高木毎年恒例の読書対談です。まずはノルマの発表からです。あべさんは昨年何冊読みましたか?
あべ私は124冊読みました。
鈴木・高木おお、すごいね。
高木僕は、486冊です。
鈴木すごいなあ。僕は360冊で、ぎりぎりでした。
高木486冊の内訳ですが、読書代行の仕事で読んだものが100冊近くあります。
鈴木私は図書館で借りた新書が多いからね。これって読んだうちに入るのかな(笑)。
高木僕もそれは同じです(笑)。そこが反省点ですね。その他は『ビブリア古書堂の事件手帖』(三上延/メディアワークス文庫)や、『万能鑑定士Q』(松岡圭祐/角川書店)みたいな、マンガとも小説ともとれるようなラノベが、半分くらいを占めています。
鈴木それとは逆に、1冊だけで何冊分にもとれるような重厚な本もあるよね。たとえば『三島由紀夫、左手に映画』(山内由紀人/河出書房新社)、『完全版 平凡パンチと三島由紀夫』(椎根和/河出書房新社)、これらは普通の本の5冊分くらいに感じます。でも昨年は全集を読んでないから、征服感がないんだよね。その点、高木さんは幸せだよ。
高木全集は、『人類の知的遺産』(講談社)を読み始めたのですが、これが全80巻あるんです。昨年読めたのは19巻までです。やはり4年がかりですね。
鈴木あれ? 『世界の名著』(中央公論社・全81巻)はもっと早く読んだよね。それに比べたら『人類の知的遺産』のほうが内容も易しいし、読みやすいでしょう。
高木たしかに『人類の知的遺産』のほうが読みやすいのですが、だからこそなかなか手がつけられなくて……。『世界の名著』は3年で読んだのですが……。
鈴木だったら、『人類の知的遺産』は三か月で読めるよ!
高木たとえば、『人類の知的遺産』の『レーニン』ですが、原典が入ってないんです。レーニンの思想、レーニンの生涯など、あらすじや解説が書いてあり、これを1冊読めば、なんとなく、大体こんな人かなというのがわかります。それらを知る分には非常にいい全集だと思います。
あべ元祖『フォー・ビギナーズ』ですね。(※フォー・ビギナーズ・シリーズ:現代書館刊。出ている各ジャンルのビギナー向け書籍)
高木そう、まさに! でもやっぱり、レーニンの『国家と革命』や、ヘーゲル『法の哲学』、『精神現象学』などは、原典を全部読まなきゃだめでしょう。『世界の名著』はこれらの原典だけが入っています。それに対して『人類の知的遺産』は全部解説なんです。
鈴木やはり『世界の名著』は一番素晴らしいし、そのあと河出からも『世界の大思想』などが出たでしょう。講談社としては、同じようにはやりたくないから、色々考えた末に『人類の知的遺産』になったのでしょう。
高木世界の思想や古典に興味を持ち始めた若い人が読むにはとてもおすすめです。僕と鈴木さん以外で、だれか次に続いてくれればいいんだけど。(あべさんを見る)『人類の知的遺産』80巻を読めば、原典を読まなくても、世界のことが大体わかるようになるよ。
鈴木世界を征服したような気分になるよ!
あべ読みやすさはどうなんですか? 鈴木・
高木読みやすいよ!
鈴木解説がほとんだから、新書と同じだよ。あ、そこまで言っちゃかわいそうか。
あべ2段組みじゃないところはいいですね。写真も載ってるし、余白も結構…。気にはなってますけどまだちょっと……。
高木すごくわかりやすいよ。今、ネットの古書店でも80巻で、3万円か4万円くらいですね。
鈴木全部kindleで読めるのかな。
編集者の椎野さん――講談社は全冊入れるといってますよ。
高木そうなんですか! 全文検索できるんだったら、欲しいな。
あべ電子書籍も、kindleとかkoboとかいろいろありますけど、まだ手が出せないですね。目の前に本があるのと違って、データで持ってるっていうのは、ちょっと読む気にならないですね。
高木あべさんは昨年ノルマ読書をやってみてどうでしたか?ノルマは何冊?
あべ昨年は年間100冊でした。やっぱり、多い月と少ない月があって、年間トータルで124冊になりました。去年は年の初めにまとめて読めたので、それがよかったです。公演前だと読めなかったりするので。
高木ノルマ読書をはじめる前は、どのくらい読んでたの?
あべノルマ読書を始める前は…というか二十代のころは月に1、2冊読むか読まないかでしたね。
鈴木今、二十代で月に1、2冊読んでる人もなかなかいないよね。
あべ本って、貧乏人に一番やさしい娯楽なんですよ! 金額に対して、楽しめる時間が長い。映画や漫画に比べてもコストパフォーマンスがいいんですよね。ありがたいです。しかも図書館に行けば無料だし、文学系はほとんど網羅されていて、読める場所もある。
高木たとえば太宰治の『人間失格』は文庫で300円程度です。300円で5時間遊べると思えばいいですよね。ノルマ読書は、大変でしたか?
あべ大変ですよ。読むの遅いんです。
高木じゃあ、速読教室開こうかな!
あべどうでもいい本はスラスラ読めるんですけど、気になるところがあると、速度が遅くなっちゃうんです。
高木その時って、理解力も落ちてるんだよ。いっぺんに読んだほうが確実に理解ができるよ。
あべそうかな。数字とか出てくると、そこでも速度が落ちるし。まだ慣れないからですかね。
高木でも、ノルマ読書をやってよかったでしょ?
あべそうですね。一年経ったときに、これだけ読んだんだな、って思うと、自信にも励みにもなりますしね。あと、振り返ってみると、自分の中でブームがあるんですよね。文学読みたい時、哲学読みたいとき、新書ばっかりを読みたい時期と。そういうのないですか?
高木たしかにあるね。どうでもいい本ばっかり読んでしまう時もあります。来年のノルマは決めた?
あべ月に10冊で、年間120冊にします。
高木もう少し読めるんじゃない? 月15冊だと、年間で180冊。2日に1冊読めたら、たいしたもんだよ!
あべ無理! ノルマを多めに設定してしまうと、上下巻とか、二段組みに手を出せなくなっちゃうんですよ。
鈴木ふふふ(笑)。
高木いや、でもそれは読まないと。
あべノルマをあまり増やさない代わりに、自分の家にある『芥川龍之介全集』(筑摩書房)を読もうと思います。
鈴木・高木おー!(拍手)
鈴木でも、全集の中では一番簡単な全集だよ! 冊数も少ないし。
あべ全部で9冊です。
鈴木楽じゃないか! 三島全集なんて44冊だよ!
高木どんなに短くても、全集をひとつ片づけるっていうのは、いいことだよ。
鈴木ものすごく自信がわきますよ。ぜひやってください。
高木今、月5冊読めば、日本人全体の読書層の1割に入りますよ。それくらい今は本を読まなくなった。本屋さんもどんどんなくなっていますよね。みんな、飲みに行くのを減らせば読めると思うんだけどな。
鈴木君たちは、ノルマだけじゃなくて、テーマ別で考えてみたらいいんじゃない?せっかく芝居をやっているんだし、図書館で、「演劇」とかそういうジャンルの棚を、まず30冊読んでみる。シェイクスピアとかゴーゴリーとか。
高木それは面白いですね。非常に良質の演劇理論書がたくさんあります。戦後、演劇復興していくなかで、新派の人たちが上演を重ねながら、演劇理論をまとめていった。築地小劇場、東大、早稲田という頭脳が遺したたくさんの理論書があります。それらを今の演劇人たちはほとんど読んでいません。古典的な理論書ですが、基礎教養として、読んだらいいと思います。
鈴木先日、佐高信さんとのトークで山形へ行き、弟に会ったんだけど、弟の家の近くに井上ひさしさんが本を寄贈した「遅筆堂文庫」があるというので、車で連れていってもらったんです。井上さんは生前、歌舞伎や演劇はまめに観に行けないから全部本で読んでいると言っていました。それは邪道かもしれないけど、我々は文章を書く人間だから、極端な話、それでもいいのかもしれないと思います。遅筆堂文庫には、落語全集や歌舞伎全集や演劇関連の本、昔話の全集などたくさんありました。清水義範の全集まであるんですよ。井上さんぐらいになると、後輩たちの本なんて読まないのかと思ったけど、ちゃんと読んでいるんですね。いろんなものを吸収して、そのうえで自分のものにしていたんです。
高木歌舞伎は読んでも面白いですからね。もともとは民俗学をされている梅原猛さんも歌舞伎を書いていますが、とても面白いです。
鈴木、三遊亭圓朝の全13巻の全集があるのですが、これがものすごく読みずらいんですよ。「真景累ヶ淵」もありますし、リチャードさんなどが出てくるイギリスの話なんかも入っています。落語家でも全部読んだ人はほとんどいないでしょう。私は読みましたが、遅筆堂文庫にも、圓朝全集はありましたよ。井上さんも読んでいたんでしょうね。
高木三遊亭圓朝という人は、いつ頃の方なんですか。
鈴木明治の初期の人ですよ。
高木明治初期というと、まだ国情が落ち着いていないときですよね。
鈴木そうなんですよ。でも名作がたくさんあります。芝居をやる人たちは、こういうのも読んだほうがいいでしょう。
高木演劇関係の本は新書になっているものもたくさんありますから、それだけを集めて読むのも面白いですね。
鈴木僕は最近、新書で、脳をテーマにした本を何冊か読みました。パソコンなど、目を動かさずに、一か所だけみている人たちは、脳の動きが鈍くなると書いてありました。視野がせまくなって、だれかからポンと肩をたたかれただけで、すぐにドキっとしてしまう。まわりがみえなくなってしまうんです。それは思想にもいえることだなと私は思ったんです。
高木なるほど。わかります。
鈴木昔は本を買おうと思って、一週間、神田に通い詰めて探したりしたよね。それを思えば、今は天国だよ。アマゾンですぐに買えるし。それなのにみんな本を読まない。なんで?
高木たしかに昔は、ほしい本を一年かけて探したりもしていました。今、ぼくは、「日本の古本屋」をというサイトをよく利用しますが、インターネットで手に入らない本はほとんどなくなりました。
鈴木だから読まないのかな。いつでも手に入るから。
高木今、古本は値段が下がっています。昔は神田に行くと、全集が並んで置いてあって、きっちりビニールがかけてあって、10万円とかの値札がついていた。それがインターネットに出るようになって、同じ商品が全国にあることがわかってしまった。だから値段もどんどん下がっている。あべさん、芥川全集はいくらで買ったの?
あべやっぱりその「日本の古本屋」を利用して……。
鈴木アメリカの古本屋で買うこともあるの? 埼玉の古本屋は?(笑)
あべ埼玉も日本ですよ! 芥川全集は9冊揃いで、送料も含めて3,000円くらいでしたね。
鈴木安すぎるよ! 芥川龍之介に謝れよ!
高木芹沢光治良の『人間の運命』全巻もたしか2,500円くらいで買いました。
鈴木そんな……。本はすごいのに、なんでそんなに安いのかな。
鈴木いま、各社で新書を毎月5冊ずつ出したりするじゃないですか。でも全部読んでもらいたい、売ろう、と思って出してるわけじゃないからね。
高木え? そうなんですか? じゃあ、出す意図はどこにあるんですか。
鈴木そのうち1冊でも売れればいいんだよ。小林よしのりさんが言っていたんだけど、『ジャンプ』とか『モーニング』とか、マンガ雑誌があるでしょう。あれは、三つ、好きな連載があれば買うんだって。ひとつだと立ち読みしちゃう。また、実際読めるものって、三つくらいしか入ってないの。でもその三つだけ載せて売れるかっていうと売れないんだよ。また、その三つ以外で食べてる人たちもいるわけだし。
高木確かにそうですね。新書だって今、嘘みたいにたくさん出てますよね。新書は出せば、ずっと残るんですよね?
鈴木それが違うんですよ。私の本でも断裁になったものがあります。1年間に何冊売るっていうのがあって、売れないと記録から抹消されちゃうんだよ。
高木でも新書って、通し番号があるじゃないですか。
鈴木通し番号があっても、本屋にも会社にも在庫がないという状態になるんですよ。除籍処分みたいなもんです。かつていたことはいたけど、もういませんよ、そんなの、って。新刊書のコーナーだって、何日か経つと変わるじゃないですか。売れそうな本は棚に入るし、売れない本は下げられます。生存競争が激しいんですよ。単行本は下手すると月刊誌よりも早いかもしれない。月刊誌は一か月必ずありますからね。いい本だから残るとか、売れるとか、新書だから永遠に残るとか、そういうことは無いんです。昔は、自分の著作が3冊文庫に入ったら、一生食えるなんて言われたことがあったんだよ。そのくらい売れれば、単行本もたくさん出て、文庫もどんどん増刷されて・・・。今はそんなことないからね。10冊文庫になっても、食えないことはざらです。
高木書く人もどんどん書かなくちゃならないですよね。時代小説の佐伯泰英は二十日で1作書くと言っています。自分のことを「職人作家」といって、とにかく機械のように書く。そこまでやってるから食えていると言っています。実際そのくらいのペースで出ていますよね。時代小説のコーナーは佐伯泰英の名前ばかりです。サラリーマンのように自分でルーティンワークとして決めて書いてるそうです。
鈴木すごいね。それでどうやって物語を作ってるんだろう。考える人がいるのかな。
高木編集者の方が資料を揃えたりというのはあるでしょうね。裏付けをとったりするのは、さすがに一人じゃ時間的に無理でしょう。
鈴木平岡正明さんは、生前、1年に5冊は出さないと食っていけないと言っていました。単行本で5冊出すっていうのは大変だよね。とくに、平岡さんは連載をたくさんやってたわけじゃないから。5冊書き下ろしで出すには、2か月に1冊です。大変だよね。それで奥さんと子供を養って……。たいていの作家は、連載を持って、それを1年やって本にして、2年で文庫になって。それ以外は新書とか軽めの本をやったりしてるでしょう。
高木丸山健二さんは1年に1冊と決めて、その1本で食ってますよね。でも1本だと東京では食えないから、長野に引っ越したと聞きました。
鈴木文壇の付き合いも嫌だったんでしょうね。彼は仙台出身で、僕と同じ年です。一度だけ会ったことがありますよ。昔はそうとうワルだったみたいですけど、どうやってあれだけの文章を書けるようになったんでしょうね。当時、芥川賞を最年少で獲りましたよね。見沢知廉も丸山健二のような作家を目指したんでしょうね。
鈴木山口瞳の『江分利満氏の優雅な生活』(ちくま文庫)、また息子さんの山口正介さんが書いた『江分利満家の崩壊』(新潮社)なんかを読むと、作家の業を感じるよね。
高木僕も作家にあこがれたことはあるのですが、ああいったのを読んでしまうと、嫌ですよね。こんな人生を送るのかと思うとちょっと。車谷長吉さんの小説を読んでも、衝撃的ですよね。
鈴木車谷さんにはぜひ会ってみたいですね。彼は『現代の眼』にいたんだよね。僕が書いていたころも接点があったのかな。そのこともぜひ聞いてみたいですね。
高木車谷長吉のデビュー作を読んだときは、この現代に太宰が出てきたと思いましたよ!
鈴木穂積隆信さんも会いたいですね。昔、テレビで一緒に出たことがあって話をしたんですが、そのときはちょうど、娘を更生させて、教育評論家としてもてはやされたときだったんです。でもそのあと、奥さんも亡くなって、娘も亡くなった。そして『積木くずし』の続編では、(これはフィクションかもしれないけど)娘は死んだ奥さんの本当の子どもじゃないと言ってるんです。ふつうだったらそういうことは隠しますよね。でも作家というのは、それを隠しちゃいけないと、使命感を持つんです。作家の業なんです。そしてときには事実よりも膨らませたり、ドラマ化なんてしたら、脚本でもっと膨らませたりしますよね。
高木『積木くずし』はリアルタイムでしたよね。僕が学生の頃は、学校で不良たちが暴れているような時代でしたから。今は、不良ってあまりいないですよね。窓ガラス割ったりしないでしょう。反抗期とかないのかな。
鈴木60歳過ぎたら反抗期ですよ! 私は今、反抗期です(笑)。それから思春期です。
鈴木みんなが読んでない全集を読んでみるのもいいよね。そういう虚栄心みたいなものも必要でしょう。自慢できるし。
高木そうですね。どうしても偏りはでてきますね。僕は、アメリカの作家はあまり読んでいないんです。次に挑もうと思っているのはノーベル文学賞作品を全部読むことです。作品単体で獲っていない場合は、その作家の作品をひとつ読むとか。
鈴木芥川賞作品を全部読むのもいいね。短いし、ためになるよ。全部でどのくらいあるんだろう。
あべ(ウェブサイトで検索)ノーベル文学賞は、1901年から始まっていますね。芥川賞の第一回は1935年で、石川達三『蒼氓』が受賞しています。第二回は該当なしです。2.26事件のために審査が中止になったそうです。
鈴木芥川賞は全集が出てるよ。(芥川賞全集・全19巻・文藝春秋)東中野図書館にもあります! ひとつひとつの作品が短いから、それを読むのもいいでしょう。直木賞よりもだんぜん芥川賞がいいと思いますね。
高木全集は持って歩くのが大変だし、僕は文庫が大好きなんですけど、最近はお年寄り向けというか、字がどんどん大きくなっていますよね。昔はもっと小さい字でした。
鈴木新聞の活字も大きくなってるよね。
あべ最近は有名な文学作品も、表紙を若者向けにしたり、解説に人気のあるタレントを入れたりして、売れる工夫をしてますよね。
高木極端な話、この1年、ノルマは達成できなくても『人間の運命』と『芥川賞全集』だけを読破するっていうのも面白いかもしれないですね。
鈴木僕も芥川賞作品は全部読まなくちゃと思っています。
鈴木学生時代は全集ばっかり読んでいたから、月に30冊は読めてなかったと思います。今と違って、新書も、岩波新書と中公新書と講談社現代新書の三つしかなかったから。分量としては読んでいるけど、冊数では読んでなかったね。
高木文春新書や、新潮新書は以外と新しいんですよね。岩波も版を変えながら、青とか赤とか、いろんなシリーズで出してますよね。
鈴木昔は岩波文庫を全部読もうと思って頑張ってたやつもいたし。すごいよね。
高木僕は、小学校から高校までの間、近所の本屋さんで、新潮と角川の文庫は「あ行」から全部読みました。うちは親が本代には糸目をつけなかったし、しかもそこの本屋では、ツケで買えたんです。
鈴木赤川次郎から読み始めたの? 芥川龍之介?
高木赤川次郎はなかった気がします。芥川はもちろん読みました。ドストエフスキーもこのときに出会ったんですよ。
鈴木新潮文庫全部読んだなら、もう何も読まなくていいんじゃないの?(笑)
高木いや、今は新潮文庫が難しくて(笑)。女子高生とかが出てくるライトノベル読んでるのが楽しくてしょうがないですよ!
鈴木そんなの読む必要ある?
高木まあ、小休止ですね。今年のノルマは年間400冊で、そういったのも読みつつ、太宰とドストエフスキーの文庫になっているものを、もう一度全部読みなおそうと思っています。
あべどのくらいあるんですか。
高木太宰とドストエフスキーだけだとそんなに多くないんだよね。だから、安部公房もいれて、読みなおそうと思っています。それでさっき『人間失格』を買ってきたのですが……。
あべ高木さん、『人間失格』は7、8冊持ってませんか?(笑)
高木たぶん、50回以上読んでると思うけど……。
鈴木失格しまくりじゃないか! 映画監督の新藤兼人さんが『老人読書日記』(岩波新書)という本を出してるんだけど、ものすごくよかったですね。同じ本をたとえば、20代、40代、90代で、それぞれ読んだときの記録をつけたりしているんです。そうやって読むといいんじゃないの。やみくもに50回読んでもしょうがないよ!
高木毎年読んでいるので、決してやみくもに読んでるわけじゃないですけど、変化があったときに読むというのはいいですね。ここ2〜3年は、とにかく冊数を読むことにこだわってきたので、やはり読む本の質は落ちてきてるんです。だからこそ、太宰、ドストエフスキー、安部公房の読み直しはやろうと思っています。
鈴木高木さんは1日4時間、読書してるんだよね。
高木そうですね。朝起きて2時間くらい読んで、そのあとは、外で読んだりもしますね。
鈴木いま、作家でも、そんなに読んでる人っていないよ。家庭を持ったらまずできないしね。時間があったら読もうかな、なんて思ってたら絶対読めないしね。
高木実際、4時間くらいは読書の時間を持たないと、300冊とか400冊っていう冊数は無理ですよ。
鈴木僕も、万歩計みたいに細切れの時間をつなぎあわせたら、そのくらい読んでるかもしれない。空いた時間でファミレスに入るとか、山手線をぐるぐるまわるとか。
高木鈴木さんはもう全集読まないんですか。
鈴木もういいですよ。全集と愛国心は卒業しましたから。三島全集をもう一回読み直すとか…きついから嫌だなあ。でも、司馬遼太郎と坂口安吾は全部読まなくちゃと今年、思いました。
あべ昨年読んでみて一番良かった本は、12月31日に読み終えた高橋和己の『邪宗門』です。自らの意思で餓死を選び、最後に一粒の涙を流す……このために読んできたという気もちになりましたね。
鈴木いまどき『邪宗門』を読んだなんて、えらいね。30代の女性で読んでるのは、君だけだよ。表彰したいくらいだね。今度『紙の爆弾』で、邪宗門について対談やろうよ。
あべ鈴木さんは、昨年読んだ本でなにがよかったですか。
鈴木天童荒太『悼む人』(文芸春秋)を読んだけど、これは良かったですね。私のことだと思いました。天童荒太さんの本は全部読もうと思っていますよ。あとは、百田尚樹『永遠の0』(講談社文庫)もよかったですね。僕は北朝鮮に行く飛行機の中で読みました。「よど号」の人にあげたら、すぐ読んで、「感動した」とメールが来ました。
あべ私も読みました。ちょうど、特攻隊のお芝居をする友人がいて、この本をすすめたら、すごく喜んでくれましたよ。
高木僕は昨年読んで特によかった本、2冊あります。時間を忘れて読んだのは、小説だと、スティーグ・ラーソン『ミレニアム』1〜6巻(ハヤカワ・ミステリ文庫)。もうひとつはジョルジョ・アガンペン『言葉と死』(筑摩書房)です。これは久しぶりに心をやられました。あとはやっぱり『人類の知的遺産』ですよね。『善導』『ヴァスバンドゥ』『ウパニシャッドの哲人』『ナーガールジュナ』このあたりはちゃんと心に残っていますね。
高木もしこの鼎談を読んで、読書ノルマをはじめたいと思った人がいるとしたら、まずは、なんでもいいから興味を持った本から読み始めてほしいですね。書店に行って、新刊書のコーナーをみて、ジャケ買いでもいいし、書店員さんのポップを参考にしてもいいと思います。読書はまず、時間を作ることが大事だと思います。
あべ携帯のゲームはやめないとダメですよね。Youtubeとかも観はじめたらキリがないですからね。
鈴木あとは、本を読んで話す友達がいるといいよね。友達もいないで孤独に本を読んでる人は本当にえらいと思うよ。私は学生時代、ヘーゲルを読んだとか、吉本隆明を読んだとか、常にそういう話題があった。読んでないと馬鹿にされるしね。今はそういう人いないでしょう。
あべ映画やドラマの原作本は、読んでない人とでも話ができるからいいですよね。あとは、SNSで読んだ本について書くと、自分も読まきゃと思って影響されたり、それが励みになる場合もあります。
高木僕は読書代行の一環で、読書指南もやっています。たとえば「息子が本を読まないので、まずは何を読ませたらいいか」などメールで相談にのっているんです。最近は代官山蔦屋など、専門のコンシェルジュを置いたアグレッシブな本屋も出来ていて、とてもいいことだと思います。カップルがデートで行ったら、1日過ごせると思いますよ。
鈴木いま、そんなに知的なデートしてるカップルなんているのかな(笑)。
〈福島第一原発の停電事故。仮設配電盤、交換せず〉
自民党が圧勝し、「結果が出たじゃないか!」と言わんばかりに原発推進派は勢いづいている。電力会社もそうだろう。その中で、油断が生まれたのだろう。早く、専用の配電盤に交換していたら停電事故は防げた可能性が高いという。基本的なミスなのだ。
〈オウム死刑囚 尋問申請〉
元オウム真理教幹部・平田信被告の公判前整理手続きで、東京地検が死刑が確定した井上嘉浩、中川智正両死刑囚の証人尋問を東京地裁に申請した。
平田被告の裁判は、オウム事件では初の裁判員裁判で審理される見通し。死刑囚の証人尋問は極めて異例で、裁判員裁判では初となる。この問題について話し合った。奇しくも、今日で、地下鉄サリン事件から、18年になる。
続いて、「ニュース 本音と建前」
〈暴走する北朝鮮の狙い〉
国連で18日に始まった「武器貿易条約」の交渉の場では、北朝鮮政府代表が「世界最大の核保有国の先制攻撃の脅威に直面し、核を持たなかったある国が、強大で誇りある核保有国になった」と演説し、北朝鮮の核武装はアメリカの核の脅威に対抗するためだと正当化した。
そして、「労働新聞」は、「今日から朝鮮戦争の休戦協定の効力は完全に白紙化された」と宣言。金正恩体制が強くないので、あえて、「強硬姿勢」を示しているのか。又、中国は押さえられないのか。わざと「押さえられない」ポーズを示しているのか。その辺について、かなり突っ込んだ話をしました。
終わってから新宿へ。雑誌の取材。
〈世界にもし100通りの「平和」があったら=それでも、9条の「非戦」は有効か?=〉。
東京外大・伊勢崎ゼミ生も活躍してました。満員でした。とても勉強になりました。終わって、打ち上げにも参加しました。