この「主張」は、〈毎週月曜日更新〉ですが、今週は遅れてしまいました。申し訳ありません。
一週間の入院で体力も落ちたが、頭の方も落ちた。考えてないからだ。
三島研究家の瀧沢さんが見舞いに来た時、お父さんを連れてきた。学者肌のインテリのお父さんだ。確か病気だと思ったが、無理をして来てくれたようだ。
瀧沢さんは来るなり、「ダメじゃないの。本を読んだり、原稿を書いたりしないと! ただ寝てるだけじゃボケるわよ!」と言う。
でも、本なんて持ってきてない。大体、入院するなんて予定になかったからだ。
そう言ったら、大きなカバンから本を20冊ばかり出して、「ほら、これでも読みなさいよ!」と言う。
三島の本が多い。でも三島以外もある。「ありがとうございます」と言って、ベッドの脇に積み重ねた。それから読み始めた。
三島が若い時に書いた『わが思春期』(集英社)は面白かった。三島でもこんなことを考え、こんな行動に出るのか。と思われることが沢山書かれている。
いいですね。こんなことなら私らだって書けそうだ。そう思った。
それと、菅孝行が書いた『三島由紀夫と天皇』(平凡社新書)も面白かった。
菅さんは、河合塾の先生だ。時々会う。かなり真面目に三島由紀夫について書いている力作だ。〈主要作品を「天皇への愛憎」という視点で読み解き、その思想と行動の深部を抉った最も危険な三島論〉と表紙には書かれていた。「最も危険な三島論」か。凄い表現だ。そう思って読んだ。
瀧沢さんからもらったのは20冊ぐらいだが、その他、他の人にもらった本もあり、自分で外出して本屋で買った本も増え、ベッドの両端にうず高く本が積まれてしまった。
でも、片っ端から読みましたよ。時間もあったし、けっこう読む雰囲気はあった。個室だから、夜も電気はつけっぱなしだったし。
そして、前にこの「主張」でも少し報告したが、高遠菜穂子さんの『戦争と平和』も読み切った。河合塾の読書ゼミで半分近く読んだのだが、これを含めて全部読んだ。なかなか理屈っぽくて、面白い本だった。
日本では「自己責任」だとか、「犯人と共犯じゃないのか」「自作自演じゃないのか」と言う人もいたが、本を読んでみると、そんなことは一切ない。
さらに、ゲリラに対しても、随分と反論してるし、「ゲリラの理屈」を論破している。これは凄い本だと思った。
でも、解放されて日本に帰ってきてからは、ずっとバッシングの連続だった。特にこの本が出た直後だ。
この本のタイトルは『戦争と平和』だ。テーマが又いい。〈イラクで理不尽な形で消えていったすべての命に、この本を捧げます〉と書かれている。出版は講談社だ。これならば売れるだろう、と思った。ところが、タイトルの『戦争と平和』の横に、こんな文字がおどっている。〈それでもイラク人を嫌いになれない〉。凄いことを言う。
それが日本人の反感を買った。イラク人のゲリラに拉致されて、長い間、監禁されていた。命の危険も何度もあった。いつ殺されても不思議ではない。そんな犯人たちを高遠さんは恨み、憎み、そして毎日のように論戦する。憎しみを募らせて当然だ。
でも、「それでもイラク人を嫌いになれない」と言う。これは何なんだろう。まるで聖者の言葉だ。
でも、この言葉が、「おかしい」と思われ、「犯人側と共犯ではないのか」と思われた。
大体、イラク人のゲリラは根本的に間違っている。今、イラクに行く人は親イラクだ。イラクに友人がいて、仲間がいる。そんな人たちを狙って、今、拉致しているのだ。自分たちに対し、反対している人々を拉致するのではない。自分たちに友好的な人々を狙って拉致する。
知り合いだから近づくのは簡単だ。拉致も簡単に出来る。そして、「自衛隊は帰れ!」などと叫ばせる。これでは、「共犯じゃないか」とも疑われる。そんな構図なのだ。
それに対し、高遠さんたちは、積極的に反論する。「あなたたちのやり方は間違っている!」と。
これでは日本をはじめ、多くの国々のイラクに対する反対の声を増やすだけだろう。下手だな、やり方が。今度、時間があったら、高遠さんたちと会って、その辺のことを聞いてみたい。ゲリラとの「論争」についてだ。
又、郡山さん、今井君、高遠さんの3人が拉致、監禁された。今井さんは高校生だった。高校生じゃ不安だからって、「お母さんに会わせて」と言ったら、連れてきた。
このお母さんが実にしっかりした方で、今井君を頼んだ。そして、3人が解放されて日本に帰ってきた時のことだ。
お母さんが迎えにきて、そして高遠さんに会うなり、「あなたがいてくれたので、息子は無事に帰れたのです! ありがとうございました」と言った。
お母さんにしたら、これはなかなか言えない。3人で一緒に行ってからゲリラに拉致され、殺されたかもしれない。危ない目に遭ったのだ。「私の息子をこんな危険な目に遭わせて!」文句も言いたくなるところだ。
しかし、そんなことは言わない。ただただ、感謝の言葉だけだ。
このお母さんはとても出来た人だと思った。お母さんとも会って話を聞いてみたい。
他には、どんな本を読んだかな。佐伯紅緒さんの『女子の兵法』(セブン&アイ出版)を読んだ。あっ、これは送ってもらってた本だった。
佐伯さんは、小説も書いているライターだ。〈戦わずして男心を奪う!〉〈二千五百年分の恋愛バイブル〉と書かれている。軽いタッチで、深いところを書いている。面白い。
あっ、これも送ってもらったのだが、はらだ有彩の『日本のヤバい女の子』(柏書房)もあった。〈昔々、マジで信じられないことがあったんだけど聞いてくれる?〉と表紙には書かれている。
日本の神話や昔話には、確かに変わった女の子が沢山出てくる。〈女の子×昔話の新感覚エッセイ〉と書かれている。一風変わったエッセイもいいですね。こんなのも。瀧沢さんも書いてみたらいいのに…。
出てくるのは、我々が知ってる人ばかりだ。「おかめ」「鬼神のお松」「かぐや姫」「オシラサマ」「イザナミノミコト」「八尾比丘尼」「乙姫」「お菊」「トヨウケビメ」…と、知ってるのが多い。
でも、一人一人が凄いキャラクターだ。特に「道成寺」もそうだよね。ヤバイ話にタネは尽きない。
他にも沢山、あったようだ。あっ、そうだ。この本について書く予定だった。
たけもとのぶひろさんの『今上天皇の祈りに学ぶ』(明月堂書店)だ。これは凄い本だ。いい本だ。自信を持って勧められる本だ。
先々週かな、この本の表紙をこのHPに載せた。この本について書く予定だったからだ。でも、書けなかった。申し訳ない。病院で読んだ本で一番感動しましたよ。
たけもとのぶひろさんさんは、新左翼過激派の闘士だ。「滝田修」と言った方が分りやすいだろう。自衛官殺害をデッチ上げられて全国指名手配になったが、逃げ回った。その時に2冊の本を出している。とても普通ならばやれない。天才だ。
そして、今回は天皇陛下の「祈り」について真摯に書いている。とても左翼の文ではない。この本の出版社や編集者も驚いたようだ。
たけもとさんの文の前に「緊急解説文」を付けている。この本を編集した吉田文人さんが「解説 たけもとのぶひろの思考、その「非転向」について」を書いている。
はじめにこう書かれている。
〈本書は、「ならずもの」「過激派の教祖」滝田修ことたけもとのぶひろさんの象徴天皇制擁護論である。今上天皇の退位を迎える心構えと論理を、天皇本人の言葉からひきだす形で展開されており、かつての彼を知る多くの読者にとっては、あまりにも激しい転向ぶりに戸惑いを覚えるかもしれない。しかし、たけもとさんは、現実を直感で読み破り、そのための論理を膨大に積み上げていく思考形態は、滝田修時代から一貫している〉