これは奇蹟だ。「奇蹟の空間」だ。と思った。
〈愛知サマーセミナー2013〉に参加して、そう思った。実感した。
こんなにも真摯に、「学ぼう」という人がいるのか。
知りたい。考えたい。話し合いたい。そして自分に何が出来るかを模索したい。
そんな人たちがこんなに多くいたのか。
驚いたし、全く知らなかった。知らなかった自分が恥ずかしい。
最近始まったのかと思ったら、もう25年もやってるという。大変なご苦労だ。
私立中学・高校が集まって毎年7月に3日間やっている。後援は愛知県・愛知県教育委員会・名古屋市・名古屋市教育委員会だ。
そこに私は呼ばれて、憲法の話をした。
「何でこんな奴を呼ぶんだ。セミナーが汚れる。という反対があったでしょう」と聞いたが、実行委員会の人は、「いえ、そんなことはありませんでした」と言う。
いえ、いえ、随分とご苦労があったと思いますよ。申し訳ありませんでした。
この企画のことを初めて聞いた時、中学生・高校生を相手に、何人かの先生が話すのかなと思った。3日間で10講座か、20講座くらいだろう。
参加者だって何百人か。と、漠然と思っていた。
でも25年もやってるというし、「毎年、どの位の人が参加してるんですか?」と聞いた。
「まあ、5万人位ですね。今年はさらに多くなるでしょう」。
ゲッ、5万人!と驚いた。
さらに驚いたのは、講座数だ。
ぶ厚い、立派なパンフレットが事前に送られてきた。
凄い講師陣だ。為末大、伊藤真、大田昌秀、堀潤、佐藤かよ、寺脇研、雨宮処凛、小出義雄、森田実、SAM、杉本彩、戸田奈津子、尾木直樹、大村秀章、佐野眞一、武田邦彦…と、凄い人たちが出ている。
そこに私も出ている。私も聞きに行きたい人ばかりだ。
当日は早めに行ったので、マラソンの小出義雄さんの話を聞いた。大教室が満員だ。話もうまい。皆、熱心に聞いている。
凄いな−。私じゃ、とても出来ない。それに、私じゃ、人も入らないだろう。2人か3人だったら、どうしよう。と急に不安になった。
どこの大学だって、どこの催しだって、これだけ豪華な講師陣を揃え、それも3日間に集中してやるなんてことはない。物理的にも出来ない。経済的にも出来ない。
それに、無料なのだ。市民講座やカルチャーセンターなら、一講座何千円、何万円と取られる。それなのに無料だ。
7月13日(土)、14日(日)、15日(月)の3日間だ。1日に4限目まであるから、たとえ全部出ても、12講座だ。実際、全部出る人もいる。
でも、講座は100以上ある。「それに一般の人や高校生などが企画してやる講座もありますから」とスタッフの人が説明してくれる。
厚いパンフの後ろの方にはそんな自由な企画がびっしり書かれている。
「じゃ、全部で200講座位あるんですか?」と私は聞いた。
「いえ、2000講座あります」。
エッ!2000ですか。驚いた。スケールが違う。よく出来たものだ。
大変だ。会場を探し、講師に声をかけ、日程を調整し、教室を割り当て、さらに、手伝ってくれるボランティアを集め…。と気の遠くなる作業だ。
1年がかりで準備する。「あさって終わったら、すぐ来年の準備に入ります」と言う。
本当に奇蹟だ。どこの大学だって、出来ない。又、どこの県だって出来ない。
「愛知県で出来るのなら我が県でも…」と考えたとこもあったようだ。
しかし、出来なかった。その準備だけで、大変な作業だし。1年も、そのために準備するなんて出来ない。
大体、会場だって、大変だ。今年は南山大学を3日間、借り切っている。それだけでは足りず、南山中学・高校も使っている。毎年、いろんな大学に声をかけて借りてるという。
当日・7月13日(土)に行ってみたら、大学内は人、人、人…だ。「大学祭」のようだが、それを遥かに凌ぐ人出だし、熱気だ。
今年は、名古屋は3回目だ。2月11日の教会講演会。5月5日の呉智英さんとの講演会。そして7月13日のサマーセミナーだ。皆、エキサイそれに年齢層が広い。大学祭なら、大学生が中心だが、この「サマーセミナー」は、中学生、高校生、大学生がいるし、一般の大人、年輩の人もいる。全国民的なイベントだ。
さて、当日の話だ。私は憲法の話をする。
13日(土)の4限。2時50分から4時10分の80分間だ。1時間位話をして、20分間は質問を受けよう、と思った。
場所も分からないし、又、少し早く行って会場の様子も見たいと思って、名古屋に午前11時半に着いた。
岩井正和さんと岩本忠則さんが迎えに来てくれた。
岩井さんは西宮「鈴木ゼミ」の責任者だし、岩本さんは名古屋の牧師さんで今年2月11日に私を教会に呼んで講演会を企画してくれた人だ。
岩井さんと岩本さん。岩岩さんだ。「ダブル・ロック」だ。(あっ、ダブルコロンにも最近会ってないな)。
今年は、名古屋は3回目だ。2月11日の教会講演会。5月5日の呉智英さんとの講演会。そして7月13日のサマーセミナーだ。皆、エキサイティングな企画だった。
岩本さんは車で来ていて、会場まで連れて行ってくれた。ありがたい。
南山大学は、名古屋駅からちょっと離れている。だから助かった。
車で30分ほどで南山大学に着いた。実行委員会の人と打ち合わせをし、それから大学の中を見学した。
まず弁当を買って、食べた。中学生、高校生、大学生…と若者が多い。こんなに沢山、若者を見たのは久しぶりだ。
食事のあと、キャンパスを歩いた。「ほう、人が多いね」「いろんな催しがあるね」と言いながら歩く。
「あれっ、今、すれ違った人、大田さんじゃないかな」と言ったら、岩井氏がすかさず追いかけて、話しかける。
あっ本当だ。元沖縄県知事の大田昌秀さんだ。
「あっ、鈴木さん。初めまして。でも、鈴木さんのことはよく知ってますし、佐藤優さんからもよく聞いてます」と言う。
ありがたいです。「今度ぜひ、ゆっくり話しましょう」と言ってくれる。嬉しいですね。ぜひ、お願いします。
太田さんはこの日、「沖縄から憲法改正について考える」を講義したんだ。
そのあと、「鈴木さーん!」と追っかけてきた人がいる。増山麗奈さんだ。
あ、久しぶり。増山さんは画家、ジャーナリストだ。13日(土)と14日(日)の2日間出る。「ミライのタネ〜FUTURE SEED」と、「ドイツに学ぶ原発廃炉・再生可能エネルギー」だ。
あっ、そうだ。7月6日(土)に、函館に行った。60年安保の時の全学連委員長・唐牛健太郎さんのお墓参りだ。
「そこで、あなたのお師匠さんに会ったよ」と言った。秋山祐徳太子さんだ。アーチストだ。この人が、波のデザインの、唐牛さんのお墓を作ってくれたんだ。
そんな話をしましたよ。
それから、キャンパスを歩いてたら、小出義雄さん(佐倉アスリート倶楽部代表)の「かけっこ人生」の看板がある。
ちょっとのぞいてもみようよ、と入った。500人位入る大教室が満員だ。
話もうまいし、引き込まれる。多くのマラソン選手を育てた監督だ。「ただ、勝てる練習法をやっただけだ」と言う。
これは意外だった。その話を中心に、詳しくする。最後まで聞いていたかったが、私の講座がある。
それに、自分が講演する場所も見てみたい。G棟1Fの27教室だ。
ビックリした。大きい。300人位入るだろう。後ろが、どんどん高くなっている。上から遥か遠くの講師を見下ろす格好だ。
こんな大教室で講演するのか。緊張する。
それに、前の講義だが、高校生の自主講座のようだ。前の方に5、6人集まっていて、何やら話し合っている。
「私の講義もこうなるよ」と思わず弱音を吐いた。聴衆は、岩井氏と岩本氏の2人だけかもしれない。
「いや、岩本さんの友達が来ますから、少なくとも3人はいます」と岩井氏が励ましてくれる。あまり、励ましにならんよ。
それから、一旦、控え室に戻る。実行委員会の人と打ち合わせ。
そして再び会場へ。
驚いた。入口に人が大勢集まっている。「あれっ?誰の講演?」。「鈴木さんですよ」。
てっきり、隣の教室で誰か有名な人の講座があるのかと思った。私のとこに並んでるなんて全く思わなかった。
受付の人が、「“右翼の人の会場はどこです?”って何人にも聞かれました」と言う。
物珍しさもあるんだろう。“生きた右翼”が見れるって。
でも、もう右翼じゃないし。期待に応えられないよ。
と思っていたら、「鈴木さん、久しぶり」。
あっ懐かしい。エート、誰だっけ。
「江副(えぞえ)ですよ。一緒に生学連の運動をしてた」。
そうだ、そうだ。生長の家の学生部で一緒に運動をしてたんだ。TOTOの社長の孫だ。
それなのに、世のため人のために、学生運動をやった。偉い。
奥さんも一緒だった。家に案内チラシが入っていて、それを見て来てくれたという。ありがたいです。
そうだ。受付で、ぶ厚いパンフレットの他に、もう一つ、案内冊子をもらった。〈第25回 愛知サマーセミナー2013〉と書かれている。
25年間も続いたんだ。ご苦労さまでした。そて、こう書かれている。
「サマセミ史上最大級の2000講座!」
「多彩な講座が目白押し!」
やっぱり、2000だ。ちゃんと書いている。
それに私なんかまで呼んでくれた。「多彩な講座」ですよ。
それに愛知県と愛知県教育委員会も後援してくれてる。教育委員会が後援してくれた催しで講演したなんて初めてだ。
冊子には、このサマーセミナーの特徴をこう表現している。
〈『21世紀型学び』を創造し続けて四半世紀!
本・人・体験・社会から学ぶ「夢の学校」さらにグレードアップ〉
そうか。「夢の学校」か。本当にそうだよね。
それに「21世紀型学び」というのもいい。
だって、「知識を得る」だけだったら、コンピューターに敵わない。
生徒たちは、知りたいこと、疑問に思ったことは、パソコンや携帯ですぐに検索出来る。瞬時に「解答」が出る。
昔のように、沢山知ってる先生が「知識の切り売り」をする授業は、もう成り立たない。
むしろ、一緒に悩み、迷い、考えてくれる。そんな人が必要なのだろう。
そうか。最近私も、そんなことを書いたな。7月20日発売の池上彰編の『先生!』(岩波新書)だ。サマーセミナーだって、同じようなことを考えたのかもしれない。
それで、気合いを入れて講演しましたよ。
テーマは、「安倍政権の改憲提案・歴史認識を斬る!」だ。
自分の学生時代からの体験を話し、憲法改正運動を40年以上やってきたと話す。
今でも、憲法は見直すべきだと思っているしかし安倍政権の下で、「勢い」で改憲されてはたまらない。といった話をした。
大教室だし、後ろの方が高くなっている。一番後ろは、かなり高い。
そこから見ると、講演者は遥か下だ。
写真を見ても分かるだろう。200人近くが集まった。ありがたい。3人しか来ないんじゃないかと、心配してたのに。
それに、一般に開放してるから、年齢層が広い。中学生、高校生、大学生、そして社会人。60、70代の人もいる。
こんな幅広い層の人々に話したのは初めてだ。
話し終わって20分ほど質問の時間を取った。
次々と質問が出る。アメリカについて、TPPについて、右翼の生き方について、…等々だ。
質問が終わらない。「すみません。時間なので」と司会が言う。
終わっても、質問の人が詰めかける。何と、列を作っている。
「一緒に写真を」「サインを」と言う人もいる。ありがたいです。『愛国者は信用できるか』『愛国と憂国と売国』を持ってる人が多い。中には『がんばれ!新左翼』も。
大学生、高校生もいる。「中学生です」という人もいる。
「憲法は国民が国家を縛るものだと習いましたが、それについて…」と、質問も凄い。
「偉いね。私は中学生の頃なんて、日本に憲法があるなんて知らなかったよ」と言った。
謙遜じゃなくて、本当にそうだ。日本に天皇がいるということも知らなかった。ボーッとしてた。
アホな中学生だった。やっと日本にテレビが出回っていた時代だし、パソコンや携帯もない。分からないことがあっても調べる手段はない。いろいろ先生にも聞けない。
分からないものは分からないままに、大きくなった。
だから、今でも考えているのかもしれない。『巨大な疑問符を与えてくれた』と私は書いたんだな、『先生!』(岩波新書)に。
27人も書いてるが、私のが一番、ヒネクレてるかもしれない。「変な先生」にばかり出くわし、巨大な疑問符を与えてられた。そして、今も悩んで、考えている。それがよかったんだろう。
「当たり前のこと」「正しいこと」「よいこと」を教えられたら、その場で、ただ納得し、右の耳から入り、左の耳へ出てゆく。残らない。
「これは変だよ」「おかしいよ」と思ったことは、ずっと頭の中に残り、考えている。
私の〈勉強〉とは、それだったのかもしれない。
「憲法」だって、「これさえあれば平和だ」というのもおかしいが、「これさえ変えれば、全てはよくなる」というのも間違っている。
もっともっと考えろ。悩め。迷え。…といった話を、この日の講演でもした。
質問にも、そう答えたような気がする。これが「21世紀型学び」ですよ、と自分に言い聞かせながら。
終わって、控えしに戻り、実行委員会の人たちと話をして、帰りました。
岩・岩コンビ。それに岩本さんのお友達と4人で車で、そして、名古屋駅前の居酒屋で打ち上げをして、東京に戻りました。
「夢の学校」で、夢の体験、未知の体験をし、とても感動しました。緊張しましたが、とても有意義な1日でした。
実行委員会の皆様、ボランティアの皆様、ありがとうございました。案内してくれた岩・岩さんも、ありがとうございました。
①鈴木邦男講師(三島の思いを熱く語る男)
②永田麗講師(三島文学を読み解く男)
③大岡淳講師(読書劇で観衆を虜にする男)
それぞれ1時間ずつ、語る。私は「三島全集」を読破したし、かなり三島を読み込んでるつもりだが、永田、大岡先生には敵わない。読みの「深さ」が違う。私はまだまだですよ。未熟です。
永田先生は『金閣寺』を、大岡先生は『近代能楽集』をテキストにして話す。大岡先生はさらに、生徒とともに、「読書劇」にも挑む。凄いです。とても勉強になりました。
終わって、先生・生徒たちと食事会に。さらに、先生とフェローだけでお酒を飲みに行きました。
その友人が笹井大庸さんだ。この時、もう意識はなかった。「でも必ず戻りますから、そうしたら連絡します」と奥さんは言っていた。
ところが、6月になって亡くなった。3日間は「復活」のためのお祈りをしたという。「でも天国でのお仕事があり、こちらには帰ってこれませんでした」と牧師さんは言う。
兵庫県の鈴木峻牧師と初めて会った。私のことは昔から本などを読んで知ってたという。「笹井氏が鈴木さんと友人だと聞いて驚きました」と言う。
さらに、最近の私のブログを見て、「福島高校の先生だった廣田豊實さんの従兄弟だとは…」と言う。この牧師さんは40年前、福島高校で廣田先生に習ったという。そんなことを、いろいろと話しました。
笹井氏は昔は国柱会の運動をやり、愛国運動をやっていた。一水会を創る頃、一緒に運動した。
ところが20年ほど前、結婚し、キリスト教に改宗した。その後は、キリスト教の雑誌を編集していた。どんな回心があったのか。一度、きちんと聞いてみたいと思った。
でも、余り機会がなかった。彦根に行った時、ゆっくり聞いてみようと思ったが、話せる状態ではなかった。そして亡くなった。何とも残念だ。まだ63才だった。奥さん、子供たちと会った。皆、立派になって、大きくなっている。
初日のこの日、芝居の前に、トークをする。「再生」代表の高木尋士さん、編集者の椎野礼仁さん、そして私。
『二十歳の原点』の高野悦子が自殺したのは1969年。その当時の〈学生運動〉について、3人で話し合った。そして、なぜ死んだのか。その巨大な謎について考え、解明するために今回の芝居があると高木氏。
40分トークし、そのあと芝居。感動的な芝居だった。そして思想劇になっていた。素晴らしかった。終わって、皆と近くの居酒屋へ。12時近くまで飲みました。
12時から映画「死刑弁護人」上映。それから、救う会代表の私の挨拶。映画の斉藤監督、岩井カメラマンの話。そして弁護団報告がある。
満員でした。林眞須美さんの夫の林健治さんも参加して発言のはずでしたが、体調が悪くて来れなかった。眞須美さんは、物証もなく、状況証拠だけで逮捕されて15年。「保険金詐欺をしてるんだから殺人もしてるだろう」という杜撰な推測だけで死刑が宣告されている。これはおかしい、と多くの人が声を上げ、集会をやっている。
又、映画も作られた。弁護団も頑張っている。再審を目指して、闘っている。展望も見えてきた。頑張ろう、と力強く言ってました。
集会が終わってから、近くのお店で打ち上げ。夜、帰りました。
⑮その漫画です。「増刊・特別新鮮組DX」に載りました。
〈「言論弾圧」と戦った736日。
鹿砦社・松岡利康、「不倒の論理」〉
です。私も出てます。そっくりです。みやま荘も、まるで見て来たように正確です。「清貧」という標語も貼ってます。
㉗兵庫県から来られた鈴木峻牧師と。「実は、私も福島で福島高校を出たんです」と言う。「鈴木さんのブログを見て、驚きました。福島高校の先生だった廣田豊實先生は鈴木さんの従兄弟なんですね。私は40年前に廣田先生に習ったんです」。
17才の時に政治、経済、倫理を習ったという。「廣田先生は、静かで、考えながら授業をしてました。生徒を相手に、カントやヘーゲルの話を一生懸命してました。ただ、成田闘争などに生徒が行くと言った時に、『君たちは間違っている!』と大声で怒鳴ってました。あっ、大きな声を出すんだ、と皆、ビックリしました」。
又、詳しく話を聞きたいですね。そんなわけで、廣田先生!見てますか。峻さんは、懐かしがってましたよ。