こんなに早く出るとは思いませんでした。
編集者が優秀なんでしょう。ライターも出版社も大変だったと思います。本当に緊急出版ですよ。
それに、よく出来てます。私でも知らないことが沢山ありました。『「拉致疑惑」と帰国』(河出書房新社)です。
書いた人は「よど号」グループ。検証する人は鳥越俊太郎さんです。椎野礼仁さんが纏めました。「よど号」の人々が帰国を前にしての「決断の手記」です。
私も、自分のことのように嬉しいです。
だって、本当は、私が一番初めに「出そう」と言い出したんです。私が「よど号」全員にインタビューして、纏めようと思っていたのです。
私は北朝鮮には4回、行ってます。
はじめの1回目は、「よど号」グループと会えませんでした。
そして、2回目、3回目は、小西、若林さんと会い、4回目の時は、奥さんを含めて6人と会いました。
彼らと会った時から、「本を出しましょうよ。私が話を聞きます」と言ってました。
そして、去年の4月(これが4回目です)、行った時、「じゃ、やりましょう」ということになりました。池口恵観さんが団長で、訪朝した時です。
この時は、軍事パレードを見ましたし、金正恩さんは間近で、3回も見ました。
金日成、金正日さんの銅像の除幕式にも参加出来ました。金日成さんの生誕100周年で、国を挙げてのお祝いムードでした。
その歴史的な北朝鮮に、恵観さんは連れて行ってくれたのです。
他の時ならまだしも、この時は私は絶対に入国出来ないと思ってました。
でも出来たのです。そして、まるで「歴史の現場」にいたような感じを持ちました。
「よど号」の人たちとは何度も会いました。そして、本を出すことを納得してもらいました。
「じゃ、次に来る時は、編集者の椎野礼仁さんを連れてくる。そこで、皆と話をして、纏めてもらい、本を出そう」と言いました。
そして数ヶ月後、訪朝団に2人入って、行くことになったのですが、何故か、私にはビザが下りない。過去4回も行けたし、(去年4月は)あんな国を挙げてのお祭りの時にも入れた。
じゃ、もう大丈夫だろうと思ったが、ビザは下りない。そこが北朝鮮の複雑なところだ。
仕方ないから、編集の椎野礼仁さんには、(せっかくだから)行ってもらった。そして、話を聞いてもらった。
でも、「よど号」の話だけだと「一方的」だと誤解される。それを避けるために、「中立的」な人に行ってもらって「検証」してもらおう、ということになった。
それで、鳥越俊太郎さんが急遽、北朝鮮に行くことになった。
「鈴木は、どうせ、ビザが下りないだろうから」と、私は放っておかれた。(最初に話をつけたのは私なのに…)。
鳥越さんは北朝鮮は初めてだ。「よど号」の人たちにも遠慮のない質問を浴びせる。その上で、「検証」記事を書く。
だから、単なる、「よど号」の「言い分」を載せたのではない。
鳥越さんの「検証」「正直な感想」が載ってるし、椎野礼仁さんの「解説」も載っている。
私は、言い出しっぺだが、でも、インタビューにも、検証にも加われなかった。ビザが下りず、行けなかったんだから仕方はない。
しかし、これが、かえってよかったのだろう。だって、鳥越さんが「検証」してくれたんだし。
4月27日(土)に、この本の出版記念会があって、そこで私も話をしたが、私が「よど号」にインタビューし、「検証」したら、「鈴木はよど号に近いから、そう言ってるんだろう」と多分、言われるだろう。
昔は敵・味方だったが、今は、「仲間」のような感じだ。その「親しさ」が時として出るし、誤解されるかもしれない。
その点、鳥越さんは、中立の、峻厳なジャーナリストだ。〈現場主義〉で厳正な取材をしてきた。
その鳥越さんが、北朝鮮に行き、直接、ズバズバと彼らに聞く。そのことで分かることも多い。「疑惑」も解明される。
これは私では出来なかった。私なら「中立」にはなれないし、「峻厳な検証」も出来ない。
椎野さんが「解説」してるが、「よど号問題」には2つの意味がある。
1つは、1970年3月31日の「よど号」をハイジャックして北朝鮮に渡った事件だ。
これは彼らも乗客に迷惑をかけ、申し訳ないと反省している。謝罪している。日本に帰国して、この問題では、裁判を受け、潔く刑に服すると言っている。
前に捕まった田中義三さんは、12年の刑だった。(刑務所で亡くなったが)もし、4人が帰国して裁判を受けたら、田中さんよりも先輩だし、懲役15年位の刑になるのではないか。
今、65才位だから、裁判がすぐ済んだとしても、出てくるのは80才位だ。若林さんなどは「老後は刑務所で」と言っている。それ位の覚悟をしてる。
だから、このハイジャックについては、潔く刑を受けようとしている。何ら問題はない。
ところが、もう1つの事件が起こった。彼らは、北朝鮮に行ってから、ヨーロッパに行き、そこで日本人を拉致して北朝鮮に連れて来たのではないか、という疑惑だ。
元の仲間の八尾恵さんなども「証言」している。又、バルセロナの動物園で一緒に写した写真も出てきた。
そして、「よど号」の何人かに逮捕状も出ている。
しかし、「よど号」グループは、全く身に覚えがない。アメリカの陰謀だと言っている。「自分たちが同じ日本人を拉致するはずがない」と言ってきた。
又、写真も、偶然に撮られたもので、撮った人、撮られた人の名前も知らなかった、と言っている。
こんな不名誉な、デタラメな容疑を受け入れて日本に帰ることは出来ない、と言う。「逮捕状を撤回しろ。それからでないと帰国出来ない」と言う。
その、ヨーロッパでの「拉致疑惑」について、鳥越さんは、厳しく追及している。そして、「検証」する。
だからこそ、この「検証」は、リアリティがあるし、信憑性があると思った。もし私がやっていたら、そこまでの「信憑性」はないと言われただろう。
私は、この本を一気に読んだ。そして「日本人拉致は彼らはやってないだろう」と思った。この本の目次から紹介しよう。
『「拉致疑惑」と帰国』
=ハイジャックから祖国へ=
序文 国民の審判を仰ぎます 小西隆裕
検証 過去に何をし、政府は何をしているのか 鳥越俊太郎
解説 よど号ハイジャック事件とこの40年 椎野礼仁
第一章 私たちの在朝40有余年 小西隆裕
第二章 「大きな愛の中で生きる」を原点に 若林盛亮
第三章 田宮を祖国へ帰したい 森順子
第四章 責任を果たすために 黒田佐喜子
第五章 見直し帰国は私の愛国闘争 魚本公博
第六章 「拉致容疑逮捕状」とは何か—八尾証言への反論 赤木志郎
特別座談会in平壌
「序文」で「よど号」リーダーの小西隆裕氏は、70年のハイジャックについては反省し、どんな責任でも負うと言っている。そして、
〈私たちのうち三人には、「結婚目的誘拐罪」なる容疑で、国際指名手配がなされている。だが、誓って言うが、この容疑、いわゆる有本恵子さんや石岡亨さん。松木薫さんたち「特定失踪者」に対する拉致疑惑に、私たちは全く関与していない〉
〈このたび、上記の不当な逮捕状・国際手配をめぐって、その取り消しを求める国家賠償訴訟を提起した〉
そして、鳥越さんの「検証」が始まる。北朝鮮に乗り込んで、ズバリと聞く。
1970年にハイジャックして渡った時は9人だった。その後5人が亡くなり、今、北朝鮮にいるのは4人だ。それと奥さんが2人いる。計6人だ。
その6人に聞く。特に、リーダーの小西さんに聞くのだ。
6人の手記を読み、調査し、その上で、これだけは聞きたい。そしてその真偽をはっきりさせたい。と鳥越さんが思ったのは、以下の5点だ。
①有本恵子さん、石岡亨さん、松木薫さんの日本人拉致に関わったのか
②その根拠となった八尾恵証言をどう考えたらいいのか
③今、何を求めているのか
④現在、平壌で何をして暮らしているのか
⑤現在の北朝鮮に対してどのように感じているのか
その前に、平壌に入った時の第一印象が記されている、近代的なビルが林立している市内を見て、驚く。
〈ビルの形も、四角四面のものではなく、円筒だったり、複雑にアールが付いた曲線的なそれだったりと、モダンなものも結構ある。普段日本のテレビで流されている北朝鮮とは百八十度異なる光景に、ここは本当の平壌なのかと正直言って思った。各国の経済制裁により、貧しさにあえいでいる国という予断は、まったく裏切られた〉
これを読んで、私の方こそ驚いた。
だって、マスコミは北朝鮮といえば、飢餓、脱北者、貧乏…といった映像しか流さない。
本当は近代的なビルが林立し、ジェットコースターに人が集まり、携帯を手にしている若者、ローラースケートをしている若者。そういう映像を出すと、「北朝鮮らしくない」と、視聴者からクレームがくる。
だから、北朝鮮の〈現状〉は知っているのに、国民に媚びて、あえて、「飢餓、脱北者、貧困」を印象づける映像ばかりを流しているのだと思っていた。
つまり、局の上の人たちは知った上で、あえて、国民が喜びそうな映像を流しているのではないか。
ところが、本当は局の上に人たちも、本当の実態を知らないのだ。鳥越さんだって、近代的ビル群を初めて見て、ショックを受けたんだから。
では、「拉致疑惑」の件だ。
〈他人を犠牲にするハイジャックをやった「よど号グループ」のメンバーだから、若い人たちの人生を犠牲にする拉致行為もやったんだろう。これは多くの日本人が抱く疑問だろう。私もボンヤリだが、そういう思考だった〉
ボンヤリだが、疑っていたのだ。彼らがやったのでは…と。
〈しかし、今回のインタビューではっきりしたのは、彼らが「よど号ハイジャック事件は誤りだった」と明確に否定総括をしている事実だ。だとすると右の小西氏の答えから分かるように、「よど号ハイジャック」の延長線上に、「拉致行為」を捉えることは論理的に難しくなる。
彼らが全くの虚偽を述べているのであれば、これはまた別の話になる。しかし、私の取材者としての直感では、小西氏らの証言に論理的破綻は感じとれなかった。ここは今後のさらなる精査と判断を待ちたい〉
多くの事件を取材し、現場に行き、検証した鳥越さんが言うのだ。これは大きい。又、ヨーロッパでの「拉致疑惑」についても…。
〈バルセロナの動物園での石岡亨さんとのスリーショット写真が残っている森順子氏、黒田佐喜子氏にも、話を聞いてみたが、本書に展開されていることを縷々述べる二人の口調には、特に不自然なところは感じられず、論旨も説得的で、彼ら・彼女らが「日本人獲得運動をやる必要はなかった」という主張も否定できない〉
鳥越さんがここまで断言しているのだ。私も、彼らは「日本人拉致」はやってないと思う。話を聞いた鳥越さんだって、そう確証した。
だったら、日本に帰ってきても、検事や裁判官だって、そう思うだろう。
だから帰国してから、裁判ではっきりさせればいいのでは。と私は思ったし、出版パーティの時も、ピョンヤンとの電話で、小西さんとその話をした。
でも、彼らの決意は固い。「そう言ってくれる人もいるが、日本人拉致の嫌疑をかけられての逮捕は嫌だ」と言う。なかなか難しい。
二次会の時、元赤軍派の金廣志さんと話をした。バルセロナでの「写真」の話になった。
「これが決定的な証拠だ」と言われるが、逆ではないのかと私は思う。もし万が一、「拉致」をしようと思って日本人に声をかけたのなら、どんな状況でも写真を撮らせたりしない。
「写真を撮りませんか」と言われたら、「あっ、汽車に間に合わない!」とか言って、何としてでも、その場を去る。写真を撮らせたりしない。
「証拠」になるからだ。それなのに、カメラを向けられると、のんびりと写真に収まっている。「犯罪」をやろうとしてないからだ。
「そうですよ。僕も15年間逃げていたので、絶対に写真なんか撮らせていません」と金廣志さんは言っていた。
彼は逮捕状が出て、15年間逃げ回り、時効まで逃げ切って、今は、社会復帰している。「奇跡の人」だ。
「あの写真」を見て、普通の人なら、「怪しい」「これが犯行の証拠だ」と思うが、それは、シロウトだからだ。犯罪をやったことのない人間だからだ。
我々、犯罪をやった人間から見ると、この写真があることで、「やってない」「無関係だ」と分かる。…と金さんは言う。
「我々」って、私も入っているのかな。私も昔は「犯罪者」だったし、だから、この〈写真〉のおかしさも分かるのかもしれない。
というわけで、実に多くのことを考えさせられる本だ。「国民の審判を仰ぎます」と小西さんは言っている。
これは、多くの論議を呼ぶだろう。話題になり、売れている。さらに、いろんな所で討論会などをやったらいい。そして、「よど号」「拉致疑惑」について、考えてもらいたい。
これは不思議だった。選手が勝ち上がり、感情移入する。自然に、自分で、気合が入り、盛り上がる。他のスポーツでは、ちょっとないだろう。どう崩し、どう投げるか。技の駆け引き、なども勉強になった。今度、講道館で試してみよう。
午後7時半に、テアトル新宿に行く。「戦争と一人の女」を上映している。最後の回が終わってから30分間、寺脇研さんと壇上でトーク。
寺脇さんはこの映画のプロデューサーだ。「なぜ戦争はなくならないのか」「この作品に込めた坂口安吾の思いとは」などについて、かなり、じっくりと話し合いました。
終わってから近くの居酒屋に行きました。スタッフの人たちも。宮城県の酒と魚がおいしかったです。ご馳走様でした。この映画は韓国でも公開される。「それで明朝の飛行機で韓国に行きます」と寺脇さん。元気だ。
毎朝、国旗掲揚がある。似ている。時代も同じだ。全共闘全盛の時に、他にも右翼的な学生寮があったのだろうか。本人のことか。友人の話か。。
夕方、仕事の打ち合わせ。家に帰って、朝まで原稿。。
昼、高田馬場で取材。午後3時、河合塾コスモ。「現代文要約」。
5時「読書ゼミ」。木村草太『憲法の創造力』(NHK出版新書)を読む。なかなか衝撃的な本だ。「あれっ、偶然ですね。今日発売の『アエラ』にも私の書評が出てるよ」と言って、皆にコピーを配りました。そのあと、生徒と食事会へ。
そうだ。学校に行ったら、「今朝のモーニングバードに出てましたね」と言われた。知らなかった。「今日、テレビ局に行ってから、こっちに来たんでしょう」「いや、前に出て喋ったんです。今日、出ることは忘れてました」
他の局のニュースバードという番組にも出たことがある。birdは「鳥」だろう。大空から鳥の眼で見るのか。それに、鳥は左右の翼を羽ばたいて空に飛び上がる。それで、私も呼ばれるのだろう。
終わって、山口さんと一緒に飲みに行く。前に、ちょっと挨拶したことはあるが、本格的に話したのは初めて。今度は札幌の「時計台シンポジウム」でも来てもらう。お世話になります。
「今朝の北海道新聞に鈴木さんのコメント出てましたよ」と山口さんに言われた。あっ、この前、札幌に行った時に取材されたんだ。
①4月27日(土)午後6時、後楽園の涵徳亭。『“拉致疑惑”と帰国=ハイジャックから祖国へ=』(河出書房新社)の出版記念会がありました。「よど号」グループの6人が書いてます。
又、鳥越俊太郎さんが北朝鮮に行って彼らに現地取材をしました。出版記念会では、鳥越さんがその時の経過を報告しました。
⑦北朝鮮ニュースサイト「デイリーNK」の東京支局長の高英起(こう・よんぎ)さんと。テレビでよく見ているので、会った気になって話したら初対面らしい。でも、「高校生の時、河合塾の左右激突討論会(塩見孝也vs鈴木邦男)を見に行きました」と言う。