今年初めての本かもしれない。いや、「自分の本」というのはおこがましいな。「共著」でもおこがましい。
14人の人が語り合っている。その中に私も出ている。岩波ブックレットの最新刊だ。東京新聞社会部編の『未来に語り継ぐ戦争』だ。
「老若世代14人が語り合う7本のシリーズ対談」と本の帯には書かれている。東京新聞(中日新聞東京本社)編集局長・菅沼堅吾さんは、「はじめに」で、こう書いている。
〈過去は変えられない。その結果として、現在がある。これに対し未来は、いかようにも変えることができる。しかし人間は自分たちが思うほど賢くない。過ちを繰り返してしまう。最たる過ちとは、もちろん「戦争」である。繰り返さないための方策はないのか。過去を常に直視し、学び続けることが一つの答えなのだろう〉
その通りだと思う。その志がいい。東京新聞(中日新聞)の気概を感じる。
政治・社会・経済を報じるにしても、東京新聞は、ちょっと違う。単なる批判に終わらずに、明日に向けての提言がある。
又、一過性の事件に終わらせずに、じっくり取材し、問題を解き明かす。さらに、「戦争」についても、いろんな角度から取材し、「語り継ごう」とする。
それも、「こうすれば勝てた」とか、「この将軍は偉かった」といった皮相的なものではない。戦争を体験した人に、体験してない世代が聞く。真摯に語り合う。「戦争」を繰り返さないための方策はないのか…と。
「はじめに」では、こう続く。
〈本書は、その役に立てればと願っている。東京新聞が2006年から毎年、8月15日の終戦記念日に掲載している対談記事などを、そのまま収録した。戦争体験者と戦争を知らない世代があの戦争を語り合うことで、未来に引き継ぐ教訓を蓄えていく企画である。年齢が一番離れていた対談は、64歳差だった〉
これは画期的な企画だ。なかなか新聞では出来ない企画だ。
「そんなのは月刊誌でやったらいいだろう」と思われる。しかし、新聞でやることに意義がある。毎年、8月15日にやることに価値がある。
年齢が一番離れた人は64才差か。1番近いのは私たちだったかもしれない。私は戦争中に生まれたが、戦争のことは全く知らない。
だから、「戦争を知らない世代」として、戦争体験者に話を聞いた。近いといっても、20才の差があった。
20才から64才までの差のある人たちが、会い、「戦争」を語る。でも大変だ。
〈みな初対面でもあり、何から語ればいいのか戸惑いがあった。だから午前中から始まった対談が、司会役の社会部長や記者を交えての昼食をはさみ、夕方まで続く場合が多かった。何回か同席したが、時間とともにうち解け、心根の触れ合いになったと感じている〉
対談する2人も緊張しているし、何から話したらいいのだろうと思う。
戦争体験がうまく伝わるのだろうか。と思うだろうし、戦争体験のない人間は、どこから聞いたらいいのだろうと悩む。同席した編集局長、社会部長、記者たちも心配して見守る。そんな雰囲気を伝えている。
話がガッチリと絡み合うまで時間がかかることもある。世代を超えて、共感し、一致することもある。
午前中から夕方までやったのか。こんなに時間をかけた丁寧な対談は、ちょっとない。一つの対談だって厖大な分量だ。
それを東京新聞の見開き2ページに載せた。このブックレットは、7本の対談を載せているが、1本の対談だけで(本来は)1冊分の分量はあったのだ。
夕方までやった対談の十分の一ほどが紙面に載ったのだろう。まとめた記者も大変だったろう。
又、いろんな立場、角度から、じっくりと話し合い、そして「化学反応」を起こす。初めて見えてくることも多い。
そして思う。過去の戦争の話をしてるのではない。これは今のことを話しているのだと。
「はじめに」は、こう続く。
〈まとめて読み返すと、過去の過ちが形を変えて、今も続いている現実を思い知らされる。例えば経済同友会終身幹事の品川正治さんは「将兵の大多数の立場には立てません」と、兵隊の立場から戦争を見るように指摘した。「戦争」を「政治」に置き換えれば、貧困層が拡大した日本の問題点が分かる〉
実は、この品川正治さんと対談したのは私です。私も、この指摘には衝撃を受けました。
「上から目線」の戦史が多すぎる、と思います。「あの時、ここに攻めていれば」「もっと早く、ここに落としていれば」と、ゲーム感覚で見てしまう。「では、次はこうやろう」「次は、こうしたら勝てる」という〈反省〉にしかならない。
本当は、「次」をやってはダメなのだ。どうしたら「次」(=戦争)を防げるか。それを考えるのが政治だ。塗炭の苦しみをなめた兵隊、民衆の立場から考えなくてはならない。
本文の中では、品川さんは、さらに、こう言っている。
〈戦争を見るときは兵隊の立場で見てほしい。将校の立場からでは、国民の大多数の立場には立てません。財界ではね、経団連会長だった平岩外四さん(故人)が陸軍の兵隊でした。ダイエー創業者の中内功さん(故人)も兵隊です。あの二人は戦争に際して一般の財界人とは距離を置いた格好を取っていましたね〉
そうだったのか、と思った。私は財界人のことは全く知らないから、皆、同じかと思っていたが、私が愚かだった。
朝鮮戦争の時は、「朝鮮特需」で皆、躍り上がったと思っていたし、自分の会社や日本経済のためにも「戦争を待望」し、少なくとも強大な軍隊を持ちたいと思っている人たちばかりかと思っていた。
しかし違うのだ。「兵隊」の立場だったからこそ見える視点なのだろう。
品川さんは憲法を守るというし、「押しつけ論」については、こう言う。
〈それまでの日本の政治をあずかってきた人たち、戦後も同じように政治を続けようとした人たちにとっては、日本国憲法は確かに押しつけだったでしょう。でも国民にとっては、決して押しつけではなかったと私は確信しているんです〉
この問題については、2人でかなり議論した。たとえ理想的なものでも、押しつけられたのは事実だ。
じゃ、一度、アメリカに返して、そこから考え直すことも出来るのではないか。三島由紀夫だって、改憲を訴えて自決した。
実は、品川さんは東大で三島の学友だった。だから、敢えて聞いてみたのだ。
でも、今、議論されてるような形での改憲には三島は一番反対するのではないでしょうか、と品川さんは言う。
「このままでは自衛隊は米国の傭兵になる」と三島は言った。ところが今の改憲論議は、「米国に協力して海外に出れるように」という。
つまり、「米国の傭兵になるための改憲」だ。これには私も反対だ。
品川さんは言う。
〈もし改憲を議論するなら、米国が日本の軍備を動員したいと考えているときでない方がいい。今、変えたら、また米国の押しつけになってしまいますよ〉
なるほど。その通りだと思った。「また米国の押しつけになる」というのが強烈だ。説得力がある。
一度、国民投票をしたらいい。「押しつけ」かどうか。改憲するか、どうか。その時、これだけは変えないということも含めて。
それについて、品川さんは言う。
〈もし国民投票があったら、「九条は変えない」とはっきり意思表示してほしい。そうすれば、米国も世界戦略を変えざるを得ない。これは日本の国民にしかできない世界史の転換なんです。私はそれを、「今が国民の出番ですよ」と呼んでいるのです〉
アメリカの世界戦略を変えさせるのか。世界史的使命があるのか。
今までは、「一国平和主義」だとか、「自国の平和しか考えてない」と、否定的に言われてきた「9条」なのに。こうした戦略があったとは知らなかった。
とても教えられることの多い対談でした。
そうだ。2人の対談のタイトルは、「9条の旗はボロボロだけど手放さないでほしい」だ。
「東京新聞」の2007年8月15日に掲載された。5年前だ。その5年前の新聞を見ると、「記憶。戦後62年」「戦争体験に今こそ学ぶ」とシリーズのタイトルが付けられている。
そして、我々の回は、見出しが…。
「9条守る国民出番の時」
「軽んじられる証言伝承」
「アジアにもっと謙虚な国に」
「精神総動員。新聞は歯止めを」
品川さんはこの時83才。経済同友会終身幹事。「戦後日本は軍産複合体を形成せずに経済大国を実現した最高モデルとして、米国の要求に沿って戦争する国にしないよう憲法改正の動きに警鐘を鳴らす」と、プロフィールに書かれている。
『手記 反戦への道』『9条がつくる脱アメリカ型国家』『戦争のほんとうの恐ろしさを知る財界人の証言』ほかの著書がある。とてもいい本だ。対談の前に、買って読んだ。
今、思い出したけど、戦争時の飢餓や、リンチの話なども聞いた。
戦争を非難し、糾弾する人は、必ずその話をする。陰湿な苛め、リンチは日本軍につきものだ。だから軍隊は反対だ。戦争は反対だと。
そのことを聞いたら、「うちの部隊ではリンチはありませんでした」と言う。
これには驚いた。あれは、「平和」な状況下であったという。内地だとか、あるいは外地でも、(とりあえず)小康状態のところとか。
だって、連日、敵と闘っている部隊では、リンチをやってる暇はない。又、部下を殴って負傷させたら、こっちの「戦力」がなくなる。
敵と闘っている時は、だから兵隊を大事にしたんです、と言う。驚いた。
そして、ハッと思った。40年前の連合赤軍事件だって、あさま山荘に立て籠もって機動隊と銃撃戦をしてる時は、仲間内の「査問・総括・リンチ」なんてやらない。やってられない。
その前の山荘で、敵と遭遇していない「平和」状況だから、査問・リンチをしたのだ。
この話は、もっと書こうと思ったが、続きは、ウェブマガジンの「マガジン9」に書こう。それを読んで下さい。
それと今日、1月23日(月)は、元連合赤軍兵士の植垣康博さんに会う。この品川さんの話を聞いてみよう。20日(金)にも会ったけど、聞き忘れた。
連赤事件から40年。日米戦争から67年。余り変わらない。「過去の過ちが形を変えて、今も続いている現実」と東京新聞の菅沼編集委員が言う通りだ。
では最後に、岩波ブックレット『未来に語り継ぐ戦争』の目次を紹介しよう。毎年8月15日に、こんな人たちが戦争について熱く、語り合っていたのだ。
⑤「愛国とは、強要されるものじゃない」。「マガジン9条」でインタビューされたものが、この岩波ブックレットに載りました。これを契機に、ウェブマガジン「マガジン9」に私の連載が始まりました。又、その連載を中心として、昨年末の『愛国と憂国と売国』(集英社新書)が出来ました。