今週は谷間です。谷間の我が家です。先週は、思い切った大型企画でした。迫力ありましたね。全ては高木尋士さんのおかげです。パソコンで見るだけじゃ、飽き足りず、プリントアウトして、じっくり見ています。対談「北一輝とは何者なのか」です。
普段より、分量も多いし、クオリティも高いと思います。「これはよかった」「勉強になった」と、メールが沢山来ています。ありがたいです。「次はいつ、やるんだ。第2、第3弾を早くやって下さい!」という催促の声も多いです。頑張って、又、挑戦しましょう。
私は、北一輝は好きで、若い時に「著作集」は全部読みました。又、村上一郎や松本健一、田中惣五郎など、北一輝について書いた本も、全て読みました。ところが、高木氏は、さらに読んでたんですね。他にもこんなに出てたのか、と驚きました。とても勉強になりました。
北一輝については、1冊、書きたいな、と思っていました。断片的に触れたことはありますが…。それも昔ですね。『現代攘夷の思想』や『時代の幽閉者たちに』で書いたようです。読み返して再度勉強しよう。
老壮会の嶋野三郎さんは、北一輝のお弟子さんです。日本人としては唯1人、ロシア革命を見た人です。この人から、北一輝のことを聞きました。35年前ですが。
それは、『証言・昭和維新運動』(島津書房)に収められてます。そこで嶋野さんは、北のことを、「まるでゲーテのような人だった」と言ってました。先週のHPでは、その言葉を紹介しています。
カントやヘーゲルのように、きちんとした「大系」はない。もっと型破りな、広大な広がりを持った思想だったというのです。それと、とても信仰的な人だと言ってます。
今、他の原稿で必要があって、2.26事件に参加した末松太平さんのところを読みました。やはり、この本に入ってます。2.26事件に参加した青年将校ですが、獄中に入り、出てきてます。『私の昭和史』(みすず書房)という名著もあります。三島由紀夫がこの本を絶讃してました。2.26事件を書く時に末松さんから随分と取材したといいます。
この末松さんとは何度もお会いしました。会うなり、「民族派なんて自称するのはやめなさい!」と、ピシャリと言われました。「チョウやトンボは、自分のことをチョウ、トンボと思ってないでしょう。昆虫だとも思ってない。レッテルなんか邪魔だ。死んだ時に他人に『民族派の墓』と書いてもらったらいいでしょう。
それとも、『民族派』という言葉がないと寂しいですか?」
何だ、この人は。と思いましたね。ムッとしましたよ。でも、今となっては、末松さんの言ったことは正しいんですね。同じようなことを今は、私が言ってます。
2.26で死刑になった磯部浅一は、獄中からの『弁駁書』で、こう言っている。
〈左翼理論が華やかだった頃の右翼浪人は徒なる暴力団でしかありませんでした。此の暴力団に思想を与へ、信念を与へ、理論を教え、実行を奨めたのは実に日本改造法案以外にありません〉
磯部は、北の絶対の信奉者で、「改造法案は一点一画も修正してはいけない」と言い、金科玉条としていた。末松さんは、そこまでは思わない。革命を起こす時は、いいものは、あっちからも、こっちからも引っ張ってきて建設案を作ったらいいと思っていた。
その点を、磯部から、「同志の中には、チャランポランな奴がいる」と言われたようだ。でも末松さんは、末松さんなりに北を尊敬していた。『私の昭和史』の中で、北一輝を訪問した時の様子がこう書かれている。
〈(北は)「軍人が軍人勅諭を読み誤って、政治に没交渉だったのがかえってよかった。おかげで腐敗した政治に染まらなかった。いまの日本を救いうるものは、まだ腐敗していないこの軍人だけです」と、キラリと隻眼を光らしていった。それは意外なことばだった。いまの自衛隊そっくりに無用の長物視されていた軍人が、日本を救う唯一の存在であり、特に若いわれわれが最適格者だといわれたからである〉
その時の感動・感銘は、「クラーク博士における『ボーイズ・ビー・アンビシャス』だった」という。それだけ凄い人間だったんだ。北一輝は。
2.26が失敗に終わり、皆が捕まった。末松さんも捕まった。その時のことを、末松さんはこう証言する。
〈2.26が失敗に終わって、お偉方もずい分とひっぱられた。そして、泣いてる連中もいたんだ。そんな中でも北、西田は悠然としていたね。北は法華教ばかりあげてるし、二人とも、死刑を宣告されてもケロッとしていた。西田は、亀川との別れぎわに「やァまたね」なんて声かけて、普段とまったく変わらないんだ。
僕ら口では強がりを言ってたが、内心、刑の軽いことを願っていた。しかし、北、西田は違う。北は、かりそめにも、自分の書いたものによって青年将校が影響を受けたのだとするなら、まず私を死刑にすべきだ、と言ってるしね。こりゃ立派なものですよ。死ぬ時まで革命家でしたよ。机の上で革命を書いてる評論家とは違いますよ〉
やはり凄い人間だったんだ。北一輝は、本物の革命家だ。先週のHPでも言ったが、左翼から見ても北一輝は人気がある。天皇否定、天皇制打倒まで考えていたのではないか。と言う人もいる。
その点は、嶋野さんに執拗に聞いた。しかし、キッパリと否定した。天皇陛下のことをあれだけ信奉していた人はいないという。末松さんはどう思うのか。こんな答えが返ってきた。
〈あの頃読まれていた本で、遠藤無水の『天皇信仰』という本がありますが、そには、北の改造法案を「赤化大憲章」だと書いてある。また、北の思想を共産主義だという人も、ずい分いた。僕なんかは北からはそんな話はあまり聞かなかったが、ただ、東郷大将の「天壌無窮」という書と、青銅でつくった明治天皇の像をいつも部屋にまつっていた。僕らよりも、北の方が、ずうっと天皇を崇拝してましたよ〉
これはとても貴重な証言だと思う。高木氏とも話したが、いつか、「忠臣・北一輝」を書いてみたいね。さらに、高木氏と第2弾、第3弾をやるか。あるいは、お互い、本に書くか。北一輝だけでなく、他にも、いろんなテーマで高木氏とは対談してみたいと思う。
高木氏は、『世界の名著』(全66巻、続全15巻)をもうすぐ全巻読破するそうだ。私も昔、読んだので、高木氏の読破時点で対談してみたい。これは当時、「翻訳革命」といわれる位、分かりやすい翻訳だった。これで、世界の思想家、哲学者がグンと身近に感じられた。思い出しながら話してみたい。
又、高木氏は、次は『人類の知的遺産』(全80巻)シリーズに挑戦したいという。これも、思い出深い。読破した時点で、対談しましょう。あとは、芹沢光治良の『人間の運命』だね。これは、2人とも読破してるので、〈人間と信仰〉について語ってみたい。尾崎士郎の『人生劇場』(全11巻)については、『鈴木邦男の読書術』(彩流社)に書いた。読んだので、自分が持ってるよりは、と思って、高木氏にあげた。読んだら対談しよう。〈全集を読む〉シリーズだ。
それと、前に『公安警察の手口』(ちくま新書)を書く時に、かなり公安関係の本を貪り読んだ。その時の資料もあげた。4日ほどしたら、「全部読みました」という。じゃ、「公安についての対談もやろうか」「せひ、やりましょう」ということになり、6月上旬にやる。どんどんと大型対談企画が控えている。
さて、今週は谷間だ、と書いた。谷間の百合か。胸の谷間か。先週は北一輝についてのビッグな対談があった。今週は平常モデルだ。ずっとそうなら、山を下りて、平地をずっと行くだけだ。でも、それじゃ、谷間にならん。
そうだ。来週なんですよ。来週又、ビッグな山がある。大阪の岩井正和さんと対談したのだ。〈「世界の歴史」全集を読む〉だ。岩井さんは、高木氏と同じように、とても勉強家だし、読書家だ。今、各出版社から「世界の歴史」が出ている。それも20巻とか30巻とかある。これらを何シリーズも読破している。それで、「大阪で対談しましょう」と言う。おう、偉いねと、即座に返事した。そして、3月に実現したんですよ。
それも、場所が取れずに、居酒屋でやったんですね。人の声でうるさい所で、歴史論をやりました。それは、来週upします。お楽しみに。
この対談のテープのリライトは吉本さんがやってくれました。北一輝は「劇団再生」のあべ・あゆみさんがやってくれました。じゃ、今度はこの2人のビッグ対談をやりましょう。
あべ・あゆみさんは高木氏の影響で、「ノルマ制読書」をやってるそうです。偉いですね。吉本さんも猛烈に本を読んでます。さらにレーニン事務所の高橋さんにも加わってもらい、日本の「三大読書女」による大型読書トークをやってみたいですね。「知女」「歴女」対談ですよ。私じゃ、手に余りますので、高木氏に司会はやってもらいましょう。
私も、読む本が一杯あって大変です。ブルートレインも見にゃならん。パソコンもやる。メールも見る。携帯も見る。これじゃ、本を読めない。だから、どこかで、「情報ダイエット」をして、スリムになる必要がある。でないと、本は読めない。スリムな「知女3人組」はその辺、とうやっているのでしょうか。聞いてみたいですね。
谷岡一郎さんの『40歳からの知的生産術』(ちくま新書)を読んだら、「時間管理力を磨け!」と書いてあった。
〈結論を先に言うなら、時間の節約のノウハウ知っている人は、そうでない人に比べて、格段の知的創造の発信を行うことになるだろう〉
そうですね。情報ダイエットしなくては、自分で声を出せない。書けない。造り出せない。受身で全ての情報を引き受けてしまったら、「情報デブ」になってしまい、全く身動きがとれない。そんな人がゴロゴロいるじゃないか。「これも必要な情報だ」「情報は全てチェックしないと…」と、電車の中でも、会社でも、トイレの中でも、〈情報〉を見ている。
この本の著者・谷岡さんは、谷岡学園理事長だ。1年に名刺を交換する数だけで約千枚。それに学生もいる。新しい友人に時間をとると古い友人を忘れてしまう。古い友人だけを大切にすると新しい友人に時間を割けない。
「筆者にできるせめてものことは、情報量の浅いコミュニケーションを減らすことなのである」
うん、そうですよね。浅いコミュニケーションとは何か。
〈携帯で、「イマ、ナニシテルー?」「ゲンキー?」などとやり合うのを、教養ある中味の濃いコミュニケーションとは(筆者は)呼ばない。この浅すぎる情報量の少ないコミュニケーションに慣れてしまうのは、或る面ではとてつもなく恐ろしい。携帯を持ちたくない理由のひとつである。
むろん仕事上の都合でやむなく持たざるをえない人は多いだろう。でもそのケースでも、極力使用しない努力をしない限り、携帯を媒介とする暴力的な侵害は増え続けるだろう〉
「暴力的な侵害」だと言っている。そうか。「ゲンキー?」「ナニ、シテル?」なんて、一見、あどけない挨拶に見えるけど、これは、本当は「暴力」なんだ。「侵略」なんだ。こんなものに慣れて、メールばっかり打ち続け、ツイッターをやり、ネットを見続けていると、それはもう、その人間そのものがネットになる。非実在中年になってしまう。怖いですね。
こうした「侵略」から自己を守るためにも、ダイエットして、「こっちの世界」に戻ってこよう。そして本を読もう。ではおわり。来週は、「歴史全集を読もう!」です。お楽しみに。
⑦5月7日(土)目黒さつき会館。『新訂版三鷹事件』(故小松良郎著)、『三鷹事件を書き遺す』(故清水豊著)の出版記念パーティ。高見澤昭治弁護士と。高見澤さんは三鷹事件再審請求弁護団団長です。去年、阿佐ヶ谷ロフトで三鷹事件について、一緒にトークしました。ここの集会が終わってから、渋谷の反原発デモに参加しました。
⑩5月13日(金)北川明さん(第三書館代表。左から2人目)が出るというので、ネイキッドロフトに行きました。『流出「公安テロ情報」全データ』を発行して、大議論をまきおこした出版社です。私も『紙の爆弾』で北川さんに取材しました。この日のテーマは、
〈「ウラ大宅壮一賞」公開選考会
10年代のノンフィクションとは?〉
終わってからも皆で話をしました。
⑪5月15日(日)1時半から、豊島区民センター。「よど号」帰国支援センター「かりの会」の第8回総会。私は3月1日〜5日まで訪朝し、「よど号」の小西さん、若林さんに会って来たので、その時の話と、今後について、30分ほど話しました。
⑬「よど号」グループのリーダーだった田宮高麿さんの長男です。三鷹市議選に出馬し、健闘しました。落選しましたが、頑張りました。ポスターに「テロリストの息子!」とか、「北朝鮮に帰れ!」と書かれたそうです。卑怯な人がいるもんですね。
⑮「FRIDAY」(5月27日号)です。大スクープです。青木理さんがやりました。名古屋拘置所で死刑囚・小森淳君を撮ってます。衝撃的です。それ以上に、ここに書かれた文章が凄いです。「それでも彼は死ななければいけないのか?」と問いかけています。ぜひ、読んでみて下さい。