2012/05/28 鈴木邦男

『読書が世界を救うのかもしれない』

和やかな中にも真剣なやり取り 和やかな中にも真剣なやり取り

今週は超ビッグな対談です。

読書対談です。「全集読み」に挑戦し、年間500冊も読書している高木尋士さん(オフィス再生代表)と私の対談です。

私も、かつては「全集読み」に挑戦し、踏破してきました。今は、もう力尽きて、「全集読み」はやっていません。でも、今、少しでも、原稿を書いたり、ものを考えたり出来るのは、かつての「全集読み」のおかげです。いろんな思想全集や文学全集の「残像」が今の私です。

私は今、必死に「月30冊」のノルマだけは守っています。

そして時々、素晴らしい本に出会います。電車の中で夢中で読んで、乗り過ごしてしまうこともあります。ファミレスで読んでいて、朝まで一気に読むこともあります。人生至福の時間です。そうか、人間は、こういう至福の時間を得るために生きているのか、と痛感します。又、そんな素晴らしい本を買うために人間は働いているんだ、と思います。

では、始めましょう。「現代の読書王」高木さんに、「過去の読書王」の私が挑戦します。リベンジを賭けて。(収録・平成24年1月19日・高田馬場カフェミヤマ)

ノルマ読書を続けています

鈴木毎年恒例の読書対談です。さっそくいきましょう。昨年は何冊読みましたか?

高木517冊でした。朝五時に起きて、二時間読んで、夜にも読んでようやく500冊突破です。

鈴木日本最強ですね。そこまでする必要ないんじゃないの?(笑)

高木一日一冊、月30冊がノルマなんですけど、500冊はやっぱり大きな目標です。

鈴木その中には全集も入ってるの?

高木はい。昨年ようやく『世界の名著』を読み終えました。

 

同じ読書道を歩む二人 同じ読書道を歩む二人

『世界の名著』は翻訳革命だ!

全集を前に 全集を前に

鈴木『世界の名著』は、66巻と続刊15巻で、全81巻だよね。思想全集として画期的だし、読みやすいよね。現代の日本で読んでる人なんて高木さんしかいないでしょうけど、どうでした?

高木読んで良かったです。ぼくは3年がかりで読んだのですが、鈴木さんはどのくらいかかりましたか?

鈴木僕はもっとかかってますよ。出版当時は、一か月に一冊くらいしか出なくて、6年くらいかかったんじゃないかな。長い間、読み続けてた気がする。これを企画した人はすごいよね。もう生きてないのかな。中央公論社の人に聞いてみたいよね。
 当時、『翻訳革命』って言われたんです。翻訳が全く新しいんだよね。翻訳を頼まれた人も戸惑ったと思いますよ。例えば、アダム・スミスの『国富論』は、他の人が訳したのが文庫でもあるけど、それと比べて全然違う。文庫のは分かり辛いじゃないですか。

高木確かに岩波版は難しいですね。今、読書会でプラトンを読んでるのですが、テキストは、翻訳がわかりやすい講談社学術文庫版を使っています。岩波版はやっぱりちょっと難しいんです。そうやって比べてみると、『世界の名著』の翻訳が一番わかりやすいですね。

鈴木文庫とかは、翻訳したのが大学の教授だからね。難しい事に誇りをもってたんだよ。『世界の名著』みたいにわかりやすくしちゃうと、「なんだ、一般人に妥協して」なんていう批判があったと思うんです。わかりやすくすることと、思想的に論理的にきちんと翻訳することは別なんだと思われていたんですね。
 そんな時代にこんな画期的な物が出て、僕らは大絶賛したんだけど、「これは学問の堕落だ」と思う人もいたんです。それでも敢えてやった、っていうのは勇気のいる事ですよ。原稿を書く人たちも、「これは後々まで残る文化的な事業に参加してるんだ」という気概を持って臨んだでしょう。
 これほどの企画は、今はもうできないでしょう。金もかかるし、人も使う。出版してもそんなに売れるわけじゃないからペイ出来ない。テレビに出たり、講演したり、そっちの方がお金になるから、こんな苦労してお金にならないようなことなんか、みんなやらないよね。大変な事ですよ。

 

『世界の名著』全81巻 『世界の名著』全81巻

『世界の名著』(66巻+続15巻)

1 バラモン教典/原始仏典
2 大乗仏典
3 孔子/孟子
4 老子/荘子
5 ヘロドトス/トゥキュディデス
6 プラトンI
7 プラトンII
8 アリストテレス
9 ギリシアの科学
10 諸子百家
11 司馬遷
12 聖書
13 キケロ/エピクテトス/マルクス・アウレリウス
14 アウグスティヌス
15 コーラン
16 マキアヴェリ
17 エラスムス/トマス・モア
18 ルター
19 モンテーニュ
20 ベーコン
21 ガリレオ/ホイヘンス
22 デカルト
23 ホッブス
24 パスカル
25 スピノザ/ライプニッツ
26 ニュートン
27 ロック/ヒューム
28 モンテスキュー
29 ヴォルテール/ディドロ/ダランベール
30 ルソー
31 アダム・スミス
32 カント
33 フランクリン/ジェファソン/マディソン他/トグヴィル
34 パーク/マルサス
35 ヘーゲル
36 コント/スペンサー
37 ミシュレ
38 ベンサム/ジョン・スチュアート・ミル
39 ダーウィン
40 キルケゴール
41 ラスキン/モリス
42 プルードン/バクーニン/クロポトキン
43 マルクス/エンゲルスI
44 マルクス/エンゲルスII
45 ブルクハルト
46 ニーチェ
47 デュルケーム/ジンメル
48 パース/ジェイムズ/デューイ
49 フロイト
50 ウェーバー
51 ブレンターノ/フッサール
52 レーニン
53 ベルクソン
54 マイネッケ
55 ホイジンガ
56 オルテガ・イ・ガセー/マンハイム
57 ケインズ/ハロッド
58 ホワイトヘッド/ラッセル/ウィトゲンシュタイン
59 マリノフスキー/レヴィ=ストロース
60 バジョット/ラスキ/マッキーヴァー
61 トインビー
62 ハイデガー
63 ガンジー/ネルー
64 孫文/毛沢東
65 現代の科学I
66 現代の科学II

芹沢光治良『人間の運命』全14巻 芹沢光治良『人間の運命』全14巻

続1 中国の科学
続2 プロティノス
続3 禅語録
続4 朱子/王陽明
続5 トマス・アクィナス 続6 ヴィーコ
続7 ヘルダー・ゲーテ
続8 オウエン/サン・シモン
続9 フィヒテ・シェリング
続10 ショーペンハウアー
続11 ランケ
続12 アラン・ヴェレリー
続13 ヤスパース
続14 ユング
続15 近代の芸術論

全81巻! 何が印象に残っているか

読書談義は果てしない 読書談義は果てしない

高木当時、鈴木さんは、『世界の名著』を読破したわけですが、なにが印象に残っていますか。

鈴木レーニンやマルクスは読んだことがなかったから新鮮でしたね。あと印象に残ってるのは、クロポトキンやバクーニン、それにプルードンですね。アナーキスト系を今でも覚えています。キルケゴールもそれまで読んだことなかったし、ルソーも、高校の社会だと非常に理想主義的に教えてるけど、『世界の名著』で読んでみると、ずいぶんデタラメな人だったんだなと思いました。

高木ぼくも、アナーキズム系や空想社会主義は、面白く読みました。あとは、カント、ヘーゲルが印象に残っています。ニュートンの『プリンキピア』も面白かったです。もう少し勉強したいと思ったのは、ユング、フロイトですね。他には、アウグスティヌスやトマス・アクィナスのような宗教に関わった人たちっていうのも難しいのですが、改めて興味を持ちました。

鈴木僕も、宗教系の本は、高校がミッション系だから、「こういうことか」とよく理解できたことを覚えています。

『世界の思想』と『日本の思想』

ウド鈴木さんと ウド鈴木さんと

高木宗教に関することは、『世界の名著』で概略に触れた感じがします。大乗仏教、聖書、コーランなどですね。それぞれについて学校で教わったりしますが、『歴史と地理』という『縦軸と横軸』で、世界で何が起こったのかが『世界の名著』を読んで俯瞰できました。コーランは発見の連続でした。

鈴木そうですね。随分昔だから、かなり忘れてますが、他の「聖典」とは違うと思いましたね。又、読み返してみますよ。そうだ。高木さんの「劇的読書会」でやってよ。強制的にやると皆、読むから。

高木それもいいですね! これまで、日本の思想全集を読んできましたが、『世界の名著』を読んでみると、日本の思想は凝り固まり、発展力が無いという感じを受けました。日本の思想は分かりやすいと言えば非常にわかりやすいし、強い説得力もあると思います。明治以降の思想を見ると、日本人はほとんど、体験からものを書いています。だから説得力があるけれども、個人の体験を個人が書いているので小さくも感じます。それに比べて世界の思想のほとんどが『理想』から始まっていると感じました。

鈴木西洋では、高い理想を持った人たちが文章を書いてきたんですよ。一冊の本になるかわからなくても、毎日小見出しをつけて書いている。今みたいに、どこかから原稿を頼まれて書いてるようなのは、『世界の名著』には一つもないんじゃないかな。まず最初に使命感や理想があって、それを書き残すことが重要だったんでしょう。

高木当時、きちんと原稿料をもらった人がいたとは思えないですね。死後に発表されたものも非常に多いですし。そして、西洋と日本で大きく違うのは、日本人は日本を一つの島だと思っているけど、他の国の人たちは、人間が居るところが全世界なんだと感じました。だから世界同時革命論も起るし、マルクスの考え方もフランスやドイツで終わらずに世界的に広がる。日本の革命はやっぱり日本でしかなかった、という気もします。日本思想大系には、新聞や雑誌等に発表されていたものが収録されたという例が多いんです。それらはどうしても時局的なものになってくるんですね。今の世界情勢はこうだから日本はこうだ、というような。だから小さく感じたのかもしれません。

鈴木時局的なものっていうのは、その時が過ぎれば忘れられるものだから、どうしても一過性だよね。その点『世界の名著』は違うね。ずっと残りますよ。

高木オウエンやサン・シモン、フーリエのユートピア思想など最初は、完全に彼らの頭の中だけの話で、発表したら怒られるような内容じゃないですか。それを、ずっとこつこつと書いていて、後にプルードンやバクーニンが評価するわけです。

鈴木当時は、いわゆる大衆雑誌みたいなのは無かったんじゃないかな。発表する場もなく、発表出来るような内容でもない。だから何百年も経っても読めるものがあるんでしょう。ただ時局的なものだけのルポルタージュだったら、残らないよ。

高木今、日本で出版されている本で、後世に残る本は少ないでしょうね。

鈴木現代にはないでしょう。だから、今の人の本は読まなくていいんじゃないですか。『世界の名著』さえ読んでいれば。

高木『世界の名著』を読み終えると、自信がつきます。81巻全部を読んだ人にしかわからない自信だと感じます。

鈴木『日本の名著』とは違うね。『日本の名著』はやっぱり、『世界の名著』に比べると見劣りしますよ。
 『世界の名著』って、目次からきちんとしてるじゃないですか。小見出し一つ取っても、これからこういうことを書く、っていうのがしっかりある。日本の方はどうも随筆的なんです。それに、日本の方は、結構最近のものでも現代語訳されている。そうすると自分が何か書くときに引用出来ないんですよ、恥ずかしくて(笑)。鎌倉時代とか昔のものだけじゃなく、明治時代くらいのものでも現代語に訳すじゃない。確かに読みやすいけど、格調がない。これで「読んだ」って言えるのかなって思いますよ。
 それと、何度も言いますが、日本はやっぱり、論理的体系には弱いんでしょうね。

高木情念が先に立つんでしょう。

『世界の名著』の次は、『人類の知的遺産』に挑戦!

田中哲朗さん、金子遊さんと 田中哲朗さん、金子遊さんと

高木クロポトキンやバクーニンは興味がある分野なので面白く読めましたが、トマス・アクィナスの『神学大全』などは、自分の生活や思考には何の関係もないところだし、読むのは苦しかったですね。全部読むのは、正直苦しい。理解できずに時間もかかる。それでも読み終えると、「一字一句全部読んだんだな」と深い感慨があります。誰か次に挑戦する人がいればいいのに、と思います。

鈴木そうですねぇ。

高木そして、その人たちには、僕は『人類の知的遺産』から読むことを勧めます。

鈴木きましたね。『人類の知的遺産』全80巻!。これは、作り方が面白いし、結構読んでいて楽しいですよ。工夫があります。

高木『世界の名著』は、解説が最初の4,50ページに入って、そのあとに原典が収録されています。でも、『人類の知的遺産』は、まだ全部は読んでいないですが、基本的に『解説』なんですよね。

鈴木そうですよ。だからちょっと物足りないと言う人も多い。

高木『世界の名著』で原典を読んだ後なので、『人類の知的遺産』は案外さらさら読めています。

鈴木そうでしょう。『世界の名著』は、原典が9割以上だよね。だけど『人類の知的遺産』は、原典が半分もないんじゃないかな。それで、解説とか著者の人生だとか、プラトンだったら「プラトン論」が中心なんだよね。

高木鈴木さんは、『人類の知的遺産』は物足りなかったですか?

鈴木僕も『世界の名著』を読んでたから、「原典をもっとやれよ」って思いましたね。作り方は工夫してるんだけど、ちょっと物足りない感じがしました。

高木例えば、51巻のドストエフスキーで言うと、生涯、思想、著作の紹介から始まって、実際に原典が引用されているのは、『カラマーゾフの兄弟』では大審問官の部分。『罪と罰』では酒場のマルメラードフ、ラスコーリニコフの夢、といった抜粋です。これを読んだ人は「『カラマーゾフの兄弟』を全部読んでみようかな」と思ったりするかなぁ、と思いますが。

鈴木伊藤整の『日本文壇史』って本があるでしょ。あれを読むと、「あ、読んでみたい」って思わせるんだよね。作家たちのスキャンダル的な歴史が書いてある。「森鴎外はドイツに行って女とデキて、その女が日本に追ってきた」とか。あるいは、無名のまま死んでいった作家の話なんかもあって、すごいじゃないですか。『人類の知的遺産』は、そういう、伊藤整的なところがあるよね。これを知ったら、じゃあ原点を読め! というような。 だからこれだけ読んで満足してたらダメですよ。

高木そうですね。

鈴木『世界の名著』も、伊藤整的な感じで誰かが書いてくれればいいのに。ユングとフロイトの話とか。心理学者同士の戦いってものすごいじゃないですか。ちょっと言い間違えたりしたら、それは間違えたんじゃなくて、心の奥底でそう思ってたから口からそう出たんだ、と論争になる。連合赤軍みたいだよね。

高木(笑)

鈴木そういうのを知ると読んでみたくなる。そういう関心の示し方を教えてくれて、今の我々とも接点があると教えてくれる。昔の、もう死んだ人、今とは全く関係ないと思うと読むのキツイじゃない。

高木書く人も重要ですね。

鈴木『人類の知的遺産』の中で、トロツキー、レーニン、毛沢東とか、その辺りはどうなってるのかな。今書いたら全然違うものになるだろうね。

高木マルクスの巻を書いているのは、都留重人さんです。レーニンを書いているのは倉持俊一さん。トロツキーは菊池昌典さん。殆どが大学の先生ですね。

鈴木みんな教授だね。作家とか活動家とかはいないね。

高木鶴見俊輔さんが、デューイ評論家として書いています。作家では、加藤周一さんがサルトルを書いてます。

鈴木こういうものはやっぱり、大学の教授が書くものだったのかな。ルポライターとかいないもんね。竹中労とか太田龍に書かせれば良かったのにね。

 

『人類の知的遺産』全80巻 『人類の知的遺産』全80巻

『人類の知的遺産』全80巻

1.古代イスラエルの思想家
2.ウパニシャッドの哲人
3.ゴータマ・ブッタ(釈迦)
4.孔子
5.老子、荘子
6.墨子
7.プラトン
8.アリストテレス
9.孟子
10.ヘレニズムの思想家
11.韓非子
12.イエス・キリスト
13.ナーガールジュナ(龍樹)
14.ヴァスバンドゥ(世親)
15.アウグスティヌス
16.ダルマ(達磨)
17.マホメット
18.善導
19.朱子
20.トマス・アクィナス
21.マイスター・エックハルト
22.イブン=ハルドゥーン
23.エラスムス
24.マキアヴェッリ
25.王陽明
26.ルター
27.イグナティウス・デ・ロヨラ
28.カルヴァン
29.モンテーニュ
30.ベーコン
31.ガリレオ
32.デカルト
33.黄宗羲
34.パスカル
35.スピノザ
36.ロック
37.ニュートン
38.ライプニッツ
39.モンテスキュー
40.ルソー
41.ディドロ
42.アダム・スミス
43.カント
44.ベンサム
45.ゲーテ
46.ヘーゲル
47.ダーウィン
48.キルケゴール
49.バクーニン
50.マルクス
51.ドストエフスキー
52.トルストイ
53.ラーマクリシュナ
54.ニーチェ
55.ケア・ハーディ
56.フロイト
57.デュルケーム
58.フッサール
59.ベルクソン
60.デューイ
61.タゴール
62.マックスウェーバー
63.孫文
64.ガンディー
65.レーニン
66.ラッセル
67.トロツキー
68.アインシュタイン
69.魯迅
70.ケインズ
71.ヤスパース
72.バルト
73.ヴィトゲンシュタイン
74.トインビー
75.ハイデッガー
76.毛沢東
77.サルトル
78.フランツ・ファノン
79.現代の社会科学者
80.現代の自然科学者

本を読むこと、今昔…

藤波辰爾さんと 藤波辰爾さんと

鈴木『世界の名著』は売れてるし、評判も高い。ペーパーバックにもなってる。でも、全巻読んだ人っているのかな。我々二人くらいじゃない? 日本で。全巻読んだ人がどれくらいいるのか、発表すべきだよ。名前を出して(笑)。

高木中央公論社に表彰してほしいですね(笑)。

鈴木いいね、生まれて初めての表彰だ! 編集した人だってきっと読んでないよ。校正した人も全巻は読んでないよ。それに、今読んでる人の方が偉いと思うよ。昔は、読み切れたかどうかは別として、みんな読んでたし、読もうと思ってた。そういう時代だった。読んだら話し合う仲間が学校にいたし。

高木いいですね、それは。

鈴木今はいないでしょう。だから、高木さんは、こんな時代にたった一人で偉いなぁ、と思うよ(笑)。

高木本当に、読んだ本について話し合いたいと思いますね。同じ本を読んで、あの言葉に感動した、いや私はそうは思わない、とか。だから、そんな話ができた鈴木さんの時代が羨ましいです。話合える相手がいるというのは、大きな財産です。

鈴木当時は、レーニンを読んで、レーニンの革命理論で革命をやった国があって、やろうとした国があった。自分たちも、レーニンは腐敗した国家を打倒するプロセスには詳しいけれども、そのあとに自分たちの国を作る建設案はあまりないなぁ、って生意気に思ったりして、友達と本気で話をしましたね。そんな話をワクワクしながらしてたんですよ。

高木当時はそういう話を仲間なり敵なりとしてたんですよね。まるでユートピアですよね。

鈴木左翼は左翼なりに、右翼は右翼なりに、同時代として考えた。今はもう、終わった話です。古代の遺跡を見るようなものだよね。

高木『人類の知的遺産』が出たのが、1970年代の終わりくらいですね。

鈴木三島も連合赤軍も終わった後だね。だからそういう解説書になるんだ。

高木そうせざるを得なかったんでしょう。日本ではもう政治の季節は終わって、左翼もいなくなった。

鈴木全共闘が盛んなときだったら出なかっただろうね。

あの頃にインターネットが無くて良かった…

鈴木当時は、活動家だけじゃなく、普通の学生も読んでたんですよ。「大学生なんだから、このくらいは読まなくちゃ」って、一般教養的に読んでたんです。今はネットでなんでもわかるじゃない。電車の中でもズラーッとならんでみんな必死になって情報を得ようとしてる。だけど、ネットって情報じゃなくて宣伝だよね。

高木ネットは読む、じゃなくて見るものですね。インターネットで読んだ、って言い方をする人もいますが、ぼくには違和感がつきまといます。

鈴木時間の無駄ですよ。人生を浪費してますよ。

高木鈴木さんの若いころにインターネットや携帯がなくて良かったですね(笑)。本を読む時間は圧倒的にあったでしょう。

鈴木そうそう。テレビもないし、本を読むしかなかったですね。恋愛もないし。

高木高野悦子『二十歳の原点』で、「ジャズ喫茶で本について延々と話し合った」なんて書いているのを見ると、とても羨ましく思います。本を読むしかなくて、読んだあとに喫茶店で喋って、という時代。

鈴木【思想喫茶】を作れば?(笑)

高木【思想喫茶】、【読書喫茶】ですか。いいですね! 『世界の名著』や『人類の知的遺産』、『日本思想大系』『思想教養全集』『文学全集』なんかを並べて、それを読んで対話をする喫茶店! 作りたいですね(笑)。今、『劇的読書会』というのを毎月一回開催しているのですが、とてもは楽しいですよ。前から、本を読んで意見を出し合う場っていうのに憧れてたんです。

鈴木社会主義運動でも宗教運動でも、原点は読書会ですよね。ドストエフスキーは、読書会に出ただけで捕まって死刑宣告されてる。生長の家でも輪読会って言って、みんなで輪になって谷口雅春先生の本を読みましたよ。『生命の實相』は現代の聖書です。

一人で読めばいいんだ! 群れるから弱くなるんだ!

高木この『人類の知的遺産』ですが、安いんですよ。80巻で32,000円。1巻400円です。そこらの文庫より安い。『世界の名著』の方も、81巻で45,000円くらいですよ。

鈴木安いよね。

高木『人間の運命』16巻が2,500円で売ってるくらいです。本当に、文庫1冊買うより安いんです。みんな読めばいいのに、と思います。

鈴木高木さんの家はもう全集だらけでしょう。もう何百巻もあって、置くとこがないんじゃないの(笑)。

高木確かに全集は場所を取りますね。

鈴木昔は、応接間に全集があるというのがステータスだったんだよね。ブリタニカ百科事典とか、世界文学全集とか。

高木僕が買ったのも、古本なのに読んだ形跡がないんですよ。きっと、インテリアとして置いてあったのを古本屋に売ったんでしょう。本として、とても上質だと思うんですが、人に勧めても誰も挑戦してくれないんですよ。

鈴木人を誘うもんじゃないんだよ。一人でやればいい。群れるから弱くなるんだから。(笑)

高木あ、そうか(笑)

鈴木昔はアガサ・クリスティーとかエラリィ・クイーンとかは本で読んでたけど、今は読まないもんね。映画でいいやって。DVDで見ちゃえばいいやって。良くないね。テレビで落語をあまりやらないのも、黙って40分聞いていられる忍耐力がないからなんじゃないの。数十秒に一回笑いを取るような、漫才と言えないようなコントばっかり流行ってる。じっくり読んで、何かを得ようというのがない。

高木ぼくは、独りでじっくり読むことは、すごくかっこいいと思います。

鈴木今は、そういうのは変人ですよ。廃人ですよ。落伍者ですよ。(笑)

高木美学の問題かもしれませんが…。そうか。もう誰かに本を勧める事はないんですね。一人でじっくり読んでいればいいんだ。

次の全集は?

高木鈴木さんは、他にはどんな全集を読みましたか。僕は鈴木さんが読んできた道を踏襲しています。『戦後日本思想大系』『現代日本思想大系』『近代日本思想大系』と日本思想大系全86巻に始まり、『世界教養全集』全38巻、『世界思想教養全集』全24巻、『世界の名著』全81巻、と進み、今取り組んでいるのが、『人類の知的遺産』全80巻です。

鈴木ほら! でかいのがあるじゃないか! 次は、『世界の大思想』でしょ!

高木!!

鈴木あれが一番読みづらいんだよ。鞄に入れるにしても重いし、一番売れなかったんじゃないかな。河出書房から全29巻です。最初はプラトン、アリストテレス、アウグスティヌスだから、高木さんも好きなんじゃない? 他の全集と重複してるものも多い。『国家と革命』とか、何度も読む事になるよね。

高木繰り返し読むのは多いですね。『資本論』も二回読みました。ルールとして、重複しているものも全部読みますが、ホッブスの『リバイアサン』をもう一回読むと思うと辛くて辛くて…(笑)。

鈴木しかも、『世界の大思想』は三段組みだよ。こんなのヒトが読めるのかって感じだよね(笑)。

高木三段組みはきついですよね。二段組みも慣れないと疲れるんですよね。『人類の知的遺産』は二段組みじゃないから新書を読むような感じでどんどんページが進みますが、『世界の名著』はもう少し字が小さくて、二段組みなんですよね。

鈴木それは時代ですね。

高木1980年代には、二段組みでは読む人がいなくなってる、という事ですか。『人類の知的遺産』は3年後には読み終わると思います。次の全集は、『世界の大思想』ですか。

鈴木そうですね。巻数は少ないけど一番読みづらいやつ!

高木あとは、文学全集っていうのがあるんですよね。世界文学全集、日本文学全集。一生読む分くらいの全集は世の中にあるって事ですね。

鈴木あとは、さっきも話が出たけど、『生命の實相』40巻も読みましょう。また対談やりましょう!芹沢光治良の『人間の運命』もやりましょう!

高木是非やりましょう。今日はありがとうございました。

鈴木ぼくも頑張って読みますよ!

【だいありー】

今週は〈読書特集〉です。これだけで十分堪能されたと思います。これで終わろうと思いましたが、レギュラーの「だいありー」なども無理して入れました。来週、二週分やると、キツイと思いましたので。

辻元清美さん、崔さん、辛さん(5/16) 辻元清美さん、崔さん、辛さん(5/16)
  1. 5月21日(月)朝7時に起きて、見ました。金環日食を。近所の人たちも、大勢、道に出て、見てました。遮光板を買っておいたので、きれいに見えました。よかったです。午前中、原稿。午後、取材。午後6時、日比谷公会堂。「朝は会議日食。夜は日比谷公会堂」というチラシをもらってたので、ついつい、行きました。でも夜は会議日食とは関係ありませんでした。

「5.21裁判員制度廃止!全国集会in日比谷。

=全原発停止!さつきの空に、裁判員制度廃止の旗を!」。

 今井亮一さんが開会挨拶。宮本弘典さん(関東学院大學教授)が講演「古今東西裁判物語」。

崔さん、辛さん、石坂啓さんと 崔さん、辛さん、石坂啓さんと

 そして、3D寸劇や、崔洋一さんたちのビデオレターがあり、裁判員候補者からの反対・拒否宣言。高山俊吉さん(弁護士)が「まとめと行動提起」。

 知らないことも多く、とても勉強になりました。終わって、参加者と二次会に。

  1. 5月22日(火)午前中、原稿。夕方、図書館。夜、雑誌の対談。
石川さゆりさんが挨拶 石川さゆりさんが挨拶
  1. 5月23日(水)午前中、原稿。午後3時、文化放送。今日の特集は「憲法9条改正の是非を考える」。自民党、みんなの党、たちあがれ日本、3党から改憲案が出ている。それをどう考えるか、9条は今、改正すべきか否か。について考えた。

「編集長は見た!」は、初登場。扶桑社から出ている月刊『MAMORU(マモル)』の高久裕編集長。防衛省編集協力の自衛隊情報誌だ。でも、「SPA!」を出している扶桑社だ。かなり斬新な作り方だ。

アイドルが自衛官に扮した表紙。それに、「マモルの婚活」という企画も大人気だ。この企画がきっかけで見事、結婚したカップルも多いという。さらに、マンガで紹介!「自衛官のいろいろな1日」もある。読みやすいし、興味がひかれる。ハードな企画もある。

河内家菊水丸さんと 河内家菊水丸さんと
〈国を守る仕事には昼も夜も盆も正月もない!
 自衛官は、24時間闘っている!〉

とてもよかったです。

編集長の高久裕さんとは勿論、初対面。と思ったら、いきなり、「鈴木さん、久しぶり」と言われた。高久さんはずっと「SPA!」にいて、私が20年前に「SPA!」で「夕刻のコペルニクス」を連載してた時に、何回か会ってるという。あの時はお世話になりました。今回もお世話になります。と挨拶しました。

文化放送が終わって、ホテルニューオータニへ。「恵観塾」に出る。9時まで池口恵観さんの講演を聞きました。終わって、1階のレストランで恵観さんたちと話し合ってたら、上杉隆さんたちに会いました。12時頃、終わりました。

保坂展人さんと 保坂展人さんと
  1. 5月24日(木)午前中、打ち合わせ。3時、河合塾コスモ。現代文要約。5時、読書ゼミ。今日は、安田浩一さんの『ネットと愛国=在特会の『闇』を追いかけて』(講談社)を読み、皆で話し合いました。

終わって、ネイキッドロフトに行きました。「月刊あさくさ新聞=学べる?ニュース」を見に行きました。木曽さんちゅうさん(Wコロン)と三浦昌朗さん(ロケット団)でした。ゲストは、ゴーオンジャーの古原靖久さんでした。超満員でした。面白かったです。文化放送の貞包アナウンサー、編集プロダクションの椎野礼仁さんも来てました。

武田邦彦さん、尾木さんと(5/18) 武田邦彦さん、尾木さんと(5/18)
  1. 5月25日(金)午前中、原稿。午後、雑誌の対談。夜、スポーツ会館。
  2. 5月26日(土)朝8時半発の新幹線で京都へ。京都大学の吉田寮食堂で「笑の内閣」の公演を見る。「ツレがウヨになりまして」。面白かった。そのあと、監督と私のトーク。終わって、皆と話をしました。帰りの新幹線で、「おしどり」のケンさん、マコさんと会いました。
AMEMIYA、Gたかしさんと AMEMIYA、Gたかしさんと
  1. 5月27日(日)午前10時より、新宿K’s cinemaで、「孤独なツバメたち=デカセギの子どもに生まれて=」(監督・津村公博、中村真夕)の上映がありました。上映後、11時半より、中村監督と私のトークがありました。日本、ブラジル、2つの祖国の間で揺れ動く日系ブラジル人の若者の青春を追ったドキュメントです。力作です。ブラジルとの思い、「愛国心」について…など、話し合いました。
     夕方、図書館へ。それから、原稿の打ち合わせ。取材。

【写真説明】

『世界の名著』全81巻

①これが高峰『世界の名著』です。ぼくも、これを読破しました。全巻読んだ人は、自慢していいでしょう。履歴書にも書いていいでしょう。進学や就職に有利にすべきです。

『人類の知的遺産』全80巻

②そして、これが今、高木さんが取り組んでいる『人類の知的遺産』です。『世界の名著』とセットで読めば、理解がとても深まります。こっちも全巻読破は、表彰ものですよ。

同じ読書道を歩む二人

③高木さんは、早朝読書を実践しています。朝活ですね。「朝読み」です。時間のない現代社会では、生活を工夫しなければ本も読めません。

全集を前に

④かっこいい本ですね。こうしてケースに入っています。ケースから抜く時のあのわくわくする楽しみは何ものにも代えられません。

和やかな中にも真剣なやり取り

⑤高木さんとの読書対談は、毎年緊張します。ぼくと同じ読書道を歩んでいますが、今にも追いつかれそうで恐怖です。追い越されないように、ぼくも読書と勉強の毎日です。

芹沢光治良『人間の運命』全14巻

⑥これが『人間の運命』です。大河です。思想です。歴史です。人生です。人が悩み、苦しみ、考え、生きる、そんな人生がここに凝縮されています。

読書談義は果てしない

⑦それにしても、読書の話はきりがありません。いつまでも話していられます。読書に関する本は、これまで何冊も書きましたが、まだまだ書くべきことが残っています。

辻元清美さん、崔さん、辛さん(5/16)

⑧5月16日(水)憲政記念館で辻元清美さんの出版記念会がありました。(左から)映画監督の崔洋一さん、辻元清美さん、辛淑玉さんです。

崔さん、辛さん、石坂啓さんと

⑨同じく、崔さん。そして、右端は漫画家の石坂啓さんです。

石川さゆりさんが挨拶

⑩歌手の石川さゆりさんも駆けつけて挨拶してました。筑紫哲也さんの紹介で辻元さんと初めて会ったと言ってました。

河内家菊水丸さんと

⑪河内家菊水丸さんと。「20年前に、東急ホテルで対談しましたね」と言ってました。それが初めてで、その後、何度か会ってます。この時の対談は、『闘うことの意味』(エスエル出版会)に入っています。

保坂展人さんと

⑫世田谷区長の保坂展人さんと。

武田邦彦さん、尾木さんと(5/18)

⑬5月18日(金)文化放送で。武田邦彦さん、尾木直樹さんと。

AMEMIYA、Gたかしさんと

⑭AMEMIYA、Gたかしさんと。面白かったです。

ウド鈴木さんと

⑮帰り際に、「キャイン〜ン」のウド鈴木さんに会いました。「あっ、鈴木さん」「鈴木さん!久しぶり」と2人で挨拶しました。ウドさんは山形出身です。同じ東北人として、昔は、よく会って、遊んでました。

田中哲朗さん、金子遊さんと

⑯5月16日(水)「田中さんはラジオ体操をしない」の主演・田中哲朗さん。「ベオグラード1999」の監督・金子遊さんと対談しました。
 トークが終わって、田中さんは、ギターを弾いて歌をうたってくれました。とてもいい歌でした。

藤波辰爾さんと

⑰5月18日(金)ロフトプラスワンで、プロレスラーの藤波辰爾さんと。この日はDVD発売記念で、流智美さんとトークをしてました。奥さん、息子さんも登場してました。
 私は以前、京大プロレス研究会に呼ばれ、藤波さんと対談したことがあります。藤波さんは、その時と、全く変わってません。鍛え方が違うのでしょう。

【お知らせ】

  1. 5月28日(月)「右から考える脱原発デモ」です。18時集合、18時45分出発。銀座・水谷橋公園集合。
  2. 5月30日(水)7時半、ロフトプラスワン。『ネットと愛国』(講談社)の著者・安田浩一さんの出版記念トークです。青木理さん、久田将義さん、渋谷哲也さん、ノイエホイエさん、そして私が出ます。楽しみです。
  3. 6月2日(土)午後2時。「マガ9学校」。新宿カタログハウス本社で。山本譲司さん(元衆議院議員。『獄窓記』著者)と私が対談します。
     山本さんは最近、『覚醒』(上・下 光文社)という小説も出しました。
    〈ベストセラー『獄窓記』『累犯障害者』の著者が初めての小説で、書けなかったことのすべてを描く〉。
     これも、ぜひ読んでみて下さい。
     なお、『転落の記』(飛鳥新社)を書いた本間龍さんも飛び入りゲストとして参加してくれるそうです。楽しみです。
     又、雨宮処凛さんも飛び入りゲストとして参加してくれるそうです。
     又、この日から、若松孝二監督の「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」が公開です。ぜひ、見て下さい。
  4. 6月3日(日)午後1時から、京都大学でライラ・ハリドさんの講演があります。「アラブ民衆・情熱の歴史フォーラム2012」です。私も聞きに行こうと思ってます。
  5. 6月6日(水)午後6時半より。所功先生(京都産業大学教授)の講演「皇室を巡る諸問題」があります。国体文化講演会です。中野サンプラザ8階研修室1です。協力費は千円です。私もぜひ聞きに行こうと思ってます。
  1. 6月10日(日)午後2時より。西宮で鈴木邦男ゼミ。Caféインティライミ(阪神・西宮駅すぐ)。今回のゲストは、田原総一朗さんです。
    〈25年を迎えた朝日新聞阪神支局襲撃事件の真相と意味=今、言論の自由と暴力の問題を考える=〉
     お問い合わせ・お申し込みは、事務局へ。Tel 0798(49)5302へ。
  2. 6月15日(金)午後7時。ホテルサンルート高田馬場一水会フォーラム。講師は辻井喬さん(詩人・作家)です。
  3. 6月20日(水)池袋ジュンク堂。7時半より、佐高信さんとトーク。3月からいろんな人を招いて、トーク「佐高信書店」が始まってます。6月は私です。
  4. 6月22日(金)午後6時より、岡山で、「レコンキスタ読者の集い」。木村三浩代表と共に、私も参加します。岡山県総合福祉・ボランティア会館。NPO会館「きらめきプラザ」です。誰でも参加できます。問い合わせ、申し込みは
    090-3880-0700番家まで。
  5. 8月4日(土)午後1時、阿佐ヶ谷ロフト。「大生誕祭」をやるそうです。私の。
  6. 8月16日(木)〜19日(日)千歳船橋・APOCシアターオフィス再生の舞台があります。「正義の人びと=神の裁きと訣別するための残酷劇」です。8月17日(金)には、19時より、高木尋士氏と私のプレトークがあります。