ドナルド・キーンさんが新しい本を出した。
そのサイン会が日本橋丸善で行われるという。これはぜひ行かなくちゃと思った。10月8日(土)の2時からだ。
本は買っていたし、サイン会の参加チケットはもらっていた。ただ、先着順なので、1時間前に行った。
キーンさんの新刊は、ちょっと変わった本だ。キーンさんと息子さん(養子)のキーン誠己さんの共著だ。タイトルは『黄犬(キーン)ダイアリー』(平凡社)。かなり、くだけた自由な本だ。
本の帯には、2人の写真。そして、こう書かれている。
〈チャーミングなキーン先生がいっぱい。日本文学研究者のドナルド・キーン先生と養子の誠己(せいき)さんの初のエッセイ〉。
キーンさんは日本文学を世界に紹介し続けている。
谷崎、川端、三島、啄木をはじめ、キーンさんが翻訳し、紹介したことで世界文学になった作家は多い。
大の日本びいきで、日本に帰化している。又、誠己さんを養子にしている。
どうして知り合い、養子にしたのか。そのことも含め、2人の生涯、日本文学への愛が語られている。
難しい文学論は一切ない。〈94歳の父と66歳の息子が、ともに暮らしながら、それぞれ日々感じたことをつづった随想録〉だ。
日本橋丸善は大きい。本の在庫は日本一だろう。
本の在庫だけでなく、本の並べ方、見せ方にも大きな工夫がされている。
平積みされている本の量も多い。「ウワー、こんなに積んでるよ」と叫んでしまった。各階ごとの品ぞろえも斬新だ。
そして目についたのが、「今週のベストセラー」だ。
評論、小説、ノンフィクション…と、ジャンル毎に、「今週のベストセラー」が順番をつけられて貼り出されている。
何気なく見ていたら、「ノンフィクション」の部門で、目が釘付けになった。
何と、山平重樹さんの書いた本が「ベスト1」になっていた。『激しき雪=最後の国士・野村秋介』(幻冬社)だ。ウワー凄い。山平氏の本だ。野村さんのことを書いた本だ。それがベストワンだ。これは凄いことだ。
と驚いていたら、向こうから、ゾロゾロと来る一団がいる。
あっ、キーンさん一行だ。
挨拶をした。「あっ、鈴木さん!」と、キーン誠己さん。
ドナルド・キーンさんに説明している。「お父さん、鈴木邦男さんですよ。『石川啄木』を、アエラで書評してくれた。それを読んでお父さんも、『これはいい』と言ってたでしょう。この前、柏崎にも来てくれたんです」と改めて説明してくれた。
「ああ、鈴木さん。この前はどうも」とキーンさん。
キーンさんの『石川啄木』はいい本だった。感動して、アエラに書評を書いた。それを読んでくれたんだ。そして、気に入ってくれた。
又、9月19日に柏崎で講演会があった時に聞きに行き、そこでもサインしてもらった。
キーンさん父子は、僕と丸善で偶然、会ったと思ったようだ。
「実は今日、ここでサイン会があるので来てたんですよ」と誠己さん。
「僕もサインをしてもらおうと来たんですよ」と答えた。
「エッ! そうなんですか」と2人とも驚いていた。
「今回の本も、とてもいいですね。今まで知らなかったキーンさんのことも分かったし」と言いました。
それと、『石川啄木』の話もしました。
素晴らしい本だが、500ページぐらいある。とても厚い。
読んだ人は皆、感動してたが、でも、書評するとなると大変だ。それで、「紹介」はあっても、「書評」は少なかったような気がした。
何かの形で、「これはよかった」「日本人の知らない啄木観を示した」と言うのはいいが、本格的に書評するのは大変だ。
ページ数もそうだが、内容が膨大だ。巨大だ。それで、ひるんだ人が多かったと思う。
私だって、自分が選ぶとしたら、ちょっと尻込みしただろう。で
も「アエラ」からの指定だ。それで、毎日、毎日、読んで、必死で書いた。
これは啄木に対する無限の愛があると思った。こんな啄木論は今までない。
どうも、今まで日本人は、啄木を軽く見ていた。勿論、天才だ。でも、生活がだらしない。金銭感覚がダメだ…と、余分なことで批判する。
そんな下らない啄木批判に対し、キーンさんは叱りつける。
「啄木こそ日本文学を正しく継承している文学者だ!」「これこそが現代日本人の原点だ!」と、驚くことが多かった。
スキャンダルや噂話に振り回されて、その人間の才能を見ようとしない今の日本人に対する抜本的な批判があった。
日本人よりも、日本のことを理解している。そして、危機感を持っている。
そのことを「アエラ」の書評で書いたのだ。それを読んでくれて、「これはよかった」と言ってくれた。
何気なく「ノンフィクション」の部を見てたら、何と、野村秋介さんの本が出ていた。
いや、山平重樹さんが書いた野村さんについての本だ。『激しき雪=最後の国士・野村秋介』(幻冬社)だ。
凄い! 売り上げ1位だよ。驚いた。しかし、見入ってしまった。
そうだ。今週は、今読んでる本を少々紹介しよう。
山平氏の本と並んで、今、売れてるのが、佐野眞一さんの『唐牛伝』(小学館)だ。
唐牛(かろうじ)健太郎さんのことを書いた、1960年の安保闘争時の全学連委員長だった。
その後、学生運動を離れてから、居酒屋、船乗り、肉体労働…と、全国を流離った。
私は、亡くなる少し前に、会っていた。そして、一水会に来てもらって、講演してもらった。
スケールの大きな人だった。私のことも、この本には出ていた。
又、愛知県で、三上元さん(湖西市長)と一緒に講演会をしてる時、初対面の女性が来た。「週刊金曜日」の案内欄を見て来たという。
「いつもイトコのことを書いてくれてありがとうございます」と言った。
「イトコって誰?」と聞いたら、「唐牛健太郎」だという。
驚いた。佐野さんが本を書く時に、佐野さんに頼まれて紹介した。
佐野さんと小学館の人は、かなり遠い、イトコの家まで行き、話を聞いた。
その話が、かなり長く紹介されている。
又、唐牛さんが、田中清玄や、山口組の田岡組長らに助けられて、付き合いがあった話も。
一代の英雄だ。若くして亡くなったが、今でも函館の墓所では毎年、追悼の集いが行われている。
〈50万人の若者を熱狂させた60年安保のカリスマが何者でもない死を遂げるまで〉。と、本の帯には書かれている。
次は、今現在の政治家だ。
塩村あやかさんの本。『女性政治家のリアル』(イースト新書)だ。
1ヶ月ほど前、保坂のぶとさんのパーティでバッタリ会った。
「塩村さんも都議会でいじめられたり、大変だったんだから、本にして出せば」と言った。
そしたら、「今書いてます」と言う。それがこの本か。
最近、都議会は騒々しい。国会よりも注目を浴びている。
だから、築地の話だけでなく、自分のことも、体験した全てのことを書いたらいい。
そう言ったら、こういう本にしたんだ。
本の帯には、こう書かれている。
〈セクハラ野次を受けた女性議員が打ち明ける〉
〈都議会とはどういうところか〉。
そうだね。もう忘れてる人もいるだろうが、あの「野次」はひどかった。
新人都議会議員として、女性の不妊問題の質問に立った時、いきなり「野次」がいろんなところから飛ぶ。
「早く結婚した方がいいんじゃないか」
「まずは自分が産んでから!」
「産めないのか!」。
ひどい。これはもう暴力だ。
しかし彼女はキレることもなく、毅然として質問を続けた。
これは、ほんの一部だ。
女性議員に降りかかる危機、セクハラは沢山ある。
〈女性政治家に立ちふさがる「壁」〉〈東京都議会という「不思議」〉が特に面白かった。
高校を出て、語学留学のために豪州でのカレッジ留学。その後、モデル、ライターを経て、日本テレビ系の「恋のから騒ぎ」に出演。その後、放送作家に転身。
2013年、東京都議会議員選挙に出馬し、当選。
2014年、初の本議会質問時に受けた「セクハラ野次」はマスコミで大きく報道された。
しかし、放送作家がなぜ、選挙に出たのか。
実は、ある番組の脚本を書いていて、そこで、政治に目覚めたのだという。
文化放送の「夕やけ寺ちゃん活動中」だ。この脚本を書いていた。
そこでは、孫崎享さんや私などがレギュラーで出ていた。東国原さんや、政治家も多く出てたし、政治家の生の声を聞く。
そして、東日本大震災にも遭った。政治が何とかしてほしいと思った。
自分で出来ることは何かと必死になって考え、選挙に出たという。
この本の中には、私についてもページをとって書いている。
〈震災は私自身の様々な考え方を変える転機になりました。当時私は、放送作家として「夕やけ寺ちゃん活動中」という文化放送のラジオで毎週20分間くらい社会的な問題を扱うコーナーを担当していました。私の回のコメンテーターは鈴木邦男さんが多く、毎週の時事問題を取り上げていました〉
これからが面白いところだ。
〈鈴木邦男さんは、右の人なのか左の人なのか分からない、という見方をされる方もいるかもしれませんが、私が実際鈴木さんとお仕事をしていて感じたのは、とても本質的な判断をされる方だということでした。今の日本の状況に鑑みて、それは良いことなのか悪いことなのか。そして未来の日本を考える。これだけを判断基準としてご意見をおっしゃる。鈴木さんとお会いしたことで、私は右翼と保守の違いがわかりました。私はこのラジオをやりながら、最終的にはどんな問題も政治に行き着くということを知っていきました〉
そして、積極的に勉強を始め、政治家に会ったり、政治塾に入ったり…と勉強し、選挙に出るまでになるのです。
あんなに都議会でセクハラ野次をを飛ばされ、攻撃されても、毅然としていられるのは、文化放送での勉強があったからでしょう。
又、いろんな人に会って、沢山勉強したからでしょう。
私もとても勉強になりましたし、教えられました。
塩村さんは、さらに大きくなるでしょう。
本について書いたら、止まらない。でも、この辺でやめておこう。
鈴木宗男さんの『ムネオの遺言』(講談社ビーシー新書)もよかった。
刑務所に入って、自分の党が大きくなったのは、この人だけだ。人徳だろう。どこにおいても全力を尽くして人のために働く。それが皆、分かっているからだろう。
一つ一つが「教訓」だ。
金子勝『負けない人たち』(自由国民社)もよかった。
斎藤文彦『昭和プロレス史』(イースト・プレス)も凄い本だった。
プロレス史は500ページもあって、まだ読み切れない。詳しいし、分析が鮮やかだ。
私なんてプロレスはただ、見てただけだ。こんなにキチンと考えながら見てたのではない。斎藤さんの本にはただただ感心した。
貫井徳郎『微笑む人』。森功『黒い看護婦=福岡4人組保険金連続殺人』(新潮文庫)は、一気に読んでしまった。事件ものは、ついつい読んでしまう。
後者は仲間の看護婦を「洗脳」し、操り、夫を殺させ保険金を取る。
前者は、妻と子供を殺した夫の話だ。
「でも、なぜ殺したのか」と聞かれて。「本が多くなって、妻と子供が邪魔になったから」。
普通、本を売るか捨てるだろう。人間の方が大切だ。あるいは、寅ちゃんのように、もう一部屋借りるだろう。
でも、この男は、本は捨てない。大事だ。どんどん増える。妻や子供がいなければ…と考え、実行する。
この不思議な〈動機〉について、取材し、謎を突きとめようとする。
昔、「愛犬家殺人事件」というのがあったな。それにならって言えば、これは、「愛書家殺人事件」だ。
〈愛〉は一番怖いのかもしれない。おわり。
⑪個展の中に、福徳神社を描いたのがありました。面白い名前ですね。どこにあるんですか、と聞いたら、すぐそこです。「よく、行くんです。心が落ち着きます」と榎木さん。それで私も行ってみました。ビルの谷間の静寂です。
㉔10月12日(水)。映画「いぬむこいり」の先行試写会に招待されました。何と、4時間! でも、ずっと映画の世界に入ってました。凄い映画です。面白い! それに社会的な問題提起、文明批評になってます。よくこれだけの映画を撮ったと思います。そのあと、関係者と酒を飲みながら話し合いました。右が監督の片嶋一貴さんです。
㉖先週、偲ぶ会に出ましたが、和多田進さんとは以前、対談して本を出してました。ネットで探してやっと手に入れました。『僕が右翼になった理由(わけ)、私が左翼になったワケ』(晩餐社)です。1997年に出してます。19年前ですね。今読んでも、刺激的です。