2016/12/26 鈴木邦男

三島の映画「愛の処刑」に圧倒された!

①「アエラ」の忘年会で

伊藤文學さんを囲んで。12/18
伊藤文學さんを囲んで。12/18
伊藤文學さん。脚本を持って 伊藤文學さん。脚本を持って

12月18日(日)は、衝撃的な映画とトークの集いに出ました。

三島由紀夫が1960年に書いたと噂される「愛の処刑」。

それが映画化されたのは、それから20年近く経ってだ。三島が亡くなった後だ。

その映画が今、やっと見れたのだ。

映画のあと日本初のゲイの雑誌だった「薔薇族」の編集長の伊藤文學さんとトーク。

実はこの映画のプロデューサーをやったのが伊藤さんだった。

三島の謎に迫る。日本文学史の謎に迫る。実にスリリングな集いでした。

そして、翌、12月19日(月)は、「アエラ」の忘年会。こちらも私にとっては記念すべき集まりになりました。

では、この忘年会の話からしましょう。

12月19日(月)の夜7時から始まりました。

いつもは、シャレたお店を探して、そこで忘年会をやる。毎年、違う店なので探すのが大変だ。

トークを終えて トークを終えて

今年は、朝日新聞社の中にある「アラスカ」でやった。だから、分かりやすくて助かった。

私はちょっと遅れて7時半に着いた。

もう記者や編集長の挨拶は終わって、皆はひたすら飲み、食べていた。

「お久しぶり、一年ぶりですね」と挨拶してる人が多い。

そうか、普段はメールでしか連絡しない。電話の声も聞いていない。

だから実際、会って顔を見るのは、この忘年会しかないのだ。

「アエラ」の編集者やカメラマン、デザイナーにしてもそうだ。

その意味で、この忘年会は大事なのだ。

編集者も、「普段はメールのやり取りだけで、会うこともないので、とても楽しみな忘年会です」とメールをくれた。

私は「アエラ」に書評を書いてるが、書評をする人は10人ほどで、だから、2ヶ月に一度、回ってくる。

打ち上げ会で 打ち上げ会で

この「アエラ」の書評は、かなり注目されている。信用度も高いのだ。

今は、どこの新聞、どこの週刊誌、月刊誌にも「書評」のコーナーがある。その数は膨大だ。何十とあるだろう。

でも、その中でも、「アエラ」は抜群に信用があるし、評価されている。

それは(私以外の)書評者の優秀さにある。そして何よりも編集者の力による。

書いてる人は佐藤優、吉田剛、森永卓郎さんたちだ。日本でもトップの書き手だ。

その人たちが今、日本で話題になり、問題を投げかけている本を取り上げて書評する。

私もつい、読みふけってしまう。「アエラ」が送られてきたら、真っ先に読む。

映画「愛の処刑」 映画「愛の処刑」

この「アエラ」の書評が信用性があり、評価が高いのには理由がある。

書評する本を評者に選ばせないのだ。編集者が決める。

「これをやってください」。あるいは、2、3冊の候補を出して、「このどれかを書評して下さい」と言う。これはいい。

他の雑誌、週刊誌の書評は、ほとんどが、ライター(評者)が、書評する本を決める。

「よし、今度はこの本をやろう」と。そのライターの思いが入ってるから良さそうだが、でもこれは本当は危険だ。

ついつい、自分の書きやすい本を取り上げる。

自分の考えに似てる人。知ってる人。前から知っていて、期待をかけている人。…などの本を取り上げがちだ。

映画「愛の処刑」 映画「愛の処刑」

自分と考えの違う人、全く知らないジャンル。…そんな本は取り上げない。

その点、編集者の方から、「これをやって下さい」と言われると、それしか書けない。

又、「選択の自由」がないと、私などは助かる。

偉い作家や大学教授などから、「お前、書評やってんだろう。俺の本を取り上げて紹介してくれよ」と言われることがある。

他のライターもそういう依頼は多いだろう。

「この前、メシをおごったじゃないか」と言われる。又、「前に、君の本を紹介してやったよな」と言われると、断れない。

あるいは、初めから、バーターで書評をやってるケースもある。「俺の本を取り上げてくれよ。その代わり、君の本を紹介するから」…となる。

②女性が頑張る「アエラ」

『薔薇族』の表紙 『薔薇族』の表紙

だから「書評」のコーナーは、そうした情実、慣れ合い、取り引き…の場になりやすい。

大体、本を書いてる人が評者だから、起きる問題だ。

自分も本を出してるから、自分の本も紹介してほしい。だから、バーターになりやすい。

それを避けるために、「本を書いてる人」をやめて、書店員さんか、出版社の社員に書かせるケースもある。この方が公平だ。

しかし、自分でも本を書いてる人の書評の方が面白い、と思う人もいる。

それで今でも、作家、ライターが書いてる方が圧倒的に多い。

でも、談合になりやすい。「何とか、この弊害をやめよう。そして、公平・中立な書評欄を作りたい」と考えたのが「アエラ」だ。

そのために、ライターには選ばせない。「この2冊から、どちらか選んで下さい」という方針を出す。

伊藤文學「やらないか」 伊藤文學「やらないか」

「じゃ、こっちの方が面白そうですから」と、ライターは手に取る。そして読み、書評を書く。

他にライバルが多くいるから、必死だ。

そうか。これも大きいなと今、気がついた。

他の「書評」だと、1人の書評になりがちだ。

1人のライターが毎週書く。あるいは毎月書く。そのライターの個性が出て、面白いことはある。

でも、皆、忙しい人だ。だから、いつも読んでる人の新刊や、そんなに厚くない本を取り上げる。

そして、自分の好きな傾向の本しか選ばない。そうなる。

でも、「アエラ」方式は違う。ライターに選ばせない。「だから、先生の本は取り上げられないのです」と言うこともできる。

「この前、メシを食わせたじゃないか」と言われても、「私に本を選ぶ権限はないので」と言える。

又、10人近く評者がいるから、「生き残り」をかけて、必死だ。

又、取り上げる本の著者と知り合いという人は、ほとんどない。これもいい。

客観的に本を取り上げて書く。他の評者に負けないように、いい原稿を書かなくちゃと、努力する。

又、自分の知り合いや、前から注目してる人の本は取り上げない。

これもいい。書評の「独立性」が保たれる。

そうか、いつか、「書評論」を書いてみてもいいな。本の「書評」でなくて、「書評論」だ。考えてみよう。

それに「アエラ」は女性が一番頑張っている雑誌だ。優秀な人が多いし、全体の6割以上が女性だという。最も進んだ雑誌だ。

③「愛の処刑」の衝撃

伊藤文學「裸の女房」 伊藤文學「裸の女房」

では、この前日の集会だ。

12月18日(日)、下北沢の書店「B&B」で行われた。

午後3時から、映画が始まる。「薔薇族」の編集長だった伊藤文學さんがプロデュースして作られた映画だ。

1983年に上映された。上映時間は1時間。そのあと伊藤さんとトークがある。

私は文學さんと会うのは2度目だ。こんな所で話をするのは初めてだ。

三島が「愛の処刑」を書いたのは1960年だ。ペンネームでゲイ雑誌に書いた。まだ「薔薇族」は発行されてない。

「薔薇族」は、三島事件の翌年、1971年に創刊された。その時の編集長が伊藤文學さんだ。

ちなみにこの「文學」という名前は本名だ。

こんな変わった名前、本名のはずがないと思っていた。

ところが本名だと知って驚いた。

「平家を語る」あべあゆみさんと 「平家を語る」あべあゆみさんと

じゃ、お父さんが「文学者になれ!」と付けたのか。それは、なぜなのか。今度会ったら聞いてみよう。

それに、子供たちは何という名前なんだろう。「伊藤英文学」とか「伊藤露文学」…と続くのだろうか。

この「愛の処刑」は1960年に書かれた。

三島と思う人もいるが、いや、絶対に違う、と言う人もいる。まだ判定は下ってない。

私は、三島は違うだろう。『仮面の告白』で書いてることが全てだろう。それ以上のことはない。ゲイポルノなのか小説なのか書いてない、と思っていた。

伊藤文學さんは、「これは三島の作品に違いない」と思い、自分で金の工面をして、映画を作った。

鈴木。あべさん。千賀ゆう子さん 鈴木。あべさん。千賀ゆう子さん

ただし、いろんなことがあって、映画を作ったのは、三島さんが亡くなってから10年以上が経ってるが、この映画については「マガ9」のブログにも書いた。

「ゲイポルノ」として作られ、その筋の専門館でしか上映できなかったという。その手の人が集まる「ゲイポルノ」館だ。

上映した映画館は今もあるらしいが、ちょっと変わった雰囲気だ。

男同士のカップルで入り、映画そっちのけで抱き合い、愛し合っている。又、そこでパートナーを探す。そしていろんな「愛」の場面が行われている。

今から考えても不思議だ。「60年安保」「70年安保」と言われ、「革命」の恐怖が言われてた時代だ。〈私は何か〉を問う本になった。引け目を覚えることなく、堂々と生きてほしい〉という伊藤編集長の主旨通り、本は売れた。文化人、ライターも協力してくれた。

④「愛の処刑」から「憂国」へ

京都水族館
京都水族館
イルカショーです
イルカショーです
クラゲ クラゲ

次に三島の側から見る。

1960年に「愛の処刑」を書く。多分これは三島の原作だろう。これを映画化しようという話は出たようだが、とてもできなかった。(この時から30年あまり後になって作られたのかな)

三島は「愛の処刑」を書きながら、あとで何度か直した。

そして直すうちに段々と欲が出た。これだけ命がけで書いた小説だ。日本だけでなく、世界にも出してやろうと。

それで、「個人的動機」ではなく、背景を「2.26事件」にした。

そして世界中の人が見ても納得できる背景にした。

それが「憂国」だ。三島の生きてるうちに、映画化され、世界中で反響を呼んだ。

一方「愛の処刑」は三島が死んで10年経って、やっと映画化された。

しかし、ゲイ専門館でしか上映されない。残念だ。私らも見たことがなかった。ずっと「伝説」であり、「謎」だった。

変わったクラゲです 変わったクラゲです

そして、伊藤文學さんと知り合い、やっと見ることができた。詳しいことは「マガジン9」にも書いた。

文學さんは、「もし三島が見たら、何と言うでしょうか」と気にしていた。

そりゃー喜びますよ。「よくやってくれた」と言いますよ。映画としても、完成していたし、素晴らしかった。

文學さんはゲイではない。でも、長い間、ゲイの雑誌をやっていて、ゲイの気持ちはわかるようになる。

「三島さんは幸せでしたね」と言う。映画の後のトークの時だ。

「どうしてですか?」と聞いたら、「100人からのいい男たちの中で、自分の一番好きな森田と一緒に死ねて」と言う。

ウーン、そう思う人はいるだろうが、それはちょっと違う、と言いました。

確かに三島は小説家として、いろんな趣味は持っていた。

でも、それを「楯の会」の中には絶対に持ち込まなかった。これは、「楯の会」の人たちにも聞いている。

今のようにネットや携帯があって、人間の感覚が鈍磨してる時代ではない。偏見がない分、感覚は研ぎ澄まされている。

京都タワーです 京都タワーです

もし、「楯の会」の中にそんな生々しい雰囲気が入ったら、すぐに感づかれてしまう。

又、少しでもそんなものが噂になったりすると、100人の「楯の会」は一瞬にして崩れてしまう。それは三島もよく分かっていた。

だから、そんな感情は持ち込まない。「楯の会」には、三島の「文学ファン」も取らないと言ってたほどだ。これは間違い無いと思う。

文學さんとは又、ゆっくりと話を聞きたい。

今、文學さんの本を2冊読んでいる。〈『薔薇族』編集長による極私的ゲイ文化史編〉と銘打った。『やらないか!』(彩流社)と、『裸の女房』(彩流社)だ。

後の本は、自らの奥さんについて書いた本だ。ちゃんと奥さんがいたんだ。

だからこそ、ゲイの本は出しながらも、〈同好の士〉にはならなかったのだ。前の本には、例の「福島次郎」のことも出ている。

その話は又、次週にでもしよう。では又、来週。

【だいありー】

「アエラ」忘年会。12/19(月)
「アエラ」忘年会。12/19(月)
山田厚史さんと 山田厚史さんと
  1. 12月19日(月)午前中、原稿。
     午後2時、打ち合わせ。
      7時、「アエラ」の忘年会に行く。「朝日新聞社」の中にあるレストラン「アラスカ」でやる。満員だった。1年に一ぺんしか会えない人もいる。
      ライター、カメラマン、デザイナーと、いろんな人と話をした。
  2. 12月20日(火)午前中、原稿。
     午後3時、取材。高田馬場で。
     夕方、家に帰ってきて仕事。
神山展士さんと 神山展士さんと
  1. 12月21日(水)朝、新幹線で京都へ。
     仕事が早く終わったので、京都水族館に寄る。きれいだし、大きい。
  2. 12月22日(木)学校は休み。11時、打ち合わせ。その後、マンガ喫茶で、夕方まで本を読む。
     7時、「マガ9」の忘年会。新宿御苑のそばの居酒屋。店を借り切ってやる。雨宮さんも来ていた。
「マガ9」忘年会。12/22 「マガ9」忘年会。12/22
  1. 12月23日(金)午前中、原稿。
     午後から河合塾コスモへ。冬休みだが、今日はクリスマス・パーティをやっている。行ってケーキを食べた。
     夜、映画を見た。「Death Note」。
  2. 12月24日(土)午前10時10分。池袋駅集合。10時30分発の特急で、飯能へ。
     ここは、三島由紀夫の小説『美しい星』のモデルになった土地だ。埼玉県飯能。
     ここで三島はUFOと連帯する一家の小説を書く。この一家の皆が、地球滅亡を計る敵と闘うのだ。昔、読んだ時は、軽いSFかと思ったが、どうも違うようだ。思想小説だ。
雨宮処凛さんと 雨宮処凛さんと

1月には、生誕祭でのトークもあるし、この『美しい星』の舞台には、ぜひ行ってみたいと思ったのだ。UFOの来た山の方にも行ってみた。

  1. 12月25日(日)春風亭昇太さんが今、「笑点」の司会だし、登りつめるところまで登った。そんな気がする。だから、やたらと忙しいし、大変だろう。
     夕方、昇太さんの落語を聞いた。
     終わって、挨拶した。

【写真説明】

伊藤文學さんを囲んで。12/18

①12月18日(日)。下北沢「B&B」。三島由紀夫の原作と言われてる「愛の処刑」を上映し、その後トーク。(左から)映画評論家の川本純基氏。伊藤文學さん。「愛の処刑」のプロデューサーです。鈴木。瀧沢。

伊藤文學さん。脚本を持って

②映画の脚本を手に、映画製作の話をする。

トークを終えて

③トークを終えて。私は『薔薇族』のなんで。

打ち上げ会で

④打ち上げ会で。

映画「愛の処刑」

⑤映画「愛の処刑」です。

映画「愛の処刑」

⑥やはり「愛の処刑」です。

『薔薇族』の表紙

⑦『薔薇族』の表紙です。

伊藤文學「やらないか」

⑧伊藤文學さんの出した『やらないか』(彩流社)です。

伊藤文學「裸の女房」

⑨伊藤文學さんの『裸の女房』(彩流社。3800円)

「平家を語る」あべあゆみさんと

⑩「平家を語る」で。あべあゆみさんと。12月17日(土)。

鈴木。あべさん。千賀ゆう子さん

⑪あべあゆみさん。千賀ゆう子さんと。

「アエラ」忘年会。12/19(月)

⑫「アエラ」忘年会。19日(月)。朝日新聞社の中の「アラスカ」で。

山田厚史さんと

⑬山田厚史さんと。

神山展士さんと

⑭ノンフィクションライターの神山典士さんと。

京都水族館

⑮京都水族館で。水族館協会に入ってる水族館は全国で60館くらい。その三分の一は見ました。何とか全部見ようと思って努力してます。

クラゲ

⑯クラゲです。

変わったクラゲです

⑰珍しいクラゲです。

イルカショーです

⑱イルカのショーです。

京都タワーです

⑲京都タワーがきれいです。

「マガ9」忘年会。12/22

⑳12月22日(木)。「マガジン9」の忘年会です。

雨宮処凛さんと

㉑雨宮処凛さんと。

【お知らせ】

  1. 毎日新聞のデジタル版で、「受験と私」というシリーズをやっている。私も取材されて書いてます。「人生に必要なことは全てそこから学んだ」。又、共同通信のネットでは「柔道と私」について話しています。さらに、産経のサイトでは来週載ります。何か、ネットの仕事が最近多いですね。本も、どんどん電子書籍になっちゃうし。
     今、発売中の週刊「アエラ」(1月2〜9日号)に原稿を書いてます。中野信子さんの『サイコパス』(文春新書)の書評です。今年最後の本にふさわしい実に刺激的で衝撃的な本です。読んでみてください。
  2. 2017年1月14日(土)。三島由紀夫生誕祭。
    場所:東京・銀座タクト。18:00〜Open 18:30〜Start。
    会費:男性6000円。女性5500円。
    予約:電話03(3571)3939(銀座TACT)
    祝・『美しい星』映画化。生誕92年! 年に1度のお祝いパーティ。
    第1部 18:30〜 深読み座談会。〜予言小説!?『美しい星』をめぐって〜
        椎根和(『平凡パンチの三島由紀夫』著)
        鈴木邦男(『遺魂 三島由紀夫と野村秋介の軌跡』著)
        横山郁代(『三島由紀夫の来た夏』著)
    第2部 20:30〜 ジャズ&ポップスライブ
        横山郁代(vo)&志村孝雄(p)
  3. 1月19日(木)、一水会フォーラム。6時半、ホテルサンルート高田馬場。講師・浜田和幸さん。「トランプの実像」。濵田さんは前衆議院議員で、トランプさんに会っている数少ない日本人の一人です。貴重な話が聞けると思います。
  1. 「循環する読書会」名古屋会。
    日時:2017年2月5日(日)13:30〜16:30
    参加費:3,000円 終了後に懇親会があります(希望者のみ。参加費は別途)
    場所:ウィルあいち 名古屋市東区上竪杉町1番地
    http://www.will.pref.aichi.jp/will.html
    テーマ本:「これからどこへ向かうのか」
    問い合わせ・申し込み:atsuko.ushijima@gmail.com(牛嶋)
  2. 「循環する読書会」東京会。
    日時:2017年3月4日(土)14:00〜16:30(予定)
    会場:カフェ「ミヤマ」高田馬場駅前店。
    テーマ本:「これからどこへ向かうのか」
    問い合わせ・申し込み:jyunkandokusho@gmail.com