北朝鮮に行ってきた。4月9日(月)から17日(火)までだ。金日成主席生誕100周年の太陽節慶祝で北朝鮮は湧き立っていた。100年に一度の、国を挙げてのお祝いだ。
軍事パレードを見た。金日成主席、金正日総書記の銅像の除幕式にも出た。正式に招待され、間近で見た。
よど号グループの6人全員とも会った。板門店にも行った。キムイルソン総合大学にも行った。
世界一の花火大会も見た。巨大な三角形の柳京ホテルも見た。新築ラッシュの高層ビル群も見た。
毎日が驚きの連続だった。最後の夜、キムイルソン広場では10万人の青年男女がマスゲームをし、そして踊る。途中から、外国人招待客も柵を乗り越えて、踊りの会場へ乱入する。
私も入った。近くにいた「よど号」の若林さんと2人で入った。北朝鮮の女の子と踊った。世界中のテレビカメラが撮影している。その中で、10万人の男女と共に私も踊った。歴史的な事件だ。
そして今回、何と金正恩さんを見た!30メートルの近くで。それも3回も。
軍事パレードの時は演説も聞いた。軍備への誇りを語りながら、でも国を守るのは兵器ではない。人民の力だ、と言っていた。
又、この日を、「韓国」の同胞たちと祝いたいと言っていた。「南の傀儡政権」などと、かつては言ってたが、ちゃんと、「韓国」と言っている。
金大中さんが訪問し、金正日総書記と会談して以来のことなのか。
又、米帝や日帝への攻撃もない。前向きな演説だった。自分の国の人民の力に誇りを持っているからなのか。「先軍」よりも、「改革開放」なのか。
日本の皆には、「それは甘い!」と批判されるだろう。ただ、その場の雰囲気を報告してるだけだ。
少なくとも、「改革開放」の芽があるのなら、そこを応援してやったらいい。日本政府としても、その方向に北朝鮮が進むように力を尽くすべきではないか。
そして拉致や核の問題について、話し合いの場につくようにすべきではないか。
それなのに、政府は一切交渉はしない。「追い詰めれば、ギブアップする」とばかりに経済制裁一辺倒だ。これではダメだろう。
ミャンマーの軍事政権はアウン・サン・スー・チーさんを解放した。民主化も、わずかだが進み、改革開放も、わずかだが進んでいる。
「これでは足りない」「もっと急速な民主化をやれ」と野次を飛ばすのは、正論ではない。無責任だ。
少しでも芽生え始めた民主化、改革開放に日本は全面的に協力したらいい。世界に向けても、そう呼びかけたらいい。
そのことによって、民主化、開放した方が国が豊かになる。国が強くなると、ミャンマーの政府も国民も確信するだろう。
その「確信」を持たせるように国際支援をしたらいい。
いつかは、スー・チーさんが国の代表になるだろう。
でもその時でも、軍に対し、報復人事はしない。「復讐」はしない。そうしたことを決意し、軍にも伝えているのだろう。
だって、「民主的」な国々でも、選挙に勝てば、前政権の人間を汚職だの何だのと言って逮捕している。
そんな事はしない。恨みは忘れて、国のために協力しよう。そう言ってるのだと思う。
国外に出るのなら、いつでも出すと軍は言っていた。イギリスに行って、そこに「亡命政府」をつくり、そこから軍を批判し、政治活動をする。その方が自由に、思い切り発言できる。行動できる。
しかし、スー・チーさんは、その「自由」を拒否した。祖国にとどまり、自宅軟禁の道を選んだ。
その不屈の精神、祖国愛に軍人たちも敬意を表したのだろう。
話が飛んだが、要は、日本として何をすべきかだ。
「民主化」は不十分だ。嘘だ。「開放」なんて見せかけだ、と冷たく突き放し、文句だけを言ってるのか。民主化のそんな芽があったら、それを支援し、「そうした方が国益に合う」と彼らに思わせるのか。
北朝鮮に対し、アメリカは敵対し、脅しをかけている。
だが、裏では、太いパイプを持っている。米国人記者が拘束されると、元大統領が飛んで行き、交渉する。そして、「恩赦」で釈放してもらう。謝ってもいるだろう。金も出しているだろう。そして、「恩赦」だ。向こうの国の顔を立て、面子を立てている。
しかし、国民は取り戻している。これは迎合ではない。屈服ではない。どんな手段を使ってでも、米国民は守る、取り戻す、という決意だ。そして実行している。
日本政府には、それがない。小泉さん以来、誰も交渉しようとしない。
政治家に聞くと、「俺が行って拉致された人が1人でも2人でも帰ってくるのなら行くが、難しいだろう。そうしたら、何の為に行ったのだ。北に丸め込まれた。売国奴だ、とバッシングされる。選挙も落ちる」と言っていた。皆、そう思っているのだ。
それよりは、日本という安全圏にいて、「北朝鮮を許さないぞ!」「戦争も辞さずの断固たる決断を!」と叫んでいる方がいい。「闘っている」ふりが出来る。
今回、私たちは、池口恵観さんの訪朝団だった。
恵観さんは仏教徒だ。政治家だけでなく、仏教徒との連帯の中で、日朝友好を訴え、その中で拉致や核の問題。そして、遺骨収集の問題を強く要請し、話し合っている。
他にも民間人で尽力している人がいる。日本の政府、政治家は、怖くてやらない。「許さないぞ!」と叫んでいるだけだ。「経済制裁」を強化するだけだ。
そして、私らにも、「北には行くな!」と圧力をかけ、帰ってくると、小さなみやげ物まで含め、全て取り上げている。
経済制裁してる国に(みやげを買うということで)、金を落とした。支援した。これは「経済制裁」違反だ、というわけだ。
恵観さんを初め、皆、みやげ物を取り上げられた。ひどい話だ。
だったら、お前たちが北に行って交渉しろよ、闘えよ、と言いたい。
それによって、すぐに「成果」は上がらなくてもいい。選挙に落ちるかもしれない。でも、国民を救うために命をかけろよ、と言いたい。
言いたいことがありすぎて、話があちこちに飛んでいる。
驚きの体験ばかりだったので、今でも頭が混乱している。まるで自分は「不思議の国のアリス」になったような気分だ。
金正恩さんを3回も間近で見た。演説も聞いた。軍事パレードも見た。まさに、「歴史の現場」に立ち会っている、という感覚だった。
「金正恩第一書記を実際に見て、演説を聞いた日本人は60人ほどしかいない」と向こうの人は言う。その60人の1人だ、私は。それも、間近で見た。
こう書きながら、「見た」では、おかしいな、と思った。向こうの人たちは、尊敬し、敬愛する第一書記を「見た」なんて言わない。日本人の我々としても失礼かな。でも、拝顔した。お見かけした。仰ぎ見た…でもおかしい。
又、そう書くと、「北に洗脳されたのか!」と言われそうだ。そこだけをとって、他は読んでくれないだろう。だから、失礼かもしれないが、「見た」と書いておこう。見たのは3回だ。
4月13日(金)の銅像の除幕式。4月15日(日)の軍事パレード。その夜の花火大会だ。事前には一切知らされない。ただ、「次の会場はカメラ、ボールペンの持ち込みはダメです」と言われる。何かあるな、と思う。
そうすると、突然、金正恩さんが現れる。3回とも15万人の人々の中に現れた。皆、熱烈に歓迎している。
この「熱烈歓迎」と書いて、これは誤解されるかなと思った。
テレビではよく、大袈裟に、身振り手振りをして、全身で「喜び」や「悲しみ」を表現してる人々が出る。必ずそんな人々ばかりが出る。
そうすると、北朝鮮の人々は皆、そうなのか。おかしい、上から「強制」されてやってるんだろう。その大袈裟な身振りで「忠誠」を示すふりをし、自己保身をはかっているのではないか。…と、
したり顔で言う日本の評論家が多い。北になど一度も行ったことがないくせに。
又、「ピョンヤンは外国人用に見せている。仮の町だ。映画のセットと同じだ」と言う人もいる。愚かにも、私も信じていた。
ところが行ってみたら、そんなのは嘘であることが分かる。
さて、全身で表す身振りだが、中にはいる。でも圧倒的に多くの人々は、普通に、おとなしく歓迎し、拍手している。アレレレッ、と思った。テレビで見るのとは違う。そうか、と分かった。外国のテレビや新聞は、全身表現派の人々を映した方が「絵」になる。だから、そればかりを撮る。
日本だって言えるだろう。8月15日の靖国神社に行くと、旧軍の服を着て、突撃ラッパを吹きながら行進する人がいる。
これは絵になる、と思うから、カメラマンは、そればかりを撮り、世界中に配信する。そうすると、「日本は軍国主義に戻っている」「又、戦争をしようとしている」と思う。反撥する。
考えてほしい。8月15日に軍服を着て、行進する人がいる。これは事実だ。世界のマスコミは、嘘を世界中に伝えているわけではない。
でも、そんなものは現代日本の極めて例外的な光景だ。それが今の日本を表している、と思われては困る。同じことは北朝鮮にも言える。
近代的なビルが建ち並ぶ。人々が穏やかにお祝いしている。
でも、そんな写真を見せると、皆、「北朝鮮らしくない」と言う。北朝鮮といったら、飢えてる人々。脱北者…そういうイメージしかない。それ以外のものは、「北朝鮮らしくない」といって受け付けないのだ。マスコミに我々が洗脳されているのだ。
そして、「北とは交渉する必要はない。断固制裁だ。追い詰めろ!」と言っている。でも、北はギブアップしない。
じゃ、戦争をするのか。それは出来ないだろう。だったら、どんな手を使ってでも、交渉の場に引き出す努力をすべきだ。それが全くないのだ。
金正恩さんに対しても、「傀儡だ」「軍に操られているだけだ」「国民は皆、不満を持っている」と日本のマスコミは論評する。
拉致、核を含め、向こうの政府を批判するのはいい。行って大いに議論し、喧嘩したらいい。
しかし、そんな勇気はない。日本という安全圏にいて、「やっちまえ!」と叫んでいるだけだ。
北朝鮮の政治家には問題があるし、政治体制も日本人には理解しにくい。それは当然だ。でも、人民に罪はない。偶然そこに生まれただけで、世界中から非難されるいわれはない。
でも、そんな人々に対しても、「なぜ、犯罪政権を倒さないのだ!」「なぜ我慢してるんだ!」と煽り立てる。無責任この上ない。
初めて、金正恩さんを見た時のことを書こう。13日(金)の夕方だった。銅像の除幕式に招待された。
日本でも有名な金日成主席の銅像がある。その隣りにもう1つある、金正日総書記の銅像が新たに作られたのだ。2つの巨大な銅像は白い幕で覆われている。
寒い日だった。私たちはコートを着、ホッカロンを入れて、待っていた。かなり待った。
銅像のある丘には20万人位の人がいる。丘の下の方にも人がいる。
近くの日本人が囁いた。「今日は若大将が来るらしいですよ」と。
まさか、と思った。正恩さんは前に「大将」の役職についたこともある。若いし、だから、「若大将」といったのだ。北朝鮮の人々もそんな意識なのかもしれない。
その時、金正恩さんが現れた。15万人が相手だ。穏やかに、そして喜んで迎えている。軍人、政治家のトップたちも並ぶ。
幕が除かれる。そして、花火だ。風船が飛ばされる。
しかし花火は、すぐ近くで打ち上げられた。だから、灰がパラパラと降ってくる。火の付いた段ボールも降ってくる。「ウワー、アチチ」と我々はよけている。コートについた灰を手で払っている。
ところが壇上を見ると、軍人も政治家も、皆、直立不動だ。微動だにしない。コートも着てないし、灰も降るに任せている。毅然としている。日本の政治家なら、こうはいかないだろう。
巨大な銅像を見て、アレッと思った。前からあった金日成さんの銅像だが、でも、新しく作った金正日さんの銅像と色が同じだ。新しく塗り替えて、統一したのかな、と思った。
それに、金日成さんの顔が笑っている。前もそうだったのかな。と思って聞いた。
そしたら、「主席の銅像も作り直したのです」と言う。
驚いた。そういえば主席の銅像は前は、詰め襟の軍服だ。今度はネクタイで背広だ。そして、くつろいでいる姿勢だ。隣りの総書記も笑っている。これも改革開放なのかもしれない。
又、総書記が亡くなったのは12月の末だ。それから検討し、考え、作ったのだ。「100日で2つの巨大な銅像を作りました」と言う。
凄い。凄い力だ。又、近くには巨大なビルや体育館が造られた。夜はライトアップされている。日本のように地震はない。だから短期間で作れる、ということもあるだろう。
それにしても凄い力だ。花火大会も凄かったし、いろんなところを見た。
「そんな金があるなら、人民に食糧を配れ」と日本のマスコミは言う。正論かもしれないが、そうした威力を見せることで満足し、誇りに持つ国民も多いのだろう。少なくとも、若い指導者を迎え、期待している。そんな感じがした。
「それに比べ、民主的に選ばれた君たちの国の指導者はどうなんだ?」と問い返されているような気がした。
手続は民主的だ。しかし、そんな首相や政治家たちは何をやってくれたのか。
世界を見回すと、長期のしたたかな、政治家ばかりだ。マスコミだけを気にするひ弱な政治家しか持てない日本で、果たしていいのだろうか。と思った。
羊角島(ヤンガクトウ)ホテルに泊まる。千室あるホテルが満員。外国人が多い。(私らも外国人だが)、ヨーロッパ人が多く、社会主義、共産主義の夢を捨て切れない人がいる。又、反米のため、北朝鮮に頑張ってもらいたいと思う人。いろいろだ。
インドの人に話しかけられた。「君はマルキストか?」と。「ノー。アナキストだ」と答えた。
②4月12日(木)夜、羊角島ホテル47Fの展望レストランで。「よど号」6人全員と会いました。
(左から)赤木志郎さん、森順子さん(田宮高麿夫人)、池口恵観さん、小西隆裕さん、鈴木、佐々木道博さん(恵観塾塾頭)、若林盛亮さん、安部公博さん、若林佐喜子さん。
⑬柳京ホテルが見えます。前は、ピラミッドみたいだと思いましたが、近づくと、ロケットのようです。「アメリカと戦争になったら、これが飛び立つもんや」と言ってた人がいました。訪朝団の人です。そんなこと、ありませんわ。
⑯羊角島ホテルの47Fの展望レストランで。2時間くらいかけて、1周します。去年来た時は、「高い所から市内を写してはいけません」と撮影厳禁でした。今年は、「どうぞ、どうぞ」と言ってました。これも「開放」でしょう。⑫⑬⑮も、ここから撮りました。