「歴史的瞬間」に立ち会った。そう思った。まさか、こんな展開になるとは思わなかった。
9月11日(木)の夜のことだ。朝日新聞の木村社長が午後7時半から緊急記者会見をした。謝罪会見だ。
実は、この問題についてBS朝日で対論番組があり、田原さんを中心として我々はテレ朝で控えていた時だったので、本当にビックリした。
この時の社長会見の要点は大きくは2つだ。
緊急会見のメインは2つだと言いながら、私は3つ書いた。1.2.が問題だが、それを謝罪する上で、3.は大きな要因になったと思う。
池上氏の原稿は一度、掲載拒否された。ところが、余りの批判の大きさに驚き、9月4日、掲載した。今、読み返してみても、きわめて、まともな文章だ。
それなのに朝日は、パニックに陥っていた。朝日批判の嵐の中で、「どこかで踏みとどまらなくては」と思ったのだろう。掲載拒否という暴挙に出た。これは間違っていた。
朝日幹部には、こんな気持ちがあったのだろう。誤報は認め、訂正する。謝るべきだ。
しかし、ここで謝ったら、それを逆手にとられて、右派や保守派に利用されるのではないか。「ほら、朝日は全て嘘だったんだ」「原発は必要だ」「慰安婦なんてなかったんだ。朝日が作った幻だ!」…と。
そうなっては大変だ。だから、どこかで踏みとどまらなくては…と思った。
でもこれは、「ジャーナリズム」の理屈ではない。社会運動をする「運動家の姿勢」だ。
少し位、大げさでも書き立てて政府を批判しよう。原発、戦争、慰安婦は悪なんだから、それに反対する証言はどんどん載せよう。そんな姿勢だ。
そして、どこまでが本当か。といった検証は甘くなる。又、自分たちには「正義」「使命感」があると思うから、簡単には謝れない。
その点、池上さんは、キチンと批判している。この時とばかりに「朝日は廃刊しろ!」「朝日の記事は全て嘘だった。南京大虐殺も、慰安婦もなかった!」という保守派、保守マスコミとは全く違う。(こんな朝日罵倒をするのも「運動家の理屈」だ。ジャーナリズムの理屈ではありません)。
池上さんは、まず、こう言っている。
〈過ちがあったなら、訂正するのは当然。でも、遅きに失したのではないか。過ちがあれば、率直に認めること。でも、潔くないのではないか。過ちを訂正するなら、謝罪もするべきではないか〉
本当に、その通りです。ジャーナリストにとって、いや、一個人にとっても、最も大切なことだ。
これは、朝日への誹謗中傷ではない。むしろ、温かい忠告だ。その証拠に、こうも言っている。
〈今回の検証は、自社の報道の過ちを認め、読者に報道しているのに、謝罪の言葉がありません。せっかく勇気を奮って訂正したのでしょうに、お詫びがなければ、試みは台無しです〉
そして、次に、こんな重要なことを言っている。
〈朝日の記事が間違っていたからといって、「慰安婦」と呼ばれた女性たちがいたことは事実です。これを今後も報道することは大事なことです。
でも、新聞記者は、事実の前で謙虚になるべきです。過ちは潔く認め、謝罪する。これは国と国との関係であっても、新聞記者のモラルとしても、同じことではないでしょうか〉
これは凄いですね。今、朝日批判をしている保守派、自民党、右派の人たちには絶対に言えないことだ。
だって、池上さんは、慰安婦はいた、と断言してます。
また、国と国との関係(多分、韓国、中国のことでしょう)についても過ちは潔く認め、謝罪しろと示唆している(と私には思えます)。
これは朝日に対しての、この上ない、温かい忠告であり、提言だ。
これを、「単なる罵倒」と思って、掲載拒否するなどとは、朝日も、変です。被害妄想に陥って、パニックになってたのでしょう。
しばらく経ってから、そのことに気づいたのだろう。
そして、池上さんの文を掲載し、又、池上さんの忠告を聞いて、社長自らが謝罪する気になったのだろう。
読者の批判や、他のマスコミの批判もあったでしょうが、この池上さんの文が大きく効いたと思う。又、朝日の記者たちの反撥も大きかったようだ。
それで、9月11日(木)の緊急記者会見になったわけです。
午後7時半から行われました。この時、同じ系列のテレビ朝日の本社に我々はいました。社長会見のことは全く知らずに…。
4日ほど前に言われて、9月11日(木)の夜8時半からのBS朝日「激論!クロスファイア」に出演するため、六本木のテレ朝本社にいた。勿論、朝日の「誤報問題」がテーマだ。
田原総一朗さん、早野透さん、そして私。それに村上祐子アナの4人だ。
少人数ですから、じっくりと話すことが出来る。「なぜこんな誤報が生まれたか」「チェック出来なかったのか」「取り消したのはいいが、なぜ謝罪がないのだ」…といった話になるだろう。
「遠慮なく、どんどん言って下さい。タブーはありませんから」と田原さんも言う。
その時、局のスタッフが入ってきて、「今、社長が緊急記者会見をしています」と言う。
驚いた。こんなタイミングで…と。まさか、「激論!クロスファイア」で取り上げる前に…と思ったわけじゃないだろう。あくまでも偶然だ。
だから我々も、まず、この「記者会見」の実況を見る。社長は思い切って、謝罪していた。編集担当も解職し、自らの進退については社内改革後に判断、と明言していた。今、辞めたら無責任だと思ったのだろう。
慰安婦問題では第三者委員会を作るというし、そうした検証の道筋を作ってから辞めるつもりなのだろう。
この記者会見を見てから、「激論!クロスファイア」を始める。田原さんも、スタッフも大慌てで、脚本を書き替えたり、話の流れをどう変えるか、必死に考えている。
初め8時半から収録の予定だったが、大幅に遅れて9時を過ぎてから始まった。そして1時間。かなり、踏み込んで話をした。
ジャーナリズムなら、自分たちの書いたことも、客観的に検証しなくてはならない。「時代の空気」に舞い上がって、書いてはならない。
又、記者が「正義感」や「使命感」を心の中に持つのは自由だが、それが先行してはならない。それが先行したら、(彼らの最も嫌いな)従軍記者と同じことになる。
何かの為に、書くのではない。あくまでも事実を、それも徹底的に検証して書くべきだ。
又、30年前に「強制連行した」と証言した吉田清治氏は、かなり胡散臭い人物だ。
戦争犯罪を犯した人間の「懺悔」のように装いながら、「運動家」的なスタンスだ。少々大げさで、誇張があっても、日本の戦争犯罪を告発してやる、それをやる運動家だ、と思っていたのだろう。大新聞社なのに、それを検証出来る人がいなかった。
もし田原総一朗さんだったら、いろんな人に会ってるから、この吉田氏に会ったら、キチンと検証出来たであろう。「あっ、これは運動家一流のハッタリだな」「ここは本当かな」「ここは嘘だろう」と。
左右の活動家や市民運動家に何百人と会っている。その嘘も見抜けただろう。
しかし、30年前、厳しく取材、検証する人がいなかった。あるいは又、少しでも疑問があったら、別の学者などに「両論併記」のような形で書いてもらうことも出来た。
でもしなかった。「時代の空気」に乗り、載せた。朝日そのものも、「運動家」的スタイルになってたからだ。
又、内部で激しい議論もされることなく、案外スンナリとこの誤報は通ったのではないか。これは大きな過ちだ。
参考のために、ちょっと話しておこう。
前に紹介したが、『戦場体験キャラバン=元兵士2500人の証言から』(彩流社)が今、出版されている。
これを書いた人たちと、池袋のジュンク堂で私は出版記念トークをした。2500人の元兵士は、思い切って告白してくれた。
ただ、聞く方としては、「本人の体験」だけを聞く。「こんな話を聞いた。他では、こんな酷いことがあったらしい」…という話は載せない。
この本の帯には、こう書かれている。
〈「俺の話はあれだぞ。その場で見た、聞いた話しかできねえぞ」〉
これはいい。「兵士の証言は、物語を圧倒する力がある」という。
だからこそ、元兵士が(自分の話に酔って)、逸脱することを警戒する。
又、同じ人に何度も聞いていると、その人が、どんどん話がうまくなる。「取材者は何を求めているのか」が分かるようになる。
そして無意識のうちに、「サービス」してしまう。これは一番気をつけなくてはいけない、と言う。
又、11月7日にDVDになる映画がある。『リーベン・クイズ(日本鬼子)』だ。「日中15年戦争・元皇軍兵士の告白」だ。2000年に劇場で公開され、話題を呼んだ。
私は松井稔監督と対談し、それがパンフレットに載った。
「こんな反日映画に協力するとは何事だ!」「売国奴め!」と言われた。覚悟を決めて監督と対談した。映画は本当に凄まじい。震えが来た。
〈強姦、試し斬り、非道な拷問、井戸に落とした母子めがけて手榴弾を投げ込み爆殺。七三一部隊による生体実験。中国人を使った人間地雷探知機、人肉食、細菌化学兵器…。
あらゆる加害行為を「実際の戦争を伝えたい」という痛切な思いで加害者(元日本軍兵士14人)自らが勇気を持って告白する。この国の未来を占う上でこの映画を避けて通れない!〉
…と書かれている。
ここまで言うのか。そんな気がした。
松井監督と対談した時のことは、しっかりと覚えている。「人間はカメラを向けられると、つい、演技してしまう」という。
何か面白いことを言わなくては…。見てる人の「期待」に応えなくては…と。
そして、自分の見ていない「噂」「風聞」なども語り始める。
でも、それをやってはダメだ。どんなに面白い話でも、それらはカットしたという。
又、本人の話でも、誇張や脱線をしないよう、徹底的に気をつけたという。やたらとストイックだ、と思った。
この映画は14年経った今、DVDになる。11月7日(金)発売だ。
それを記念して11月5日(水)の夜、ネイキッドロフトでトークをやる。14年ぶりに松井監督と会える。「朝日」誤報事件をからめて、話をしてみたい。
この日は、「ゆきゆきて、神軍」の原一男さんも出てくれる。
又、11月7日発売のDVDには、14年前の松井監督と私の対談も、「特別附録」として付くという。これもありがたい。
今、紹介した『戦場体験キャラバン』や『リーベン・クイズ』。その他にも、戦争犯罪を告発する人々は、誇張や逸脱、噂、本人が見てないこと…などが入らないように、極力、気をつけているはずだ。
少しでも「嘘」が入ったら、「ほら見ろ、全て嘘だ。日本軍はこんなことはしてない」「リンチも暴行もなかった。慰安婦もなかった。南京虐殺なんて全て嘘だ!」と言われてしまう。
実際、今、朝日の「誤報」を鬼の首でも取ったように、右派、保守派は、そう言って騒いでいる。又、「朝日は廃刊しろ!」と言っている。
前にも紹介したが、靖国神社のそばでは市民グループの女性が、こう言って絶叫していた。「朝日の言ってることは全て嘘です。全て朝日のデッチ上げです。日本の軍人は世界一、道徳的で倫理的な軍人だったのです!」と。ウワー、そこまで言うかよ、と思った。
一方の極から、もう一方の極へ走る。これが日本人なのか。驚いた。
朝日の問題は徹底的に批判し、検証する必要がある。又、それとは別に、客観的、冷静に〈戦争〉のことを考える。これが必要だ。
『リーベン・クイズ』のイベントでは、そのことを再び考えたい。又、『戦場体験キャラバン』の人たちとも再び、話し合ってみたい。
熱い講演だった。超満員だった。終わってからも、忙しい中、打ち上げに付き合ってくれた。乾杯のところに参加。「9時から次の予定があるので」と。
とっても律儀な人だ。心の優しい人だ。
〈朝日沈没。読売も部数激減!〉
そうか。朝日をやめて読売・産経に変える人はいないんだ。
〈こんな連中がなんで今まで威張ってこれたの!
そもそも新聞、とっくに死んでるし!〉
これは又、厳しい。朝日に絶望してやめた人は、「じゃ、読売、産経に変えよう」とは思わないで、朝日をやめたままなのだ。「新聞はもういらない」となってるのだ。
だから、新聞の内ゲバをやってる時じゃないよ。新聞というパイそのものが、なくなろうとしてるんだし…。
夕方5時から高田馬場、カフェ・ミヤマの会議室。『日本の軍歌』(幻冬舎新書)を書いた辻田真佐憲さんと対談。『紙の爆弾』で。
前にこの本をこの「主張」で取り上げた。これは面白いし、教えられた。ぜひ会ってみたいと…。
そしたら、これを見て、「じゃ、会わせましょう」という人がいて、対談が実現。ありがたいですね。「希望」は書いてみるべきですね。
前にも、「連合赤軍について、いろいろ書いたので、本にしたいな」と書いたら、彩流社から、「じゃ、本にしましょう」とメールがあって、本当に本になった。『連合赤軍は新選組だ!』(彩流社)だ。
そして、紀伊国屋本店で、「連合赤軍Bookフェアー」まで実現した。ありがたい。願いが叶うブログだ。
あっ、「よど号」についても、書いた原稿がかなりある。まとめて本にしたいな。
そうだ。『日本の軍歌』の辻田真佐憲さんさの対談は、とても面白かったし、教えられました。
終わって「土風炉」で飲みました。この時、司会をしてた椎野礼仁さんが、「9月22日に発売です」と言って、新しい本(見本誌)を見せてくれた。『テレビに映る北朝鮮の98%は嘘である』(講談社+α新書)。
ウワー!何とも刺激的なタイトルだ。それに面白い。これは売れるでしょう。
朴さんは、冷静に話してくれるし、話の的を射ている。実に有意義なトークだった。活発な質問も出た。
終わって、打ち上げ。高校生アイドルの藤波心ちゃんも駆け付けてくれました。感激です! 私も随分と飲みました。でも、最終の新幹線で帰り、家で仕事した。朝まで。
⑦9月13日(土)午後1時、新潟県新発田市の生涯学習センターで、「大杉栄メモリアル2014」が開かれました。
大正時代のアナキストを描いた映画「シュトルム・ウント・ドランクッ(疾風怒濤)=大正アナーキスト列伝=」の上映。その後、太田昌国さん(評論家)の講演。「大鷺栄の眼で現代を視る〜北緯38度線の街・新発田から〜」。私は、聞きに行きました。
朝9時の新幹線に乗って。会場に着いたら、長野の平田竜二君が来てました。
⑬蕗谷虹児(ふきや・こうじ)記念館で。蕗谷は「花嫁人形」などの絵や作詞で知られてます。
三島由紀夫は『岬にての物語』の豪華限定本を作った時、表紙、挿絵を蕗谷に頼んでます。その本が2階にあります。三島のお母さんが蕗谷の美人画が好きで、三島は「お母さん孝行」のつもりで作ったのでしょう。素晴らしい記念館です。
⑰ちゃんと「北緯38°」と書かれています。南北朝鮮の真ん中を通り、日本の宮城県を通り、北米大陸を通っています。さらに、ギリシャも通ります。だから、このモニュメントの石はギリシャから取り寄せたそうです。
⑱そこから車でちょっと行くと、「胎内市」です。〈たいないし〉と読みます。何でも胎内川があって、水はあまり流れていません。でも、その下を流れているんだそうです。胎内に。それで胎内川だと言われてきたそうです。
㉖元大阪高検の公安部長の三井環さんです。三井さんが冤罪で刑務所に行く前、大阪で「壮行会」が開かれました。何と「熟女キャバレー」でした。60才以上のホステスさんばかりでした。「刑務所にも面会に来てくれてありがとう」と三井さんに言われました。
㉗11月7日にDVD発売です。『リーベン・クイズ(日本鬼子)=日中15年戦争・元皇軍兵士の告白』です。11月5日(水)にネイキッドロフトで発売記念トークをやります。松井稔監督。原一男さん(「ゆきゆきて、神軍」の監督)。そして私です。
㉙『ちくま新書ブックガイド』が送られてきました。〈創刊20周年記念「私が選ぶ一冊」〉の特集です。
今まで出たちくま新書は1500冊以上でしょう。その中で「印象に残る一冊」を挙げてくれとアンケートがありました。私は、高橋哲哉さんの『靖国問題』を挙げました。他にも斉藤貴男さんなど何人かも、この本を挙げてました。又、佐藤卓己さんの『八月十五日の神話』を挙げた人も多かったです。
これは本当に、ちくま新書のブックガイドになります。ここに出てる新書は少なくとも全部読まなくちゃと思いました。
そしたら何と、〈鈴木邦男『公安警察の手口』〉を挙げてる人もいました。ビックリしました。全く思ってもなかったので、嬉しいです。塩山芳明さんです。1500冊の中から私の本を選んでくれるなんて、感動です。奇跡です。
㉚9月17日(水)『日本の軍歌』の著者・辻田真佐憲さんと対談しました。ライターの昼間氏が紹介してくれました。高田馬場の喫茶店「ミヤマ」の会議室です。『紙の爆弾』の対談です。これは凄い本です。
私も軍歌については詳しいと思ってましたが、全くかないません。又、〈軍歌〉とは何か。いつ生まれたのか。その果たした役割について教えてもらいました。全く考えてなかったことも指摘され、教えられ、驚きでした。アッという間に2時間が過ぎました。
㉜これがその本です。9月22日(月)発売です。「今、見本誌をもらったとこです」と言って、見せてくれました。タイトルも凄いです。
椎野礼仁『テレビに映る北朝鮮の98%は嘘である』(講談社+α新書)です。サブタイトルには、「よど号ハイジャック犯と見た真実の裏側」。
これは凄いです。講談社もかなり力を入れてます。面白いです。私も、初めて知ることが多く、驚きました。これは売れます!