「三島」とズルイ俺たち〉だ。ここで、つまづく。うーん、うまいね。そして、「逮捕された僕」でバッタリと倒れる。まさにその通りだ。でも、倒れながら、前方回転をして、ちゃんと「受身」をとっている。ヒャー、凄い。この辺は野村秋介さんとの出会いの頃だ。
あれっ、でも、さらに又倒れて、今度は頭からバッタリと倒れるよ。第7章「失敗したから、道は開けた!」の所だ。そして、やっと立ち上がる。小見出しは、「父が伝えてくれたこと」。ちゃんと連動している。父親の言葉に、むっくりと立ち上がるのだ。いや、立ち上がろうとする。
でも、すぐには立ち上がらない。グズグズしている。失敗ばっかりしていて、それをいつまでも引きずっている私だ。それがよく出ている。やっと立ち上がった時に、鈴木ファミリーの写真が出てくる。父母、弟、姪っ子たちとコタツに入って、にこやかに笑っている。うーん、映画だよ、これは。ホームドラマにもなっている。いやいや、大河ドラマですよ。あるいは、一族のつまはじき者を迎え入れた寅さん一家のようなものか。
パラパラ漫画の続きだ。ようやくのことに立ち上がったクニョニョンは、身体についた埃をパタパタと払う。そして、又、健気(けなげ)に走り出すのだ。「長距離ランナーの孤独」だ。そして、右翼に襲われて死ぬ。いや、そこまでは描いてないか。
しかし、凄い、凄い。パラパラ漫画にこれほどの思想と予言と物語があったなんて。驚いた。感服した。これを見てるだけでも楽しい。これだけでも一冊の価値はある。これだけでも1200円の価値はある。毎日、パラパラとやって一人で楽しんでいる私です。
そうそう、〈目次〉も紹介しよう。パラパラ漫画からみで書いたとこもあるが、キチンと紹介する。この目次がいいね。一応、私が試案を書いたが、「この方がいいでしょう」と編集部も案を出してくれ、さらに検討して、こんな結果になった。中学生向けの本を長年作ってきた人々だから、その辺のスキルと感性が素晴らしい。
失敗の愛国心
はじめに
第1章 「愛国心」がきみを追い回す
第2章 「右翼」と「左翼」は、ひとりの人間のなかにいる
第3章 少年は「愛国心」で人を殺した
第4章 「宗教」が認めた「暴力」
第5章 気がつけば「ぼくは右翼」
第6章 「お前はつかまりたかったんだね」
第7章 失敗したから、道は開けた!
第8章 でかい「正義」に気をつけろ!
おわりに
「あとがき」も苦労した。頑張って書いた。自分の人生の「自己批判」を書いた。この本は、書きながら、中学生向けに書くなんて無理だ。不可能だと思った。何度も何度も思った。しかし、編集者の言葉に励まされて書き続けた。そのあたりの詳しい話も「あとがき」に書いた。
ところが、「あとがき」を書いてもまだ終わりではない。それがこの「よりみちパン!セ」の奥深い所だ。このシリーズを書いてる全員に対しての〈課題〉というか、〈質問〉があるのだ。谷川俊太郎が出した質問だ。それに答えなくてはならない。最後の難関だ。ハードな「質問」は4つだ。
「谷川俊太郎さんからの四つの質問への鈴木邦男さんのこたえ」
私の「こたえ」は本を読んでほしい。四つの「質問」だけを紹介する。
「何がいちばん大切ですか?」
「誰がいちばん好きですか?」
「何がいちばんいやですか?」
「死んだらどこへ行きますか?」
難しいね。皆さんならどう答えますか。考えてみて下さい。私も、この重大なテーマを前にして、考え込んでしまいました。いや、本文を書きながらも、この最後の「質問」が気になって、考え込んだ。それで筆が進まない。そんなこと度々でした。でも、必死で考えました。そして書きました。
このHPの原稿ならば、「好きなものは枝豆」「嫌いなものは右翼」。これで終わりでしょうが、1200円出して本を買ってもらうのです。こんな、いいかげんな、素っ気ない答えではいけません。頑張って書きました。後々まで残る本だと思ったので、その覚悟を持って書きました。さらに、「次の本」の予告までやっています。恐るべし少年アシベです。いや違った。少年クニョニョンです。さて、「次」はいつになるでしょうか。
何度も言いますが、これだけ、手の込んだ、豪華な本はありません。私の文章よりも、そちらの方を堪能して下さい。最高の編集者の最高の腕と技があります。匠(たくみ)の世界です。そして、イラスト、写真、パラパラ漫画…と。豪華絢爛絵巻です。そう、本というよりは、「絵巻き」ですな。私の本はこれで61冊目。61冊目にして到達した豪華な頂点です。美の極(きわ)みです。手にとって、その編集の極みに酔って下さいませな。
「うーん、うまいなー。楽しい本だな」と、つくづくながめております。おかげで他の仕事が進みません。まあ、そんな時間もいいいもんです。
この「パン!セ・シリーズ」は売れてます。中学生や高校生に社会問題を考えてもらおうという本は他の出版社からも出ています。しかし、「パン!セ」は群を抜いてます。勝負になりません。全国の中学校、学校図書館、地域図書館に入っています。でも心配です。私のことなど全く知らない子供たちが読むのです。「こんなの読みたくねーよ」と拒否されるかもしれません。いや、イラストや漫画につられて読むかもしれません。どう読み、どう反応するのでしょうか。楽しみというよりも、不安です。恐いです。全国の中学生に私が〈面接〉されるのです。面接試験に合格できるか、落とされるか。やっぱり不安です。
それに何と、初版が15,000部です。今までで一番多いです。〈文庫や新書〉ならば、1万部位出しますが、こうした単行本では初めてです。大丈夫なんでしょうか。編集者に聞いたら、「大丈夫。すぐに重版になりますから」。ヒャー、強気た。その前に中学生の〈面接〉があるよ。
そうだ。最後にタイトルの話だ。愛国心の全てが「失敗」というわけではありません。成功した愛国心、成功した愛国者もいたでしょう。私の場合は、愛国心に目覚めて、楽しいこと、素晴らしいこともあったが、ヤバイこと、失敗したことも多かった。そんな反省を込めて付けたタイトルです。失敗した私の愛国心人生かもしれない。いや、私の「失敗学」と、私の「愛国運動」の関連話かもしれない。
「うん、私にも失敗があった」と思う人もいるだろう。「バカヤロー、俺には失敗なんかねーよ」と言う人もいるだろう。どっちにしろ、自由に読んで、自由に批判してほしい。そして、鈴木をぶっとばしてほしい。
そうだ。先週「読書対談」をやった高木尋士さんは、フクロウを飼っている。「いちばん大切なもの」はフクロウだ。フクロウと相思相愛だ。じゃ、『フクロウと愛国心』を書きなよ、と勧めている。写真もふんだんに入れて。巻末にはフクロウとの「愛国対談」も入れて。きっと話せるだろう。だって、高木氏は、フクロウと同棲しているうちに頭も体も、フクロウに似てきた。フクロウ語も出来るんだろう。フクロウが、この日本をどう思っているのか。憲法や天皇制をどう思っているのか。聞いてほしい。何なら私が司会をしてもいい。
「鈴木さんに勧められてパンセシリーズを全巻買いました」と言っていた。偉い。僕の本を含め、34巻読破したら、又、対談してもいいな。「読書戦争・パンセ編」で。
それと、早見慶子、中川文人さんとも、この本をテーマにやってみたいな。映画「実録・連合赤軍」も「壮大な失敗物語」だ。又、中川さんは「地獄」についての本を最近書いた。
学生運動の苛酷な体験がベースになって、この地獄物語を書いたという。早見さんも、新左翼運動で「天国と地獄」を体験した。私の『失敗の愛国心』も、「地獄めぐり」だ。じゃ、それらをテーマにして、又、三人で話してみたい。お二人にお願いしたい。映画「母(かあ)べえ」と「明日への遺言」も見てほしい。そして、戦争と愛国心と失敗について語り合いましょう。連合赤軍については、もう語り尽くされたと思われるだろうが、この三人が話したら、又、新しい発見、分析があるだろう。タイトルは「地獄の愛国心」だ。あるいは、「死の病い。愛国心」だ。
うーん、愛国心についてならいくらでも書けるな。それに「失敗」についても。この本について、「鈴木さんは失敗談の天才ですね」と言われた。「失敗を書かせると右に出る人はいない」とも。右翼の右に出ようなんて、誰もいねーよ。それに、私は生まれた時から失敗の連続だ。今もしている。これからもずっと失敗ばかりだ。「ミスター・失敗」だ。私の中に失敗があるのではない。失敗の中に私がいる。そうか。じゃ、『失敗の愛国心』をシリーズ化すればいいかな。ビルドゥングスロマン(教養小説)のように、「愛国ベイビー」たった頃から、中学、高校、大学と行き、そして…と。その辺まではこの本で書いたが。じゃ、その後だね。そうするとヤバイ活動も出てくるし。時効になったこと、まだ時効にならない事件もある。うーん、難しい。でも考えてみよう。挑戦するだけの価値はある。
今まで、私の本でシリーズ化したのは「他人」「事件」について書いた本ばかりだ。『がんばれ新左翼』が3巻。『夕刻のコペルニクス』が3巻。今度の本は、他人の事件ではない。自分のことだ。『失敗のクニョニョン』シリーズだ。「夕刻」じゃなくて、『たそがれのクニョベー』シリーズにしてもいいな。これじゃ、盗作っぽいな。と、夢が膨らんだところで終わろう。ともかく、1200円ですが、買ってみて下さい。つまらなかったら私に送り返して下さい。3倍のお金を払って賠償します。それだけの覚悟と自信を持って出した本です。