これは〈事件〉ですね。本の〈革命〉ですよ。あの天才編集者・松岡正剛さんと丸善書店がタッグを組んで仕掛けた。今世紀最大のイベントです。丸善創業140周年を記念した大企画です。コンセプトは、「本が動いて日本が変わる」。民主党政権よりも、こっちの方が日本変革の原動力でしょう。
10月23日(金)から、丸善丸の内本店4階で開催されています。「松丸本舗」と銘打ってます。きっとこれは松岡正剛と丸善から取ったんですな。と今、分かりました。丸善は、東京駅丸の内から地下通路でつながってます。すぐです。その丸善4階の一角に、この「松丸本舗」は出現しました。5万冊の本です。
5万冊をただ並べるのではない。松岡さんの思想と戦略によって、大胆に分類されている。又、町田康さんたちの「本棚」も再現されている。ほう、こんな本を読んどるのか、と分かる。それを手にとって買うことも出来る。松本清張生誕100年を記念して、松本清張記念館の全面協力で蔵書棚も再現している。
どれも素晴らしいが、一番感動したのは、分類の仕方だ。たとえば、「主人のいない思想」「ゲリラと大衆」「大審問官の大問題」「先覚テロリストの挫折」「殉死という生き方」「武士道を思い出す」等々だ。
うまいなーと思う。どんな本が並んでいるか見たいでしょう。知らない本、手に入らない本も多い。その棚から取り出してレジで買える。「1冊しかないのに、欠けたらどうするの」と聞いたら、「丸善がすぐ補充します」。「1冊しかなかったら?」「他の本を補充します」。エッ、いいの?「いいんです。本も棚も生き物ですから」と店員さん。
この松丸本舗の店員さんは皆、本に詳しい。プロだ。その辺の書店員とは違う。多分、松岡編集学校の生徒なんだろう。優秀だ。「愛国心」や「公安」のところには、私の本もあった。見出しは何だったのかな。メモするのを忘れた。自分だったら、どう書くかな。「不安の公安」とか、「国は愛を求めているのか?」「愛国心という病」「絶叫する愛の告白」…なんて書くかな。松岡さんだって、毎日のように書き換えてるそうだ。うん、これの方がいいかな、と。本を並べ、整理し、人を立ち止まらせ、読ませる工夫をする。これも編集ですよ。
「覗いてみたいあの人のブックライフ」には、四人の本棚が並べられている。「じゃ、町田康さんの本棚にある本を全部下さい」と言ったら、その場で送ってくれる。百万位で買えるだろう。何百冊も出してる人もいるし、少ない人もいる。少ない人なら何十万円かで買える。又、「不安の公安」を全部下さい。と買ったって5万円位だろう。その位なら不安なく買える。
入口では、パンフをもらった。本棚を提供した4人の「大切な本」も紹介されている。町田康さんは3冊。興津要編の『古典落語』㊦(講談社)。玉利勲『墓盗人と贋物づくり』(平凡社)。そして『物語日本史』(学習研究社)。著者は書いてない。
〈小学生の頃に偶然、書店で見つけたこの本を読んだためにこんな人間になってしまった。かなしい〉
ちょっと自虐的だが、これはいい本だ。「大切な本の三冊」に入れてる位だから。著者は平泉澄だ。戦後は「皇国史観だ」などとレッテルを貼って、それで何か分かったようになってる風潮が恐い。と私も分かったようなことを書いたが、あれっ、家にある『物語日本史』は講談社学術文庫だ。その前は時事通信社から出ている。だったら違う本なのかな。と思ってネットで調べたら、違う本だった。全14巻で、いろんな人が書いている。学習研究社だ。じゃ、私もこれを読んで勉強しよう。早トチリする癖も治るかもしれない。
山口智子さんの「大切な本」は。画狂老人卍『富嶽百景』(岩崎美術社)。ロダン『フランス大聖堂』(東京創元社)。小林太市郎『北斎とドガ』(全国書房)。
福原義春さんの「大切な本」は。ラ・ロシュフーコー『ラ・ロシュフーコー箴言集』(岩波書店)。リチャード・P・ファィンマン『ご冗談でしょう ファィンマンさん』(岩波書店)。瞿佑『剪燈新話』(平凡社)。これは中国の伝奇小説のルーツらしい。『聊斎志異』や日本の江戸文学の系譜の祖となる。神仙や時空を超えたスケールの大きい構成だという。ぜひ、読まなくちゃ。時空を超えた本を読むと、リンパ球数が増えて健康になるそうだし。だから私は最近、筒井康隆を又、読み返している。発想が突飛になり、人間もトンビになってくる。福原さんは、この3冊にプラスして、もう7冊紹介している。内田百閒の『冥途』はいい。クリストファー・ベンフィーの『グレイト・ウェイブ』(小学館)は面白そうだ。ネットで申し込もう。開国後、日本に来て影響を与えた米国人たちの話だ。ここに取り上げられた人達のほとんどが、ニューイングランドとプロテスタンティズムと進化論に関わりのある人物だ、という。その〈思想〉が日本の近代を作ったのか。考えてみたい。
市川亀治郎さんも「大切な本」として、10冊あげている。ドストエフスキー『白痴』(新潮社)。折口信夫『日本芸能各論』(中央公論社)。「彼の学問の基礎となっているものは、膨大な知識の上に成り立つ直感と情熱だと思っている」という。
梅原猛の『隠された十字架』『湖の伝説』(新潮社)もあげている。私も、梅原の本にはまり、全巻読破した。市川は『隠された十字架』を中学生の時に読み、難しくて挫折。高校で再挑戦し又、挫折。大学生になって漸く読了。「この著者と向き合うことで、自分の成長を感じられた思い入れある一冊である」という。こういう読み方もあるのかと感心した。私なんて、分かんなかったら、もう二度と挑戦しない。「分からせる努力をしないお前が悪い」「縁がなかったんだよ。アバヨ」と思ってしまう。しかし、亀治郎さんは何度も挑戦している。「これは読まなくちゃ」という社会的・時代的雰囲気があったんでしょうな。マルクスの『資本論』や吉本隆明のように、「これを読まなくちゃ学生じゃねえよ。ペッ!」と思われていた。そんな本がいくつもあった。いいことじゃないか。しかし、『資本論』は何度も挑戦し、ずっと挫折しっ放しの人が多いのでしょうな。
『久生十蘭全集箴言集』(国書刊行会)は、文章がいい。映画の弁士が語っているようだ、と言う。
〈彼は文章をかなり推敲したらしいが、恐らく口に出してその作業をしたのだと思う。彼の文章からは、黙阿弥のような面白さを感じるからだ〉
なるほど。歌舞伎役者の視点は違う、と思った。これは自分もやってみようと思い、雑誌の原稿を校正してたので、デニーズでやってみた。小声で、ブツブツと読んでたら、周りの人に変な目で見られた。今度は電車の中で、大声でやってみよう。そんなことは、「家でやろう!」と注意喚起ポスターを貼られるかな。
大佛次郎の『天皇の世紀』(朝日新聞社)も薦めていた。前から気になっていた。でも長いし。こんなのを読んだら、月30冊のノルマは果たせない。でも、時にはノルマなんか無視して、読むべきだろうな。大佛は、『鞍馬天狗』の作者だが、こういう歴史大著も遺している。
〈歴史はもちろん、そこに蠢く人間像を余すところ無く描き、時代の動きを見事に捉えた大作である。当時の風俗を知る上でも大いに参考になる〉
うん、役者として、「参考になる」のだろう。私も、挑戦してみよう。大佛は他に、『パリ燃ゆ』という超大作もある。これも読まにゃ。しかし、忙しくて、読めない。毎日、数時間は読むようにしてるんだが…。そうだ。週に1日は、「読書日」にして、早朝から深夜まで読むか。JR山手線に乗って、16周したら、16時間だ。その間、ずっと読むとか。弁当や水も買って。でも、電車は5周位で車庫に入れるのかな。じゃ、3台位、「乗りつぶす」ことになるのかな。ともかく実験してみる価値はある。やってみよう。ついでに、いい文章は声に出して、読んでみよう。影響されて自分の文章もうまくなるだろう。でも、「変な人がいる」と突き出されたら困るな。よし、携帯をかけるフリをして、朗読すればいいんだな。携帯は何でも出来る。「携帯無罪」だ。
「松丸本舗」のパンフレットには、「こんな本棚、どこにもないはず」と、冒頭こう書かれている。 〈丸善が創業以来、140年にわたり考えてきた「知とは何か」「人と本のかかわり」というテーマに、松岡正剛の30年におよぶ編集的方法と読書世界が出会い、ここにひとつの実験空間が誕生しました。 本には人類のあらゆる英知と行為が、また人々の欲望と消費のすべてが折りたたまれています。読書を一過性の体験から開放し、「読書をする社会」を拡張していくには、“ブックウェア”ともいうべき本をめぐる生態系のようなしくみから考える必要があります。 ブックウェア゛は、本たちが読前・読中・読後でつながり、そこには「本を贈る文化」や「共読する文化」なども開花するでしょう〉
大胆なチャレンジだ。今回は「シーズン1」で、特集が「日本が変わる」だ。次々と「シーズン」が変わり、本棚を出す人も変わる。楽しみだ。
そうだ。丸善といえば、梶井基次郎の『檸檬』を思い出す。ラストのとこで、主人公は丸善に行き、棚にレモンを一個、置いてくる。
〈変にくずったい気持ちが街の上の私を微笑ませた。丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た奇怪な悪漢が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発するのだったらどんなに面白いだろう〉
初めて読んだ時は驚いた。こんなこと書いていいのかと。梶井が書いた名作だから許されるのか。それに丸善も偉い。普通なら、「マネする人が出たらどうする!」「営業妨害だ!」「テロを煽るのか!」と文句を言う。でもそんなことはしない。かえって、「丸善の宣伝になる」と思ったのか。大したもんだ。とても出来ない。たとえば今、ネットだって、こんなことは書けない。書いたら、すぐに逮捕されてしまう。本を読んでつまらなかった。「こんな奴は殺してやる」と書いた。それだけで逮捕されてる。よかったね。梶井も、ネット社会に生まれなくて。
ところで、この『檸檬』の文章を、最近、又も目にした。三田誠広の『愛の行方』(河出書房新社)に出てたのだ。1994年5月初版だ。『僕って何』でデビューした学生運動出身の作家だ。何回か会っている。「全部読んでます」と言ったが、これは読んでなかった。「愛」か。じゃ、学生運動と関係ないじゃん。と思って読み始めたら、ビックリ。何と、1974年の連続企業爆破事件の「東アジア反日武装戦線〈狼〉」の話だったのだ。大道寺夫妻の話を中心に「愛の行方」を探る。問う。
爆弾闘争に中心的役割を果たす宇喜多秀三・姫子(大道寺夫妻がモデルだ)が主人公だ。学生運動で一緒に闘った吉川広志は、事件直前に宇喜多から「絶縁」される。爆弾闘争に巻き込みたくなかったのだ。爆弾事件が起き、そのことを吉川は知る。友人の出版パーティに出ていたが、いらついて、「お前たちを爆破してやる!」と、つい呟いてしまう。そして、梶井基次郎の『檸檬』の有名な一節を思い出す。
〈かつて愛読した作品の一節が、頭の中で、呪文のように鳴り響いていた〉
パーティ会場に彼も爆弾に擬したレモンを一個置いてきたのかもしれない。
と、いうわけで、皆さまも、ぜひ、「松丸本舗」に行ってみて下さい。
はい、では突然ですが、ここでCMタイムです。11月25日、私の新しい本が出ます。『日本の品格』(柏艪舎・1300円)です。柏艪舎(はくろしゃ)は、札幌にある出版社です。柏(かしわ)の木で作った艪(ろ)は軟らかくて、丈夫で、この荒海に漕ぎ出すのには強力な味方になります。そんな意味で付けた社名のようです。あっ!あの出版社かと思い出す人もいるでしょう。名著『火群のゆくへ=元楯の会会員たちの心の軌跡』(1700円)を出した出版社です。4年前です。元「楯の会」の人々を訪ね歩いて、初めて彼らの声、実態、真実をレポートした力作です。とても素晴らしい本です。千年後も残るでしょう。鈴木亜繪美著、田村司監修です。
田村司氏は元「楯の会」です。彼が声をかけて、全国の「楯の会」会員が、「田村が言うんじゃ」と取材に応じてくれたようです。私もこの本は、4回ほど読み返しました。そのたびに大きな感動と勇気を与えられました。
その柏艪舎から、「ぜひ本を出しましょう」というお誘いが今年の春にありました。柏艪舎ならば、と二つ返事で引き受けました。そして、やっと完成しました。11月25日に発売です。「楯の会」の人達が命をかけて言葉を残してくれた『火群(ほむら)のゆくへ』です。そこから縁があって出すのです。私も身を引き締め、覚悟を決めて書きました。
〈40年間の民族派運動の締め括りとして、“遺言”としての覚悟を持って書いた〉
と、本の「あとがき」に書いてます。
と続きます。柏艪舎のご注文専門のダイヤルは
FAX 011(219)1210 です。
実は、この本の販売宣伝チラシを持って柏艪舎代表の山本光伸さんと社員さんが一週間、上京したのです。それで、チラシと本の表紙をもらったので、ここに紹介しました。
10月28日(水)の午後3時、一水会にも来てくれたので、私も駆け付けました。木村三浩一水会代表と、本の話をしました。そこへ、元「楯の会」の田村司氏も来てくれました。田村氏監修の『火群のゆくへ』が出たので、その縁で私の本も出すことになりました。ありがとうございました。実は、田村氏と柏艪舎の山本氏は従兄弟なんだそうです。驚きました。
又、山本光伸氏は、日本でも十本の指に数えられる有名な翻訳家です。『ゴッドファーザー』を初め何百冊も訳しています。東京で翻訳家を育てる学校をやっていたのですが、思うところがあって、北海道に移住。そして、志のある出版社・柏艪舎をつくったのです。数多くの本を出してます。そんな出版社から出せるだけでも光栄だと思っております。
①10月23日(金)から「松丸本舗」オープンです。前日の22日(木)プレオープンに招待されました。5万冊の本を松岡さんの思想と戦略によって分類し、仕分けしています。「徹夜続きで疲れた」と言ってました。単行本を2、3冊書くよりもエネルギーを使ったでしょう。「本棚」を提供した町田康さん(作家)に紹介してもらいました。「初めまして」と言ったら、「早大のシンポジウムで一緒に出たじゃないですか」と言われた。いかんな。アルツだ。記憶力が衰えちょる。
④5万冊の本は、いろいろ面白い見出しをつけて分類し、編集されています。ここは「殉死という生き方」のコーナー。他に、「道と負の想像力」「美は乱調にあり」「見捨てられた文明日本」のコーナーがあります。貴重な本、手に入らない本もあります。そこから取り出して、買えます。
⑪前に、たかじんさんの還暦パーティ(10月6日)の写真を載せました。その時、載せられなかった3枚です。「オレは絶対に赤いチャンチャンコは着ない」と断言していたたかじんさん。ざこばさんは「持ってきた。着てくれ。着てくれんかったら、もう縁を切る」と脅して、着せてました。凄いですね。