2019/07/15 鈴木邦男

2019年1月5日(土)新春読書対談

今年も、お正月に高木尋士さんと恒例の読書対談をしました。今年は、「平成」から「令和」になります。昭和の読書王「鈴木邦男」と平成の読書王「高木尋士」、そして、すぐに令和の読書王も出現するでしょう。

何年も続けて、こうしてお正月に対談をしていますが、毎年新しい発見があります。それでは始めましょう。

(参加者/鈴木邦男・高木尋士・椎野礼仁・平早勉・塩田祐子。平成31年1月5日、高田馬場にて収録)

読書対談も、もう13回目!

高木:あけましておめでとうございます。今年も読書対談をやりましよう。

鈴木:もう何年続けてやってるの?

高木:鈴木さんのホームページに載ってますが、最初は、2007年です。それから毎年やっているので、13回目です。

鈴木:十三回忌?

椎野:13回もやってるんだ!

高木:毎年の読書対談が13回。その他にも『生命の實相』(谷口雅春)や『邪宗門』(高橋和己)について、松本麗華さんを交えて行った宗教対談や、北一輝についての対談、他に「公安」についての対談もやっています。『公安警察は要るか要らないか』という話でした。

鈴木:本を読み、対談というアウトプットをすることでずいぶん勉強になりましたね。

高木:ありがとうございます。さて、この読書対談ですが、最初は「全集を読もう!」というところから始まりました。

鈴木:そうでしたね。「全集を読む」ことの意義を話しました。

高木:そして、「ノルマを決めて本を読もう」という話もしてきました。読書に関して話すことたくさん話してきましたね。

昨年のテーマは、挑戦でした

高木:昨年は、「今のままじゃダメだ、挑戦しなきゃダメなんだ」ということをテーマにしました。さっそくですが、例年通り、昨年の読書結果の発表からいきましょう。鈴木さんからいきますか。

鈴木:数えてないよー。

高木:今集計していただきましょう(笑) それでは、鈴木さんに集計してもらいつつ、先に昨年の参加者である椎野レーニンさんから昨年の結果発表をお願いします。昨年のノルマは何冊でしたか。

椎野:60冊です。

高木:レーニンさんは毎年この対談に参加して下さり、この3年間毎年ノルマは60冊として、挑戦してきました。しかし、残念ながらこれまで達成して来られなかったんですよね。 レーニンさんの今までの傾向は、「私生活が充実してないと読書も充実しない、私生活が充実していると読書も捗る」、ということでした。 また、「数独」にハマって時間を浪費してしまう、ということで、3年間かけて挑戦と改革に挑んできました。 そしてたどり着いたのが、「30分読書をしたら手帳にマルをつける」という読書法です。マルが三つついたらこの日は1時間半読んだ、と自分の励みにもなる30分読書法は、すごくいいなぁとぼくも思っていました。ということで、丸三年を迎えた結果、昨年はどうでしたか。

椎野:まず小さい事から言うとですね、あんなに好きで、時間をかけていた数独をぴったり辞めました。

鈴木:おっ。

高木:その分時間が出来たんですね。

椎野:そしたら、今年は54冊でした。

高木:お…惜しい…。

椎野:読めないとき、マルがつかないときもあるんですが、ここはあの仕事をやってたからマルがつかなくてもしょうがないな、っていうのがありました。来年に期待できるな、っていう点で、自分としては、まぁ、ギリギリ合格点かなと思っています。

高木:いいですね。では、今年のノルマも60冊にしますか。60冊というと、だいたい月に5冊。

椎野:来年は突破出来そうです。

高木:椎野さんは、前の年が40冊、その前の年が30冊くらいで、少しずつ増えてるんですよね。

椎野:今年頑張れた理由の一つに、金井真紀さん(作家・イラストレータ)から刺激を受けた、っていうのがあるんです。今年、金井さんがこの対談に参加してないのが残念なんだけど。彼女は読むだけじゃなくて、自分で何冊か書いてもいるんだから、大したもんです。

高木:金井さんからはメールで報告を頂きました。ノルマは100冊だったのが、95冊。惜しい。残りの5、6冊…句集や絵本でもいいから、達成したいところですね。

鈴木:そうだね。ノルマを達成するって、やっぱり大切なんですよ。

高木:ノルマを達成しないのはネコだって言ってましたね。(笑)

一同:(笑)

高木:集計は終わりましたか? 鈴木さんには最後に発表してもらいましょう。次はぼくの結果です。昨年は、507冊読みました。

鈴木:おー。

高木:椎野さんが金井さんに発奮したように、ぼくは鈴木さんに発奮したんです。昨年、鈴木さんは500冊を超えてたんですよね。

鈴木:そうだっけ。

高木:振り返ると、500冊を超えるというのは、とても辛かったです。月に35〜45冊は読まなきゃいけない。1〜5月は舞台公演があったりして、なかなか捗らない。月に30冊台でした。

鈴木:仕事によってあんまり読めない月っていうのもあるよね。

高木:ありますね。それで8月9月から巻き返しを図って、50冊読むようにする。一日必ず4時間は読書の時間を取ってました。

椎野:一日4時間…。

高木:昨年鈴木さんがおっしゃったように、読書週間も作りました。その一週間は予定を入れない、人と会わない。仕事はするけれども、残りの時間は本を読んでいる。日曜日は一日中、本を読む。

鈴木:そんなことしたら友達がいなくなるよ。(笑)

高木:確かに・・・友達が減った気がします(笑)。舞台やイベントの打ち上げにも参加しない。参加しても二次会には行かない。電話もしない、ネットも見ない。そうして、ようやく500冊突破でした。500冊の大台を鈴木さんは何度も経験されてわかると思いますが、物理的な時間量として一日の読書時間が2・3時間では、なかなか500冊にはいかないんですよね。

鈴木:そうでしょう。読書はほんとうに時間がかかります。人と会っている場合じゃないんです。

高木:もうほとんど意地です。友達が少なくなります。本が友達です。

鈴木:それでいいんじゃないの。

高木:そうですね。もう一つ思ったのが、お金が続かないってことです。毎年これだけの本は買えません。そして結局、鈴木さんの言うように図書館で借りてきました。

鈴木:それだけの本を買って、家に置いておいたら大変だよ。?木君の家にはあれだけの全集もあるんだし。

高木:幸いなことにうちの目の前が図書館なんです。そこで新書とかビジネス書を適当に借りてきて、1週間で20冊読んでしまうとかしながら、久しぶりに500冊を超えました。

鈴木:すごいねー。

高木:ノルマは400冊だったのでノルマ達成です。頑張りました。では鈴木さん、発表をお願いします。

鈴木:昨年はたいしたことないんだよな。355冊です。

高木:だいたい一日一冊。

鈴木:去年は身体を壊しちゃって。

椎野:それでも355冊。すごい。

なんのために読書をするのか?

鈴木:昨年、テレビには二つ出たんですよ。TBSと大阪よみうりテレビ。TBSはトーク番組で、夜の19時半からやってるやつなんですけど。秋篠宮さまの発言を中心にして話をしました。

高木:TBSの『報道1930』ですね。

鈴木:その時に、ニュース23の楽屋に挨拶に行ったんです。そのとき昔のことを思い出して話をしたんだけど、筑紫哲也さんが、週刊金曜日の何十周年かで講演をされたときに、面白い話をしていたんですよ。『正論』(産業経済新聞社)を読んでいる人は、もう『正論』を読む必要はないと。それはまぁいいよ。 そして、『週刊金曜日』を読んでる人は、もう『週刊金曜日』を読む必要はないって。週刊金曜日のパーティーで、よく言ったなぁと。

高木:そうですね。

鈴木:『諸君!』や『正論』やそういうものを読んでいる人はもうそれを読まなくていいと言うんです。それを読むのは、要は自分の信念を持っていて、その確認のためだけに読んでるからだと。

高木:左派の人達はいわゆる左側の雑誌を読みますよね。知っていることを読むのは安心するんでしょうか。

椎野:「自己強化」の読書なんですよね。そういう傾向は強いですね。

鈴木:満足するための読書ですね。

高木:自己が高まっていくなら、それはそれで良いことですよね。

鈴木:でも、それで、おれの言っていることは正しいだろう、時代がおれに追い付いてきた、って思っちゃうんじゃないですか。そうなると傲慢な話ですよね。

高木:そもそも、何のために本を読むのか、って話ですね。

鈴木:何のために読書をするかって、「自分が知らない事を知る」。ぼくは、そういう方が良いね。

高木:そうですね。筑紫さんの論点では、左派なら右派の雑誌を読みなさい、って話なんでしょうか?

鈴木:自分を批判しているとか、全く反対の人の論拠を読んでみなさいって言ってましたね。

高木:なるほど。今、左派側の雑誌というと何がありますか。

椎野:今はほとんどなくなりましたね。論壇誌がなくなりましたもんね。

鈴木:この前潰れたね。『DAYS JAPAN』(講談社)。

高木:『創』(創出版)が左寄りかなぁ、というところでしょうか。右派の雑誌と言うと。

鈴木:いっぱいあるよ。『正論』とか。

椎野:なくなったのが『新潮45』。『Hanada』(飛鳥新社)とか『Will』(ワック)は極右ですね。

鈴木:吉田松陰が言っていたことだけど、「自分が知らないことを知るためには二つの方法しかない。それを考えている人に会うか、本を写すか」

高木:昔は、全て書き写すしかなかったんですよね。

鈴木:今はそういう感じで本を読む人って少ないじゃないですか。自分に足りないものを本で補うって言うか。自分が知ってることを本で確認するって感じでしょ。それなら意味がない。

高木:根本的な話ですね。

我々は文系だから、理系の本を読もう

鈴木:それで、その話をした直後にこの本に出会ったんです。『世界がわかる理系の名著』(鎌田浩毅/文春新書)。我々はみんな文系だから、あんまり理系の名著は読んでないんだよね。

高木:そういえばここに参加されている方はみんな文系ですね。

鈴木:名前は知ってるんだよね。何年に誰が発表したとか。どんな影響があった、とかそういうのはわかるよね。ダーウィンの『種の起源』とか。じゃあ全部読んだかって言うとそんなことない。

高木:理系の名著っていうと、何が思いつきますか。

鈴木:ファーブルの『昆虫記』とか。

高木:『プリンキピア』(ニュートン)とか。

鈴木:ウェゲナーの『陸移動説』は大学の時読みました。面白かったなあ。

椎野:宇宙ものもいくつかありそうですね。

鈴木:ガリレオとか。

高木:『銀河の世界』。ハッブルですね。

椎野:中谷宇吉郎の『雪』とかは?

鈴木:この中に日本のものは入ってないね。

高木: ワトソンの『二重らせん』、カーソンの『沈黙の春』、

鈴木:それは読んだ!

椎野:『沈黙の春』は、文系でもみんな読んでましたね。

高木:新潮が二十世紀の百冊の中に選ばれていたと思います。あとガリレイの『星界の報告』、アインシュタイン『相対性理論』。

鈴木:たぶん全部文庫本で出てるんですよ。ちゃんと読んでみようかな。

高木:岩波とか講談社学術文庫とかでありそうですね。でも、鈴木さんは、ここに紹介されてる本は、半分くらいは読んでいるんじゃないですか。全集に入っていますよね。

鈴木:あぁ、ありましたね。

高木:『世界教養全集』(全38巻・平凡社)に入っています。これも鈴木さんに紹介してもらった全集です。この中に八割くらい入っています。わかりやすく書いてあるんですよね。世界の科学、医学、芸術、色んな分野について書かれています。

戦うために、相手を知るために、本を読む

高木:鈴木さんはノルマ読書をやっているときに、どういう基準で本を選んでましたか?

鈴木:基準はなかったね。ただ、やみくもに手当たり次第に!

椎野:(笑)

鈴木:それがだんだんと体系化されてくると言うか。

高木:反対意見の本を読んだときには腹が立ったりするんですか。

鈴木:昔は、読む気がしなかったですね。でも今は、やっぱり鋭いやつを読んでみたいですね。

高木:戦うために、相手の意見を知る、相手を受け入れる、というのがこれまでの鈴木さんの活動では必要だったと思うんです。三島由紀夫が東大に乗り込んで行ったときも、相手の全共闘の理論は理解して行ったと言います。鈴木さんも意見の違うところに行って話をする時はやっぱり勉強したんですか。

鈴木:まぁそうですね。本を読むか、人に会うか、それしかないですから。今は、対談をする時もとりあえずインターネットで調べるみたいだけどね。

高木:そうですね。ある編集者の人が言っていましたが、ちゃんと対談相手の本を読んでくる人は少ないそうです。でも、それはすぐわかるとも言っていました。本を読んでなくて、なんとなくインターネットの情報だけでこの場に挑んでいる、というのはすぐばれると。

鈴木:そういう人とは対談する必要ないんじゃないか。

一同:(笑)

鈴木:田中角栄の秘書をやっていた早坂さん。取材に来た人に「私の本を読んだことはあるのか」って聞いたら「一冊もない」って相手が言ったと。「じゃあ帰れ」と怒鳴った。取材を拒否したと。普通だったらそれは当たり前だよね。

高木:それは怒鳴ってもいいと思いますよ。

鈴木:もっとひどいのは、インターネットでささっと見て、他の人が批判しているのを読んで、それをもって相手を批判しようとする。相手の意見を聞かないで、最初から根底から覆してやろうと思うやつは多いじゃないですか。

高木:インターネットを見れば、なんとなく批判点はすぐにわかるし、どういうことが問題になっているかはわかるし、それで対談に出て来る人は多いと思います。

鈴木:それじゃあ全く対談にもならないんじゃないかな。

高木:ぼくはこれまで本当にいい経験をさせてもらいました。鈴木さん、覚えてますか。『公安対談』のときのことです。対談の日の3週間くらい前に、うちに20冊くらい本を送ってきたんですよ。

鈴木:誰が?

高木:鈴木さんがですよ!

鈴木:へー。

高木:公安警察に関する本や資料を送ってきて、これを読んで対談しましょうと。3週間でそれを読んで挑んだことがあります。あの頃もインターネットはありましたし、調べれば公安警察が何なのか、鈴木さんと公安警察の繋がりもわっただろうけれども、その時はその本を読んで行きました。面白い対談でしたね。インターネットに上がってます。

鈴木:へー。

高木:北一輝の対談の時もそうでした。北一輝の著作を三巻読んだら対談しましょうと。

鈴木:松本健一とか村上一郎じゃなくてね。(笑)

高木:そんな話もしましたね。(笑) 北一輝の評論やあらすじを読んだ人はいっぱいいるけど、北一輝の著作を読んだ人は少ない。ちゃんとみすず書房から出版されている『北一輝著作集』全三巻を読んで対談しましょうと。

鈴木:いい対談でしたね。

高木:宗教対談の時もそうでした。

鈴木:谷口雅春先生の『生命の実相』(全40巻)ですね。

高木:あの時、鈴木さんが送ってくれたのは戯曲篇の2冊だけでした。

鈴木:やっぱり、高木さんは演劇をやっている人だからまずはこれを、と思ったんじゃない。(笑)

高木:そのあとに全部送ってくれました。(笑) あと『人間の運命』(芹沢光治良)と『邪宗門』(高橋和己)を読んでやりましょうと。頑張って読んできましたよ。

鈴木:あれは良かったでしょう。

高木:良かったですよ。鈴木さんとは全部読んだ本でしか対談してきてないです。

鈴木:いいですねぇ。

高木:もしも読まずにインターネットで調べて、「読みましたよ」と嘘をついていたら、それはきっとわかるんですよね。実際に本を読まないと、人に会いづらい、話も出来ない。相手の意見に反対するにも、相手の意見をきちんと読んでなきゃいけない。そういうことをぼくは鈴木さんから教わりました。

椎野:それは立派。

高木:だからこうやって、対談が13年も続けて来られたんだなぁと思います。

鈴木:すごいねぇ。

だんだん本が読みづらくなってきた…

鈴木:活字が見づらくなる時どうします?

高木:えっ。

鈴木:目がかすむとか、目が見えないとか。

高木:年齢的なものですね…。ぼくは読書のときには読書用の眼鏡をしています。

鈴木:へー。

高木:本を目から30センチの距離に持った時にぴったり見える眼鏡を作ってます。これは寺山修司さんが言っていたんですが、その位置に本を持つと、一番頭がよく見えるそうです。 (笑) 

鈴木:なるほどー。(笑)

高木:そうすると形が決まるので読み続けやすい。あとは部屋や手元を明るくする、でしょうか。

鈴木:それはあるよね。暗い中で読むと目が悪くなる。

高木:暗いと読めないでしょ。字が拾いづらい。

鈴木:最近は活字が小さくなるとムカッとくるね。

高木:でも最近の本は昔に比べて字が大きくなりましたよね。

椎野:全然違いますね。

鈴木:新聞なんかは少しづつ大きくなってるよね。

高木:これはぼくが昨年取り組んだ『二十世紀の大政治家』(紀伊国屋書店・全7巻)という全集ですが、これも当時としては大きめだと思うんですが今に比べるとちょっと小さいですね。

鈴木:そうだね。ムカッとくるね(笑)

高木:鈴木さんが最初に読め、と言った『日本思想大系』はもっと小さかったですよ。これは読みやすいほうですよ。

鈴木:そうだっけ?

高木:そして、本も古くなると紙が茶色くなって、余計に読みづらくなるんですよね。

鈴木:寝ているとき読むのが大変だね。

高木:入院している時も本を読みました?

鈴木:あんまり読んでなかったんですけど、瀧澤蛇子さんがお見舞いに来た時に本をガバッと置いていかれたので、それで読みました。

高木:お見舞いに本は良いですね。どんな本があったんですか。

鈴木:三島由紀夫や北一輝の本でしたね。普通、入院しいてる時は三島由紀夫を読まないよね。

高木:入院すると本を読む時間しかないじゃないですか。

鈴木:ずーっと読んでましたね。朝昼晩、飯はあるし。昼でも眠れるし。

高木:じゃあ良かったじゃないですか。入院。(笑)

鈴木:そうですね。(笑)

今の自分を形作った読書

高木:本当に自分に影響を与えた一冊を思い起こしてみようと思ったんですよ。

鈴木:いいですね。

高木:例えば、小学校の時に出会ったあの一冊が自分の性格を変えたとか、改めて思い出してみると何か一冊ある気がするんです。

鈴木:そんなのないよー。

高木:何か一冊はあるでしょ。(笑) 例えば生まれて初めて自分の力で一冊読み終えた本。教科書は別にして。

鈴木:思い出せないなぁ。

椎野:高木さんはあるんですか。

高木:ぼくは、はっきり覚えています。モーリス・ルブラン。ルパンシリーズの子供用の本です。本当に寝るのが惜しくって、「もう寝なさい」って親に怒られても、布団の中に懐中電灯を持ち込んで読んでいました。

鈴木:ぼくも好きですね。ルブラン。

高木:その前にも読んでる本はあったかもしれないけど、強烈な思い出としてはそれがあって、今でも推理小説は大好きなんですよ。

鈴木:シャーロックホームズとかね。

高木:そうです。挿絵があって、小学生用のシリーズになってるような本。『種の起源』とか『二重らせん』とか、最初はそういうので読んでいます。ファーブルの『昆虫記』もよく覚えています。その影響は大きいと思います。物語が面白い、と思ったから今でも演劇をやってるんだとも思います。

平早:ぼくは『路傍の石』です。

高木:渋いですね。

平早:作者の山本有三に会いに行ったんですよ。姉が湯河原にいて、たまたま湯河原に山本有三さんが住んでて、家まで行ったの。有三さんは臥せってて、奥さんが対応してくれて、カルピスを出してくれた。

高木:それは何歳くらいの時ですか。

平早:高校生の時。悩み事があって、通信簿に「色んなことを強く言いすぎる」と書かれて、協調性がCなんです、って言ったら、「いや、イエスとノーははっきり言ったほうがいいですよ」って言ってくれて。

高木:それはすごい体験ですね。

平早:学校の図書室にある7〜8冊の山本有三さんの本は全部読んで行ったんですよ。筆を折る、ってことで最後終わってるじゃないですか。「何でなんですか」って聞いたら「大きくなったらわかります」って。

鈴木:(笑)

高木:今でも平早さんが「あの時おれはこう言われたんだ」って思うのはきっと大きな影響を受けたんですね。

平早:たぶんそうですね。

椎野:ぼくが思い出したのは、小学校六年生の時に、先生が読み聞かせてくれた『次郎物語』(下村湖人)です。体育が雨で中止になったときとか、一定の間隔で読んでくれてたんですよ。全5巻くらい。それが面白くって、先生を追い抜かして自分で買って読んだ、ってことがありました。早く続きが読みたくて。

高木:それも大きな体験ですね。ただ楽しくて読む。大人になってくると、そういう体験ってなかなかしづらくなってきますよね。

鈴木:ノルマのためだけに読むとか。(笑)

高木:やっぱりそういう読書体験はみんなあると思うんです。それを発表しろということではなく、思い返していくとどこかに転機があるのではないかと。

鈴木:気づかないのかもしれないね。

高木:だんだん忘れていくことだとは思います。ただちょっとずつ思い出していくと、ルブランの後にはドストエフスキーの『罪と罰』があって、『人間失格』(太宰治)が転機としてあります。

鈴木:おー。

高木:それも含めて、自分の人生に影響を与えた10冊っていうのがあってもいいなぁと。人にわざわざ言わなくても、心の中にあり続けて、今後読書と向き合い続けるための礎の10冊になる。今までも雑誌の企画でありましたよね。

鈴木:リストアップしても誰も読まないんだけどね。(笑)

高木:2017年に『週刊現代』で鈴木さんが挙げた10冊はこちらです。ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』、トルストイ『戦争と平和』…これが鈴木さんから出てくるのは意外ですね。

鈴木:今でも入れますよ。

高木:スタンダール『赤と黒』、高橋和巳『邪宗門』、三島由紀夫『文化防衛論』、芹沢光治良『人間の運命』(全18巻)、司馬遼太郎『街道をゆく』(全43巻)…長いですね。あとはさいとうたかを『ゴルゴ13』シリーズ、バロン吉元『柔侠伝』シリーズ、山川惣治『少年王者』(全10巻)…これらが、今の鈴木さんを形作っているということでしょうか。

鈴木:そう言えますね。今でもたぶんそうですよ。そうして、今も年間何百冊も頑張って読書していますが、やっぱりこれまでの経験や考え方がでてきますね。いろんな人の意見を読み、聞くことは大事ですよ。こうして毎年読書対談をするのもいい刺激になっています。来年もやりましょう。みなさん、ノルマを達成してきてください!