この1週間のテーマは、〈愛国心〉だった。そして、右翼、ネット、共同体、暴力について考えた。
京都で、映画館で、デモで、ロフトで…。〈愛国心〉について話した。いや、それ以上に、私の知らなかった〈愛国心〉について教わった。考えさせられた。
5月26日(土)は、京都で、「ツレがウヨになりまして」を見て、その後、監督とトークをした。
5月27日(日)は、新宿K’s cinemaで映画「孤独なツバメたち=デカセギの子どもに生まれて=」の上映の後、中村真夕監督と、愛国心、デカセギ、2つの祖国について語りあった。
5月28日(月)は、「右から考える脱原発デモ」に出た。かなり長く歩いた。ちょっと、バテた。
「右から」と言いながら、一般の人や左翼的な人も多い。デモ主催者の針谷大輔氏の魅力と人望だろう。整然とデモをするし、スマートだ。全国各地に波及している。
先頭に日の丸があるが、あとは普通のデモだ。「もっと右翼らしいとこがあってもいいよな」と言っていた。左翼の人が。デモ終了後の飲み会の時だ。
「せっかく右デモに出たんだから、もっと右らしい体験をしたかった」と言うのだ。若い人が多いし、普通っぽい雰囲気がいいと、私なんかは、思うんだけど。
それに、「私は共産党員です」「新左翼です」なんて、堂々と言える。こういうオープンな雰囲気はいい。
戦闘的な右翼団体では、こうはいかない。ネット右翼の集まりでも、こうはいかない。
「私は左翼です」と言うと、怒鳴られるだろうし、「帰れ!」と言われるだろう。殴られるかもしれない。
その点、「右デモ」は明るく、オープンだからいい。
5月30日(水)は、ロフトプラスワンで、〈愛国心〉をめぐって、大討論会があった。
安田浩一さんの力作『ネットと愛国=在特会の「闇」を追いかけて』(講談社)の出版記念トークだ。ロフトは超満員。
私は、この日は文化放送に出ていたが、プロデューサーと、貞包アナウンサーも、「ぜひ行きたい」と言うので、3人で駆けつけた。以前、文化放送の脚本を書いていた女性も聞きに来てくれた。
じゃ、このロフトの話から書こうか。
会場は超満員。安田さんのこの本は、4月17日に発売され、1ヶ月で、もう4刷だという。
凄い。こんな危ない本を書いた安田さんも勇気があるが、出版した講談社も勇気がある。文句なしに偉い。
この日の、壇上のパネラーも豪華だった。司会は青木理さんと久田将義さん。パネラーは、安田浩一さん、渋谷哲也さん、ノイエホイエさん、そして私だ。
このメンバーだけでも十分、エキサイティングなのに、途中で2人、サプライズのパネラーが登場する。
1人は、元「在特会」の人だ。
この日、安田さんに電話があったという。「聞きに行っていいか?」と。「じゃ、壇上で話してよ」となったようだ。
又、後半では、室井佑月さんが出てくれた。テレビによく出ている人だ。
最近、ネット右翼をちょっと批判したら、ブログが炎上し、大変なことになったそうだ。
「安田さん、どうしたらいいの?教えて」と相談に来たらしい。「じゃ、とりあえず壇上で相談しましょう」と上げられたようだ。
彼女、よく喋る。お酒も入ってるようだ。紅一点で、会場からも大人気だった。
でも、この日は「ニコ動」が入っていて、壇上でも見える。もの凄い書き込みがある。「BBA帰れ!」なんてのもある。「ばばあ、帰れ!」と読むらしい。
「888」とか、「www」というのもある。分からんち。若く、美しい室井さんなのに「BBA」はないだろう。
本人もムッとして、突然、帰ってしまった。
さて、安田さんの『ネットと愛国』だ。いい本だ。
私は、先週、デニーズで読んだ。夜遅く入って、まず30分読んで、あとは明日から少しずつ読もう、と思った。
でも、やめられなくなって、3時間半、デニーズにいて、読了した。それだけ凄い本だった。引き込まれて読んだ。こんな本も珍しい。
右翼のことやネット右翼のことなんて、「大体分かるよ」と思っていたが、知らないことだらけだった。
「主権回復を目指す会」の西村修平氏に学んで、「在特会」(在日特権を許さない市民の会)の桜井誠氏は、アジ演説を学んだという。
その西村氏は、かつて秋田の高校生時代に、毛沢東思想に触れたという。専修大学に入り、日中友好協会にも入り、「学生訪中団」に選ばれ、文革さなかの中国を訪ねてもいる。
この時は感動もしたが、中国の貧しさも見てしまった。そして大学を中退し、左翼運動からも身を退く。
そして30年近くを建設会社のサラリーマンとして過ごし、中国の「チベット弾圧」などに刺激を受け再び運動の世界に戻る。
今度は、反中国の闘士として「主権回復を目指す会」を立ち上げるのだ。
桜井氏の経歴もこの本で初めて知った。同時に、西村氏の経歴も、初めて知った。これは興味深かった。
西村氏は街頭での過激な演説とは裏腹に、実態は、かなりの文学青年のようだ。安田氏の取材にもきちんと答えているし、その側面が出ている。
その文学的な西村氏の影響を受けながらも、桜井氏の「在特会」は、さらに巨大なモンスターに成長したようだ。
その在特会に参加する一人一人に安田氏は取材する。
「許せない!」「帰れ!」と言われながらも、安田氏は喰らいついて取材する。
この勇気は大したものだ。「在特会」からは徹底的に攻撃され、嫌われている。
と同時に、在特会を取材することで、他の一般のライターなどからも批判される。
「なぜ、あんな排外主義者を追っかけているんだ」「ルポをする価値があるのか」と…。
四面楚歌だ。でも、喰らいつく。「在特会とは何なのか…」と。怒り、疑問に持ち、そして取材する。
本の帯にはこう書かれている。
〈差別的な言葉を使って街宣活動を行う、日本最大の「市民保守団体」、在特会。
彼らは何に魅せられ、怨嗟と憎悪のレイシズムに走るのか〉
本の帯の裏には、さらにこう書かれている。
〈ごくごく普通の若者たちは、なぜ凶暴なレイシストに豹変するのか?〉
そして、アッと驚く、「総括」を出す。
〈彼らは、われわれ日本人の“意識”が生み出した怪物ではないのか?〉
この〈断言〉は凄い。
この本の「エピローグ」にも、同じようなことが書かれている。
たとえば、全く普通の、一般の人が、何かあった時、つい、在日の人を批判したりする。本人は差別する気がなくても、そんな表現をする。
昔から、日本人にはあることだし、私らにもあるだろう。
〈おそらく在特会はこうした人たちによって支えられている。いや、本人に支えている自覚がなくとも、在特会の側は、自分たちに無言の支持が集まっていることを知っている。
たとえ在特会がどんなにグロテスクに見えたとしても、「社会の一部」であることに間違いない。彼らは世間一般の人々の本音を代弁し、増幅させ、さらなる憎悪を煽っているのだ。
在特会とは何者かと聞かれることが多い。そのたびに私は、こう答える。
あなたの隣人ですよ————。〉
ウーン、と唸ってしまった。そうなのか。差別用語を使い、口汚く罵倒して、「街宣」をしている。
これが「隣人」なのか。そして、我々日本人の“意識”が生み出した怪物なのか。
ここまで書かれたら、在特会も(心の内心では)、満足しているのではないか。
いや、そんなことはないか。「安田は許せない!」と今でも攻撃している。
しかし、一般の人と、一般のマスコミは、在特会を取り上げない。恐いし、過激なレイシズムの集団だ。取り上げる価値はない。と思ってるのだろう。
しかし、安田さんは取り上げた。又、この本を出すことによって、在特会は単なる狂信的な一過性の集団ではない、と書かれた。
何せ、我々の「意識」が生み出した怪物なんだし。ビッグな存在だ。
そのように在特会は「歴史的事件」になり、「歴史」として残る。この意義は大きいと思う。
ロフトでも話したけど、京都で観た芝居「ツレがウヨになりまして」は面白かった。
きっとこれからは、こんな〈事件〉が多くなるだろう。
普通のカップルが、幸せに暮らしていたら、ある日、突然、ツレがウヨになってしまった。
それからが大変だ。どうする、どうなる、カップルだ。女は叫ぶ。
「国よりも、私を愛して!」
男はウヨの先輩に言われる。
「彼女のかわりはいるが、祖国のかわりはない!」。
ハッと目が覚める。そして、愛国運動に立ち上がる。そして、思いもかけない展開になる。
この芝居のチラシには、「本物の右翼もアフタートークにやってくる」と書かれている。
私なんて、本物じゃなくて、偽者だけど。まあいいだろう。監督の高間響さんとトークしました。楽しかった。
芝居は、単に「面白い」だけでなく、考えさせられた。愛国心とは何か、その表現はどうあるべきか。などについて考える〈思想劇〉になっていた。
芝居は、5月26日(土)から28日(月)の3日間だけで、もう終わってしまった。私のあとは、寺脇研さん、塩見孝也さん(元赤軍派議長)もゲストでトークしたという。これはぜひ、東京でも上演してもらいたい。
この芝居のことは、webマガジン「マガ9」の私の連載「鈴木邦男の愛国問答」にも詳しく書いた。
そうだ。「愛」は美しいが、同時に「愛」はこわい。という話は、他でも書いたな。塚本晋也監督の映画「kotoko」を観て、書いたのだ。この映画のHPに載ってるようだ。
Cocco主演の映画だが、「愛」は一途だ。愛は怖い。と思い知らされた。
5月27日(日)に、新宿K’s cinemaで、「孤独なツバメたち=デカセギの子どもに生まれて=」(監督・津村公博、中村真夕)の上映があり、その後、中村監督とトークをした。ブラジルから日本にデカセギに来た人々の子供たちのドキュメントだ。
日本とブラジル。祖国とは何か。いろんなことを考えさせられた。
その時、「kototo」の配給会社の人と会った。「映画評ありがとうございました。連合赤軍とからめて書かれてたので、面白かったです」と言われた。
そうか。子供を愛し、守ろうとする母親の話なんだし、その一途な愛の話だ。政治性は全くない。でも、そこに「連合赤軍」を見たんですな、この人は。
そばにいた人が、「kototo」を観て、1週間、具合が悪くなりました、と言ってた。
「そうでしょう。劇場でも毎日、倒れる人が何人かいるんです」。
エッ?そうなんですか。それだけ、衝撃のある映画だ。その一途な愛が、「あっ、これは私だ」と思わせるようだ。そして、劇場で、何人も、バタバタ倒れているという。
これは、ぜひ観るべきだ。でももう終わったんだろうか。これだけの話題作だ。又、追加公開するだろう。
中村真夕さんの映画「孤独なツバメたち」も、K’s cinemaではもう終わるが、今度渋谷のアップリンクで上映する。そこで又、中村監督とはトークする。6月28日(木)の夜6時から上映、8時からトークだ。
「今度はお父さんも入れて、三人でトークをしましょう」と私は提案している。お父さんは「日本の10人の詩人」の中に入るビッグな人で、正津勉さんという。NHKでも紹介された。
実は、ジャナ専(日本ジャーナリスト専門学校)で教えていて、私も随分とお世話になった。だから、この機会だから、「3人でトークをしましょうよ」と言っている。
その他にも、これからは、いろんなイベントがあるし、ミッションがある。
6月2日(土)から若松監督の「11.25自決の日=三島由紀夫と若者たち」が、公開される。待ちかねた人が多い。大きな話題になっている。
私も監督と一緒にテレビで対談する予定だ。
7月28日(土)には、〈和歌山カレー事件〉を考える集会がある。名古屋でも集会に呼ばれているよな。塩見さんと一緒らしい。
6月10日(日)、西宮ゼミでは田原総一朗さんと「赤報隊」についての話をする。「もう、そろそろ、本当のことを言えよ」と皆に言われている。プレッシャーだ。
どうする、どうなる。果たしてどこまで言うべきか。違う。ウロウロと迷い歩き、徘徊してしまった。
いや、ネトウヨのことを考え、芝居を観て、ウヨウヨしてしまったな。この1週間は。
かなり歩いた。久しぶりなので、バテた。東電、経産省前で、怒りの抗議、シュプレヒコール。新橋で解散。その後、打ち上げ。「右からデモ」といいながら、一般の人や、左翼の人も多い。いいことだ。
そんな人たちが、「もっと右翼っぽくやってもいいな」と言い合っている。「日の丸しかないもんな。あとは左翼のデモと変わらないし」…。それがシンプルでいいと思いますよ、私は。そんなことを話し合いました。
iPadを持ってる人が回ってきて、中国の人と話をした。よく分からんが、便利な時代になったもんだ。
〈野田・小沢会談後の政局を考える〉
消費税増税をめぐり、真っ二つ。会談はもの別れ。平行線で終わった。と言われてるが、どうも違うのではないか。「自民党の挑発には乗らない。民主を守る」ことでは一致し、その上での「乗り越え」策を考えたのではないか。そんなことを感じた
「編集長は見た!」は「クーリエ・ジャポン」の冨倉由樹央編集長。特集は、
〈「幸福」の手がかりを求めて北欧へ〉
所得の50%近い諸税に25%の消費税。日本では考えられないような高い税金を払いながらも、「最も裕福で幸せな国々」として世界に一目置かれる北欧諸国。
幸福度ランキング上位の常連なのが北欧諸国。とりわけ、デンマークはイギリス・レスターズ大学の調査などでトップを飾っている。日本は90位。デンマークについては、こんな驚きの報告も。
〈09年のある調査によれば「税金を下げて公共サービスも低下させてほしい」という声はわずか10%。現状維持を希望する人が52%。そして何と「さらなる税負担とサービス向上」を希望する声が33%も〉
日本では、とても考えられないことだ。格差が小さいためか、控えめな国民性なのか。贅沢品やブランド品をありがたがる消費文化もないという。
さらに、インド「インディア・トゥデイ」紙より。
〈「教育格差」をさらに広げる。間違いだらけのインド教科書〉
これも知らなかった。教育レベルはかなり高いと思っていたのに。
アメリカ「ニューヨーク・タイムズ」紙より。
〈シリコンバレーで人気を博す、コンピューターのない学校〉
やはり、アメリカ。
〈“カフェの本場”で起死回生を狙う、スタバの「ヨーロッパ強化」大作戦〉
このあと、Wコロンの謎かけ。Ust延長戦。などがあり、6時15分、文化放送を出る。7時半からロフトで、『ネットと愛国』のトークイベントがある。番組プロデューサーと貞包アナが、ぜひ行きたいというので、3人で車で向かう。
ロフトプラスワンは超満員。安田浩一さんの『ネットと愛国』(講談社)の出版記念トークだ。安田さんの他、青木理さん、久田将義さん、渋谷哲也さん、ノイエホイエさん、そして私。途中で、在特会の「脱会者」も登壇。又、室井佑月さんも登場。会場は沸いた。夜12時近くまでやる。誰も帰らない。久々に熱気のあるイベントでした。
〈暴排条例と暴対法改定に異議あり。
5.31院内集会〉
に出る。労組が主催しての、反対集会だ。私もパネラーとして出た。
開会。司会は設楽清嗣さん(東京管理職ユニオン)。
経過報告は、小谷野毅さん(全日本建設運輸連帯労働組合)。
連帯挨拶。又市征治さん(参議院議員・社民党副党首)。
そして、パネラーの発言。田原総一朗さん、青木理さん、私、宮台真司さん、宮崎学さんの順番で話す。
まとめは、高井晃さん(東京ユニオン)。
取材の記者も多く、満員だった。このあと、帰り際に小熊英二さんに会う。又、切符を買おうとしたら、村越祐民さん(衆議院議員)に会い、近くの記者会館でお茶を飲む。それから急いで河合塾コスモへ。3時から現代文要約、5時から「読書ゼミ」。今日は三田誠広の『哲学で解くニッポンの難問』(講談社)を読み、皆で考える。そのあと、生徒と食事会。
⑩吉田寮の前で。この吉田寮には、今も学生が住んでます。見てきました。
左から吉本千穂さん。帯はフクロウ、着物は、全て本のデザインです。凝ってます。右は高間響さん。自分で監督し、脚本を書き、さらに出演してました。お疲れさまでした。面白かったです。
⑰驚きました。凄い本が出ました!『憂国か革命か テロリズムの季節のはじまり』(鹿砦社・800円)です。もう出ないのかと諦めていたので、とても嬉しかったです。