2018/11/12 鈴木邦男

読書対談2018『挑戦!』

今年の初めに、劇団「再生」の高木尋士さんと「読書対談」をし、その模様を原稿にしましたが、なかなか本HPに掲載する機会がありませんでした。
 もう今年も残り少なくなってきましたので、急遽ここに掲載することにします。

※ ※ ※ ※

もう何年も高木尋士さんと読書について対談をしています。今年も正月早々、高田馬場に集まりました。最初は、高木さんと二人だけの対談でしたが、このHPをご覧になった方が、私も参加したい、ぼくも参加したい、とだんだん増えてきました。そのうち、正月が読書週間になって、みんなが年頭の目標を決めるようになるでしょう!

参加者:鈴木・高木・椎野・金井・秋元・金井(弟)・竹田

(収録2018年1月8日、高田馬場カフェミヤマ)

今年のテーマは「挑戦」です!

高木:あけましておめでとうございます。例年恒例の読書対談です。

鈴木:あけましておめでとうございます。今年もたくさん本を読みましょう!

高木:毎年、一年に何冊読むか、どうやって読むかと目標を立てながらやってきました。それぞれ、昨年のノルマは何冊で、実際に何冊読んだのかを発表していきます。

鈴木:そうですね。「ノルマ読書」をみなさんがどうやっているのか。新しい目標はなんなのか、今日は楽しみですね。高木さんはどうでしたか?

高木:昨年、あまりよくありませんでした。その自分の反省をふまえて、現状維持の同じようなノルマを立てていてもダメだと思いました。もっと、高いところに挑戦しなければならないと思っています。

鈴木:おお! そうですね。

高木:読みやすいからと新書ばかり読んでいてはダメだと。いや! 新書が悪いって言ってるわけじゃないですよ。(笑) 短い読みやすい本で「ノルマ合わせ」をするのではなく、読書の醍醐味である旺盛な知識欲を充たし、読了の達成感、そして、物語に没入するあの愉しさを思い出そう、ということで、今年から新しい目標を決めていきましょう。テーマは「挑戦」です。

鈴木:やっぱり「ノルマ制」っていうのは必要だよね。ノルマがなければなかなか読めない。ぼくが月に30冊読むことを決意した頃は、色んな人たちが「本はこうやって読む」という「読書論」を書いていて、「月に一万ページ読む」とか「月に10㎏読む」とか、いろいろなノルマの作り方があった。やっぱり何かそういうノルマがないと、これだけ読んだと思えないですね。一年に一冊だけ良い本に取り組んだらそれでいいだろう、って考え方もあるけど、それだとなんか寂しいんだよね。

2017年の結果発表

鈴木:今月何冊読んだとか、ぼくはノートに書いてるんですよ。

高木:ぼくも手帳に書いてます。

鈴木:ケータイじゃないの?

高木:携帯のメモ機能だと貯まっていく感じがしないんです。紙に書いた方が増えていく感じがします。鈴木さん、昨年はどうでしたか。

鈴木:(ノートを見て)字が汚くて読めないよ。

高木:自分の字ですよ!

鈴木:うーん・・・年間で、529冊。

椎野:529?!(全員驚愕)

鈴木:たいしたことないね。

高木:月に44冊!

鈴木:40冊以上読んだ月が5か月くらいあったね。そこは優良月。偉かった。最高は十二月の76冊。

高木:12月は、一日2冊ですね!

鈴木:昔は、月に100冊読んだこともあったけどね。

高木:鈴木さんは一昨年の結果が417冊で、「奮起する」と仰ってました。500冊超えは相当な数ですね。ぼくは、今までに二回しか経験がありません。

鈴木:いつもそれくらいじゃないの?

高木:ぼくは、昨年400冊ちょうどでした。「一日1冊以上、年間400冊」というノルマは一応達成していますが、いい数字ではありません。例年に比べて減っています。11月末の時点で350冊。「これはヤバイ!」と12月に帳尻合わせで、新書などの読みやすい本を読んで大晦日の日にちょうど400冊にしました。反省してます!

鈴木:減ったのはなんで?

高木:・・・プライムビデオのせいです。Amazonの。無料で映画が観られるんです。

椎野:あぁー・・・。

高木:昨年、それで120本くらい映画を観てます。時間で言うと300時間くらい。本だったら60冊くらい読めただろうと思います・・・。 では、続いて、椎野さんはどうでしたか。椎野さんは昨年、画期的な方法でノルマを達成すると言ってましたね。

椎野:本を読んだ時間を手帳に記録する方法ですね。30分読んだらマル印をひとつ。その方法は今も実践しています。

鈴木:自分にご褒美をあげるってことか。

高木:30分単位っていうのがいいですよね。1時間だと長いけど、30分だと移動とか待ち合わせとか、時間を作りやすい。

椎野:「30分マル印」読書。前回、それまでの最高が年間48冊でした。月に4冊です。それを月5冊にして年間60冊をノルマにしました。

高木:結果はどうでしたか?

椎野:40冊に届かなかったです。38、9冊。

高木:仕事が忙しかったのですか。

鈴木:違うと思うよ。

椎野:そうですね。仕事というより、私生活がだらけていました。

鈴木:ずーっとだらけてるんだ!(笑)

椎野:テレビを見ながら、つい好きな「数独」をやっちゃうんです。でも、昨年の11月に今やっている数独の本が終わりましたが、新しいのを買わないことにしました! だから、今年の目標は、もう一回60冊にチャレンジします。

高木:今年のテーマは挑戦です。チャレンジです!

椎野:今年は出来そうな気がします。

高木:では次、金井さん。昨年立てたノルマは60冊でしたね。

金井:はい、報告します。104冊読みました!

一同:おお~!

鈴木:素晴らしい!

椎野:自分でも本を書きながらその冊数はすごいですね。

高木:前回、金井さんは「面白くない本は途中で読まないし、興味のない本は最初から手を出さないので、最後まで読める本が少ない」と仰ってましたね。

金井:頑張りましたけど、やっぱり挫折した本もありました。でもそれはカウントしてません。途中まで読んで、辞めるか、頑張って最後まで読んでカウントに入れるか迷うこともありました。

高木:104冊はすごいと思います。100冊を超える人はなかなかいないですよ。

金井:ありがとうございます。昨年、この読書対談に呼んで下さったからです。あと、テレビが壊れたんです。テレビがないと、読めます!

一同:(笑)

金井:でも薄い本や新書もありますし、『よりみちパン!セ』(イースト・プレス・全63巻)も入ってます。

高木:『よりみちパン!セ』は良い本ですよ!

鈴木:ぼくは全部読みましたよ。中学生向けの本だけど、お父さんたちが子供に与えるために読んでることが多いんじゃないかな。

高木:鈴木さんも書いてますね。名作が多いですよね。

仕事で本を読む人あるある

椎野:金井さん、書いた本は何冊ですか?

金井:出した本は3冊ですね。

秋元:ご自身の本の原稿を書かれているときに、参考文献として読む本はやっぱり集中して読まれるんですか?

金井:そうですね。必要ですから。

高木:仕事で読む本は多いですよね。ぼくも半分以上はそうです。今回初参加の金井さんの弟さんは、NHKの番組制作。竹田さんは柏書房で書籍の編集をなさってます。金井(弟)さんはNHKの仕事で本を読むこともありますか。

金井(弟):ほぼ仕事で読むことが多いです。先日、会津若松の神社の話を取り上げたので、その時は神仏分離政策や宗教改革についての本を図書館で借りてきて読みました。でも自分の欲しい情報だけをピックアップして読むことが多いですね。

高木:椎野さんも仰ってましたね。編集をするときに資料として読むときは部分的で、1冊を読みきらないと。

鈴木:編集者はそうなるよね。テレビもそうなんだ。

金井(弟):物語をどう紡いでいるのか、起承転結をどうしているのか、ということはテレビの勉強にもなるので最初から最後まで読みたいですけど、一冊読みきるというのは趣味的に読まないと難しいですね。

高木:どんな本を読みました?

金井(弟):福島県に檜枝岐村って場所があるんですけど、そこで『新日本風土記』という番組を作ったんです。その時にその村の村史を最初から最後まで4回くらい読みました。意外と面白かったですね。

鈴木:昨年に読みきった本は何冊でしたか。

金井(弟):ちゃんと数えてはいないですが、30冊くらいでしょうか。

高木:読書をノルマでチャレンジしようという試みは、とても趣味的です。「ぼくは別に読書は趣味じゃないのでノルマは決めません」と言われればそれまでですが、ここに参加されたのですからノルマを決めてみませんか?

金井(弟):100冊にした場合、週に2冊くらいですね。気が抜けない感じ・・・。でもそこが「挑戦」ですね。

鈴木:おお! すごい!

椎野:NHKは忙しいでしょ。

金井(弟):働き方改革で残業が出来なくなったので、暇してます。(笑)

高木:竹田さんはどうですか。

金井:いつも私に新しい本の話をして下さるんです。かなり読んでますよね。

竹田:昨年はだいたい60冊くらいだったと思います。

高木:お仕事柄、手に取る本は多いですよね。

竹田:1冊の本を作るのに30冊くらいには触れますが、読みきるのはその内の5冊くらいです。一番読むのを必要としたのは歴史上の料理の本ですね。歴史の本も料理の本も読まなきゃいけなくて、その時は50冊くらい触れました。

鈴木:編集者が最後まで本を読みきれないのには理由があって、ちゃんと物語になっていて、最後まで興味を持って読める本って少ないじゃないですか。新書なんか読んでみても、くだらないなぁって思いながら途中まで読んで、ばからしくなってやめちゃう。テレビドラマを作っているような人だったら物足りないよね。くだらないと思って割り切って読むか、あるいは本当に自分に役立つものだけ年に4,5冊読むか、どっちかしかないと思うんだよね。

竹田:最初から一部だけ読む、というつもりで読むわけではないのですが、途中で「ここはいいや」と思う部分はありますね。でもやっぱりその中でも良い本に出会うと「やった!」という気持ちになります。

高木:仕事で本を扱うと、難しいですよね。

竹田:今年はすでに6冊は出ることが決まっているので、30冊は仕事で読みきると思います。それとは別に一週間に1冊、興味のある本を読みたいです。そうすると、今年は80冊くらいでしょうか。

本を読むために必要なのは

高木:こちらも本日初参加の秋元さん。いつも読書会に来られています。秋元さんは昨年どのくらい読みましたか。

秋元:本当に恥ずかしいですが、33冊くらいしか読んでないです。理由は自分の中ではっきりしてまして、自分の読書の欠点でもあるんですが、読んでいくうちに関心が取っ散らかってしまうんです。

鈴木:ほ~。

秋元:例えば、トルコについて勉強をしようと思ってトルコの現代史の本を読んでいたんですが、折に触れてオスマン朝の時代の話が出て来るんです。するとそういえばオスマン朝の歴史ってあんまり知らないなぁと思って、そっちの本を読み始めてしまうんですよ。そっちを先に知らないと、現代史の本を読んでも得るものが少なくなってしまうんじゃないかと。その結果、最後まで読み通した本が少なくなってしまった。

高木:今年の目標はどうですか?

秋元:キリ良く100冊にします。最近は色んな人に会う機会があって、自分の教養不足を痛感することになりました。名前は知ってるけど読んだことはない名作が結構あって。

鈴木:それはあるよ。

高木:みんなそうだと思います。

秋元:気分転換をどうするかが課題です。私は将棋が好きなので休憩に詰将棋の本を読むんです。脳の違う部分を使うから良い気がするんですけど、やっぱり脳が疲れるんですよ。

椎野:そりゃそうでしょ。(笑)

高木:同じ疲れるなら本を読んだ方がいいですよ。

鈴木:そうだね。(笑)

高木:読書で必要なものは、絶対的に「時間」です。スタミナとか、能力とか、技術とかではなく単純に「時間」だと思います。「時間を作る」ということが必要です。詰将棋の時間を読書にあてましょう!

読書の時間をどう作る?

高木:みなさん、今年よりも多い冊数を目標にしているということは、必ずその分の時間をつくらなければならないということです。今年と同じ仕事、同じ生活をしていて、それ以上の本を読むことは物理的に不可能です。

鈴木:そうですねぇ。

高木:ということで、本を読む時間の話です。ぼくは昨日、ひとつ実行してきました。

鈴木:電車に乗った?

高木:正解です。新幹線で東京-大阪を往復してきました。本を読むためだけに。

一同:えぇ?!

鈴木:普通そんな贅沢出来ないよ。(笑)

高木:もともとこれは鈴木さんの案ですよ。(笑) 本以外の何も持たずに新幹線に乗って、ただ本読むためだけに福岡まで行って帰ってくる、と。福岡はちょっとチケットの問題があって行けなかったんですが、大阪までは行ってきました。

鈴木:ほんとに実行する人がいるとは思わなかったよ。(笑)

高木:やったことがないですし、ネタとしては面白いと思って実行しました。乗ってる時間は往復で6時間くらい。こだまだと停車が多くて気が散るし、のぞみだと速すぎるので、ひかりを使いました。眠気は頑張ってこらえて、結果としては3冊読んで来られました。

一同:おぉ~。

高木:これは極端な例ですが、そうやって時間を作らないと、冊数を増やすのは物理的に無理なんですよ。

鈴木:うん。

高木:あと鈴木さんが提案されていたのは、読書週間を作るということです。今週は人と会わない、飲みにも行かない、テレビも見ない。仕事はしなくちゃいけないけど、帰ったら本しか読まない。

鈴木:みんなはケータイがあるからね。まずはケータイ離れをしなくちゃいけないね。

高木:一週間くらい、電源を切っておいたところで、たぶん困らないですよね。用事は全部昼間に片づけて、夜は切っておくとか。

金井:そうなんですよね・・・。

鈴木:図書館で読書週間とか貼ってあったりするよね。いつなのかはわからないけど。

高木:鈴木さんも読書週間を作ってるんですか。

鈴木:作ってますよ。

椎野:鈴木さんはあえて読書週間を作らなくても年間通して読んでるじゃないですか。

鈴木:読書年間。いいね。今年一年人と会わないとか。(笑)

高木:それはやってみたいですね。

金井(弟):1ページも読まない日ってあるんですか?

高木:それはないですね。

鈴木:ないね。中毒ですよ。読書依存症です。(笑)

高木:あと以前鈴木さんが言っていたのは、山手線にずっと乗って読むとか。

鈴木:一周がちょうど1時間くらいなんだよね。うるさい乗客がいてもそのうち降りるし、いいですよ。

金井:「青春18きっぷ」なんかいいんじゃないですか。2500円くらいでどこまで行ってもいいんですよ。私、先日「青春18きっぷ」で、朝7時から出掛けて、夜の10時くらに帰ってくる間に2冊読みました。

高木:すばらしい!

椎野:ぼくは「青春68きっぷ」なんだけど・・・。(笑)

金井:何歳でも大丈夫みたいですよ。今は特に「18」に意味はないみたいです。

竹田:大学のミステリー研究会などは合宿をしますよね。思い出してみると、ぼくが一番本を読んだのは免許合宿の時でした。

椎野:最低で16日間だもんね。

高木:合宿いいですね! 

鈴木:あとは喫茶店とかね。ぼくはルノアールが多いですね。ドトールだと読めないじゃないですか。イスが硬かったり。

椎野:ルノアール系って、一人の専有面積が広いんですよね。ホテルのロビーをコンセプトにしてるそうですよ。

鈴木:あとは、ミヤマの会議室を一人で借りて読むとか良いんじゃない。(笑)

高木:それはいいですね! 1時間2000円くらい。

椎野:定員6名の部屋ならコーヒー6杯飲まなきゃいけないですけどね。(笑)

高木:さっき合宿の話が出ましたが、読書旅行なんていうのもいいですね。誰かと一緒に行ってるのに誰とも話をしない、ずーっと本を読んでる。

鈴木:誰かと行く必要ないんじゃないの。(笑)

高木:同じ新幹線で、隣同士になってもずーっと本を読んでる。タクシーなり徒歩なり、宿に移動する間は観光するにしても、宿に着いたら本を読んで、食事のときは何か話すけど、終わったらまた本を読む。そして寝る。それはそれで面白いかもしれないですね。

椎野:前に鈴木さんに、読書をする時間を手帳に書けと言われました。人と会うときって、何時に誰に会う、って手帳に書くじゃないですか。同じように読書の時間を予定として書けと。今年はそれをやろうと思います。

鈴木:えらいねぇ。

高木:待ち合わせをするときに、早い時間を書くのもいいですよ。13時から読書会の時は、手帳には12時からと書く。1時間か2時間早く行って、喫茶店などで読書をする・・・というのはよくやってます。

鈴木:相手も同じように早く来たりしてね。(笑)

高木:18時から打ち合わせをしましょう、って言って16時に行ったときに相手もいたらちょっと驚きますね。(笑) そうしたらもうさっさと打ち合わせを終わらせて早く帰りましょうか。(笑)

読書の質を上げる「挑戦」

高木:ここまでは冊数の挑戦でした。冊数のノルマを決めると、どうしても数を増やすために読みやすい本を手に取ってしまいますが、今年は質も上げていきたいと思います。いや! 決して新書が悪いって言うわけじゃないですが・・・。

鈴木:でも悪いよ。(笑)

高木:現代のことを知るには新書が一番早いとも思います。でもそうではなくて、『世界の名著』(中央公論社・全81巻)などの全集だったり、古典だったり、何かテーマを決めて読んでみてはどうかという提案です。

鈴木:そうですね。

高木:イギリスの文芸評論家マーティン・セイモア=スミスが挙げた「世界を変えた100冊」というのがあります。例えば今年読む100冊をこれにしてみるとか。
『1984』(ジョージ・オーウェル)
『アエネーイス』(ウェルギリウス)
『天地創造に関する比喩的解釈』(アレクサンドリアのフィロン)
『論語』(孔子)
『人間悟性論』(ジョン・ロック)
『人口論』(マルサス)
『年代記』(タキトゥス)
『アヴェスター』(ゾロアスター教の聖典)
『存在と無』(ジャン・ポール・サルトル)
『コモン・センス』(トーマス・ペイン)
『共産党宣言』(マルクス エンゲルス)などです。

鈴木:明治150年だし、「明治を作った100冊」とかもいいね。

高木:「歴代ノーベル文学賞」で、日本で読めるものを遡って読んでみるとか。

鈴木:芥川賞の受賞作を全部読んでみるとか。『芥川賞全集』(文藝春秋・全19巻)なんていうのも出てるから読みやすいよね。今はいない人もいっぱいいるよ。(笑)

高木:あとは、世界一長い小説に取り組んでみるとか。

鈴木:世界一は、『失われた時を求めて』(プルースト)ですね。日本一長いのは『大菩薩峠』(中里介山)かな。

高木:日本一は諸説あるようで、『徳川家康』(山岡荘八)と言う人もいます。あとは鈴木さんが選んだ10冊をまず読んでみるのもいいですね。
『カラマーゾフの兄弟』(ドストエフスキー)
『戦争と平和』(トルストイ)
『赤と黒』(スタンダール)
『邪宗門』(高橋和己)
『文化防衛論』(三島由紀夫)
『人間の運命』(芹沢光治良)
『街道をゆく』(司馬遼太郎)
『ゴルゴ13』(さいとうたかを)
『少年王者』(山川惣治)

鈴木:質を高めるって、今の本を読まないで昔の本を読もうってことになるねぇ。

高木:現代の作家さんを前にして言えないですね。(笑) 

椎野:何年か前の読書座談会で、それぞれが全集に取り組むというのをやりましたよね。

高木:やりましたが、達成したという声は聞いてないですね・・・。

鈴木:全集を読むと、自信がつきますよね。山脈を超えたという。

高木:一冊を読み終えることと、全集を一揃い読むことは達成感が明らかに違いますね。鈴木さんに最初に勧められた『日本思想大系』(筑摩書房・全86巻)を読んだときには、自分が変ったと思いました。

鈴木:それはそうですね。

高木:そのあとも『世界教養全集』(平凡社・全38巻)、『世界の名著』、『人類の知的遺産』(講談社・全80巻)などの全集を読み、世界を手に入れたと思いました。ただ、あれだけの本を読んできたけど何もわかってないなぁとも痛感します。だから、今年はまた全集に取り組もうとしています。

鈴木:なに?

高木:『二十世紀の大政治家』(紀伊國屋書店・全7巻)です。第一巻のレーニン・トロツキー・スターリンから始まって、ガンジー、ローズヴェルト、ムッソリーニ、ヒトラー、毛沢東、ドゴールと続きます。著作の抜粋と解説ですが、この人たちを選ぶセンスがすごいですよね。あとは『大杉栄全集』(ぱる出版・全12巻)を読み終えようと思います。

金井:この分量を読んでも1冊なんですよね・・・。

高木:でも『人間の運命』(全16巻)は、全巻を読み終えて1冊とカウントするんですよ。

一同:えっ!

高木:それは鈴木さんが言ったことですよ。5年くらい前ですけど。『人生劇場』も13巻を読んで1冊。

金井:それは13冊って数えましょうよ・・・。

一同:(笑)

本を読むことの意味とは

高木:本を読むことに何の意味があるかと言ったら、本当に人それぞれです。例えば鈴木さんの場合、『ドキュメント新右翼―――何と闘ってきたのか』(山平重樹/祥伝社新書)、この本の中に鈴木さんの「本を読まなければいけない理由」が出てきます。この本は三十年前に出た『果てなき夢 ドキュメント新右翼』(山平重樹/二十一世紀書院)の新装版です。鈴木さんがどうやって生きてきて、どんな人と出会って、どうやって一水会を作ったか・・・がドラマチックに書かれている。オープニングは鈴木さんが木刀を持って暴れまわってます。(笑) 

鈴木:ほぉ~。

高木:生長の家に入って、先輩の部屋に行くとレーニンやマルクス、エンゲルス、ニーチェなど左翼の本がいっぱいあって、びっくりしたと。自分も敵のことをしらなければいけない、知識がなければいけないということで、本を読み始めた。ぼくもそうですが、これを読んで「カッコイイ! 」と鈴木邦男ファンになった人は本当に多いと思います。新装版が出てまたファンが増えるんじゃないですか。

鈴木:何のために本を読むか。それはね、自分との闘いでしょうね。他の人に対して、俺はこれだけ読んだんだぞと驕るためじゃなくて。だから本当は何冊読んだとか言わない方がいいのかもしれないけどね。内田樹がなぜ武道をやるかというと、昨日までの自分に打ち勝つためだと。読書もそうかもしれないね。誰かを論破するために、武装するために、というのは読書じゃないよ。学生の頃はずっとそういう読書をやってきたけど、それは違う。そうすると左翼の本なんか読めない。今は論破されてもいいやと思ってるし、論破されたらむしろ心地よい。それが読書の楽しみだと思うんです。

高木:それはいつから思い始めたんですか。

鈴木:一水会の代表を辞めてからかな。代表の時はやっぱり、自分の考えはこうだ、っていうのがあったからね。それは左翼の人もそうだと思う。最近亡くなった塩見孝也さんが、宗教書は読んでみたいけど怖いと言ってました。親鸞なんか読むと、ものすごく得ることがあるじゃないですか。人間関係で悩んだり女性で悩んだり、自分の後継者と対立したりした人でしょ。色んな意味で運動論になるだろうし、でも親鸞を読んじゃうと心が全部持ってかれちゃうと。それが怖いと言ってましたね。それはわかりますね。社会のしくみを変えるのが自分たちの仕事だと思っていたのが、そんなのを変えても仕方がない、一人一人の精神を変えなければいけない、と。そんなこと言っちゃったら革命運動が成り立たないじゃないですか。せっかく自分がやってきたことが役に立たなくなっちゃう。それは怖いですよ。

高木:はい。

鈴木:生長の家の谷口先生も親鸞を読んでいて、評価していたんですよ。宗教運動をやる上で参考になったんでしょうね。街頭で本を売るのも、統一教会やオウム真理教なんかはやれない。体制に歯向かうものは絶対に街頭ではやれないし、警察に排除される。宗教はどうしても偏見の目で見られるんだよね。一水会を作った時も、右派学生運動をやってた人よりも生長の家の人の方が中心になってたんですが、それはあんまり出さなかった。周りにも言われなかった。それが良かったと思うよ。宗教団体だと思われたら、無視されるか、警戒されるかでしょ。宗教や信心は、愛国心と同じで、自分のために研究して、それを人には勧めない、っていうのが正しいのかもしれない。

高木:でも、難しいですね。

鈴木:難しいかなぁ。

高木:本を読んだり知識が増えたりすると、どうしても驕りが出てきます。

鈴木:宗教家の驕りはあるよね。岩波書店のウェブサイトで、『3・11を心に刻んで』っていう連載があるんです。色んな人が書いてるんだけど、ぼくは三浦綾子の『泥流地帯』について書いたんですよ。泥流で多くの人が死んだとき、生き残った村の人が「自分たちが死ななかったのは心掛けが良かったからだ」と言う。そういう表現はみんな何気なく使っていると思うんだよ。例えば、飛行機に乗り遅れ、その飛行機が墜ちたら「自分には信心があったから助かったんだ」と言う。それは違うとずっとぼくは思ってた。本当に信心があるなら、宗教者は「自分が事故にあって他の人を助けたかった」と思うのが当然だと思うんだよ。信心や愛国心は自分を高めるものだけど、思い上がる契機になることが多い。そのことを岩波に書いたんです。

高木:読書もそうですね。400冊、500冊を超えたからって自慢することじゃない・・・でもやっぱりこれは自慢ですね。(笑) だからと言って勝った、負けたということでもない。ただ、本を読まない人はネコ以下です。

鈴木:そんなこと言ってる人もいたね。(笑)

高木:鈴木さんが言ったんですよ。(笑) 何冊読んだからと言って威張るようなものではないけど、この目標は人に決められたものではなく、自分で掲げたものです。だからちょっと頑張ってみましょう。他人にひけらかすものではないとは言っても、来年のこの場ではひけらかしましょう。(笑)

鈴木:そうですね。

【お知らせ】

  1. 11月24日(土)。三島由紀夫・森田必勝 両烈士顕彰祭。
    第1部 追悼顕彰祭。
    第2部 特別記念講演。荒谷卓氏(陸上自衛隊特別作戦群初代群長)。
    演題「三島・森田精神を現代に活かすとは」。
     出席希望者は一水会に連絡を。03(3364)2015