正月からカゼをひいている。頭が痛い。体がだるい。
でも1月18日(木)から学校が始まる。気合いを入れて、行かなくちゃと思いました。
今年初めての「読書ゼミ」では、今、日本で一番売れてる本、話題になっている本を取り上げて、皆で読みました。
こう言えば分かりますよね。吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)です。
80年前に出た本ですが、今、復刊し爆発的に売れてます。百万部近い売れ行きです。
〈日本を代表する歴史的名著!〉
(池上彰氏絶賛〉
と本の帯には書かれています。又、マンガにもなって、同時に発売されてます。
羽賀翔一がマンガを描き、やはり、マガジンハウスから発売です。
原作の吉野の本には、池上彰が解説を書いてます。〈『君たちはどう生きるか』を読む前に、「私たちはどう生きるか」〉と題して。
池上は小学生の時にこの本に出会ってます。父親が買ってきて、「読め」と渡されたそうです。親からそう言われれば反撥するのが普通ですが、ちょっと読んだら思わず目を奪われ、夢中になって読んでしまったそうです。
著者の吉野源三郎は1899(明治32)年生まれ。1981(昭和56)年に82才で没しています。
児童文学者であると共に、編集者として手腕を発揮しました。
いったん東京帝国大学経済学部に入学しますが、哲学への思いが募(つの)り、文学部哲学科に移ります。
社会主義系の団体に出入りしていたことから、1931(昭和6)年には治安維持法違反で逮捕されます。
この経験から第二次大戦後は、いわゆる戦後民主主義の立場から反戦運動にも取り組みます。活動的な人です。
そして、岩波書店の雑誌『世界』の初代編集長を務め、岩波少年文庫の創設にも尽力しました。
この本は、そもそも、1937(昭和12)年7月に発行されました。80年前ですね。
「日本少国民文庫」全16巻シリーズの最後の刊行だったのです。(あれっ、この「全集」は読んだような気がするな。じゃ、吉野の『君たちはどう生きるか』も読んでるのかな)。
この時期は、中国大陸で盧溝橋事件が起き、日本が日中戦争の泥沼に入っていく時でした。
日本国内では、軍国主義が進み、社会主義的な思想の持ち主はもちろんのこと、リベラルな考え方の人まで弾圧された時代です。
一方、ヨーロッパでは、ドイツにヒトラーが、イタリアにムッソリーニが登場。ヨーロッパはキナ臭くなっていきます。まもなく第二次世界大戦が始まろうとしていました。
そんな時代だからこそ、偏狭な国粋主義ではなく、ヒューマニズムに根差し、自分の頭で考えられる子供に育てたい。そんな思いから、吉野は、この本に着手したのです。
戦前に発行されにもかかわらず、戦後も売れ続けます。
いや、むしろ戦後になった方が、よく売れるようになったと言っても過言ではありません。ヒューマニズムに根差した良い本は、時代を超えて人々の心をつかむのです。
…と、池上氏は紹介し、解説しています。80年前に出た本とは知らなくても、今の本として読めるでしょう。
それに、この頃は、たとえ子供向けでも、皆、真面目だし、一生懸命に書いてます。
昔読んだ『路傍の石』にしても、又、先週、紹介した『二十四の瞳』にしても、グングンと読む人の心に入ってきます。
たとえ時代はどうなろうと、「人間はこう生きるべきだ」という強いメッセージがあります。その意味で、80年前の吉野の本に今の人たちは感動するのでしょう。
今だったら、こういう本は書けません。国家や改憲運動に乗っかった本を書くでしょう。
又、アメリカと一緒になって、北朝鮮を叩くのが正義だ、といった〈空気〉の中で書かれるでしょう。でも吉野は、そんな空気や雰囲気など全く無視しています。
なんせ、捕まってもかまわない、という覚悟がありますし。
壺井栄の『二十四の瞳』も、実にいい。
「左翼的だ」「プロレタリア文学じゃないか」と今だったら言われて終わりでしょう。でも、これが出た時は、そんな「空気」など吹っ飛ばすものがあったのです。
あっそうだ。荒俣宏さんが、プロレアリア文学を弁護し、評価した本を書いてたな、と思って、本棚を探したら、あった!
荒俣宏『プロレタリア文学はものすごい』(平凡社新書)という本だ。タイトルもすごいが、内容もすごい。
2000年10月18日初版だ。18年前か。
〈読んでみればこんなに楽しめる! 破天荒な時代を描破した“プロレタリア芸術”をいま新たに読みなおす驚異の文学ガイド〉
と、本の帯には書かれている。
真面目な文学評論であるようだが、違う。プロレタリア文学をからかい、面白がってるようだが、それも違う。
ただ、こんな読み方もあったのか、と我々は驚く。プロレタリア文学って、こんなにも奥深く、広いものだったのか。そんなふうに思った。
たとえば、こんな目次がある。
「第Ⅰ部 プロレタリア文学はおもしろい」では。
第1章 疲れることの怖さ―プロレタリア文学はホラー小説である
第2章 江戸川乱歩の困惑―プロレタリア文学は推理小説だった
第3章 肉体と労働―プロレタリア文学はセックス小説だった
第4章 メトロポリスの人造人間―プロレタリア文学はSFだった
第5章 忍術小説と労働文学―プロレタリア文学は立川文庫だった
第Ⅱ部は「プロレタリア文学はものすごい」で、坪内逍遥、平林たい子、葉山嘉樹のすごさを紹介し、「強いぞ、女教師!―女性たちはプロレタリア文学を変えた」に続く。このラストには壺井栄も取り上げている。
第Ⅲ部は「プロレタリア文学は奥深い」。藤村の『夜明け前』、志賀直哉の『暗夜行路』の裏事情、各派のはざまで…と続く。
時代や「空気」への抵抗、闘いだけではない。作家仲間の恋愛、嫉妬があるし、闘いもある。又、「実は、そんな内輪の争いがこの背景にあるんです」と荒俣は解説してくれる。それが実に面白い。
荒俣さんには一度会って話したことがあるが、あの時は代表作『帝都物語』の話ばかりになった。フィクションなのに、三島や森田が出てくるし、そこが面白かった。
今度会った時は、この『プロレタリア文学はものすごい』の話を聞こう。これも代表作だ。
この本の中で、荒俣さんは書いている。
〈もしかすると、日本で最もよく読まれたプロレタリア文学は壺井栄の『二十四の瞳』かもしれない〉。
こう断言する。そうだよな、と思いましたね。
単なる先生と生徒の物語ではない。それに、大石先生の父親なんて、小学校の時に級友をそそのかして一日ストを打った人物だった。小学生にしてストライキを構えた父親はまさに「生まれながらのプロレタリア運動家」だった。
その子供の大石先生。そして時代は、戦争に近づく暗い時代だ。プロレタリア運動も全国で盛んになっている。そんな時に起こったのだ。
そんな背景があり、警察からも目をつけられている。だからといって、おとなしくはしない。この問題を教室に持ち込み、生徒に向かって挑発的な問いかけを試みる。「赤ってなんのことか知ってる人?」
誰も手をあげない。
「プロレタリアって知っている?」
これにもあげない。自分を危険視する学校、警察へ、あえて挑戦するように授業をする。大石先生はプロレタリア解放運動の初歩を子供に手ほどきしているのだ。
当然ながら教頭に叱られる。しかし大石先生は負けない。闘う。女性教師の闘いの文学なのだ。
『二十四の瞳』、そして荒俣の快著。
正月から元気を与えられた。よし、頑張ろうと思いましたね。
①上野の国立科学博物館で「古代アンデス文明展」を観ました。当時の世界最大の文明です。マチュピチュはあるし、ナスカの地上絵もあるし、天を相手にして訴えています。すごい文明です。でも「人を殺す」ことには力を入れず、たった100人ほどのスペイン人によって、滅ぼされました。王は拉致され、殺され、住民は銃でバタバタと殺されました。大虐殺です。そして、世界最大の文明消え去ったのです。
④そのあと、上野の森美術館に行きました。「孤高のイラストレーター・生瀬範義展」を観ました。迫力がありました。圧倒されました。昔からこの人のことは知ってます。でも、名前の読み方を知りませんでした。「生瀬」と書いて、「おおらい」と読むんですね。孤高にして、世界最高のイラストレーターでしょう。本のカバーや映画のポスターも描いてます。「ゴジラ」や「日本沈没」なども。我々が目にする有名なイラストは皆、彼が描いてます。
⑩そのあと、下北沢に行って、あべあゆみさんの主演する芝居を観ました。下北沢OFF・OFFシアターです。あべさんが、「あべ定」をやってました。「アベサダ・リローデッド」です。今日は、上野で、アンデス展、生瀬範義展、そして下北沢であべさんの芝居を観ました。濃い文化の日でした。勉強になりました。
⑪1月13日(土)は、新宿で康芳夫さんとトークしました。初めての会場です。新宿・歌舞伎町ブックセンターで。「虚人奇談会」と銘打ってますが、本当は真剣なトークでした。康さんは三島由紀夫や森田必勝とも付き合いがあったし、『家畜人ヤプー』を出版して、三島に絶讃されてます。その頃の話を聞きました。
⑲横山さんは後半、三島の好きだった歌をうたってくれました。横山さんは『三島由紀夫の来た夏』(扶桑社)という本を出してます。下田でお母さんがお菓子屋をやっていて、そこに毎年、三島はマドレーヌを買いに来てました。又、三島とのハラハラする出会いについても書かれてます。〈自決前、伊豆・下田で見せていたお茶目で家族思いの素顔〉と本のカバーには書かれてます。三島の意外な顔が見て取れます。実にいい本です。歌の前に、三島の好きな写真を皆に紹介しています。
㉕これは「三島生誕祭」の時に織田さんが紹介してた本です。大型で函入りの豪華本です。1万円近い本です。普及版や文庫は出ていません。「アマゾンで1万円で買った」という人もいました。三島は芝居や歌舞伎を小さい時から観ていて、それについて詳しく書いたものです。ぜひ読んでみたいのですが、でも1万円です。