小説家・睦月影郎(むつき・かげろう)さんの「著書400冊突破パーティ」に出席した。
「著書400冊」は我々の理解を超える。「凄い」だけでは表現し切れない。「唖然」「愕然」だ。とても信じられない。
だから、ライターとしての「目標」には、とてもならない。「別世界」のことのようだ。
3月31日(土)午後6時からパーティは行われた。品川プリンスホテル・メインタワー22階「サファイア22」だ。
品川プリンスホテルは、いろんな建物があり、やたら大きい、広い。ここだけで巨大な都市だ。
メインタワーは各階に宝石の名前が付いている。ダイヤ、オパールくらいは分かるが、あとは分からない。
そんな煌びやかな階で、煌びやかな「400冊突破パーティ」が行われた。
豪華な大広間で、豪華なパーティは開かれた。超満員だ。出版パーティといったら、「会費1万円」というのが多いが、このパーティは会費なしだ。
我々貧乏人が「お祝い」を出したら、かえって失礼になるのではないか。そんな感じがして私も出さなかった。
400冊を突破し、作家としての頂点を極めた人が、我々にお祝いや幸せのお裾分けをしてくれる。そんな会なのだろう。
「祝辞」で私は、そう言った。だから、今日は大いに「無銭飲食」します。すみません!と言いました。
司会をしている立川談之助さん(落語家)は、真っ赤な和服。派手だ。
この人は東中野に住んでいる。先週、ドーナッツ屋で本を読んでたら、隣りで本を読んでた人が談之助さんだった。
驚いたが、勉強家なんだ。スーパーのLIFEでもよく会う。その司会の談之助さんが言う。
「今日は官能小説家・睦月さんの会だけあって、エロ小説家、落語家、漫画家、女優、女装の人、男装の人、変態…と、おかしな人が多いのですが、1人だけ、怖い、右翼の人が来ています!」と言って私は紹介された。
「1人だけ、国を憂え、思想に生きる人」だという。そんな怖い人間じゃないのになー。でも、私は、パーティ、集会といったら、〈思想系〉が多い。
こう書くと、〈思想系〉もオタクっぽい、〈トンデモ系〉と同じような響きだ。
ともかく、私は、右翼の集会、連合赤軍の集会、「よど号」ハイジャックの集会…などが多い。あとは、脱原発の集会とデモ。野生動物保護の集まり、イルカやクジラ環境保護の集まり。死刑反対、冤罪を許すな、といった集会が多い。グリーン・アクティブの集まりもあるな。
ともかく、自分のことより、「公」のことを考え、政治を考える人々だ。世のため、人のためを考え、政治を憂える。維新をやろう。革命をやろうという人々だ。〈志〉を持った人々だ。
ところが、睦月さんのパーティには、そんな人は1人もいない。維新や革命や環境を考える人は誰もいない。脱原発、反TPP、死刑廃止なんてことを話す人は誰もいない。「自分のこと」だけを考えている。「公」はない。見事に「個人原理」だ。
これも又、サッパリしてるし、清々しい。服装も思いのままだ。かなり年輩だと思うが、キャンディ・キャンディの格好をした人がいる。憲兵の格好をした青年がいる。ほとんど裸の女性がいる。パンツ丸見えの女優がいる。男物の服を着た、バスト136cmの女性がいる。エロ短歌の歌人がいる。知ってる人も多い。
私の人脈の中では特異な人々だ。グンと人脈の幅を拡げている。知った女性が挨拶する。
左右の集会だと、「今日は」と口で挨拶したり、せいぜい握手だ。でも、ここは別世界だ。日常のモラルを超えた世界の人々だ。
「きゃー、鈴木さん、久しぶり!」と言って、抱きつく。胸に飛び込んでくる。こんな経験は余りないから、動揺する。いきなり大外刈りか体落としで投げようとし、あっ、ここは講道館じゃない、と思い直す。そして柔らかい女体を抱く。
巨乳の女優さんやタレントさんが、「触ってもいいわよ。ここは、そういう会だから」と挑発する。でも勇気がないから出来なかった。
さて、主役の睦月影郎さんのことだ。この手の本を読んだことがないという人もいるだろう。この日、睦月さんの新著『鎌倉夫人』(徳間文庫)が、引き出物として配られた。皆、タダでご馳走を食べ、二次会もタダで飲み食いし、そして記念品までもらう。いいのかな、と思いながら、中を見たら、『鎌倉夫人』だった。本の帯には、こう書かれている。
〈祝!著書400冊達成〉。そして、本の帯の文章だが…。
〈いつの世も、惜しみなく人妻は少年を奪ふ〉
そういう小説なんだ。著者プロフィールには、こう書かれている。
〈1956年、神奈川県生まれ。多くの職業を経て80年に官能作家デビュー。独特のフェティッシュな作風で読者の圧倒的な支持を受け、本書で著書400冊を達成〉
1956年生まれだから、56才なんだ。いろんな職業につき、苦労したようだ。それが小説家になる上で役に立ったのだろう。神奈川県立三崎高等学校卒業だ。高校を出て、いろんな仕事をやり、苦労して、23才から小説を書き、デビュー33年を迎えて、著書400冊だ。
ネットの記事から、もう少し紹介しよう。
〈熟女物からロリータ系まで幅広くこなし、ジャンルも正統派〜歴史物まで非常に多彩な作風である。視覚、聴覚だけでなく、味覚や嗅覚に関する描写を特徴とし、「フェティッシュ」と自ら名づける〉
〈官能小説としては、マドンナメイト(二見書房)、グリーンドア文庫(勁文社)に旺盛な書下ろしを提供してきたが、自伝的エッセイ『哀しき性的少年』や、夢野久作を主人公とする短編集、ビニ本の研究などの特異な著作もある〉
この「自伝」は読んでみたいな。
〈奈良谷隆名義で、戦記ものやアクション小説を書いている。また、ならやたかし名義でマンガやイラストを描く。代表的なマンガ作品に、『ケンペーくん』などがある〉
そうなんだ。この「ケンペーくん」は有名なので、右派の人は皆、知ってるだろう。
奈良谷隆は本名だ。それを平仮名にして、憲兵の漫画を描いている。
戦争中の憲兵が現代の日本に甦り、大活躍をする。腐敗した政・財界人を叩き斬る。愛国心のない、軟弱な若者たちも斬りまくる。ともかく、現代の悪、腐敗、頽廃を斬りまくる。
他の官能小説は嫌いだが、「ケンペーくん」だけは好きだという人もいる。
もう少し、睦月さんの紹介を続ける。
〈『追憶の真夜中日記』は、24年間にわたる射精の記録で、ここで佐川一政と友人だったがのち絶交したことや、同業者の藍川京、霊能者の稗田おんまゆらなどをオナニーのネタにしていたこと。30代後半以後の人妻などとの数多くの女性との時に変態的なセックスの記録が克明に記されている〉
じゃ、この本も買ってみよう。オナニーの記録はどうでもいいが、佐川さんとのことは読まなくっちゃ。
だって、私は、佐川一政さんの紹介で睦月さんと知り合ったのだ。
20年ほど前だ。佐川さんを紹介してくれたのは沼正三さん(『家畜人ヤプー』の作者)だ。では、沼さんは誰に紹介されたんだろう。竹中労さんかな。
佐川さんは、パリで金髪女性を殺し、食べた人だ。
その後、日本に送還され精神病院に入り、「治って」シャバに出ていた。
20年前は、自宅の傍でよく、パーティをやっていた。「焼肉パーティ」だったかな。
そこで睦月さんを紹介された。他にも女性の官能小説家、AV監督、AV女優、女給さんなどを紹介された。
でも、何か事情があって、睦月さんは佐川さんと絶交する。その詳しい事情も書いてるのだろう。読んでみたい。
では終わりだ。あっ、いけない。これからが本番だ。「著書」について、真面目に考えてみたのだ。
睦月さんは、3年前に、「著書300冊突破」のパーティを新宿のホテルでやった。今年は400冊だ。
そして、「4年後に500冊突破」のパーティをやり、それで引退だと言う。あとは悠々自適で、好きなことをやるという。
好きなことって、多分、今と変わんないんじゃないのか。500冊まで4年は、今までのペースからは少し長い。
無理しないで、ゆっくりやるんだ、と言う。でも、十分、無理してるよな。
今年、400冊突破だが、漫画は入ってないようだ。
でも、初めに単行本を出し、それが文庫本になった時は、どうするのだろう。2冊に数えるのか。オリジナルは同じだから、1冊にするのか。
私は、『夕刻のコペルニクス』(扶桑社)が単行本で3冊出ている。そのうち2冊は文庫になっている。だから、5冊に数えている。
又、対談集も厳密に言ったら自分が1人で書いた本ではない。だから「対談」「共著」は著書の数に入れてはいけないのかもしれない。
私はこれも入れている。それで70冊くらいだ。
「厳密に言ったら、それは間違いですね」と言われた。パーティに出ていた志茂田景樹さん(作家)に言われた。
「単行本が出て、それが文庫になっても、あくまでも1冊です。私はそう計算してます。同じものですから。それに、大幅に書き直して増補版を出しても、これも1冊のままです」と言う。
自分の書いたオリジナルなものだけを1冊と認める。対談も1冊に入れないと言う。「睦月さんもそうしてるはずです」。
そうなのか。じゃ、文庫本や対談本も1冊に数えていた私は邪道なんだ。著書70冊といってたが、本当は40冊か50冊だろう。
さらに志茂田景樹さんに聞いた。この人なら、睦月さんと同じように400冊は突破してるのではないか。
「はい、20年前に400冊を突破しました」。
ゲッ!凄い。上には上がいる。
それで今は?
「600冊です」。
さらに驚いた。600冊も出したなんて日本にそういない。多作だといわれる人を思い浮かべても、600冊はいないだろう。司馬遼太郎、井上ひさしだって、600冊は書いてない。
「600冊なんて、いないでしょう。いたとしても、日本に10人もいないでしょう」と私は言いました。その推理は当たっていた。
志茂田さんは言う。「多分そうでしょうね」。「よく分かりませんが、日本で4人か5人じゃないですか」と。
ウーン、そうなのか。それにしても凄い人たちだ。「凄い」じゃないな。我々と比べるのが間違っている。別次元の世界の人たちだよ。400冊突破の睦月さん、600冊突破の志茂田さん。
それにしても、いつ書いてるんだろう。夜ずっと起きて書いてるのか。
でも、お二人とも、朝起きてから書いてると言ってた。「ちゃんと寝てますよ」とも。
2人とも、よく歩いているようだ。健康管理にも努めている。机に向かい、冒険や陰謀や、官能の世界を書いている。
明るい陽光の中で、どす暗い、ドロドロとした世界を書いている。光の中で、闇を見つめている。それでも精神のバランスを崩さない。したたかだ。
それは、どうしたら出来るのか。そうした「産みの苦しみ」についても今度は聞いてみたい。
②キャンディ・ミルキーさんと。前に、「300冊突破パーティ」「200冊突破パーティ」でも会いました。名札を付けてます。「東京原宿小学校1年3組」と書かれてました。うちには奥さんと子供もいるという噂です。子供は、「うちのパパはママなの」と言ってるんでしょうか。家族の理解もあって、羨ましいです。
⑦テレンス・リーさんと。リーさんは元外人部隊にいました。「格闘技は何をやったんですか?」と聞いたら、ベースは空手で、あと柔道。それに、銃やナイフを叩き落とす格闘術をやったといいます。今度、詳しく教えてもらおう。
⑨そこに、川上史津子さんが来ました。元・月蝕歌劇団の女優。その後、映画に出たり、エロ短歌集を次々と発表したり…。「日本一のえろきゅん短歌女優」だ。その中の一首。 「吸われてる私の方が、なんでだろ?おいしい水を飲んでるみたい」
⑫このパーティの司会をやってくれた立川談之助さん、そして東條未知子さんと。談之助さんは真っ赤な着物。派手です。東中野に住んでいて、私とよく会います。
未知子さんは、ほとんど裸です。前会った時は、白百合の女子大生でした。「朝まで電話で相談に乗ってくれた」と言ってました。昔は、私もきっと話し好きだったんでしょう。