8月22日(月)は朝、仙台に行く。
台風が来ている。東海道新幹線はストップだ。東北新幹線は何とか動いている。台風が追いかけてくる。
それから逃げ切るように東北新幹線は走る。
夕方からFM仙台に出て喋る。その前に、兄貴のとこに寄る。
FM仙台は3週分とるので遅くなる。そのあと会食だ。
仙台に泊まり、次の日は豊橋だ。23日(火)、午後1時から、東愛知新聞主催の講演会だ。
仙台を朝8時の新幹線に乗って、東京で乗り換えて、東海道新幹線に乗って、豊橋だ。
台風は前夜、仙台を通過し、北海道に向かった。だから、この日は新幹線も大丈夫だ。台風と逆行して、豊橋に行ったのだ。
豊橋には午前11時半に着く。東愛知新聞の山本さんと名古屋の岩井さんが迎えに来てくれた。
昼食をして、講演。
豊橋のキヨスクで新聞を買おうとしたら、驚いた。「東愛知新聞」の一面にデカデカと出ていた。
〈きょう豊橋。鈴木氏講師に例会。
東愛知サロン会。「愛国心」とは何か〉。
東愛知新聞主催で毎月、「東愛知サロン会」をやっている。食事をしながら、講師の話を聞く。
新聞によると、「23日正午から、豊橋市神野新田町のホテルシーパレスリゾートで開かれる」と書いてある。
大変だ。もう始まるよ。急がなくちゃ、と思ったら、「大丈夫です。開会を遅らせますから」。
それで、12時40分から始まった。凄く立派なホテルだ。きれいだし。皆、食事をし、そのあとで、私が講演。
まず愛知サロン会の本多亮会長(東愛知新聞社社長)の挨拶。
そして私の講演。演題は、「〈愛国心〉に気をつけろ!」になっていた。岩波ブックレットと同じタイトルだ。
1時間ほど話し、そのあと質疑応答。
会社の経営者、新聞記者などが多く、質問も今日の政治状況を反映したものが多い。
「日本会議をどう思うか」「天皇陛下の生前退位のご発言について」「安倍政権はどうするのか」…と。
そのあと、時間が早いので、「豊川稲荷」に行きましょう、ということになった。東愛知新聞の山本さんが車で案内してくれた。ありがとうございました。
お稲荷さんの本場だ。あっ、あの赤い鳥居がずーっと連なってるとこですよね、と言ったら、「あれは京都の伏見稲荷です」と言う。違うようだ。
それに、ここは、正式にはお寺だ。詳しく解説してもらう。でも、両方ともお稲荷さんだし、狐が祀られている。
ここ豊川でも、狐の像が沢山あるし、食べ物の「お稲荷さん」の店も多い。
あれっ、あまり店が開いてないね、と参道を歩きながら思った。「ここは毎年1月、2月はもの凄い人です。その2ヶ月だけで商店街は1年分を稼ぐのです」。
エッ、そうなのか。じゃ今度、1月に来てみよう。「ここは商売の神様ということで、参拝も商人が多いんです」と言う。お賽銭も、1万円札がポンポンと入るそうだ。
私は、豊橋と豊川の違いもよくわからなかったので、説明してもらう。豊川という大きな川があって、それが発祥らしい。これは、「とよがわ」と読むようだ。
豊川は豊川稲荷が有名だ。
じゃ、豊橋は。ここは文豪・井上靖の自伝小説『しろばんば」で有名だ。
そうだ。前に、ここに来たことがある。それで、若松園に行った。
又、そのお菓子屋に行かなくちゃ、と言ったら、「もう用意しましたから」と東愛知新聞の山本さんに言われた。すでに若松園に行って、買ってきてくれた。
「うわー、ありがたい」と、頂きました。家に帰ってから、ゆっくり食べよう。
お菓子司「若松園」の紙袋には、大きく書かれている。
〈文豪・井上靖先生絶讃「しろばんば」
若松園の「黄色いゼリー」〉
さらに、「しろばんば」の該当箇所が書かれている。
井上靖は、子供の頃、豊橋にいて、若松園の「黄色いゼリー」を買って食べた。とてもおいしかった。それを書いている。
〈そして若松園という大きな菓子屋へ立ち寄ってそこの喫茶部で菓子を食べた。口に入れると溶ける様に美味かった。洪作はこの美味さを知らせることができないのが残念に思われた。
言葉でいくら説明しても説明できるとは思われなかった。(略)若松園のことや豊川稲荷のことや話はあとからあとから湧いて来て尽きなかった〉
これは実にいい小説です。初め読んだ時は、若松園のことは記憶に残ってなかった。
でも、このことを知り、又、読み返してみた。
井上靖は、ここに住み、若松園や豊川稲荷のことを書き、大いに宣伝してくれたのに、何故か、ここに記念館はない。
私は三浦綾子の小説も好きで、〈全巻読破〉しようと努力している。旭川の三浦綾子記念館にも4回ほど行った。
4回目に行った時、旭川の市内を歩いていたら、「あれっ! 井上靖記念館がある」と新発見をした。
『しろばんば』に出てくる豊橋にはなくて、どうして旭川にあるんだろう。そう思って、記念館に入った。
学芸員に聞いてみた。「私は豊橋に行って、井上靖が食べたお菓子を買ったんですよ」と。
「あっ、若松園の黄色いゼリーですね」と即座に言う。さすがは学芸員だ。
それにしても、井上靖も国民的大作家だ。少し読んでるが、全集を読まなくちゃならんだろうな。どんな作品があったっけ。
手元の『辞林21』(三省堂)で井上靖を引いてみる。
〈いのうえやすし(井上靖)
1907〜1991。小説家。旭川市生まれ(本籍は伊豆湯ヶ島)。京大卒。「闘牛」で文名を得たのち、小説「氷壁」「猟銃」等で知識人の孤独や現代における人間行為の意味を追求。日本の歴史に取材した「戦国無頼」「風林火山」、中国大陸を舞台にした「天平の甍」「敦煌」「楼蘭」などの歴史小説で東洋的な詩精神を発揮。〉
自伝小説「しろばんば」は出てませんね。でも、いい小説です。
男の子が世の中にもまれ、考え、成長していく姿が描かれています。
こういう成長小説は私も、随分と読んでます。私もいつか書いてみたいですね。
そうだ。8月23日(火)に話を戻そう。豊橋、豊川を見て、そして夕方6時、豊橋で、湖西市長の三上元さんに会って、近くのおでん屋に行って飲む。
行く途中、岩井さんがバッタリと会社の同僚と会い、その人も誘う。東愛知新聞の山本さんも合流する。
実は、三上市長とは約束はしてない。時間があるので、「あっ、ここは湖西市とは近いんじゃないの」と思い出したら、岩井さんが、「じゃ、電話してみますわ」と、電話してくれたのだ。
この日は幸いなことに、夜は仕事もなく、帰るところだった。「じゃ、行きますわ」と言って、電車で来てくれた。久しぶりだった。
そうだ。三上さんと二人で講演会をやった時、唐牛健太郎さんのいとこの女性が聞きに来てくれた。初対面だったが、新聞を見て来てくれたのだ。
唐牛健太郎さんは60年安保の時の全学連委員長だった。風雲児だ。これだけの人はなかなかいない。
作家の佐野眞一さんが、この唐牛の評伝を書きたいというので、調べていた。
私も晩年お世話になったので、その話をした。
そしてこのいとこの人も私が紹介してやった。愛知県の知多半島まで、佐野さんと編集者がわざわざ訪ねて行き、数時間、話を聞いたという。その本が、やっとできた。
私の話、いとこの話も出ている。佐野眞一『唐牛伝』(小学館)だ。実にいい本だ。
三上市長さんにも、その話をした。いとこと会ったのは三上さんとの会だったし。「じゃ、読んでみますわ」と言っていた。
おでんを食べながら、酒に酔い、「でも、帰らなくちゃ」と我に返り、9時の新幹線に飛び乗る。
家に帰ってからは、爆睡した。台風に逆らって、旅をした2日間だった。
とても勉強になったが、でも、疲れた。
あれっ、23日(火)の豊橋の話ばっかりで、その前のFM仙台のことを書いてなかった。順番が逆になったので、忘れるとこだった。
FM仙台は東北で一番有名なFM局だ。そこで高校生を相手に、長い間、番組を持ってる人がいる。納谷正基さんだ。
高校生の問題を考えている。この悩み、進路にも相談に乗っている。
高校生はこのくらいのことは知っている、と政治的な話もする。
けっこう難しい。大学生だって難しいんじゃないの。と私は聞いたが、「いや、高校生だからこそ考えるべきなんです」と言う。
ラジオだけでなくいろんな高校に呼ばれて講演するという。
驚いたが、大変な読書家だ。家には何万冊という本がある。
「本を売ったりしない?」って聞いたら、「かわいそうで売れません。大事にとっておきます」。
それに買う本が半端じゃない。「月に5万円くらい買うんですか?」と聞いた。知り合いの区役所職員が月に5万円も買うんだと、威張っていた。それを思い出し、聞いたのだ。
「そんなもんじゃありません」と言う。じゃ、10万か。いや、もっと」と言う。正確な数字は忘れたが、どうも月に30万くらい本を買うらしい。
でも、最低でもその倍の収入がないとやっていけないでしょう?」と聞いた。当然の質問だ。「そんなに収入があるんですか?」「あります。私はこう見えても会社の社長ですよ」。
えっ、知らなかった。大体、FM仙台で対談したこの納谷さんは、どこで会ったのだろう。初対面だと思い、出てくれと言われた時も、「去年会った納谷です」と言う。
「去年、どこで会ったの?」と私は聞いた。そしたら東京だと言う。「鹿砦社の集まりで会ったんです」と言う。
「仙台だというので鈴木さんが声をかけてきたんです」。あっ、そうだっけ。忘れていた。
そうだ。FM仙台の番組だ。毎週月曜日の夕方4時からやっている。〈高校生進路情報番組。グランド・ラジオキャンパス〉という。
やたらと、堅そうな名前だが、違う。何でもありの番組だ。
政治、社会、時事問題全てを扱う。思想、宗教もやる。タブーはない。
高校生だけでなく、大学生も、大人も聴いている、人気番組なのだ。
月曜に収録して、日曜に放送する。午後4時から始まり、2週分をとる。
でも、それでも終わらない。安倍政権、日本会議についても聞きたいと言うし、私の高校時代の話も聞きたいと言う。
そして、もう1回増やして、3週分とった。
高校は仙台の東北学院榴ヶ岡高校だし、地元だ。なぜ、そこに入ったのか。そこでどんな勉強、闘いがあったのかを話した。
「聞くところによると、先生を殴って退学になったそうですが」。
エッ、よく知っている。だから、その話もしましたよ。
でも、大変な時代だったし、苦闘の高校生活だったけど、これが私の「原点」になってますね、と言いましたよ。
教師は生徒をよく殴っていた。それで何が「神の愛だ!」と反撥した。それでよく教師に反抗した。
でも、20年、30年経つと、「ああ、キリスト教の学校でよかったな」と思う。
世界の文学を読み、美術を見る時、キリスト教の知識があるのとないのとでは、大きな差ができる。
又、学校では3年間、一度も日の丸を揚げない。君が代も歌わない。讃美歌だけだ。
これでも日本の学校か、と思うことがあったが、これはよかったと思う。日の丸・君が代を冷静に、客観的に見る素地ができた。
後に右翼運動に入るが、その時でも、「愛国心」についても、客観的に見ることができた。これはとても大きいと思う。
だから、自分と反対の考え、嫌いだと思ったことも、とにかく聞いてみることが必要だよ、と高校生に向けて、アピールしました。
FM仙台には3時間くらいいたのかな。なんせ、3週分だからね。
それから、打ち上げ。「鈴木を見てみたい」という人が一杯いて、大勢で、飲み屋さんに行きました。楽しくお酒を飲みました。
11時頃解散、皆はそれからカラオケ。「鈴木さんはどうします」「明日、早いので、眠たい」と帰りました。
失礼をしたかなと思ったけど、台風と闘いながら、やっとのことで仙台に来て、明日の朝早く、新幹線で豊橋だ。
FM仙台がとってくれたのはウェスティンホテル。凄い。フロントが26階で、私は36階だ。
窓がもの凄く大きくて、仙台の夜景が一望できる。部屋も広いし、きれいだ。仙台で一番いいホテルだろう。申し訳ない。
夜景を見ながら、寝ましたよ。オワリ。
終わって、質疑応答。会が終わってから、豊川稲荷などに行く。
6時に湖西市市長の三上元さんと会う。久しぶりだ。
9時の新幹線で帰る。
特別講師に栗原康さん(政治学者)。栗原さんの『現代暴力論』(角川新書)をテキストに、3人で話をする。革命、テロ、暴力について各方面から話す。
又、今の時代の暴力とは何か。大杉栄などを取り上げながら、話をする。
後半は、生徒も一緒になって話す。今日は夏休み中だが、特別、吉田先生と「合同ゼミ」をやった。生徒も多く集まり、我々も勉強になった。
終わって、近くで食事会。