毎度お騒がせしております。すみません。明後日、12月9日(水)、全国の書店に並びます。センセーショナルな本です。タイトルも挑発的です。『右翼は言論の敵か』(ちくま新書・760円)です。初版1万2千部です。
苦労しました。2年かかりました。やっと出来ました。書きながら、自分の力じゃ無理じゃないか、とても出来ないよ、と何度も思いました。しかし、編集者に叱咤され励まされ、やっと出来ました。ホッとしております。
初めて書店で見た人は、ドキッとするでしょうね。帯には、「なぜ右翼は怖いのか?」と書かれています。さらに、こう書かれています。
〈反貧困の思想をもった戦前の右翼。一転してカネと暴力にまみれた戦後。そこに何があったのか…。〉
でも決して「事件もの」の本ではないし、スキャンダラスな本でもありません。右翼運動40年の体験から考えた「結論」ですし、「総括」です。その辺のことは表紙のカバーの折り返しのとこに書かれています。本の内容が一番コンパクトに紹介されています。
〈社会を震撼させるテロ。右翼は「言論の自由」の敵なのか。右翼は自分たちに言論の場がない、だからテロに訴えるのだと主張する。そんな右翼をメディアの側は言論活動の当事者とは認めにくい。そして人々は実態を知らぬまま恐怖心を募らせる——。こうした堂々めぐりが何十年も続いてきた。右翼はもともと何を目指していたのか?新右翼の旗頭といわれた著者が、知られざる右翼思想家たち、運動の理想と現実、カネと暴力の実態を論じる〉
特に後半ですね。「知られざる右翼思想家たち」の素顔、思想を集中的に書きました。私が右翼の運動に入るキッカケになった先生方。入ってから影響を受け、お世話になった先生方。その先生たちについて書きました。右翼運動をしている人なら知っている。でも、一般の人には残念ながら余り知られていない。そんな先生たちです。たとえば、北一輝、大川周明、石原完爾なら一般の人も知っている。いろんな人が本にも書いている。右翼の人も書いている。しかし、白井為雄、中村武彦、毛呂清輝、片岡駿…という人々は、一般の人は知らない。でも戦後の右翼運動をつくった人だし、偉大な思想家であり戦略家だった。又、これらの人々なしに、今の私はない。
「影山正治あたりがボーダーラインかもしれませんね」と編集者は言っていた。僕らにとっては余りにも有名だ。大東塾の影山正治先生だ。私がどう影響を受け、どの本を読んできたかを書いた。葦津珍彦先生は左翼にも認められた思想家だ。里見岸雄もそうだ。又、知られてはいるが、余り光の当てられなかった橘孝三郎、権藤成卿についても書いた。そして野村秋介さんも。又、右翼運動に入る契機となった「生長の家」の谷口雅春先生についても書いた。これだけの「人物論」を体験的に、そして原典を示しながら思想的に書いたのは初めてだ。さらに、今から考えて児玉誉士夫という存在は何だったのか。についても書いた。
書いた「人物論」は、ざっと数えても12人ほどだ。1人について、20枚ずつ書いた。それだけで240枚。新書1冊分だ。さらに、その前に「右翼と言論」について240枚も書いていた。1960年の浅沼委員長刺殺事件、1961年の「風流夢譚」事件から始まり、右翼とテロ。右翼と金。…などについて書いた。つまり、2冊の本だったのだ。それを1冊にまとめた。さらに、「影響を受けた先生方の思想を原典を示して書いてほしい」と言われて、探して読んだ。もう持ってない本が多い。ネットの古本屋で探した。あっても高い。1冊2万とか3万とかするのが多い。何十万と使って買った。読んだ。書いた。その書いたものだけでも新書1冊分だ。つまり、これは、3冊分を1冊にしたのだ。でも、ただ並列的に書いても面白くない。それを、うまくまとめ編集してくれたのが担当編集者の青木真次さんとフリーライターの山田英生さんだ。おかげで、グンと読みやすくなった。校正していても、自分で、ワクワクしながら読んだ。本の〈流れ〉が自然だし、どんどんと本の世界に入ってゆく。お2人の編集の力だと思った。現代の問題とからめながら、昔の運動家の思想が紹介されている。そして、今を考える問題提起になっている。
たとえば、こうだ。
…などだ。見出しの付け方もうまい。編集もうまい。おかげで、「右翼運動40年の総決算」の本になったと思う。書いていて思ったが、実に偉大な先生方と出会ったと思う。生きているうち、もっともっと話を聞いておくんだったと悔やまれる。40年ぶりに先生方の本を読み返して、驚いた。全く「新しい本」だった。自分が忘れていた。それもある。しかし、今にして理解でき、発見する真理が多いのだ。
昔は読んだ。いや、読んだつもりだったのに、頭に入ってなかった。当面の敵・左翼と戦い、叩きつぶすのが先決だと思い、理論なんか考えなかった。〈現実〉の戦いだけで精一杯だった。
日本の理想や夢なんて考えられなかった。本当はそのことこそが重要なのに。
たとえば、片岡駿先生の『日本再建法案大綱』だ。片岡先生は戦前、クーデターで世の中を変えようと、神兵隊事件を初め、数々の事件に関与した武闘派だ。その体験の上に、この本を書き、全国を回って、同志を集め、「全有連」をつくった。
片岡先生が全国を回った時、私もお供した。北海道を回った時だ。その運転手を見たら、何と、早大で殴り合っていた全共闘の福田君ではないか。どうして?と驚いた。その後は、本文で読んでほしい。ともかく、片岡先生の『日本再建法案大綱』だ。何と、こんな斬新な提案がされている。「首都移転」「郵政の一部地方移転」「ILO憲章の超克」「円貨の呼称改正」…。又、「地方自治体の自立」「土地制度改革」「大資本の国民的統制」「労働者の権利」とある。外交では、「日本平和部隊の世界的拡充」を打ち出す。右翼の「政策」は、「天皇絶対」で、それさえ出来れば全てうまくいく。といった他力本願的なものが多いが、片岡先生は全く違う。具体的だ。革命的だ。左翼も顔負けだ。又、これらの国内改革のあとはこうする、と言う。
〈国家改造後、世界連邦の実現を国是として決定し、友好諸国家と共に国際連合として世界連邦の中核者たらしむるべく具体的諸方策を確定すべし〉
そして、エスペラント語を国際語にする、という。凄い。さらに、もっと凄いことを提案する。
〈世界における人口・食糧問題の解決と、併せて来るべき世界連邦の布石たらしむるため、飢餓と貧困に悩む全世界の難民及び後進国プロレタリアートに対し、ソ連、中共、米共和国、カナダ、濠州等大地主国家の一部を解放し、これを自由共和国建設の新天地たらしむべきことを国連に提案、これが実現のために世界の識者と提携すべし〉
ビックリしますね。右翼の大先生なのに、「後進国プロレタリアート」のためを思って、提言している。「大地主国家」は領土を譲ってやれよ!と。凄いね。領土問題というのは、どこの国だって死活問題だ。ちょっとした領土紛争で戦争までやる。でも、その土も川も湖も、そこの人間が「作った」わけではない。与えられたものだ。それなのに「偶然」大国になった国は、それを所与の権利として、当然視している。そんな不合理を糾弾したのだろう。誰もが考えてみなかった視点だ。だからこそ、昔、私が読んだ時は、「単なる夢物語だ」と思ったのかもしれない。だから、記憶に残ってない。でも、「夢物語」と思った私が愚かだったのだ。
さらに、世界の環境問題、環境改造…へと話を進める。「そんなことが出来るのか」と叫ぶような大胆な提案もある。先生の方が「若かった」。頭が柔軟だった。当時、若者だったはずの私の方が「老いていた」。
又、白井為雄先生の『対話の効用』を読み直して、ショックだった。私も対談している。流血の維新運動を戦ってきた白井先生に対し、「昔は、戦ったかもしれないが、今は牙がない」「それではダメだ」と批判している。失礼なガキだ。「対話の効用」なんて下らない。テロやクーデターを否定したら右翼じゃない。愚かな大衆に迎合して、「話し合い」をいうのは間違っている。…などと、この生意気なガキは白井先生に喰ってかかっている。
今、読むと恥ずかしい。赤面する。
12月14日(月)の一水会フォーラムの時は、この本をテキストに話します。一水会が出来るまでには、多くの先生方から教えを受けた。「一水会誕生秘話」をやりたい。そのためにレジュメを作ろうと思っていたが、この本がピッタリだろう。一水会40年の歴史だ。それと、もう1冊、『日本の品格』(柏艪舎・1300円)だ。40年前、片岡先生の本が、「夢」、「理想」と思われたように、この『日本の品格』も、今はそう思われるかもしれない。しかし、〈愛国心〉の現在と未来について必死に考えたつもりだ。
『日本の品格』は本の帯に、こう書かれている。
〈全ては愛に始まる。
日本への熱き想い、
日本を越える深き想い…〉
いいですね。右翼も左翼も、宗教も、全ては〈愛〉なんですよね。殺人事件や心中も、ほとんどが〈愛〉です。愛していて、離れたくない。だから殺す。私が死んで子供が残されたら可哀想だ。じゃ、連れていこう。これも愛だ。愛こそ凶器だ。
「愛国心」について、ある人と対談していた。「愛国心なんて軽々しく言うべきじゃない。心の中に持っていればいい」と言った。「それに、“俺は愛妻家だ”なんていう奴は、気持ち悪いでしょう」と言った。「お前だけを愛している」と言いながら、三度も結婚している人もいるし…」と言った。世の中にはそんな人がいる。という一般的な例え話をしてたのだ。ところが、相手の人が怒り出した。「俺のことを言ってるのか!」と。エッ?そうなの。知らなかった。
でも、他人のことは言えないんです。私だってそうです。「愛してるのはお前だけだよ」と言いながら、他でも「お前だけだよ」と言ってます。又、他では「お前以外にいないよ」と言ってます。同時平行で4人の女に、「愛してるのはお前だけだ」と言ってきたのです。この2年間。
まあ、そんな感じですね。だって、4冊の本を同時に書き進めてきたんですから。「はい、ここだけです。頑張ります」と一社には言い。「忙しいけど、書き下ろしはこの本だけです」ともう一社に言い、さらに、もう二社にも、「これだけに集中してます。頑張ってます」と言ってきたんですから。アー、疲れた。まるで、4人の女に「お前だけだよ」と言ってきたような感じなんですよ。
元々は、この『右翼は言論の敵か』が2年前から、取りかかってきました。それに『愛国と米国』(平凡社新書)の仕事が入り、何とか、頑張れば、やれそうだと思いました。テーマも面白かったし。この2冊に取り組めば1年位で出来ると思いました。そこに、『「蟹工船」を読み解く』(データハウス)の仕事が飛び込みました。引き受けられる状況じゃなかったんですが、テーマが面白かったし、ひかれました。それで、自分の能力も顧みず、引き受けてしまいました。
さらに、『日本の品格』です。『火群のゆくへ』を出していた出版社だし、これはやらなくては…と思いました。無謀でしたが引き受けました。だから、書き下ろしを4つ、同時に引き受け、資料を調べ、メモを作り、原稿を書いていったのです。必死でした。だから、「自分の世界」に閉じこもって書いたのです。世間のことを忘れて書いたのです。手紙や、留守電にも答えられなかった。申し訳ない。不義理をしました。許して下さいませ。
もう、とっくに出てるはずなのに遅れ、そのたびに、「この本だけに集中してますから」と答えてました。「愛」をめぐる四重奏と同じでした。
そして、もう1冊、蓮池透さんの対談集『拉致2』(かもがわ出版)で、私も対談しています。もうすぐ出るでしょう。(見本誌をもらいました。12月15日発売です)。力不足でしたが、力不足なりに頑張ったかな、と思っております。ともかく、あわただしく、忙しい1年でした。では、よいお年を。あっ、まだ早いか。
①12月9日(水)この日、発売です。『右翼は言論の敵か』(ちくま新書・760円)です。頑張って書きました。編集者、ライター、友人たちにお世話になりました。資料の提供も受けました。そうした人々のおかげで、いい本になったと思います。
②11月28日(土)、夜6時から札幌の「かでる27」で行われた「北海道青年フォーラム」です。柏艪舎から出た『日本の品格』の出版記念を兼ねて、札幌の田中清元氏、前田伏樹氏らが開催してくれました。秋田から伊藤邦典氏(元「楯の会」)も駆け付けてくれ、初めに挨拶してくれました。次に、私が講演し、最後に、木村三浩氏(一水会代表)が講演しました。
③私は、一水会創設時の事から、38年の歴史について話し、「愛国心」と「日本の品格」について話しました。木村三浩氏は、イラクやロシアでの闘い、そして世界的な「愛国者インターナショナル」結成の話をしました。
⑤会場の「かでる27」は160人が集まり、超満員でした。驚いたことに、同じ時間、同じ「かでる27」の下の階では、何と西部邁先生の講演会をやっておりました。そちらも盛況でした。全くの偶然でした。こんなことがあるんですね。夜遅くなって、合流しました。
⑥右はジャーナリストの杉村和紀さん。何と、新撰組の永倉新八のひ孫さんなんです。そういえば、風貌が似てる。その隣りは、やはり戦闘集団「楯の会」の生き残り兵士・伊藤邦典氏。その左は、戦闘とは無関係な平和主義者。
⑪久保内薫氏が自分の個人タクシーで春日部まで連れて行ってくれました。「やまと新聞」に勤めていて、その後「新勢力」に勤めました。今は、運転手さんです。本好きで、信号待ちの時も読んでるそうです。お客さんは不安でしょうな。