死刑が1年8ヶ月ぶりに執行された。下関駅殺傷などの3人だ。民主党政権下では2回目だ。
法務省は、3月29日(木)午前、東京、広島、福岡の各拘置所で死刑を執行したと発表した。小川敏夫法相は、「国民の声を反映」と言ってるが、国会会期中の執行は異例だ。
産経新聞(3月30日)は「主張」で、「法相は粛々と職責全うを」と言っている。執行は法律に基づく当然のものだし、今後も法相は粛々と職責を全うしてほしいと言う。
又、言う。
〈昨年はついに19年ぶりの「執行ゼロ年」となり、死刑確定者が130人を超えてる異常事態が続いていた〉
じゃ、去年も執行すべきだったと言うのだろう。130人を超え、毎年執行されていたのに、あえて去年は執行しなかった。
それは、東日本大震災があったからだ。
多くの人が亡くなり、国中が悲しみに沈んでいる時に、(たとえ凶悪犯でも)国家の手で殺すことを差し控えたのだ。
いうならば、「政治的判断」だ。国民の感情に、気兼ねしたのだ。「執行ゼロ年」になったのは当然だ。「異常事態」でも何でもない。
民主党政権になってからは、死刑執行したのは、千葉法相についで小川法相が2人目だ。
執行しなかった法相は4人いる。柳田稔、仙谷由人、江田五月、平岡秀夫の各氏だ。
〈死刑執行について、江田氏は在任中に「悩みながら勉強している。悩んでいるときに執行とはならない」と発言した。平岡氏も、就任時に「国際社会の廃止の流れや、必要だという国民感情を検討して考えていく。考えている間は当然判断できない」と語った〉
EUを始め、先進国では死刑廃止の流れが主流だ。でも日本では80%以上が死刑の存置を望んでいる。その理想と現実の間で考え、悩むのも当然だ。人間として自然だと思う。
しかし、産経では、それではダメだと言う。
〈だが刑事訴訟法は、死刑確定から6ヶ月以内に刑を執行するよう定めている。「死刑の執行は法務大臣の命令による」とも明記している。就任後に悩むことなど求めていない。執行する覚悟を持つ者だけを法相に任命すべきだ〉
これも「筋」が通っている。だが、法律通り、死刑確定から「6ヶ月以内」に執行された人はいない。
死刑が確定しても、実際は何年も執行されない。法務省も、ためらっているのだ。人間的な悩みを抱えた制度だという証拠だ。
確定後、6年位で執行されると、「スピード執行だ」と言われる。「6ヶ月以内」には誰も執行されない。だったら、これも「法破り」だ。違反だ。
東アジア反日武装戦線や連合赤軍事件で死刑が確定した人は、「6ヶ月」どころか、何十年も経っている。事件から40年。確定してからだって20年以上経っている。
本当に「6ヶ月」以内でやるのなら、大臣のサインなしに、機械的に刑を執行したらいい。
しかし、そんなことは出来ない。そうしたら裁判官も、さらに(民間人の)裁判員も、怖くて「死刑」などと言えない。
死刑を宣告し、確定しても、何年か、多分、10年以上は執行されない。その間に、死刑囚の心も落ち着き、諦めるかもしれない。
又、万が一、冤罪だと証明されるとか、思いがけない事態が生まれるかもしれない。ともかく、ずっと先送りしてほしい。
でも、「6ヶ月」では、自分の宣告が即、死になる。だから、「6ヶ月」を敢えて破ることで、裁判に携わった人間の心を安らかにしているのだ。
死刑制度だって、いつかは廃止されるかもしれない。あるいは他の刑(たとえば厳密な終身刑)に代わるかもしれない。
だから、執行する方だって、ためらう。つまり、人間のやっていることだ。そんな不安や疑問や悩みを抱えた制度なのだ。
再び、産経の「主張」だ。
〈自民党政権時代にも個人的信条から執行を見送り続けた法相はいた。法相の勝手で執行の有無が決まるなら、「法の下の平等」が守られているとはいえない〉
確かに自民党時代にはいた。「私は仏教徒だから、人を殺す書類にサインは出来ない」と堂々と言った人もいた。「そんな奴は法相にするな!」という批判も、もっともかもしれない。
しかし、法相の仕事は、それだけではない。法が守られ、安全な社会をつくることだ。
もし、死刑を執行するだけなら、サインなしに、「はい、6ヶ月になりました。執行します」と機械的にすればいいのかもしれないが、そうはしない。人間(=法相)のサインという実に人間的な「チェック」を入れている。
それが死刑を存置する国の〈迷い〉であり、〈逡巡〉だ。何度も言うように、極めて、不安な、人間的な制度だからだ。
支持する人だって、喜んで支持しているわけではない。いわば、「必要悪」として、「他にないから」支持しているだけだ。
ただ、「主張」の中で、ここだけは賛同した。
〈また、退任間際になって執行に立ち会った千葉氏は「改めて根本からの議論が必要と強く感じた」と語り、死刑存置論議に結びつけようとした。刑の執行は厳粛に行われるべきものだ。政治的パフォーマンスに利用すべきではない〉
その通りだ。人の生命を自らの政治的パフォーマンスに利用してはならない。
これは小川法相にも言える。国会が開かれている時期での執行は異例だ。
又、法相になったばかりだ。3月の「年度内」に死刑執行を強行しようとして法相に任命されたのではないか、と言う新聞記者もいる。
つまり、「死刑執行」の条件で法相のポストを得たのではないかと。
いくら何でも、それはないだろうと私は思う。
ただ、国民に見放されている民主党が「求心力」を求めて、強行したのではないか。それはあると思う。その疑いは、産経新聞でも書いていた。
これだって「政治パフォーマンス」だ。「ほらみろ、民主党は、やることはやってるんだ」「筋を通して厳粛にやっているんだ」ということを見せつけるために…。
でも、民主党は、「死刑制度については見直しを含め、論議をする」と言ってきたのだ。
それなのに、勉強会を廃止し、「議論は尽きた」と、執行を強行した。これもおかしな話だ。
4月4日(水)の文化放送では、そんな話をした。
国民の意識としては死刑を容認する人が多い。これは事実だ。85%以上の人が存置を支持している。
「犯罪に対してどのような刑罰で臨むかは国民が決めることだ」と小川法相は言う。
又、「裁判員裁判でも死刑が支持されていることを重要な要素とした」と述べた。
しかし、これは、弁解だ。責任を転嫁している。
自分がどうしても必要と思うのなら、はっきりそう言ったらいい。「世論調査」や「裁判員裁判」に責任を転嫁してはダメだ。
彼らだって、他に方法がないから、「死刑」と言っている。
必要悪として、あるいは次善の策として言っている。誰も、喜んで、これこそが最良の方法だと思って死刑を支持しているわけではない。苦渋の選択なのだ。
「こんな人間は極刑にするしかない」と思った時、今は「死刑」しかない。だから死刑を選ぶ。
もし、「終身刑」や別のものが「極刑」としてあったら、それを選ぶだろう。
又、何度も言うように、刑事訴訟法は、死刑確定から6ヶ月以内に刑を執行するよう定めている。
でも、この法は守られていない。本当に守られたら、裁判官も裁判員も、怖くて死刑と言えない。
「6ヶ月以内」に本当に殺されるのなら、「自分の手で殺した」という〈生の実感〉、〈責任〉を感じてしまう。怖くて出来ない。
死刑判決は、極端なことを言うと、「死刑囚にした」というだけだ。
死刑囚という環境に置いて、死ぬまで反省しろ!と思っているのだ。少なくとも、心のどこかでは、そう思っているはずだ。
次に、死刑は犯罪の抑止になるか。そのことを考えてみよう。
「死刑があるから、凶悪事件が抑止されている。廃止したら、殺人大国になる」と言う人がいる。
それはないだろう。EUを始め、死刑を廃止した国は、だからといって、急激に凶悪事件が増えたわけではない。
ただ、犯罪をやろうと思う人に対し、少しは抑止になっているかもしれない。人の心の中だから分からないが、それは私も思う。
ただ、圧倒的に多くの人は、一生の間に、人を殺さない。当然だ。
ただ、皆も覚えがあるだろうが、「この野郎、殺してやる!」と思ったことはあるだろう。今まで何回もあるはずだ。いや、何十回とあるかな。
でも、やらなかった。何故なのか。周りに人がいたからか。カーッとなって、やったら、悲しむ人がいたからか。
こんな奴は殺したいが、そのために俺は刑務所に行く。あるいは死刑になる。それを考えて、やめたのか。ともかく、やめたのだ。
冷静に考えて、トクにならない。自分の人生を無にしてまで殺す相手ではない…と、「利害計算」を考えてやめたのかもしれない。
今いる友人たちと別れて刑務所に行く、あるいは死刑になる。それは嫌だと思ったのかもしれない。
だから、圧倒的に多くの人たちは、「殺してやる!」と瞬間思ったことは(何回も)あったとしても、実行しない。
死刑があろうと、なかろうと、人は殺さない。カーッとなった時に、「死刑があるから、やめよう」と思うわけではない。
大体、そんな冷静なことを考えるようだったら、カーッとなって、「殺してやる」とは思わない。
一方、ほんのわずかだが、全てを捨てて、実際に人を殺してしまう人がいる。カーッとなって、見境がなくなってやった。それもあるだろう。
しかし、他のことを考えずに実行する。理性や、友人や、こうなったら一生刑務所だといった計算も働かない。いわば〈純粋〉に、全てを忘れ、なげうって殺人を実行する。
これは何なんだろう。私は、今まで何人もの死刑囚と会ってきた。話し合ってきた。「あるいは、彼らの方が、自分の気持ちに素直に従ったのではないか」と思うこともある。
これは私の考えが間違っているのだろうか。そう考えることがある。
又、「愛」のために人を殺す人もいる。
そうなると、「殺してやる!」と何度も思いながら実際にはやらなかった私の方が「不純」なのかもしれない。
少なくとも、「自分の気持ち」には従ってない。他の計算をして、「自分の気持ち」をなだめているだけだ。
三島由紀夫は、本当の悪党は犯罪を犯さないと言っていた。
自分が何年も刑務所に入る、あるいは死刑になる、そんなことをやらない。本当の悪党はリスクを極力おかさない形で悪をやる。
なるほどと思った。自分の「気持ち」に純粋に従ってしまう。他のことを考えて止めない。計算しない。…そんな「善人」が犯罪を犯すと三島は言う。
私が会った多くの死刑囚の中で忘れられないのは、元警部の澤地さんだ。
何度も面会に行ったが、とてもいい人だ。警部の時も部下に慕われた。だから、警察を辞めて店を出す時も、皆、金を出してくれた。保証人になってくれた。店は順調だった。
しかし、経済が不況になると、借金地獄で、サラ金からも借りる。
部下たちも「大丈夫ですか」「金を返してくれ」と言ってくる。
善意の人だ。部下に金を返そうと悩み、思い余って、連続殺人をやって、金を奪う。
本当の悪党なら、逃げたらいい。あるいは自己破産したらいい。
面会した時、そう言ったら、「鈴木さん、そんな悪いことは出来ません」と言う。部下の信頼を裏切りたくなかった。「愛」だ。
その為に、関係のない人を殺す。ドストエフスキーの『罪と罰』の世界だ。
澤地さんは、死刑が確定したが、重い病気になり、医療刑務所で亡くなった。
それを聞いて、思わず私は、「よかったね!」と呟いた。
人が死んで「よかったね」と思ったのは、この時が初めてだ。澤地さんも、「自分のような悪党が病院で死ぬなんて申し訳ない。許してくれ!」と最後まで言っていたという。
他にも、善人であるからこそ、人を殺した人は多い。これは、(マイナスの)「人生の教科書」だと思った。こういう失敗の記録は、もっともっと知らされていい。
私は思う。もしかしたら、こうして、捕まらずに、この世界に生きているのは、「偶然」であり、あるいは、奇跡的なことかもしれない。
本当は、獄の中にいたかもしれない。そう思ったものだ。
そうしたことは、獄中にいる彼らも、国民の多くに語り残しておきたいだろう。
外にいる人々がそれを「マイナスの教科書」として読み、そんな凶悪な事件を起こさないためにも、そうすべきだ。
中にいる死刑囚に、一般の人々も自由に会えるようにする。テレビやネットを通じて、自らの失敗、反省を一般の人に語れるようにする。
それでこそ、「教訓」になるのではないか。人生の教科書であり、我々も学ぶことは多い。
ところが今は、死刑囚を、見るな、触れるな!とばかりに、国民の前から遮断し、「粛々と刑の執行」だけをやる。この世から抹殺する。
被害者や被害者家族にしたって、たまらないだろう。二度と同じような被害者を出さないためにも、こうして事件は、キチンと語られてほしい。
自分たちだって、いつ被害者か加害者になるかもしれない。131人の死刑確定者から引き出すべき「教訓」は多いはずだ。
ただ、抹殺すればいい、だけではダメだと思うのだが。
今、北朝鮮にいます。もうすぐ帰ります。ホテルからメールを打ってます。帰って詳しく書きますが、概略は以下です。
③菊田幸一先生(明大教授)と。死刑反対の本を沢山書いてますし、「死刑存置論者とロフトで対論しよう!」と呼びかけています。ぜひ、実現させてほしいです。ちなみに、息子さんは格闘家の菊田早苗さんです。「寝技最強」です。
⑨渡辺文樹監督、河合由美子監督と。渡辺監督は今年59才。若いです。精気に満ちてます。喧嘩だけでなく、あらゆる面に強いです。
「俺は鈴木さんとは違う!現役だ!今朝も女房とやってきたばかりだ!」と大声で言ってました。後ろの店の人たちが、「何事か!」と振り向いていました。
⑩河合由美子監督の映画『わたしの釜ヶ崎』。凄まじい映画です。体当たりの映画です。釜ヶ崎も撮ってますが、自分をさらけ出して撮ってます。
自分と関係した男たちをスナックに集めて査問し、糾弾するシーンは凄まじいです。連合赤軍の「総括」のようです。
カメラは最強の武器です。誰かが、「今は連合赤軍化する日本だ」と言ってましたが、その通りです。感動しました。
⑪売れっ子評論家の宮崎正弘さん(左)。そして、國學院大學教授の大原康男さん(中央)。
大原さんは産経新聞による「国民の憲法」起草委員の1人です。3月27日の産経新聞で大々的に発表してました。だから、この日はその話で持ちきりでした。
3人とも同年代で、右派学生運動出身です。でも、私だけが落ちこぼれです。3月27日(火)、展転社の移転祝いの時に会いました。久しぶりでした。
⑫声優の大御所、神谷明さんと。文化放送で、バッタリ会いました。4月4日(水)です。
以前、神谷さんと一緒に「ザ・ニュース・ペーパー」の舞台に出たこともあるんです。その頃はよく会ってたのに。久しぶりでした。
「名探偵コナン」の「眠りの小五郎」をやってた人ですね。あれは大好きでした。