11月17日(木)、発売です。全国の書店に並びます。『愛国と憂国と売国』(集英社新書)です。刺激的なタイトルです。
〈未曾有の国難にある祖国について考えた。今、われわれは何と闘うべきなのか?〉
と本の帯には書かれています。
今年の3.11東日本大震災の直後、この日本について、日本人について考え、書いたものです。それが全体の2割ほどです。それに、「マガジン9」で書いたものを入れ、さらに全体的に書き直しました。
だから、ほとんど「書き下ろし」です。「マガジン9」をずっと読んでいた人も、全く新しい本だと思うでしょう。それは、編集者の腕が素晴らしいからです。こんな編集の技があったのかと驚きました。
フリー編集者の鈴木耕さん、集英社新書の編集者の方、そして校正の方、本当にお世話になりました。「プロの技」「匠の技」を見せてもらいました。私自身が一番勉強になりました。
ウェブマガジン「マガジン9」に「鈴木邦男の愛国問答」を連載スタートさせたのは2008年6月です。2週間に一度、原稿用紙にすると400字で8枚ほどを書いてます。それだけでも厖大な量です。憲法や防衛や、北朝鮮や、あるいは、映画のこと、読書のこと、イルカのこと…と、テーマは多岐にわたります。
と言うより、その時々に関心のあることを思いつくままに書いてきました。現代版「徒然草」かもしれません。それほど志は高くないのですが、つれづれなるままに書きました。
大きくは、国のことから、世界のこと、宇宙のことを考えたこともあるし、自分のことを極私的に考えたこともあります。「鈴木邦男の愛国問答」というタイトルからは外れることも多かったのです。「マガジン9」の塚田さんも困ったことが多かったと思います。
4年間、連載する中で、当たり外れもあったと思います。外れの方多かったかも知れません。申し訳ありません。
でも、当たりもあり、「これは面白い」「変わった発想だ」「刺激的だ」と思った回もあったようです。それだけを取り出して編集したら面白い本になる。と「マガジン9」の塚田さんと集英社新書の編集者は思ったんですね。これはありがたいし、嬉しかったです。
だったら、あとの作業は簡単じゃないか、と思うかも知れません。実は、私もそう思いました。ところが、これからが大変でした。私よりも編集者が大変です。
80回以上、800枚以上の原稿を、一旦、バラバラにし、テーマ別にまとめ直したのです。第1回と第4回と第8回を合わせて第1章にしよう、いったものではない。
たとえば第1回分をさらに5つに分解し、それを他の回の分解したものと合わせ、〈1つのテーマ〉ごとにまとめる。私自身も分割され、再生されたような感じです。気の遠くなるような作業です。
これが始まったのが2年ほど前です。分割、統合、再生…追加。これはもう「新しい原稿」を書く作業と同じです。いや、それ以上に大変です。そして、全てが終わり、やっと出すことになった寸前です。
東日本大震災が起き、「とてもそのままでは出せない」「発売を大幅に延ばそう。内容も全面的に書き直してほしい」ということになりました。
「はじめに」を破棄し、急遽、長い長い「序章」を書きました。「あとがき」も新しく書きました。他の内容も書き直しました。
これだけ苦労したのは初めてです。私が苦労したのではなく、編集の方々や、校正の人です。
ともかく、編集・校正の最高のスタッフに恵まれ、そのプロの技を見せてもらいました。これは自分にとっては、大きな体験でした。
表紙の裏には、この本の内容がこう紹介されています。
〈山紫水明、天壌無窮の祖国が、原発事故によって穢された。この未曾有の国難に、われわれが闘うべき、本当の敵は誰か——?被災地を救った天皇陛下のお言葉と自衛隊のこと、脱原発デモと街宣車、故郷・東北への想い、右翼人の目覚め、憲法改正問題、左右両派の傑人との親交。三島由紀夫が問い続けるもの…など、かつて行動派、今は理論的右翼として半世紀近くにわたって日本を見つめてきた筆者が、日本に伝えたい思いのすべてを綴る〉
本の内容を、うまく伝えてますね。ここに〈全て〉があります。でも一応、「目次」を紹介しましょう。
序章 第一章 右翼人の憲法論
第二章 右翼人の作られ方
第三章 右翼人の生活と意見
第四章 私が出会った素晴らしい人々
第五章 右翼人と左翼人
第六章 右翼人にとっての三島由紀夫
「右翼人」がよく出てきますね。そういえば、タイトルを決める時、前の案として、「日々是愛国」、「余は如何にして右翼となりしか」というのがありました。この方がズバリかもしれませんが、ちょっと恥ずかしいです。
他に、タイトル案として、「岬の思想」「猫型人間宣言」というのもありました。それも面白かったですね。80回の連載のうち、「岬の思想」と「猫型人間」の話を書いた回がありました。1回限りで。
それをメインに置いて、80回の中から、関連ありそうなところをピックアップして、まとめるんでしょう。これも面白かったですね。
今度は、これ単独で書き下ろしで書いてもいいですね。「岬」の名前には、それぞれ〈物語〉があり、〈思想〉がある。「猫」は、犬と違い従順ではない。
でも、その自由でアナーキーな思想こそが国を救うのだ、と思います。「海は右翼で、山は左翼だ」と言った人もいますし、そうした民俗学的見地から、思想や運動を分析するのも面白いでしょう。
あっ、いかんな。これからの「展望」になってしまった。今回の10冊目の新書を紹介しなくっちゃ。
あっ、今、言ったけど、新書はこの本でちょうど10冊目です。記念すべき新書です。11月10日(木)に、新書のお祝いで、皆で集まった時、「これが10冊目だよ」と言ったら、「じゃ、皆で、あとの9冊を当てよう!」という話になりました。全部当たったら、私は賞品を出さにゃいかんと思っていた。ところが幸か不幸か、残り、9冊を全部当てた人はいない。
私のデビュー作は実は新書だ。1975年10月15日発売の『腹腹時計と〈狼〉』(三一新書)だ。これが、本を書いた初めてだ。産経新聞をクビになった翌年だ。
それから36年か。その間に10冊の新書だ。単行本と合わせると、80冊くらいで。その全部は私も言えないし、持ってもいない。でも新書10冊はキチンと持っている。
皆さんは、後期というか最近の新書は知っている。たとえば、『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)。これは2009年12月だ。2年前だ。
その前は、2009年6月の『愛国と米国』(平凡社新書)だ。その前は、川本さんとの対談。そして『愛国者は信用できるか』…となる。
そのさらに前になると、ほとんど知ってる人がいない。特に受験本や、浅野さんとの対談になると。えーい、発行順から、書いてみよう。自分の〈記録〉にもなるし。古い順から書く。
①『腹腹時計と〈狼〉』(三一新書)1975年10月
②『受験は不惜身命で勝て』(ゴマブックス)1995年1月
③『激論世紀末ニッポン』(浅野健一さんとの対談 三一新書)1995年11月
④『公安警察の手口』(ちくま新書)2004年10月
⑤『天皇家の掟』(佐藤由樹氏との共著 祥伝社新書)2005年8月
⑥『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)2006年5月
⑦『本と映画と「70年」を語ろう』(川本三郎さんとの対談 朝日新書)2008年5月
⑧『愛国と米国』(平凡社新書)2009年6月
⑨『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)2009年12月
⑩『愛国と憂国と売国』(集英社新書)2011年11月
②と③は余り知名度がないようだ。でも私にとってはどれも愛着がある。三一新書が2冊、ちくま新書が2冊だ。それに共著は3冊だ。こうして整理してみると、いろんなことが分かる。
①と②の間は何と、20年ある。新書からは全く、声がかからなかったんだ。単行本にしても売れてなかったんだろう。『腹腹』から20年経ってからきた仕事が「受験本」なのか。
そして浅野さんとの対談。
この3冊が「私の新書前期」かな。これから、9年経ち、ちくま新書で『公安警察の手口』を出した。これは又、大きなチャンスだった。
その次の『天皇家の掟』は知らない人もいるが、⑥〜⑩は皆、知っているんだろう。『公安警察』から、新書がコンスタントに出るようになる。仕事が順調にいったようだ。
今、気が付いたけど、タイトルに「愛国」が付いているのが4冊あった。
その4冊とも「愛国」は〈結論〉だった。しかし今回は、「愛国」から始まり、憂国と売国に行く。もしかしたら、これは私の〈進み方〉〈進む方向〉を暗示しているのかもしれない。
このままでいいのか!と叫ぶ「憂国」は、時として、破壊的な方向へと向かう。時として、「反日」「売国」と相互乗り入れするかもしれない。その辺の緊張関係を示しているタイトルでもある、と私は思う。
単に、愛国者と、憂国者と売国奴とを並べて論じ、評価・糾弾した本ではない。
だって、第四章「私が出会った素晴らしい人々」は、右よりも左の人の方が多い。「反日、売国」と呼ばれても、本当はこっちの人の方が「愛国」かもしれない。「愛国マジック」だ。
それは、第五章の「右翼人と左翼人」にも言える。案外と、表裏一体だったり、コインの裏表だったりする。「左翼的愛国人」「左翼的憂国人」だって、勿論いる。逆なことも言える。
第二章 右翼人の作られ方
第三章 右翼人の生活と意見は、ほとんど、「余は如何にして右翼となりしか」だね。私の生活史だし、思想史だ。「日々是右翼」だった。
ただし、第一章は、かなり奇抜だ。単なる右翼人ではないな、この人は。だって、小見出しを見ると、こんなのがある。
「十七条憲法に復帰せよ」
「護憲派右翼の登場」
「純粋護憲派は最大の天皇制支持勢力」
「憲法1条〜8条の削除方法」
「口語訳という改憲の仕方」
…と、ある。危ない。もう、これじゃ右翼じゃない。と言われるだろう。あるいは里見岸雄を真似てるのかもしれない。あるいは〈現状〉に苛立っているのかもしれない。それで、挑発しているのだろう。
だから、危ない本だ。愛国・憂国の本であるふりをして、実は…。まぁ、それは読んでからにしてほしい。そして、皆で、著者に抗議をしましょう。11月19日(土)は、「マガ9学校」で、セミナーもあるし。そこに行って文句を言いましょう。
⑥10月30日(日)、映画「天皇ごっこ=見沢知廉・たった一人の革命=」の監督トークのゲストで田原総一朗さんが来てくれました。私も聞きに行きました。北朝鮮の報告もしました。田原さん(中央)。右は大浦信行監督。
⑨布川事件の杉山卓男さんと。杉山さんは、千葉刑務所で見沢知廉氏と一緒だったそうで、貴重な話が聞けました。11月1日(火)午後1時から4時。滝野川会館大ホール。えん罪JR浦和電車区事件を支援する集会で。「弾圧から9年。最高裁に口頭弁論を聞かせ、美世志会の逆転無罪を実現する11.1集会」。
⑪11月6日(日)午後2時より、神戸市勤労会館で。「vs原和美トークライブ=護憲派の原和美、今度は神戸の地で保守派論客と激突」。憲法、防衛、自衛隊、東日本大震災…について大いに語り合いました。(左から)原和美さん、飛松五男さん、鈴木。