そうか。秘密の「ミッション」とはこれだったのか。と、島に着いて初めて分かりました。
そういえば、「鈴木邦男を野性のイルカと泳がせる会」というのが出来た。そんな話を、どっかで聞いた。イルカ保護運動家や元全共闘の人たちが作ったようだ。そのプロジェクトだったのか。
8月10日(水)、夜、竹下通りに行った。ちょっと違った。竹芝桟橋に行った。浜松町の文化放送から徒歩8分位だ。この日は放送だが、秘密のミッションだから口外は出来ない。
放送が終わり、高田馬場で邦典君の歓迎会に出て、一旦家に帰り、準備をして、再び浜松町へ。竹芝に、10時20分集合。11時に出航する船に乗る。明日の朝、島に着くそうだ。
メンバーは、いろんな技術を持った人たちだ。イルカ解放の運動家、潜水、水中カメラのプロなどだ。過激な新左翼活動家だった人もいる。まるで、「オーシャンズ11」みたいだな、と思った。
映画「ザ・コーブ」にも、こういったスペシャリスト集団が出ていたな。「俺たちはオーシャンズ11みたいなもんだ」と豪語していた。「オーシャンズ11」も映画で、凄腕のプロ集団が集まって、銀行やカジノの大金を強奪するんだ。
だったら、こっちも、もつとプロ集団を入れて、補強したらいい。竹芝から乗船したメンバーは6人だ。「オーシャンズ11」には足りない。
じゃ、8月7日(日)の生誕祭や7月6日(水)の出版記念会に来てくれた人から、その道のプロを選抜したらいい。
「銀行強盗」のプロの植垣康博さん(連合赤軍)。猟銃奪取のプロの雪野建作さん(連合赤軍)。パリ人肉事件の佐川一政さん。オウムの村井最高幹部を刺殺した徐裕行さん。指名手配されながら15年、逃げ切り、時効になった金廣志さん(赤軍派)。かつては犯罪者を追う立場だった元刑事の北芝健さん、飛松五男さん。…凄い人たちがいる。
この7人を加えると、「オーシャンズ13」になるな。最強のメンバーだ。それで大金奪取だ!
でも、今回の「ミッション」は違う。大金奪取ではない。(でも昔、そんな「ミッション」にも参加したような気がする。きっと妄想でしょう。こだまです)
今回のメンバーは、映画「ザ・コーブ」の攻防戦の渦中で知り合った人たちだ。
リーダーは坂野正人さん。イルカ研究家、写真家だ。「ザ・コーブ」のリック・オバリーさんとも親しく、私も紹介してもらった。ゼロホールやロフトなど、何度も激論集会で一緒になった。「サークリット」という集まりを持っている。野性のイルカを観察し、保護する運動のようだ。そして、「サークリット」で一緒にやっている桜井さんと、もう2人の女性。さらに、元戦旗派の活動家で、今は編集プロダクションをやっている椎野礼仁さんだ。
坂野さんも、元活動家なのだろう。他の女性たちは若いから、学生運動出身ではない。坂野さんには、イルカ関係の集会に今までも誘われて、貴重なビデオを見せてもらった。「ザ・コーブ」よりも、もっと残酷なイルカ漁の写真もあった。
又、世界では野性のイルカを観る「イルカ・ウォッチング」が各地である。さらに、イルカに触り、一緒に泳ぐこともやっている。イルカと触れることで精神的な病を癒す。ということも行われている。
坂野さんに誘われて、前に、静岡県の富戸に行った。イルカ・ウォッチングをしたが、残念ながら、イルカは現れてくれなかった。
「じゃ、イルカがいつもいる島まで行きましょう。一緒に泳げますよ」と言う。いいですね、と言ったけど、本気とは思わなかった。そして今回のミッションになった。
海に潜るんですからと、8月4日(木)には船橋のトレーニングセンターで、「死の特訓」を受けた。大体、私はプールでしか泳いだことがない。足のつく所で、安全圏にいて泳いでいるだけだ。横に20メートル。これが限度だ。縦だったら、50メートル位あるから、無理だ。
それなのに、いきなり、ウェットスーツを着て、シュノーケル、フィン、ゴーグルをつけて、潜水訓練だ。大変でしたよ。6時間、死の特訓でした。
そして、8月10日の本番だ。でも、どこに行くのか分からない。本当にイルカと泳ぐのか。別の「ミッション」があるのではないか。島に着いたら、ウルルン島とか、竹島だったりして…。
「じゃ、潜って島まで行き、上陸しましょう」なんて言われたら、数年は帰ってこられない。向こうの軍人と闘いになったら、殺されるかもしれない。でも、元全共闘の人たちだから、そんなことはないか。じゃ、「イルカを囲っている網を切ってきて下さい」とか、「プールに幽閉されているイルカを解放して下さい」なんて「ミッション」かもしれない。
ウーン、どっちにしろ、大変だ。でも乗りかかった船だ(本当に船に乗っている)、やるしかないだろう。
そうだ。私は船に弱いんだ。すぐに酔う。ところが、「これを飲めば大丈夫です」とメンバーから不思議な薬をもらう。
ともかく、すぐ寝よう。そして、ぐっすりと寝た。船酔いはない。生まれて初めてだ。今までは必ず、酔っていたのに。船酔いはキツイ。警察に捕まって、船の上で取り調べられたら、すぐに自供する。吐いてしまう。船酔いで吐いて、自供して吐いて…。「吐く」の二乗だ。
でも今回は、全く吐かなかった。不思議な薬のおかげだ。てすがはプロの集団。知られない強力な薬を持っているんだ。
翌朝、6時半。島に着いた。島の名が見える。アッ、利尻島だ。ギャ、北海道の最北端じゃないか。こっから北方領土に泳いで渡るのかな。
「何言ってんですか。利島ですよ」とレーニンさん。「りとう」かと思ったら、「としま」と読むらしい。「離島」と思われるのが嫌で、読み方を変えたんだろう、きっと。
地図を見ると、伊豆七島のうちの一つだ。有名な大島のすぐ先だ。
大島は三原山とか、「あんこ椿は恋の花」で有名な島だ。「でも、本当は、椿は利島でとれるんです」と坂野さん。日本の椿の生産高の90%以上がこの利島でとれる。
そういえば、島中、椿畑だ。椿を収穫し、油にしたり、いろんな使い途がある。工場もある。漁業と椿の島だ。利島は、人口は310人。でも、東京都だ。東京都利島村だ。
さて、この日は、民宿に落ち着いて、すぐ、海へ。午前中は、潜水の特訓だ。
海だと勝手が違う。プールでやったようにはいかない。海草で、足の下はヌルヌルするし。足ひれの使い方もよく分からない。体のバランスも悪い。
焦って体勢を整えようとして、失敗。ヤバイと思い、近くの岩場に行って、しがみついたら、そこは、貝がビッチリ。それを必死でつかんだら、両手は血だらけ。
「もう止めましょうか」「病院に行きましょうか」と言うが、こんなことで、「ミッション」を中断できない。ペタペタとバンドエイドを貼って、急場しのぎ。
昼は一旦、民宿に戻り、昼食。午後は、船をチャーターして、沖に出る。「イルカを見つけたら、飛び込んで下さい」と船長。
でも、イルカはいない。海が荒れていて波が高い。船は木の葉のように揺れる。立っていられない。必死で、船縁にしがみついた。
利島を何周かし、又、ずーっと沖に出るが、イルカはいない。富戸の時と同じか。又もや、イルカに嫌われちゃったな、と思った。
この日は、島巡りをする。ヘリポートや椿の林、神社を見る。それから民宿に。帰って、晩ごはん。もの凄く豪華だった。アワビやら、伊勢エビやら…。写真を撮った。
そして早めに寝る。民宿にはクーラーはない。窓を開けっ放して寝る。
さて、3日目だ。8月12日(金)だ。今日は昼の船で帰る。午前中、又、船で沖に出る。イルカはいない。島を一周する。もうダメか。もう一周する。
「オーッ、いたぞ!」と船長。僕らじゃ、とても見つけられない。遠く沖の方に、イルカの背びれが見えた。と言うが、私には見えない。いくら目を懲らしても見えない。
イルカの傍まで行き、「すぐ、飛び込んで下さい!」。と船長。皆、次々と飛び込む。恐かったけど、覚悟を決めて飛び込む。
うわー、きれいだ。私だけ、潜水技術が未熟なので、なかなか付いて行けない。皆は、「見えた!」「よかった!」と感動してるが、私は見つけられなかった。イルカは又、離れていった。
そんで、一度、船に上がり、待機。又もやイルカを追う。
もうダメだろうと思ってた時に、「いた!すぐ飛び込んで!」という船長の声。あわてて飛び込む。
私なんて、プールで20メートルしか泳げないのに、よくやったもんだ。何分も何十分も波の荒い海で泳ぎ、潜っている。死の特訓のおかげだ。急成長だ。
海はきれいだ。どこまでも透明だ。いろんな魚が泳いでいる。ずーっと下には海底で、きれいな石がある。きれいな魚がいる。
海を泳いでいるというより、何やら、ビルの屋上から地上を見てるようだ。じゃ、私は空を飛んでいるのか。恐いなーと思っていた。
その時だ。坂野さんが、手で合図する。向こうです、と指さす。
アッと思った。イルカだ。でっかい。本物のイルカが悠々と泳いでいる。親子連れもいる。5、6頭いるのだろうか、人間なんか全く恐れない。
海中では彼らの方が主導権がある。だから安心しきって泳いでいる。私のすぐ下を泳いでいる。いやー、凄い。感動だ。
利島に行く前は、「イルカと出会ったら、触ってみたい」「イルカに乗ってみたい」なんて思ったが、目の前にしたら、とんでもないと思った。
こっちの泳ぎの技術が未熟だし、これ以上、潜って近寄れない。「イルカに乗った少年」にはなれなかった。
「サークリット」の桜井さんから、「使い捨て水中カメラ」をもらったけど、とても使えなかった。自分が泳ぐのが精一杯だった。
それを察したのだろう。桜井さんが、本格的な水中カメラで撮ってくれた。今週、紹介したのは、そのおかげです。ありがとうございました。
海の中をイルカと一緒に、ずっと泳いでいた。きっと1時間も泳いだのだろう。と思ったが、10分位だったようだ。波も荒いし、「船に上がって下さい」と言われ、上がる。ホッとした。これでやっと「ミッション」を果たせた。
日本に帰れる、と思ったら、船は大揺れ。そして、急に気持ちが悪くなり、船縁にしがみついて、ゲーゲーと吐いた。きっと、緊張感から解放され、ホッとしたのだろう。あとは、ずっと、ぶっ倒れていました。
しかし、本当にいい体験をさせてもらった。海の沖まで行って野性のイルカと泳ぐなんて。本当に貴重な体験だ。
よくテレビでは、プールの中のイルカとか、海に囲いをして、そこで飼われているイルカと泳ぐという番組がある。しかし、あれとは違う。あくまで、野性のイルカだ。「こんな体験をした人は日本で千人もいないでしょう」と言ったら、「もう少し、いると思いますよ」と坂野さん。じゃ、2千人か。
ともかく、貴重な体験をした。任務を果たした。秘密のミッションを遂行した。この夏、一番の冒険でした。坂野さん、桜井さん、「サークリット」の皆さん、レーニンさん、お世話になりました。ありがとうございました。では、次のミッションまで…。
⑨10年ぶりに運転しました。えーと、右はアクセルだよな。真ん中がクラッチで、左がブレーキかな。「違う、違う。真ん中がブレーキですよ」とレーニンさん。あれっ、変わったのかな。ともかく、スタートさせよう。でも、すぐに交替されました。
⑩10年ぶりにボーリングをしました。利島は人口は310人ですが、勤労福祉会館にはボーリング場、卓球場などがあります。ボーリングは300円。素晴らしい建物です。立派な小・中学校があり、生徒は15人。立派な保育所があり、園児は10人。いいところです。
水泳も、運転も、ボーリングも皆、10年ぶりです。あれっ、20年ぶりかな。
⑭8月7日(日)、阿佐ヶ谷ロフト。私の「生誕100年祭」の時です。司会の白井さんが、「女性だけを集めて撮りましょう」。それを見ていた平野悠さんが、「おっ、鈴木の喜び組か!」。でも、佐川一政さんも割り込んでますね(右端)。