アッと驚いた。再審になったらいいな、と思っていた。それが、本当になった。
勇気のある裁判官はいたんだ。日本の司法も捨てたものではない。
それに、「拘置、耐え難いほど正義に反する」と裁判官は言った。
そして、3月27日(木)の夕方、即日釈放された。何と、48年ぶりの釈放だ。
喜びたい。と同時に、冤罪で、こんなに長い間、刑務所に入れ、人生を踏みにじってきた国家権力の残酷さを痛感する。
3月30日(日)、静岡に行ってきた。報告集会に出た。凄い人だった。凄い興奮状態だった。そのことは又、来週、報告しよう。
今週は、以下のことを告知しよう。
というわけで、これから書く「予告」をまず、紹介しました。
これからは①に戻ります。『円朝全集』の話からしましょう。
それにしても、こんなチャンスを与えてもらって嬉しかったですね。
原稿依頼が来た時、「えっ、僕なんかでいいの?」と思った。
「ぜひお願いします。なんせ鈴木さんは角川の『三遊亭円朝全集』(全7巻・別巻1)を読破してるんですから。なかなか、いないですよ」と編集者は言う。
嬉しかった。ノルマ式読書だけでなく、「全集読み」に挑戦して、いくつかの山脈を踏破してきたが、「あっ、全集読みをやってきて本当によかった」と実感した。
そして頑張って書いた。
そして、3月26日、その本が発売になった。岩波書店で出している『円朝全集』の「月報」に書いたのだ。
権威ある全集の、その「月報」に私なんかが書いていいのか。と思った理由が分かるだろう。
この全集は、日本出版史にも永遠に残る大企画だ。岩波書店が社運をかけて出版している。
この岩波の『円朝全集』は全13巻+別巻2だ。8巻まで刊行されている。
この8巻の「月報」に私は書いた。
大判で、2段組み。厚い。それに立派な箱に入っている。
8巻は445ページある。それにちょっと高い。定価8000円+税だ。
でもこの内容では、むしろ安い。安すぎる位だ。
今、8巻まで出ているが、全13巻+別館2を買うとしたら、15冊だ。掛ける8000円として、12万円だ。円朝を読破出来るなら安いものだ。
これは〈宝の山〉だ。1200万円。いや、1億2000万円以上の価値がある。
「でも、落語家の全集だろう。それが…」と思う人がいるかもしれない。
なめてもらっては困る。この人は落語界の中興の祖だ。
いや、それ以前に「日本近代文学の父」だ。
当時、日本に入ってきた「速記」の技術によって、円朝の落語の速記本は、ドッと全国に出回った。
喋り言葉だから、実に分かりやすい。読みやすい。挿絵も入っていて、当時の人々は先を争って買い求め、読んだ。
ハラハラ、ドキドキする物語を円朝は次から次と提供した。
坪内逍遙、二葉亭四迷、山田美妙らの言文一致体に影響を与えた。…と学校の国語では習った。
しかし、そんなものではない。むしろ、円朝こそが日本の近代文学を作ったのだ。
森まゆみさんは『円朝ざんまい』(文春文庫)の「あとがき」の中で書いている。
〈私は円朝こそ明治文学史の筆頭に据えるべきであり、“影響を与えた”ぐらいでお茶を濁すのは、『芸人風情』を下に見た悪しき『学士様偏重史観』であると思う〉
その通りなのだ。夏目漱石も読んでいた。実際に、寄席に行って聞いていた。
文学を志す人間が訪ねてくると、「円朝の速記本を読め」と必ずアドバイスをした。文学を志す人々は皆、読んでいたのだ。
今だって、そうだろう。名のある作家たちは、皆読んでいる。
読んでいながら、公表しない。
本当に凄い本は、他人に知られたくないのだ。自分一人の〈宝〉として胸にしまっておきたい。「他の人間に知られてたまるか」と思ったのだろう。
ただ、太宰治や井上ひさしなどは(例外的だが)全集を読んだと「公表」している。
名のある作家たちは皆、読んでるはずだ。嘘だと思ったら、皆も1巻だけでも読んだらいい。「他人になんか教えてやるもんか」「俺だけの宝にしたい」と思う。
その気持ちも分かる。私も多くのことを学んだ。
「そうか、物語はこうやって作るのか」と、ものづくりの工房を覗かせてもらった。そんな気になった。
又、円朝の作った落語は、皆、長い。寄席でやるのは、その何十分の一かだ。
たとえば、「怪談牡丹灯籠」「塩原多助」「真景累ヶ淵」などは、そのサワリの部分は、多くの人が聞いている。又、それが全てだと思っていた。私もそうだった。
ところが、本を読んで驚いた。こんなに壮大な話だったのか。こんなに凄い、面白い話だったのか。とビックリした。
私は数年前に、角川版の全集を図書館で借りて読んだ。読みやすいし、挿絵も入っていて、頁を繰るのが楽しみだった。完全に、魂をもっていかれたような感じだった。
大判の本だが、鞄に入れて持ち歩き、電車の中、喫茶店などで読んだ。
電車で読んでいて、余りに読書に熱中して、乗り過ごしたことが何度もある。
でも、それだけ熱中させる本に俺は出会ったのだ。という幸福感を感じた。
「もう他の用事なんか、どうでもいい。こっちの方が大事だ」と思い、「急用が出来たので」と用事をキャンセルし、電車のホームの椅子に座って、何時間も読み耽ったこともある。
そうか。こういう〈至福の時間〉を得るために俺たちは生きているのか。と思った。
「円朝全集」を読破して、私は変わった。
大きな山脈を踏破した、と表現したが、そんなものではない。
私の全てが変わった。ものの見方が変わったし、「ものを書く」「他人に読んでもらう」とはどういうことか。そのために何が必要か。そんなことを教えられた。
「円朝を読む以前」と「以後」では、私は劇的に変化した。体内の細胞の全てが取り換えられた。そんな感じだ。
小説家であれ、落語家であれ、エッセイストであれ、ものを書く人は、その多くは、円朝全集を読んでると思う。ただ、それを他人に言わないだけだろう。
そうだ。「円朝全集」を読破した人だけを集めて、座談会をやってもいいな。その時は、岩波の『円朝全集』も読破しなくては…。
角川の全集には入ってないものもある。又、読んだものでも、もう一度読む価値がある。挑戦してみよう。
そうだ。その前に、芹沢光治良の『人間の運命』についての座談会をやらなくっちゃ。
そのために、この前は静岡県沼津市にある「芹沢光治良記念館」に行ってきたのだし…。
今週は、「お知らせ」がトップに来ちゃったが、テリー伊藤さんとの対談が、今発売中の『アサヒ芸能』(4月3日号)に載っている。5頁にもわたって載っている。「連載845回」と出ている。
じゃ、日本の主だった人たちとは皆、会ってるじゃないのか。
〈日本全体が「右傾化」している?〉
と聞かれ、私は、
〈思想なき保守化だと思います〉
と言っている。最後には「鈴木邦男さんからのプレゼント」の告知が。申し込むと抽選で「サイン入り本」が送られるという。
私と坂本龍一さんの対談本『愛国者の憂鬱』だ。それと、対談の頁の下には、一つだけ広告が入っている。偶然なんでしょうが。
「〈保釈支援〉。日本保釈支援協会。」そんなシステムがあったんだ。ありがたいですね。
さらに、ビッグなお知らせだ。高橋伴明監督とトークをすることが突然決まりました。
伴明さんは「光の雨」という、連合赤軍事件を描いた映画を撮っている。原作は立松和平さんだ。
2001年公開だし、久しぶりにこの映画を見て、「連合赤軍化する日本」について考えようという企画だ。
私も最近、『連合赤軍は新選組だ!』という本を出したし、その出版記念会でもある。
4月14日(月)、阿佐ヶ谷ロフトだ。トークの前に映画の上映をする。
午後6時45分から映画「光の雨」上映。
それが終わって、8時半から伴明監督と私のトーク。司会は椎野レーニンさん。
この映画は「劇中劇」もあり、実にリアルで、考えさせられる。まるで我々もその場にいるような感じになる。この日はさらにサプライズ・ゲストも予定されている。ご期待下さい。
午後1時、新宿サザンタワーで森岡正博さんに会いました。白井義弘さんの紹介です。
森岡さんはJA長野厚生連顧問。わざわざ長野から来て下さった。いろんな病院の経営に携わり、今は長野で頑張っている。私の本も随分と読んでくれている。
今の政治のこと、社会運動のことを語り合いました。病院のこと、病気のことなど、いろいろと教えてもらいました。とても勉強になりました。
森岡さんはお医者さんだし、いろんなことを質問して教えてもらいました。
私と同じ昭和18年生まれ。「鳥肉は食べられない」とのこと。
孫崎享さん、森岡さん、私。昭和18年生まれは皆、そうだ。家(や近くで)鳥がしめられるのを目撃し、それで鳥肉が食べられなくなった、心優しい少年たちなんだ。
夕方5時半から講道館。村田直樹先生の主宰する「武道懇談会」に出ました。
午後、週刊誌の取材。
夜、打ち合わせ。
途中から来た生徒が、「号外」が出てたと言ってました。袴田巌さんの再審が決定。そして夕方には釈放されたという。凄い!
終わって、有楽町へ。
4時から、日本外国特派員協会。ここで、土屋達彦さんの「お別れの会」が行われた。
土屋さんは、『東京オブザーバー』『産経新聞』の記者をやり、独立。病に倒れながらも『叛乱の時代』を書き上げた。それを私が『アエラ』で書評し、それが縁で、会った。
病院で対談し、それが『紙の爆弾』に載ったが、発売の前に亡くなられた。もっともっと話を聞いて本にしたいと思ってたのに残念です。
この日は多くの言論人が集まって、お別れをしました。亀井静香さんも来ていました。会ったのは、たったの一度ですが、とても感動的な出会いでした。たくさんのことを教えてもらいました。
午後1時から、たんぽぽ舎で対談。
「警察化する日本」「特定秘密保護法でどうなる」「なぜ未解決事件は解決しないのか…」などについて話し合った。飛松さんの新しい本『歪曲捜査』(第三書館)の発売記念トークでもある。
飛松さんはテレビで、「婦警は皆、ブスや」と言って騒ぎを起こしてたが、この本では、公安を徹底批判。
「公安は人間やない。警察のクズや」「こんなもの、いらんわ。卑怯者の集まりや」。凄いですね。又、警察幹部の天下りをやめろ、という。「天下りなんて必要ない。年金で食えるんだから」。
始まる前に、詳しく聞きました。足利事件の菅家利和さん、島田事件の赤堀政夫さんなどにも会いました。
⑱シーラカンスです。「獄中20年」の塩見孝也さん(元赤軍派議長)は、出所後も、世の中のことに疎くて、「シーラカンス」と言われてました。植垣康博さんは獄中27年です。地下に潜りっ放しの人もいます。金廣志さんは15年も逃げ続けました。みんな、〈深海魚〉です。『連合赤軍は深海魚だ!』。次の本のタイトルは決まりましたね。
⑳沼津の山頂に登って、街を見下ろそう。と思って、皆で、登山しましたが、一人だけバテて、座り込んだ人がいます。「こんなことでヘコたれたらあかん! 連合赤軍の苦労を思え!」とハッパをかけられ、立ち上がりました。
〈鈴木邦男『連合赤軍は新選組だ!』発売記念!
高橋伴明監督と『光の雨』を見よう!〉
阿佐ヶ谷ロフトで午後6時45分から「光の雨」の上映。8時30分から、トーク。
「光の雨」は2001年公開の高橋伴明監督の映画。立松和平原作の「光の雨」を基にして、さらに、30年前の回想と現代の若者との対話。そして「劇中劇」が入り、リアルで、考えさせられる。出演も豪華。山本太郎、大杉漣、萩原聖人、裕木奈江…など。