「本当だろうか」と、今でも信じられない思いだ。
日本のトップクラスのあの高校で「授業」をする。私がそんなことをしていいのか。ずっと疑問だったし、信じられない思いだった。
でも、やったのだ。終わった今でも、何やら夢を見ているような思いだ。本当に授業をしたのだろうか。
6月17日(土)、午前10時から12時までだ。麻布高校に行って、憲法の授業をした。
麻布高校については昔から、話を聞いている。中高一貫の学校で、東京ではトップだ。
在校生、浪人生合わせて、毎年100人以上が東大に入る。すごい。開成とトップの座を争っている。
150年の歴史があり、いい場所にある。
元々は幕臣の人が作ったという、歴史のある高校であり、政・財界、言論界などに大奥の逸材を出している。谷垣、与謝野、橋本…と政治家を輩出し、古賀茂明、前文科省の前川…と、話題の人も出ている。宮台真司、川本三郎といった言論人もいる。
日本一、頭のいい生徒が集う高校だ。この生徒の前で私が話す。出来るかな。いいのかな。と気後れしてしまった。
これから10年、いや20年も経ったら、政界、財界、言論界、官僚などで活躍するんだろう。ここにいる生徒ならば…と思った。
それに、この学校は「ガリ勉」ではない。〈自主、自律、自由〉がモットーだ。
なんせ、「校則」がない。服装は自由だし、規律がない。いいのかな、と思うくらいだ。
そして、今回のように、外部の人間を呼んで「授業」をさせている。普通だったらやれないだろう。外部から批判がくる。それよりもPTAから批判がくる。
でも、一見、勝手にやってるようだが、批判はない。「東大入学100人」がものを言うのだろう。この「事実」「結果」の前には誰も文句を言えない。
「優秀」だが、「ガリ勉」ではない。「強制」でもない。やる気を引き出し、そして東大に入る。すごい高校だ。
「麻布高校で講演をお願いします」と言われた時は、「嘘だろう」と思った。
半年前だ。FAXでやり取りをし、打ち合わせで会った。
でも信じられなかった。ただの講演ではない。授業の一環としてやる。
リストを見せてもらった。「憲法と私」のテーマで、やる。
皆、憲法の専門家だ。東大の教授。他の大学の教授。弁護士。裁判官。そして著名な言論人…などだ。
その人たちが各自の専門分野から「憲法」について語る。授業をする。
その中に、私のような「落ちこぼれ」がいて、いいのだろうか。他の先生やPTAから文句がくるんじゃないですか?といろいろ心配した。
「大丈夫です」と先生は言う。「年間100人も東大に入る」。その実績があるから、言えるのだろう。
授業の始まる前に、図書館を見せてくれるとのことで、早く行く。「週刊金曜日」も取材を兼ねて、一緒に行く。
図書館は大きい。全国の高校でも随一だろう。広いし、きれいだ。
それに思想的な本も多い。思想全集、文学全集なども多い。
昔、読んだ本もあって懐かしい。エッ、こんな全集もあるのか。と思う本もあって、興味津々だった。
人生に悩んだ時、困った時などは生徒たちも、ここに来て、本と対談するのだそうな。いい高校だ。
私も高校はミッションだったが、自由なんか全くなかった。厳しかった。東北大に何人入れるか。それで勝負がつく。そのために生徒には勉強を強制した。反抗や疑問は許さない。キリストの愛を言いながら、教師は生徒をよく殴っていた。それに比べたら、ここは自由だ。まるでユートピアじゃないか。と思った。
でも、なかなか入れない。日本でもトップクラスの高校だし。その前に、中高一貫だから、中学入試で通らなくてはならない。大変だ。
図書館では、ゴロリとソファーで寝ている生徒もいる。全てに「自由」なのだ。いいねー。
それに私の本もあった。『失敗の愛国心』などだ。これは嬉しかった。
「あっ、佐高さんの本もある」「本多勝一の本もある」と「金曜日」の赤岩さんは驚いて、写真を撮っていた。
「偏向してる」「一方的だ」と思われるような本も置いてある。優秀な生徒たちだから、自分で判断・批判出来るのだろう。他では、ちょっとない。
職員室を通って図書館に行ったが、この職員室も自由だ。自由な通路だ。皆、勝手に入っている。それに、先生も若いから、先生と生徒の区別がつかない。つかなくていいんだろう。自由だから。
そして、打ち合わせを少しやって、授業のある教室へ。
いやー、緊張しましたね。最近はTBSやテレ朝に出た。憲法について話をした。でも、それよりも緊張する。
日本で一番頭のいい人たちを前にして喋るのだ。緊張するし、怖い。
高校1、2年生の授業だ。3年になると、もう投票権がある。だから、政治や憲法についても実地に勉強するのだろう。
そうだ。この高校では、「高校紛争」があったのだ。大学のストライキは全国でよく行われた。
でも高校のストライキは珍しい。確か、『高校紛争』という本にも出ていた。
そこで、学校側も、キチンと対応した。ただ、弾圧するということはない。生徒の言い分を聞き、全面的に言い分を受け入れたという。すごい話だ。
そのストライキの時に、現場を見ていたのが古賀さんであり、前川さんだという。「歴史の現場」を見ていて、「自分もいつか」と思ったのかもしれない。
授業は、2時間もあって、後半では質問も受けるという。
その前に、憲法についての話をする。改憲運動をしてきた私が、どうして、「改憲」に疑問を持つようになったのか。今、憲法についてどう思っているのか。などを話した。
その前に、この生徒たちと同じ頃、俺は何をしてたんだろう、と思った。
勉強は出来ないし、でも、確固としたものがほしくて、迷い、悩んでいた。
その後、右翼運動に関心を持ち、右翼運動を長くやることになる。そして、何度も捕まったりした。一時の感情で、我を失ってはダメだ。皆も気をつけましょう。という話をした。ここの生徒たちは、そんなことはないが。冷静で、自由な考え方をする生徒たちだから。
こんな失敗ばかりの私だが、憲法については、ベアテさんと出会ったり、左右の先生方に出会って話を聞いたり、いろいろと勉強した。「失敗例」を並べながら話をした。
話をしていて、あれ、こんな授業、どっかで見たな、と思った。そうか、テレビでやっている「しくじり先生=俺のようになるな」じゃないか。しくじりの歴史を語り、こうなってはダメだよとやっている。
でも、同じ失敗はやらないよね。ここの生徒たちは。と思いながら、授業を終えました。
そして、休憩をはさんで後半の授業。今、失敗についてどう思っているかを中心にして話す。
そして質問を受ける。「難しいことは先生に聞いて下さいね。私じゃ答えられないでしょうから」と言ったら、本当に、学問的な質問はない。
「生きている右翼を初めて見ました」「右翼は何を食べてるんですか」「どうして、あんなにいつも怒鳴ってるんですか」「どうして粗暴なんですか」と聞く。野性の猛獣を見るような感じだった。
「粗暴ですみません」「怒鳴ってすみません」と必死に謝りました。
今はやってないけど、昔は私もやっていた。左翼は殴りつけたし、左翼のデモには、いきなり、突入して、乱闘していた。懐かしい。
でも今はやらない。言論でやるしかない。そんな右翼としての私の「変遷」についても語った。
そうしているうちに、12時になる。終わりだ。
ありがとうございました。感動的な授業だった。こんなことは今までなかった。これからもないだろう。
この体験、この記憶は私の一生の宝だ。ありがとうございました。
6月17日(土)に麻布高校に行き、次の日は、「のりこえねっと」だった。
ヘイトスピーチ反対の集会に辛淑玉さんや安田浩一さん、各地で闘っている活動家の皆さん…が集まり、ものすごい熱気でした。私も話しました。
「共同世話人が吠える」とプログラムには書かれていて、ヘイトに対する話を私もした。
でも、静かに話したから、吠えてない。「仕方ありません。吠えろと言われてますから、最後に吠えます。ワン!ワン!」。これで大拍手だった。
17日(土)が麻布、18日(日)が「のりこえねっと」。
19日(月)は、取材や原稿で忙殺。
そして、20日(火)は札幌だった。札幌時計台ホールだ。
小林節先生はかなり古くからの知り合いだ。一水会の現代表の木村三浩氏は小林先生の生徒だった。
それで私も知り合ったのかと思ったら、「そのずっと前ですよ。20年前に、朝生に一緒に出て知り合ったんですよ」と小林先生。
そうだったのか。初めて会った時は、先生はバリバリの改憲派だった。
自民党や読売新聞の改憲草案を作るのに手を貸していた。今、叩き台になっている自民党の改憲草案のかなりの部分を書いたのか。いや、指導したのだろう。
でも、今は、改憲派ではない。いや、「護憲論的改憲派」だと言っている。憲法を尊重し、法を考える。法学者として、極めて真面目に考えているのだ。
「最近、長野に行って、立川談慶さんの落語を聞き、一緒にトークしたんですよ」と小林先生に言った。「そうですか。談慶君は元気でしたか」と喜んでいた。
だから、時計台ホールでも、談慶さんの話から始めた、
立川談慶という名前から分かるように、立川流だ。立川談志の弟子だ。だから、「談志」から一字とって「談慶」だ。慶は慶応だ。談志の弟子で、慶応出の秀才なのだ。
10年前、その談慶さんの「真打昇進」のお祝いがあった。沢山の人が来ていた。談志もいた。そこに小林節先生もいた。
あれっ!落語が好きなのかな、と思ったら、慶応の落研の「顧問」をやってるという。
この時、小林先生の「方向転換」が始まった頃だった。
だから、「どうして自民党の改憲作業から手を引いたのですか?」と聞いた。「彼らは愛国心を憲法に書こうとしている。それが許せない」と言う。
まあ、いいんじゃないの。書くくらいは、と思ったら、「いや大きな勘違いをしている」と言う。
「国民が愛せるような国を作る」これが政治家の役目だ。それを忘れ、国民に「愛国心を持て」と強制する。これは本末転倒だ。と言う。
あっ、そうなのか。と思いましたね。先月、長野の談慶さんの落語会に行った時も、その話をしました。
6月20日(火)、札幌では小林先生の『【決定版】白熱講義!憲法改正』(KKベストセラーズ)が売られていた。かなり多く積まれていたが、すぐに完売してしまった。先生への期待が違うのだ。
この本はコンパクトで値段も安い。665円だ。それでいて、改憲問題の本質がズバッと分かる。
本のカバーにはこう書かれている。
〈護憲派、改憲派のウソから「自民党改憲草案」の欠点まで、改憲論議が一読で丸わかり!〉
〈教えて、コバセツ先生! 慶大×ハーバード大=世界標準の憲法論〉。
さらに、この日、私は、何冊か、小林先生の本を持って行って紹介した。
対談本でも面白いのがある。改憲派との対談本があってもいいと思ったが、ない。どこが違うか。検証してみてもいいと思うが、改憲派では、応じてくれる人がいないのだろう。
この人、論争においては、「敵なし」だ。アメリカで憲法と共にディベートを本格的に学んだんだ。
改憲派の先生や学者で、小林先生と話し合える人はいない。相手にハンディをあげて、それで闘ってもいいと思ったが、それでも出てこないのだろう。小林先生の前では皆、ビビってしまう。
だから最近は〈かつての敵〉の護憲派の人との対談ばかりをやっている。
今、手元にある二冊の本もそうだ。一冊は、樋口陽一さんとの対談本で『「憲法改正」の真実』(集英社新書)だ。
それに佐高信さんとの対談本。『安倍「壊憲」を撃つ』(平凡社新書)。これは「百戦錬磨の論客による闘争宣言」と書かれている。
安倍さんは「憲法改正」ではなく、憲法をぶっ壊してしまう「壊憲」論なんだという。同じテーマを追いかけて、安倍政権を糾弾する。二人の立ち位置も似ている。
ところが集英社新書の方は「改憲派の重鎮」(小林節)と「護憲派の泰斗」(樋口陽一)と書かれている。「護憲派の泰斗」と「改憲派の重鎮」が対決だ。という感じの文だ。
これは実にいい本だった。自民党改憲論を批判した本の中では最高にいい。問題点が整理されているし、憲法や法に関する考え方も違う。私は今までこう思っていた。「かつての仲間」(=改憲派)とは、あまり話が通じない。
その点、護憲派は、「でもこの人は改憲派だ。敵だ」と思われている。初めから距離がある。
この「敵」から、少しでも一致点があると、キチンと理解し、相手にされる。つまり、「違い」を理解出来てるから、冷静な議論が出来るのだと。
でも、この日、小林節先生と話していて、これは違うかな、と思った。
自民党や右派、保守の人と話をしないのは応じる人がいない。ディベートで最高位の小林先生の前には誰もかなわない。恐がって、同席する、なんて言えない。
その点、護憲派はかつての「敵」と対決するというよりも、憲法を専門とする学者同士だから、話し合えた、という感じがしました。
憲法について、今週は2回もビッグイベントがあったな。17日の麻布高校。そして、20日の小林節先生だ。
そうだ。6月23日(金)は急に中央大学での講演も決まって、行ってきた。中央大学といえば、司法試験の合格率がずっと日本一だった。弁護士になろうとして中央大学に入った人は随分といる。
憲法をめぐって1週間のうちに3つも闘った。あるいは、しくじり先生の転機だったのかもしれない。
⑭深月ユリエさん。鈴木。浅野健一さん。深月さんは、魔女占い、祈祷、魔女塾をやり、女優です。「私も、タロットひみこを読んでますよ」と言って、タロット占いの話になりました。浅野さんも飛行機が遅れています。「二人はどうして遅れたの?」と占ってもらいました。